ナレッジマネジメント

 

 ナレッジマネジメントとは、「企業や個人の知識を共有しつつ蓄積させていき、企業競争力を向上させるというマネジメント手法」を指します。

 ナレッジとは「Knowledge」と書くように、知識やノウハウといった意味になります。個人や特定の部署に蓄積したナレッジを、しっかりと企業全体で共有していく。こうした知的情報を管理するための営みを「ナレッジマネジメント」と呼ぶのです。

 通常、特定の知識やノウハウというものは、個人や部署に留まりがちです。例えば、公務員はゼネラリスト志向であり、個人個人が別々の業務を担当するケースが多いのです。そして、その場合、その仕事に関するノウハウは個人に蓄積するだけで終わってしまいます。

 ナレッジマネジメントは、こうした個人ごとや部署ごとの知的情報をしっかりと取りまとめ、組織全体に共有することを主な目標としています。

 

ナレッジマネジメントの目的とメリット

 「ナレッジマネジメントは何のためにするのか?」「どのようなメリットがあるのか?」ということについて見ていきます。

 ナレッジマネジメントは「知的情報を組織全体で共有しよう」という営みです。ナレッジマネジメントを利用すると、まず人材育成の効率化を図ることができます。例えば、ある事業を進める時に、それを通して得た知見などを体系的にまとめておくと、それを人材育成に利用することができます。

 ナレッジを体系的に蓄積しておくことによって、不測の事態に対処できる可能性が高まり、結果としてサステナビリティを実現することができます。ナレッジを溜めておくことは、未知のリスクに対処するための「知恵」として働くのです。

 また、ナレッジマネジメントによって蓄積された知的情報は、必要に応じて再構成することができます。既存のナレッジをヒントにして新しいナレッジを発見したりと、「ナレッジを溜めておくことそれ自体」が有効に作用します。さらに、ナレッジマネジメントを有効活用することによって、業務改善や業務効率化を図ることもできます。例を挙げれば、「部署Aの知見が部署Bの問題解決に役立つ」というケースです。本来であれば、部署Bは自力で問題を解決しなければなりませんが、ナレッジマネジメントを利用しているおかげで、「部署Aによって溜められたナレッジを転用する」ことができるのです。

 

ナレッジワーカーの定義

ナレッジワーカーとは、ピーター・ドラッカーの書籍『新しい現実』のなかで言及された言葉であり、「知識による付加価値を生み出す労働者」と定義されています。ただ知識を持っているだけではなく、それを体系的にまとめておき、必要に応じて使い分けるスキルが求められます。

 

ナレッジマネジメントが広がっている理由

日本は「新卒一括採用」「終身雇用」を軸にしていました。しかし、時代の変化により、人々の働き方は「終身雇用」を前提としたものではなくなってしまい、「人材の流動性」が高まりつつあります。

企業の中で「人の出入りが激しい」となると、「長期雇用を前提にゆっくりと社員を教育する」という方針は時代の流れに即さない「悠長な戦略」となります。それに加えて、「不況によるリストラ」や「IT化」「情報化」などの要素が加わることによって、経営にある程度のスピード感が求められるようになりました。そこで注目されるようになったのがこの「ナレッジマネジメント」なのです。

 

ナレッジマネジメントの理論

 キーワードになってくるのは、基礎知識である「知識経営」と2つの知識タイプである「暗黙知」「形式知」です。

 

ナレッジマネジメントの基礎理論は「知識経営」

 ナレッジマネジメントが理論化されたのは、経営学者である野中郁次郎をきっかけとしています。ナレッジマネジメントは日本発祥の経営理論なのです。野中は、その中で、「知識経営」という観点から「組織的知識創造理論」「SECIモデル」を発表しました。

 

暗黙知と形式知

 ナレッジマネジメントは経営学者の野中郁次郎によって理論化されました。その中でも、「知識経営」においては、暗黙知を形式知へ変換し、それを相互交換しあうことが重要だとされています。「暗黙知」とは「暗黙の知識」であり、「数値化や言語化が困難な技能やノウハウ」を指します。「形式知」は数値化できる知識です。

暗黙知を形式知化する

 暗黙知は、そのままでは「体系化することができない その人のためだけの知識」ということになります。しかし、ナレッジマネジメントにおいては、個人や部署が蓄積してきた知識を共有する必要があります。そこで必要になってくるのが、暗黙知を形式知に変換するというプロセスです。つまり、数値化や言語化することができない技能やノウハウを、数値化できるものに変えていくという作業です。

