デザイン思考

 デザイン思考とは、現在、あらゆる企業が注目しているプロダクト発想法になります。 

 デザイン思考は、人間中心設計手法や人間中心デザインなどと呼ばれることもあります。

 P&GやGE、サムスンといった企業も導入しています。

 2005年にスタンフォード大学にデザイン専門のd.schoolが創設されたことや、2008年にコンサルティング会社IDOのティム氏がハーバードビジネスレビューの中でデザイン思考について発表したことから、これらの潮流が起こっています。

 デザイン思考は、未知の問題に取り組み新しいビジネス戦略立案を可能にする、従来と異なるアプローチ。ユーザーを深く理解し、革新的なソリューションを生む、5つのプロセスを経る思考法です。

 デザイン思考とは、簡単に言うと「デザイナーではない人たちがデザイナーのように考える」ことで、常に「ユーザー」視点から出発することが特徴です。

 例えば、従来の製品・サービスは、「売れるのか、儲かるのか」あるいは「技術的に可能なのか」といった作り手側の都合が重視される傾向にありました。しかし、モノがあふれる時代になり、機能でも価格でも競合する製品・サービスが増えてくると、「どうしたらユーザーに選んでもらえるのか」を改めて考えなければいけません。
 そこで注目され始めたのがデザイン思考です。デザイン思考は、ユーザーが本当は何を感じ、何を考え、何に困っているのか、何を望んでいるか、といった視点から考え始めます。
 デザインというと、モノの「色」や「形」を考える作業を思い浮かべる人が多いかもしれませんが、ここでデザインするものは「色」や「形」に限りません。新しいビジネスや製品・サービスの立案、社会課題の解決策など、モノづくりのみならず、広く「問題解決」を扱うのがデザイン思考です。そのため、スタンフォード大学では、ビジネススクールのかわりにデザインスクールが設置され、日本でも、2018年5月には経済産業省と特許庁が「デザイン経営」宣言を発表するなど、ビジネスにデザイン思考を取り入れる動きが活発です。

 デザイン思考が必要とされる背景にはビジネス環境の変化があります。
AIやIoTをはじめとするテクノロジーの発展により、これまでにない人間の行動様式が生まれつつあります。同時に、「より快適に」「より使いやすく」など、ユーザー視点から仮説と検証を繰り返し、改善していくことが求められるようになりました。
 生産性や技術力を追求する従来の方法では、新興国との競争が難しくなっていることも、背景として見逃せません。競争力を高めるためには、イノベーションや新規事業といった、より付加価値の高い課題に取り組むことが必要です。デザイン思考は そのための武器でもあるのです。
 GAFAなど世界的企業において実践されていることも、デザイン思考が広まるきっかけとなりました。「民泊」のAirbnbも、創業者3人のうち2人はデザイナーです。サービス立ち上げ当初、民泊というユニークなアイデアにも関わらず、宿泊率は伸び悩んでいました。そのとき、創業者たちは、「ここに宿泊したい」とユーザーが思えるほど魅力的な宿泊先の写真が掲載されていなかったことを発見。そこで、自ら写真を撮影し直して洗練された写真を掲載したところ、宿泊率は劇的に向上しました。ユーザーが何を感じ、どうしたら心が動くのかを第一に考える。デザイン思考の好例です。

 

 デザイン思考で重要な考え方は4つあります。

ユーザー中心

 「ユーザーを中心に考える」ということは、当然のことのようにも思えますが、非常に重要なポイントです。

 例えば、「優れた技術を活かしたいので商品をつくる」などといったことは起こりがちです。

 製品/サービスの価値はあくまでユーザ−が決定するのです。

 技術などを基に考えていた場合、すぐに最新の技術や競合が現れてしまうなどして壁にぶつかってしまいます。

 

対話を重要視したプロセスの実現

 次は、開発のプロセスにおいて、チームメンバーやユーザーとの対話を重要視しながら製品/サービスを制作するプロセスにすることです。

 チームメンバーとのコミュニケーションは、「スピード」を重視しているため、蜜なコミュニケーションが必須となります。

 「仮説⇒プロトタイピング制作⇒検証⇒改善」のサイクルを早いスピードで回していきます。

 

