経営資源を活用する視点

企業における経営資源は6種類

すべての資源は、その会社が採るべき企業戦略、ターゲットとする市場規模などに応じて、少なすぎても多すぎてもダメです。カネや情報、知的財産は多すぎても、場所をとったりするわけではないので、あればあるだけ良い、と思われるかもしれませんが、カネなども含めて適切な量・質というものがあります。「過ぎたるは及ばざるが如し」という言葉はすべての資源に共通するルールです。

 

ヒト

機械やお金、顧客情報、ノウハウをどのように活用するか決めるのは企業で働く一人ひとりの従業員です。ヒトが経営資源の出発点であり、他の5つの上位に位置するものといえます。ヒトの特殊性は、単独での能力よりも、組み合わせによって能力が変動する点にあります。
 業界ごとに、実績をあげやすい人材の行動姿勢をコンピテンシーとして整理・分類して、採用や育成、さらには配置面で活用する動きがありますが、結局、上司や同僚との相性によってヒトの能力は大きく変わります。モノや情報は価値がほぼゼロ(不良在庫だったり、数年前の顧客情報で活用の場面がなかったり)になることはあってもマイナスに作用することはほぼありません。他方、ヒトは他の従業員に迷惑をかけたり、顧客を怒らせたり、SNSで不適切な投稿をして企業の評判を落としたり、という風にマイナスに機能してしまう場合があることにも注意が必要です。
 さらに、業務量に比して人員が足りないことが問題になるだけでなく、人員が多すぎる場合にも問題が起きます。最近は、給与が多いか少ないかよりも、成長機会があるか否か、やりがいがあるか否か、自分の個性・スキルを発揮できる職場・仕事であるか否か、を重視する世代が増えています。人員が無駄に多いと、成長機会ややりがいが損なわれることが多く、結局、退職者の増加につながります。採用・育成のコストが無駄になるのはもちろん、退職者が相次ぐと部署内の雰囲気も悪くなります。適切な人員配置が肝となります。

 

 

モノ

モノは製造業においては、商品の質、売上、顧客満足に直結します。サービス業においては、多種多様な設備が登場しますが、設備を活用するヒトの動きがサービスの品質を決定するので、モノだけで企業業績が決まるわけではありません。
 モノの中でも在庫は、量のコントロールが企業業績に直結します。少なすぎれば販売機会を失ったり製造ラインが止まったりします。多すぎれば、保管費用がかさみ、最終的には在庫廃棄で利益が損なわれます。製造業においては、トヨタ生産方式に代表されるジャスト・イン・タイムでの原材料・部品・仕掛品の仕入れによって、製造プロセスでの在庫を極限まで減らし、大きな利益を上げている会社が多くあります。もっとも、後述するランサムウェアのような企業データに対する不正アクセス(「情報」に対する脅威)によって、原材料や部品を調達することができなくなると、ジャスト・イン・タイムを採用している工場内では在庫も存在しないため、製造ラインを止めざるを得なくなる、という事態も起きています。どこまで在庫を減らすか、は製造業において一番の課題です。

 

 

カネ

カネが少ないと、運転資金が足りずに、必要な仕入れや家賃・給与の支払い、取引先への支払いなどが滞って事業継続ができなくなり、最悪、倒産の恐れがあります。損益計算書上は黒字であっても、キャッシュフロー上、売上や債権回収による入金よりも取引先への出金や銀行への返済が先に来て、現金が足りなくなってしまうと、黒字倒産という事態もあり得ます。このように考えると、カネは多すぎる位に手元(当座口座での預金)に持っておくべきであり、多すぎる、という問題はないかのように思えます。しかし、カネも多すぎることはやはり問題です。銀行からの借金の場合、低金利の時代とはいえ、無駄に金利負担をしていることになります。自己資金であっても、使い道のない現金を多く持っていることは、軋轢を生む可能性があります。上場会社では、株主への還元(配当の積み増しだったり、自己株式買い入れによる株価上昇へのプレッシャーだったり)が求められます。割安株として買収の恐れも高まります。未上場やオーナー会社の場合、株主からのプレッシャーは少ないですが、従業員は給与・賞与アップを(口に出さないとしても)求めるでしょうし、取引先から単価交渉が求められる際に拒否しにくくなります。最近では、企業の内部留保が多すぎる、との批判が政治家やメディアから指摘されることも増えました。ある程度の余剰資金は必要ですが、多すぎると問題になるのです。ROE(自己資本利益率)という指標もあるように、会社は資金を有効活用して、将来のキャッシュを生み出す事業への投資へ継続できているか、が重要です。カネをため込むのではなく、どう使うかが会社の価値を左右します。