 暗黙知を形式知化することにより、「体系的に」ノウハウをまとめるための準備が整います。暗黙知が形式知に変換され、それを束ねることによって、体系的な知の構造ができあがり、それがひとりひとりの個人に内面化されていくのです。

 

SECIモデル

 野中郁次郎と紺野登の共著である『知識経営のすすめ』では、SECIモデルというものが提唱されています。これは、「暗黙知を形式知に変換する」という話にも繋がる重要な理論です。

 野中は、「暗黙知」と「形式知」が相互に作用していくプロセスを4つに分けました。それが「共同化」「表出化」「連結化」「内面化」です。

共同化

 「暗黙知」というものは、元を辿れば個人個人の中に眠っています。それが共有されることによって、組織全体の暗黙知になるプロセスが「共同化」です。つまり、一人ひとりの暗黙知が「共体験」によって共有され、「組織としての暗黙知」が作られていくのです。

表出化

 そして、個人同士の対話によって、共有された暗黙知が形式知へと昇華します。これが「表出化」です。ここでは「暗黙知というふんわりしたもの」が明確なコンセプト(概念)へと変貌していくのです。

 ただ、体験を共有するだけでは、暗黙知は暗黙知のままであり、具体的な形を持つことはありません。ダイアローグ(対話)や共同思考など、具体的な相互作用を経ることによって、暗黙知は形式知へと変換されていくのです。

 ここでは、「言葉」が非常に重要な役割を果たしています。「体験を共有する」という行為それ自体に言葉はありませんが、対話・共同思考という「言葉のフィルター」を通すことによって、初めて暗黙知が共通知へと変わるのです。

連結化

 「表出化」した形式知が さらに体系化されていくプロセスが「連結化」です。「表出化」によって創造された形式知が組み合わさることで、一つの知識体系が形作られていくのです。

 例えば、一人の従業員が もう一人の従業員と対話をすることによって、暗黙知を形式知へ変換したとします。しかし、その形式知は「両者の相互作用によって生まれたもの」でしかなく、「さらにそれを体系化する」というプロセスが必要です。

 具体的には、データベースやネットワークなどを用いて、異なる形式知を結合させ、一つの体系を作り上げていきます。こうしたデータベースなどの利用は様々な職場で用いられる重要な手法です。

内面化

 体系化された形式知が個人の中に暗黙知として落とし込まれていきます。行動によって学習し、新たな個人へと内面化されることによって、その個人の ひいてはその個人が所属する部署の知的資産となります。このプロセスが「内面化」です。

 内面化の後には再び共同化が起こります。こうして、暗黙知と形式知は相互作用を繰り返していくのです。

SECIモデル事例:エーザイ

 SECIモデルの考え方を取り入れているのが製薬会社のエーザイになります。

 エーザイは、企業理念で、「本会社の使命は、患者様満足の増大であり、その結果として売上、利益がもたらされ、この使命と結果の順序が重要と考える」とうたっています。

 患者というステークホルダーを最重視する考え方を実践するものとして、「業務時間の1%を患者様とともに過ごす」ヒューマン・ヘルスケア(HHC)活動を実践しています。

 HHC活動では、患者と過ごすことにより得た「暗黙知」から、組織としての新しい価値を生み出すためにSECIモデルを応用しています。

1 共同化
 患者のもとに赴いた従業員が、患者やご家族と過ごすことを通じて漠然とした課題を感じ取り、課題を会社に持ち帰って組織内で議論し、共有します。

2 表出化
 課題について議論した結果を言語化していきます。

3 連結化
 課題に対して、他の部署も巻き込みながら施策を検討し、それらを再び現場で実践していきます。

4 内面化
 そして、実践の中で得た知見を暗黙知として持ち帰ります。

 こうしたプロセスを効果的に機能させるため、HHC活動を推進する専門組織「知創部」の設置、HHC活動成果の人事評価への反映、現在の活動および過去の優れた事例などのイントラネットでの共有、有望な取り組みの表彰、サーベイによる知識創造理論の浸透度の確認など、様々な工夫をしています。

