新規開拓活動のポイント

 新規顧客の開拓があなたにとって必要とされていることには異論はないと思います。しかしながら、新規開拓がうまく進まないと感じている企業が多いのも事実です。これは、なぜなのでしょうか。

 それは、新規開拓に関して各営業担当者任せになってしまっているからです。

 営業担当者レベルでも新規開拓の必要性は確かに感じています。

 しかし、新規開拓活動が本格化することはなく、営業担当者は時間が余った時に「ついで」に行う、気になる見込み客の近くに来たので「ついで」に訪問するなど、その場その場での思いつきによって行われているのがほとんどです。
 ついでに行っているのですから、他業務で多忙になると新規開拓活動は後回しになってしまいます。

 そして、せっかく構築しかかっていた見込み客との関係も消失してしまい、顧客化できずに終わってしまうのです。
 既存の顧客は永遠に自社のお客様ではありません。そのことを理解し、集客、新規開拓、既存顧客の維持管理を計画的に実行して行かなければ、どこかの時点で行き詰まってしまいます。

 企業の戦略として新規顧客の獲得を目指すならば、企業として活動をコントロールしていく必要があります。

 

活動への考え方  「誰に」「何を」「どのように」

1 誰を対象として新規開拓をするのか

 通常の営業活動である販売では、自社の製品やサービスをどのようにお客様に購入あるいは採用してもらうかが焦点となります。

 自社のある製品を購入してくれそうなのはどのような顧客か、顧客の興味を引くためにはどのようなアプローチが求められるか など、自社の製品やサービスという「モノ」を起点として営業活動を検討していくことになります。
 一方、新規開拓は、将来のお得意様を開拓していくという活動ですから、自社を高く評価している既存の優良顧客に似たタイプが最も有望なターゲットとなります。自社の優良顧客が活動検討の起点となるわけです。

 ターゲットとなる既存の優良顧客のプロフィールをしっかり把握・分析することが、効率的な新規開拓活動の原点となります。
 優良顧客の検討は、売上高と利益率の両面から行います。

 特に大手企業との取引がある場合、その売上の大きさから「この大手企業こそが優良顧客である」と判断しがちです。

 しかし、実際には大手企業との取引は、取引条件面で非常に厳しい内容になっているものや、営業利益面での貢献度合そのものは小さい(あるいは赤字になる)ケースが数多く見受けられます。
 自社を適正に評価してくれている顧客ならば、適正な利益の享受も認めてくれているはずです。

 顧客の事業規模に惑わされることなく、自社の商品や技術・ノウハウなどを高く評価し、継続的に取引を行ってくれている顧客層を見つけなければなりません。

 企業や事業所向けの事業の場合は、次の観点で分析を行い、自社が得意とする顧客タイプを明確化します。

 ・業種、業界

 ・事業規模(売上規模のみならず、従業員数、事業所数・工場数なども検討)

 ・地域的な特性(地理的なものだけでなく、都市圏か郊外かなども注意)

 消費者向けの事業においては、顧客のプロフィールデータとこれまでの購買履歴を基に顧客タイプを次のような観点で整理し明確化します。

 ・人口統計学的特性(年齢、性別、職種など)

 ・地理的特性(地域、気候風土、都市圏・郊外など)

・心理的特性(想定されるライフステージやライフスタイル、トレンド感受性など)

 ・購買行動的特性(日用品なら購買頻度、専門品ならば1回当たりの購買金額など)

 店頭販売が中心の場合、個別顧客のプロフィールの把握は困難です。ポイントカードなどを導入することで顧客情報を得ようとする企業もありますが、実態を表しているとは言いにくい面もあります。

 このような業態の場合、正確なデータ収集にこだわるよりも、実際に店頭での接客を通じて顧客を観察し、上記特性に当てはめて整理することで十分でしょう。

 このようにして、明確化した優良顧客にプロフィールが類似した見込み客を自社の営業展開エリア内で具体的にリストアップしていくことで、新規開拓活動のための準備の最初のステップが完了します。