 

 

情報

20世紀は石油が経済を支配した時代でした。これに対して、21世紀はデータが経済を支配する、と言われています。GAFAに代表される、アメリカのIT大手は、顧客の検索履歴や購買履歴などを基に、その人が関心を持っている商材などを広告として見せることで売上の大半を稼いでいます。石油はそれ自体というよりも、精製してガソリンにしたり、プラスチックや様々な化学製品に加工したり、という一手間かけることで付加価値が生まれます。データ(情報)も様々な形へ加工することで価値が生まれます。石油を加工するためには巨大な機械・工程が必要でしたが、データの場合にはハードウェアではなくソフトウェアによって価値が決まります。最近はAIによる分析がブームですが、その背後には、人間の知恵があります。いわゆるデータ・サイエンティストと呼ばれる人たちの活躍です。情報はヒトと組み合わせることで、企業業績を左右するデータとなるのです。
 情報の中でも、個人を特定可能な個人情報は漏えいによって企業の評判が損なわれ、時には企業の存続を危うくする事態ともなります。活用の見込みがない、10年以上昔のPOSデータや顧客の住所・カード番号などを保有し続けることはリスクでしかありません。自社が保有する個人情報の棚卸し、不要な情報の削除を定期的に行うことが肝要です。
 さらに、ランサムウェアと呼ばれる、企業内の情報にロックをかけて(暗号化)、身代金を要求するサイバー犯罪が急増しています。顧客からの注文情報や、取引先からの部品・原材料の納品情報などがロックされてしまうと、企業活動が継続できなくなります。通常のウイルス対策ソフトだけではカバーできなくなっています。外注のセキュリティ会社へ頼るだけでなく、自社内にもデジタル担当の役員・専門家を置いて、(費用対効果は見極める必要はあるとはいえ)できる限りの備えを講じておく必要があります。外部からのEメールによる感染への備えとして、模擬訓練で、怪しいメールを従業員宛てに送り、開いてしまった部署・課員へ注意喚起をすることも多く行われています。

 

 

時間

時間は誰も多かったり少なかったりすることなく、1日24時間、平等です。勝手に過ぎ去るので、資源として活用できるのか、疑問に思われるかもしれません。しかし、M&Aによって他社のノウハウを得ることで、仮にM&Aがなければ自社が市場開拓に使わざるを得なかった時間を一気に省略して新規市場へ進出できるので、このような場面では時間が経営資源として意識できます。
 それ以外でも、注文を受けてから顧客へ商品を提供するまでのリードタイムを短縮することは、顧客満足に直結しますし、入金タイミングを前倒しして出金を後ろ倒しにできれば、キャッシュフロー上有利となります。商品・サービスを顧客が評価する際、質(Quality)や値段(Cost)だけでなく、提供タイミング(Time)も重要です。

 

 

知的財産

知的財産は、特許権や意匠権のような商品の中身・技術に関するものと、商標・ブランドのように市場における信用に関するものと、最後に、表現・創作行為を権利化する著作権、の3つに大別できます。特許・意匠は新規の発明について最初に考え出した人に一定期間独占権を与えることで、発明を奨励し、かつ、発明者に先行者利益を与えるものです。出願後、審査を経て権利化されます。特許・意匠は公開されて、一定期間経過後は、他の人たちも自由に活用できるようになるので、製造業において完全に秘匿したい技術はあえて出願しない、という戦略をとることもあります。特許や意匠などは多ければ多いほどよい、というものではなく、適度な量で管理(活用)していくことが重要です。最近では、競合他社と相互に特許を利用しあうクロス・ライセンスの仕組みも多いので、他社が保有する特許ネットワークの弱点を狙って、隙間の技術を自社で権利化して(特許取得)、他社へクロス・ライセンスを持ちかける、といった戦略も登場しています。ゲームや音楽・映画などエンタメ業界においては著作権による保護が重要となります。キャラクタービジネスも同様です。著作権は登録などを必要とせず、創作行為そのものによって発生するので、紛争となった場合、著作物性が認められるか否か、著作権があるとして、その範囲はどこまでか、といった法的問題が生じます。著作権が商品・サービスの中核を占める業界では、従業員の多くが著作権法の基礎を知っておくことが必須です。