 また、副次的な効果として、HHC活動からエーザイの主力製品であるアルツハイマー型認知症の治療剤「アリセプト」について、イノベーションが生み出されています。

口腔内崩壊錠の開発

 介護施設を訪れていた研究員が、もともと錠剤が小さくて飲みやすいはずのアリセプトを患者が、さらに細かく砕いてご飯にかけて食べさせてもらっているのを目撃し、「ご飯を食べていた患者は錠剤が小さくても飲み込めなかったのだろう」と考え、さらに飲みやすい口の中で解ける口腔内崩壊錠を開発しています。

液体剤の開発

 上司から液状剤の開発を命じられていた研究員が、介護施設を訪問し、認知症患者の多くが飲食物をうまく飲み込めないことを知り、色々と観察や検討を重ねた結果、認知症になって以来、水も飲んでいなかった患者がゼリーを飲み込んでいるのを目の当たりにし、ゼリー製剤を開発しています。

 SECIモデルを課題解決に応用すると、課題の現場に赴くことで課題を暗黙知として理解し、社会課題に対する解決策を議論できるよう、形式知として整理・構造化し、組織内外のあらゆる知識を総動員して解決策を導き、社会課題の現場で具体的に実践するというプロセスになります。

 

ナレッジマネジメントの4つの種類

 ナレッジマネジメントには、どこに重点を置くかによって様々な形が考えられます。具体的には、「経営資本・戦略策定型」「顧客知識共有型」「専門知識型」「ベストプラクティス共有型」の4つです。

経営資本・戦略策定型

 これは組織内の知的情報を経営戦略に応用するものになります。システムを導入して組織内部や組織外部を分析し、業務フローを洗い出すことによって、自社の強みや課題を見直していきます。

 個人にとっての自己分析が有用であることと同じように、会社にとっての自社分析もまた重要です。「自社にはどのような改善点があるか?」を検討し、その気づき(知識)をしっかりと経営戦略に取り入れ、競争力を高めていくことができます。

顧客知識共有型

 次に見ていくのが顧客知識共有型です。こちらは「経営資本・戦略策定」の場合と違って、知的情報を自社の戦略に活かすのではなく、むしろそれを提供するという手法です。こちらは、名前の通り「顧客を優先する」ものになります。

 例えば、カスタマーサービスなどの分野では、「顧客から来る質問」や「質問への回答」などをデータベース化しておくことによって、部署間で同じような対応をすることができます。これにより、「担当者によって言っていることが違う」という顧客の不満を解消でき、最終的に顧客満足度を上げることに成功するのです。

専門知識型

 専門知識型は、「顧客知識共有型」と同じように知的情報を提供するという手法です。ただ、こちらは顧客ではなく、組織内の連携のための手法と言えます。組織内で質問されやすい事項をデータベース化し、迅速に対応できるよう準備しておくのです。

 例えば、ヘルプデスク部門は組織内外からの問い合わせが多い部署です。そして、そこでの業務はある程度パターン化することができ、それをデータベースとしてまとめておくことによって、業務のスピードや質が向上していくのです。

ベストプラクティス共有型

 最後に見ていくのがベストプラクティス共有型です。「ベストプラクティス」という名前の通り、従業員の中でも優れた人間の思考・行動を形式知へ変換し、組織全体へ浸透させていくという手法です。営業成績の優秀な社員のノウハウなどがその例でしょう。

 優秀な人間には、その人ならではの行動原理がありますが、そのままでは単なる暗黙知でしかありません。ベストプラクティス共有型は、こうしたすぐれた暗黙知を形式知化し、それを体系的にまとめていこうという試みなのです。

 

ナレッジマネジメントの導入

 ナレッジマネジメントは、基本的に「課題や目的の精査」から始まり、「情報の可視化」「段階的に業務プロセスに落とし込む」というように進んでいきます。

 課題や目的を見失っては上手くいきませんし、しっかりと情報を可視化しなければ管理・共有もできません。いきなり全てを業務プロセスに組み込んでしまっては混乱が発生します。

 

課題や目的を精査し明確にする

 まずは、課題や目的をしっかりと明確にするところから始めましょう。「目的」がはっきりしていないと、情報の選別や見直しが上手くいかなくなってしまいます。

 しっかりと組織内部や組織外部について分析をし、すべての課題を洗い出しましょう。そして、「その課題を解決するためにはどうすれば良いか」という考えを軸に、目的や目標を設定し、その通りにナレッジマネジメントを運用していきます。

 