 このような検討方法は、ある程度多数の顧客との取引実績があり、かつ、顧客情報や購買履歴が明確になっている場合に有効です。
 しかしながら、下請に特化してきた会社や創業間もない会社の場合、顧客数が極端に少ないか、あるいは特定顧客以外への販売実績がほとんどないというのが現実でしょう。このような場合には、自社が提供している製品や商品・サービスが、既存顧客においてどのように使われているかという「用途」を中心に考えていきます。
 企業向けの事業であれば、自社が提供した製品やサービスが顧客企業の業務プロセス上のどのような部分でどんな使われ方をしているかを調査し、似たような業務プロセスを有すると思われる業種・業態、事業規模、地域について仮説を立てていきます。

 販売実績がほとんどない場合は、どのような業務プロセスに適合するように製品やサービスを企画したかを基に仮説を立てていきます。
 そして、この仮説に基づいて、自社の営業展開地域内における見込み客をリストアップします。

 一方、消費者向けの場合は、自社の提供している商品やサービスがどのようなタイプの消費者にどう使われるのかを想定して企画をしたのかを考え、想定される顧客像(人口統計学的特性・地理的特性など)に近いと思われる見込み客候補の名簿を作成していきます。
 この際の名簿はあまり絞り込まず、かなり大まかな基準に基づいたもので構いません。

 なお、見込み客リストを営業担当者に個別に作らせて個人管理をさせるのは避けるべきです。

 多くの企業で、見込み客リストを作ったら、すぐにそれを各営業担当者に分けてしまい、あとは各担当者の管理に委ねてしまう傾向があります。これでは新規開拓の成果判断などが困難になるので注意しましょう。必ず、組織として作成し、管理者による一元管理ができるようにしておく必要があります。

 

2 何を使って新規開拓をするのか

 見込み客リストを作り、これに基づき新規開拓活動を行っているにもかかわらず、一向に成果が上がらないという企業が少なくありません。

 このような企業の場合、新規開拓の目的を そもそも履き違えている場合が大多数です。

 新規開拓では、明日の糧である「顧客数の量的な拡大」が活動目的となります。

 しかし、多くの企業では、顧客数だけでなく、売上高の拡大という「取引の量的拡大」や、利益率の高い商談の実現という「取引の質的拡大」まで一度に目指そうとします。
 このため、新規開拓に向かない高額商品を新規開拓用の商材として選択する、提案型営業と称して商談プロセスが複雑な商材を選択するなど、誤った商材やサービスを用いて新規開拓活動を行ってしまう傾向があります。

 新規顧客との初回の取引だけでは、相互の信頼関係は構築されていません。

 このような段階で高額商品を薦めることは時期尚早です。新規顧客との信頼関係を十分に強化することを優先しましょう。
 また、提案営業に関しても、自社の技術力やノウハウなどに関し、顧客から十分な信頼を受けてからでなければ実現しません。

 新規開拓の目的は、あくまでも将来のお得意様の候補となるような新規顧客を出来るだけ数多く獲得することです。

 この新規顧客の内、例えば1割が大口取引を行ってくれるような優良顧客に育てていけばよいのです。
 新規開拓は、換言すれば確率論です。どれだけ多くの見込み客に対して自社と自社の製品やサービスを紹介できるか、見込み客にどれだけ効率的にアプローチできるか、そして、興味を持ってくれた見込み客と どれだけ効率的に商談ができるかという点が重要です。

 この観点から、新規開拓に向く商材とは、次のような3つの特性を持つものになります。

(1)商材の特性が明確であるもの(聞けば、あるいは見れば、すぐに理解できる)

(2)製品仕様や取引条件に関して複雑な商談を必要としないもの

(3)その販売において業界における営業経験の長さが必要とされないもの(新人でもベテランでも、あるいは営業担当者以外でも説明できる)
 この条件から考えると、企業向けの事業の場合は、顧客別にカスタマイズを必要としない標準仕様製品、もしくは新製品であり、価格的には高額ではないもの(低価格である必要は必ずしもなく、業界における標準的な価格であれば問題ない)が新規開拓に向いた商材ということになります。

 また、消費者向けであるならば、新商品や季節限定品など商品特性について顧客が理解しやすく、価格的にあまり高額でないものが対象となります。
 次に、どのように効率的かつ効果的に商談を進めていくかという点ですが、これに関しては「FABE」という手法を使って、商材のセールスポイントとセールストークをまとめたものを事前に準備するとよいでしょう。

 FABE(ファブ)とは、セールスポイントを4段階に分けて説明しながら、顧客に提供していくという手法です。

(1)Feature(特徴)