 

 

経営資源の重要性

資源ベース戦略論では、特に企業の競争力の形成に組織の所有する経営資源が大きな役割を果たすことが強調されている。

バーニーは、企業内に蓄積した経営資源のうち、特に異質性と固着性を備えた資源が、企業の競争優位に決定的な影響を及ぼすという可能性を示唆している。

そして、企業の持続的競争優位をもたらす経営資源として、①価値、②希少性、③低い模倣可能性、および④低い代替可能性を同時に有することが重要であることを示し、資源ベース戦略論における重要な概念のフレームワークを提示している。

バーニーが提示した4つの条件をすべて備える経営資源は、企業にとって事業戦略レベルの競争優位を築くために不可欠であるだけでなく、企業戦略レベルの資源展開・配分にも重要な意味を持つことになる。

企業経営における経営資源の重要性に関する認識が深められる中、経営戦略の体系の中で、「戦略的経営資源」をどのように取り扱うかが重要な課題であることは言うまでもない。

ここでいう戦略的経営資源というのは、企業の生存・発展において極めて重要な役割を果たす技術、ノウハウ、知識、技能などの無形資源、あるいは、原材料、特殊な中間製品、独特な設備などの有形資源、および人的資源などを意味する。これらの経営資源は、各種企業活動の基礎であり、経営基盤をなす基本要素であると言える。

この資源戦略には、2つの基本戦略があると考えられる。

その1つは資源展開戦略である。これは、企業戦略と事業戦略に関わるものであり、全社レベルに相当する戦略である。

もう1つは資源別戦略と呼ぶことができる。この戦略は、2つの意味を持つ。第1の意味は、 企業にとってカギとなる経営資源に関する戦略的意思決定である。例えば、全社の方向性を規定するような技術開発、あるいは技術選択に関わる技術戦略が挙げられる。第2の意味は、各事業の諸機能に応じた個別資源に関する開発、蓄積、獲得などの意思決定である。

また、機能別戦略は、各事業独自のものでもよいこと、つまり、各事業共通したものではなくてもよい。

 

以上のように、経営戦略は、従来3つの階層と捉えられてきたが、資源ベースのアプローチから考えると、伝統的な3階層戦略のベースに資源戦略を位置づけることで、より現実の企業経営を反映する戦略体系を示すことができると考えられる。

 

 

知的資源経営

経営資源は、企業が成長するのには、必要な「ヒト」「モノ」「カネ」といった有形資産と「情報」といった無形資産の総称です。

「ヒト」は人材、「モノ」は製品や設備など、「カネ」は資金を指します。

エディス・ペンローズによれば、企業の成長が限界にあたるのは、成長して大きくなった企業に相対的に経営資源が不足するからです。
 

第4、第5の要素

近年、「ヒト」「モノ」「カネ」の3つに加え、「ワザ」、「知恵(チエ)」を第4、第5の経営資源とし、この5つが企業価値創造のためには重要という考え方があります。

「知恵」とは、企業の「知的資産」のことで、個人や組織、技術、コミュニケーションなど様々な領域にあるノウハウ、方法論、行動規範などです。

これらを活用して持続的な成長を目指する経営を「知的資産経営」と呼びます。
 

この知的資産は、特許や著作権のような特定の知的財産だけでなく、広範囲に潜在する暗黙知まで含みます。

平凡な日常業務の中にある仕事の「知恵」も知的資産です。

知的資産は、「強み」のひとつであり、企業価値を創造する「強み」はひとつだけではありません。

会社が多くの業務組織や社員で運営されているように、経営も多くの「強み」から成り立っています。
 むしろ日常的に行われているために、なかなか自ら気づかないことがあります。