管理・共有したい情報を可視化する

 情報の可視化は非常に重要なプロセスになります。たとえば、営業成績の良い人のノウハウを共有する時、そのままだと、その人の技術はいわゆる「暗黙知」のままです。

 ナレッジマネジメントは情報の管理や共有が「軸」になってきますが、そのためには知的情報が「可視化」され、誰にとっても分かりやすいものになっていなければなりません。そのために「暗黙知」を「形式知」へ変換し、さらにそれを体系的にまとめていく必要があるのです。

 

段階的に業務プロセスに落とし込む

 いきなりナレッジマネジメントをそのまま導入しようとしても、上手くいかないケースが多い。従業員には従業員の業務プロセスがありますから、それをいきなりすべて変えてしまえば、たちまち彼らは混乱してしまうでしょう。

 ツールを導入するにしても、まずは段階的に業務プロセスに落とし込むことが重要になってきます。ナレッジマネジメントが馴染んできたら、さらに、その割合を増やしていき、漸進的に組織に浸透させていくことを狙います。

 

ナレッジマネジメント導入の際の注意点

 ナレッジマネジメント導入に際しては、いくつか落とし穴・つまずきポイントがあり、そこをしっかりと理解しておく必要があります。

 例えば、「現場を中心として導入をする」であったり、「共有・アクセスしやすいようにしておく」など、気をつけるべきことは沢山あります。

 

現場を中心として導入を検討する

 一つめは「現場を中心として導入を検討する」というものです。たとえば、ナレッジマネジメントに関するツールを導入するとなると、それを操作するのは他でもない「現場の人間」です。そのため、現場の人間がしっかりとナレッジマネジメントを理解し、ツールを使いこなす必要があります。

 ナレッジマネジメントを導入する際は、まず「現場を中心として導入を検討」し、ツールを入れる際にはその操作性などをあらかじめ確認しておきましょう。それから、社員のITレベルを把握しておくことも重要です。導入テストはしっかりと行い、操作感を試しましょう。

 

簡単に共有、アクセスができるようにする

 ナレッジマネジメントは、知的情報を共有することによって真価を発揮します。暗黙知から形式知への変換、そして、それの体系化に至るまで、しっかりと情報を整理しておき、共有やアクセスをしやすい状態にしておきましょう。

 例えば、優秀な社員Aの技術・ノウハウを、形式知に変換し、体系化したとします。本来は暗黙知であったはずのそれを形式知化し、体系化するところまでは良いのですが、それを共有できない状態に留めていては「宝の持ち腐れ」です。データベース化したものはどの部署からもアクセスしやすいように設計することを心がけましょう。

 

どのような情報を管理、共有化するのかを明確にする

 「どのような情報を管理、共有化するのかを明確にする」のも、ナレッジマネジメント導入における重要点です。しっかりと情報の選別をしておかないと、雑然としたデータベースになってしまい、有効な情報を共有しづらくなってしまうからです。

 自社の目標をしっかりと分析しておき、「この目標を達成するためにはどのような情報が有用か」を軸に、管理・共有する情報を選んでいくと良いでしょう。まずは、そうした情報の選別の「基準」を明確にするところから始めましょう。

 

暗黙知と形式知の両方を使って可視化する

 「暗黙知」「形式知」をしっかりと活用し、効果を可視化していくことも重要です。ナレッジマネジメントにおいては、知的情報を収集するだけでは意味がありません。従業員それぞれがしっかりと考え、ばらばらの知識を新しい知識に変えていく必要があるのです。そのためには、「暗黙知」「形式知」を循環させ、知識を共有する実感やナレッジマネジメントを行う意義をしっかり理解してもらう必要があります。

 

定期的に見直しをする

 ナレッジマネジメントに限ったことではないですが、定期的にマネジメントの見直しを行うことを忘れないようにしましょう。たとえば、「ナレッジの共有にどれくらいの手間がかかっているか」や「ノウハウの共有はしっかりとできているか」についてです。

 見直しをし、改善点が発見されたら、迅速に対応していきましょう。たとえば、「ナレッジの共有にコストがかかるので、もう少し効率化したい」という発見があれば、すぐにナレッジマネジメント・ツールの導入を検討してみましょう。

 

共有をしたくない人への対応を考える

 たとえば、営業成績の優秀な人は、しばしば「自分のノウハウを他人に共有したくない」と思うかもしれません。確かにせっかく他人と差別化して数字を稼いでいるのに、それを全員に共有されてはたまったものではないでしょう。