 その商品やサービスの性能や品質、素材などの客観的な事実

 その商材に関する客観的な事実であり、数値などで表され、箇条書きに網羅できるものです。

 顧客にとってはカタログを読めば済むようなことです。

 せっかく面談までたどりついた見込み客に商品やサービスの特徴を長々と説明し続けると、商談が打ち切られてしまいます。

 できるだけ簡潔に事実のみを伝えられるようにまとめておく必要があります。

(2)Advantage(利点)

 その商品やサービスが持つ一般的な優位性

 簡便さや使いやすさ、汎用性あるいは専門性、安全性や顧客満足度などの一般的なメリットの説明です。

 金銭的あるいは経済的な効果に関しては含みません。

 利点の説明についても十分注意を払う必要があります。

 実際の商談において、利点の説明は話していて楽しいですし、見込み客も身を乗り出して聞いてくれるかもしれません。

 特に商談の初期の段階では非常にインパクトがあります。

 ただし、利点までで商談を区切ってしまうと、見込み客は次のように言うかもしれません。

 「なるほど説明はよく分かりました」「・・・しかし、当社には当てはまりませんね」「・・・当社で必要となるのはかなり先のことでしょう」

 利点は一般的な優位性でしかありません。

 この段階で見込み客からこのような発言が出てしまうと、その商談はその時点で打ち切りとなる危険性が高くなります。

 成果の出ない営業担当者が陥る典型的なパターンです。

(3)Benefit(利益)

 その商品が見込み客に具体的に与える金銭的・経済的な優位性

 その商材を相手が採用することによって相手が得られる具体的な利益です。

 例えば、「他社製品と比較して費用対効果が勝っている」「コストが安い」「省エネ・省力が実現できる」「人手がかからない」、などがこれに当たります。

 この段階まで言及できて、初めて商談として成り立ち始めます。

 新規開拓においては、個別の見込み客ごとの利益はなかなか事前に話法の準備ができませんから、事業所向けであれば業種・業界や事業規模別に、消費者向けであればライフステージやライフスタイル別に、いくつかのパターンを想定しておくとよいでしょう。

(4)Evidence(証拠)

 特徴・利点・利益を保証する具体的な採用事例など、利点、利益の説明の根拠となるような事実をできるだけ集め、商材に対する信頼性を増し、採用に踏み切らせるためのものです。

 大手企業や同業者での採用実例や、公的試験機関でのテスト結果、新聞や業界誌での紹介記事など、第三者による評価が受けられたものが有効です。

 実際の商談では、「FABE」という順で説明するのではなく、B → FABEという順で行うように心がけます。

 これは、FABEの順で説明を行うということは、内容の説明から入るということになり、見込み客にとっては退屈なセールスになってしまうからです。

 つまり、見込み客に

 ⇒こちらの話も聞かずに、いきなり堅苦しい説明が始まった・・・
 ⇒この営業担当者は、こちらのニーズには全く興味がないのか?

と感じさせてしまい、悪い印象を最初に与えてしまうことになるからです。

 ダイレクトメールやテレフォンセールスのように、時間やスペースが限定される場合は、「B→E→F→A」という流れで構成してもよいでしょう。

この手法の利点は、新人・ベテランを問わず誰でも同じように顧客へ納得性のあるセールストークを展開できること、商材のセールスポイントが明確化されるので短時間かつ効率的に説明可能なこと、ダイレクトメールやテレフォンセールスなど、限られたスペースや時間で説明を行う際にも有効であることなどが挙げられます。

 

 

3 どのように新規開拓を進めるか

 新規開拓活動の運営において、最も重要なのは、営業担当者の個々の裁量に任せてしまわないということです。

 どのような企業においても、営業担当者は既存顧客との商談を中心とした売上確保の活動を最優先させています。

 新規開拓は必要と思っていても、その優先順位は低くなりがちです。

 新規開拓活動においては、商材・スケジュール・活動目標を明確化したうえで、営業部門の管理者もしくは経営者自らがリーダーシップを取って、全営業担当者で一斉にローラー作戦を採ったほうが効率的といえるでしょう。

 新規開拓活動は思いついたときに行うのではなく、年間スケジュールを計画し、定期的・継続的に行う必要があります。

 新規開拓は「働きかけた見込み客数×成約率」という確率論です。

 できる限り多くの見込み客に働きかけ続けることが成功への近道です。

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