 

経営資源配分の優先順位

 企業はキャッシュや人材、製造業であれば工場や設備などの経営資源を有しており、それらを用いて事業を推進しています。

 しかし、どのような大企業であろうと、経営資源が無限にあるわけではありません。

 経営資源は有限であるため、それを大前提として事業の推進、最大効率化を考えなければならないのです。

 そのため、資源配分はとても重要となります。

 優先順位の考え方は、事業のパフォーマンスに従うことが一般的です。

 事業パフォーマンスによるポートフォリオ管理では、「市場の魅力度」と「自社の競争力」の2軸で評価します。

市場の魅力度

 市場規模、市場の成長率、市場の平均収益率などの定量情報と定性情報によって評価していきます。

自社の競争力

 自社の売上シェア、競合との相対的な収益性などの定量情報とベンチマークした結果の定性情報を組み合わせて評価します。

 

 

資源配分の考慮ポイント

 資源配分を考える際に考慮するポイントとして「シナジー効果」があります。

 各事業間において、経営資源、顧客が重複していることによって、競争力が強化される、もしくはコストダウンが行えるなど事業単体で推進するよりも価値が高まることがあります。

 

 全社戦略策定は「資源配分」と「実行」が特に重要です。実行してはじめて全体最適が達成されることになります。

 この資源配分を行っていく際には、ビジョンやドメインとの整合性が重要となるのは言うまでもありません。

 ビジョンやドメインで設定した売上や利益の目標数字を達成するための「ポートフォリオ設計」を行う必要があります。

 

経営資源を活用する

1 経営資源の活用の検討
 新事業開発の方向性が定まった後は、それを実践するための方法を検討します。
 実践方法の検討とは、自社の限られた「ヒト」「モノ」「カネ」並びにノウハウや情報などの「ナレッジ(知的資源)」、という4つの経営資源をいかに活用していくかを具体化するということです。
  

2 オズボーンの発想法による経営資源活用方法の検討
 オズボーンの発想法では、以下の9つの視点から経営資源活用方法の検討をしていきます。

(1)転用(Other use)
 今ある資源をほかの使い方に転用していくという考え方です。過剰設備の転用や遊休不動産の有効活用、人事異動、ノウハウの新製品への活用などがこれに該当します。

(2)借用(Adapt)
 他社の特許のライセンス利用や公設試験研究機関の設備利用、あるいは競合する製品の模倣やリバースエンジニアリングなどを少ないコストで自社に導入していくという考え方です。
 海外やほかの地域などで成功している事業モデルを研究して、自社のものとする方法もこれに該当します。

(3)改良(Modify)
 既存製品の改良やマーケティング手法の改良、生産手法の改良など、大規模な経営資源の追加投入を行わないで、より高度なものにしていく手法です。

(4)拡大(Magnify)
 販売チャネルや対象顧客層の拡大、製品ラインナップなど既存のものをベースに周辺部分を大きくしていく考え方です。

(5)縮小(Minify)
 既存の資源で有効活用されていないものを縮小させることで効率化を図る手法です。
 コストダウンや生産設備の縮小などのほかに、販売チャネルや顧客の絞り込み、製品ラインナップの特化などもこれに該当します。

(6)代用・代替(Substitute)
 正社員からパート・アルバイトへの変更、原材料・部品などの代替品への転換、事務作業などのアウトソーシングなどで効率化していく手法です。

(7)組替(Rearrange)
 人事異動などによる組織構成面での経営資源の組み替えや営業活動地域の変更、生産拠点の配置の修正、原材料仕入の地域別構成の変更など、組織的・物理的・地理的な組み替えにより資源活用を効率化していく考え方です。

(8)逆転(Reverse)
 賃金制度における「年功給」比率と「成果給」比率の逆転や、拠点型の自社営業から代理店型のチャネル営業への転換、競合他社との共同物流などの方針面での逆転などにより、新たな効果を生み出そうとする考え方です。

(9)統合(Combine)
 事業の統廃合や他社との戦略的アライアンス(提携)など組織面での統合による経営資源効率化と、販売チャネルの一本化や代理店制度の見直しなど拡散している資源を集約化することで効果を上げようとする考え方です。

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