マイケル・ポーター「7つの参入障壁」
マイケル・ポーター教授が提唱した「7つの参入障壁」は、新規事業に進出する際や参入業者から事業を守る際に検討すべきフレームワークです。
企業が現在営む事業とは別の業界に新たに参入しようとする場合、既にその業界で事業を営んでいる企業の方が優位性があります。
既存業者は、これまでに事業を育てる過程において、多くのコストを支払い経験も積み上げてきています。しかし、新規参入企業では、基本的にはゼロからスタートしなければいけません。既存業者にとっては、これまでに蓄積してきた経験や、業界で築き上げてきた地位・ブランド等の価値が高ければ高いほど、新規参入企業に対する優位性が大きくなるのです。
「参入障壁」とは、新規事業で新しい分野に参入する場合の「障壁」、既存業者が他社の新規参入を阻止したい場合の「優位性・アドバンテージ」のことを指します。マイケル・ポーター教授は、この参入障壁について、「7つの参入障壁の存在」に目を向ける必要があると説いています。
入障壁が高いほど新規参入が難しく、既存業者が有利になることは誰でもイメージは付きます。ポーターはこの参入障壁を7つに分類して考えることを推奨しています。
参入障壁が高いほど既存業者が有利に
参入障壁が高いほど新規参入が難しく、既存業者が有利になるため、新規事業で新しい分野に参入する場合や他社の新規参入を阻止したい場合等には、ポーターの7つの障壁を踏まえて戦略を立案することが大切です。
7つの参入障壁
1 規模の経済性
「規模の経済性」とは、事業の規模が大きくなるほど、製品やサービス1つあたりのコストが小さくなるような業界の場合、その投資規模が新規参入にあたっての高いハードルになります。スケールメリットとも言います。
規模が大きくなる程、コストが低くなるような産業構造であれば、小規模な参入が難しくなります。既存業者と同じくらい大きな規模で事業をやらなければ、既存業者と同じ水準のコストで同じ品質の製品を作ることが難しくなるからです。そのため、はじめから大きな規模での参入が必要なスケールメリットが効く業界は参入障壁が高いことになります。例えば、装置産業や自動化による生産が進んでいるような業界は、規模の経済性が効き、競争上の優位性を持つことが出来る代表例です。
2 製品差別化
製品差別化とは、既存企業が製品やサービスのブランド力をしっかりと高めておけば、新規の参入には更に高度な差別化が必要となるため、参入のハードルが高くなることを指します。
製品やサービスのブランドを構築するためには、デザイン等の魅力やスペック等の機能、品質、アフターサービス等のPRポイントを顧客にしっかりと伝えなければなりません。そのためには、当然のことながら広告宣伝費等の多額のコストが掛かりますが、既存の企業はそれをこれまでに少しずつ蓄積されているため、今の地位を築けているはずです。新規参入企業が新たな市場に製品やサービスを投入しようとする場合、既存の企業よりも多くの広告宣伝費等のコストが必要になります。既存企業が確固たるブランド力を築いている場合は、そのブランド力自体が参入障壁となるのです。
3 巨額の投資
もし新規に参入しようとしている業界が、研究開発や設備投資などの巨額の投資が必要な場合、その投資自体が新規参入にあたっての高いハードルになります。
例えば、NTT等の通信業界やJR等の鉄道業界では、初期投資が非常に大きくなります。
従って、参入の場合は、初期の投資を自社で賄うか、あるいは借り入れにより調達しなければいけません。
しかし、当然新規参入の場合は失敗するリスクもあるため、必ずしも借り入れができるとは限りません。しっかりと借入先への投資の妥当性を説明し納得してもらう必要がありますが、それは決して容易なことではないのです。
このように、初期投資やその後の維持管理コスト等が大きければ大きい程、参入障壁は高くなります。
4 仕入先を変更するコスト
部品等を購入してくれる企業が、「新たな仕入先に切り替える」コストが大きい場合、そのコストが既存企業に有利となり、新規参入企業には高いハードルになります。
この仕入先を変更するコストは、特に製造業で大きな影響を受けます。製造業では、部品の仕入れ先決定に多大な労力とコストが掛かります。そのため、自社の製品やサービスを購入してくれる企業が、その仕入先変更のコストを掛けてでも切り替えてくれるかは、新規参入企業の優位性がどのくらいあるか次第です。従って、仕入先を変更するコストである品質面や審査の手間等が実質的に新規参入企業の障壁になるのです。
5 流通チャネルの確保
既存企業が確固たる流通チャネルを持っている場合、その流通チャネルの存在自体が参入障壁になることもあります。
既存業者の製品が流通している業界に自社の新製品やサービスを流通させるには、多大な労力とコストが必要となります。取引先の開拓やプロモーション活動等の、営業コストが発生するからです。自社製品・サービスの優位性を伝えていくには、思っている以上に時間と労力等のコストが掛かるものなのです。
ポイントとなるのは、自社の既存の流通チャネルを活かすことが出来るかです。もし、自社の流通チャネルを活かせず、一から構築することが必要となる場合、参入障壁は高くなるのです。
6 規模とは無関係なコスト面の不利
参入障壁は「規模とは無関係なコスト面の不利」です。
その業界の既存企業が「独占的な技術を持っている場合」「独占的に材料を入手できる場合」、その技術や独占力は、規模とは無関係にコスト面で不利となり、新規参入のハードルが高くなります。
ここで言う独占的な技術の代表例は「特許」です。既存企業が製品技術・生産技術等の特許を持っている場合には、その特許を使用した事業を進める上で「特許使用料」というコストが発生します。この特許使用料などのコストは、規模とは無関係にコスト面で不利になってしまい、新規参入企業にとっての参入障壁となります。
7政府の政策
業界によっては、参入に行政の許認可が必要となる場合や既存企業が法的に優遇されている場合があります。その場合、政府の方針や政策が新規参入のハードルになります。
医薬品業界や建築業界、銀行業界等は免許制となり、一般の企業が直ぐに参入出来るものではありません。これらの業界のように、事業を行うにあたって行政の許認可が必要なケースがあり、許認可を得るために様々な条件を満たさなければなりません。
業界にもよりますが、行政が設定している許認可水準が高い場合は、それ自体が新規参入企業にとって参入障壁になることもあるのです。