 しかし、ノウハウの共有は、個人としてはマイナスかもしれませんが、会社にとっては大きなプラスです。人事制度に「ノウハウ共有」の項目を追加するなど、優秀な人に「共有してもいいかな」と思わせる仕組みづくりも重要になってくるでしょう。

 

ナレッジマネジメントを導入する目的を見失わない

 どのようなことにも当てはまりますが、「目的」を見失った営みほど悲惨なものはありません。ナレッジマネジメント導入の目的を常に意識し、改善に取り組んでいきましょう。

 

シニア人材の活用

 今後は70歳以上の(再)雇用が、努力義務から義務へとなっていくことが考えられます。長年自社で働いたシニア人材は優れた暗黙知を持つ者として十分に活用余地があるともいえます。
 例えば、暗黙知として業務知識や技能・ノウハウはもちろん、「あることを知っている人を知っている」「知のありかを知っている」という知識があります。つまり、ノウハウの知識により人をつなげて課題解決にあたることができるのです。とくに経験の少ない若手に向けて、そうした知を提供してもらう意義は大きいでしょう。

 

後ろ向きの知識では意味がない

 ナレッジマネジメントの要点は既存の知識を表出・共有するとともに、新たな知識を創造することにありました。したがって、ナレッジマネジメントが有効となるためには、常に新しい知識を取り入れようとする態度や常に知識をブラッシュアップする姿勢が必要です。
 また、常に学び続ける組織風土を醸成することも必要となるでしょう。簡単なことではありませんが、これも評価制度への組み込みによって、ある程度解決を図ることができます。チャレンジする態度や行動、学習への意欲・行動を評価指標の一つとする方法などが考えられるでしょう。

 

 知には言語・数字・図表により明確化された形式知と、そのように明確化されていない暗黙知とがあります。企業にある知には、例えば、ハイパフォーマーが持つ業務知識や技能・ノウハウといった暗黙知が含まれ、これは人事評価制度への取り込みなどにより発出・共有する仕組みを構築することが可能です。
 知識経済が発展する昨今、より一層ナレッジの重要性を深く理解し、自社の収益につなげる仕組みづくりに努めましょう。

 

ナレッジマネジメントの成功事例

富士フイルムビジネスイノベーションの「何でも相談センター」

 最も著名なナレッジマネジメントの成功事例の一つが、富士フイルムビジネスイノベーションのナレッジ・イニシアティブの取り組みです。
 ユニークな点は同社の知識重視経営についての考え方です。それは知や知識そのものは管理すべき対象ではなく、知を生み出し活用する人々を活気づけ、自発的に参画させることによって知を高めるという考え方です。
 富士フイルムビジネスイノベーションでは経営トップ自身が知識重視のビジョンを繰り返し語り、「New Work Way」という社員一人ひとりが自分らしく新しいはたらき方をする という全社運動などを通してナレッジの取り組みが浸透しています。
 取り組みは多岐にわたりますが、なかでも顕著な成功事例の一つが「何でも相談センター」です。営業部門に設置された「何でも相談センター」は、営業からの問い合わせに何でも答えるという部署です。もともと営業スタッフらの「お客様の相談事に、専門外のことであっても何でも誠意をもって応えたい」という声から生まれました。
 何でも相談センターに属する相談員は、公募で自ら手を上げた営業経験者です。相談員は1ヵ月に約2,000件もの相談に答え、決してたらい回しにしないといいます。必ず責任を持って答える姿勢により、営業スタッフの信頼を勝ち取ることに成功しています。
 結果、相談センターには顧客知をはじめとする多くの知識が蓄積され、真のプロフェッショナルが育成されて最も価値あるナレッジの源泉となるまでに至っています。さらに、同センターではノウハウネットワークが構築され、どんな質問にも最適な解答を見つける専門的な知識を持つ人を探し出すことができ、このネットワークは営業部門・社内のみならず社外にまで広がっているそうです。

 富士フイルムビジネスイノベーションでは、ナレッジマネジメントが注目されるより以前から、「知識とは何か」「知識を高める支援にはどのようなものがあるか」など、ナレッジに関して活発に議論が重ねられてきたそうです。こうした先進の取り組みから深く学び、自社でどのような取り組みが可能か考えていきたいものです。

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