プロトタイプ⇒テスト⇒改善サイクルを回す

 2つ目の対話の延長になります。

 日本の企業においてよく見られるような「完璧(100点)な状態での製品/サービスローンチを目指していると、市場投入までに時間を要してしまう」というのが実情です。しかし、欧米の先進企業では、「プロトタイプ」の位置づけで市場投入し、ユーザのフィードバックを取り入れながら改善をしていくのが一般的です。その結果、ユーザビリティの高い製品/サービスを実現することができます。

 

多様な問題解決とゴールを可能とする

 可能な限り多くのアイディアやプロトタイプを制作していくことで、問題解決を図るということです。

 問題解決の方法は1つとは限らないために、多様な思考が重要になります。最終的に問題解決が複数出てきても問題はありません。

 

 デザイン思考では、質より「量とスピード」を重要視しており、そのため、デザイン思考では、量を重視したアウトプット重視のスケジュールが採用されます。

 

デザイン思考を取り入れるメリットと取り組み方

デザイン思考を高めていくメリット

 企業が自社のビジネスにデザイン思考を取り入れることには、次のようなメリットがあると考えられます。

(1)顧客が抱える本質的な課題を捉える
 スピーディに試作とテストを繰り返すことで、顧客が抱える課題に迫るアイデアを形にしていくのがデザイン思考です。ユーザーの意見をフィードバックさせながら、問題の本質を理解し、問題解決へとつなげることができます。

(2)イノベーションの創造
 既存の製品やサービスの枠にとらわれず、ユーザー視点から捉え直すことによって、新たな価値を生み出すことができます。

 

5つのプロセス

 デザイン思考には5つのプロセスがあります。必ずしも順番どおりには進まず、行ったり戻ったり、同じプロセスを繰り返したりするのが常です。また、このプロセスをチームで行うことも、デザイン思考の特徴です。

プロセス1:共感
 ユーザーのニーズを調査し、彼らが直面している課題について共感を深めます。ここで大事なのは、ユーザー視点で考えること。自分の思い込みを捨て、ユーザーが置かれている状況や感情に「共感」することで、ユーザー自身も気がついていないかもしれない潜在的なニーズを掘り起こします。ここではしばしば「ユーザーインタビュー」が行われます。

プロセス2:問題の定義
 「共感」の段階で得られた情報に加えて、市場動向や未来予測も総合しながら、解決すべき問題を明確にします。ユーザーは何に困っていて、なぜ困っているのか。架空のユーザー像である「ペルソナ」を作成することも、問題定義の助けになります。

プロセス3:アイデア創出
 明らかになった問題を解決するため、既成概念にとらわれず、アイデアを生み出していきます。この段階では、アイデアの完成度を上げることや「正しい」アイデアを見つけるよりも、多くのアイデアをスピーディーに挙げていくことを重視します。それには、チームでアイデアを出し合う「ブレインストーミング」が有効です。

プロセス4:プロトタイプ
 アイデアを検証するために試作を行います。紙の模型であることもあれば、簡易的に製品を作ってみることもあります。こうして、アイデアをモノとして可視化、誰もが手で触れる形にすることで、アイデアの検証がはかどるのです。

プロセス5:テスト
 試作したものをユーザーに使ってもらい、プロトタイプの検証と改善を繰り返していきます。「このアイデアでは課題解決ができない」と分かれば、問題定義やアイデア出しの段階まで立ち返るケースも珍しくありません。

 

デザイン思考事例:Apple社のiPod

 Apple社の元CEOであるスティーブ・ジョブスもデザイン思考を推し進めていた人物です。「顧客は自分たちが欲しいものを知らない」と発言しており、従来のマーケティング手法を否定していました。

 Apple社がそれまでになかった画期的なiPodとiTunesを市場に投入したことで、世の中は大きく変化し始めました。

 このiPodは、社内外の商品開発者、デザイナー、心理学者、人間工学の専門家など、総勢35名ものスタッフが一丸となって取り組んだ結果生み出されたものです。

 スタッフはユーザーがどのように音楽を聴いているのかを観察しました。その結果、「どこでもすぐに自分が選択した音楽を聴きたい」という潜在的ニーズを発見し、「全ての曲をポケットに入れて持ち運ぶ」というコンセプトを創造したのです。そして、100以上のプロトタイプを制作しては改善を繰り返してローンチに至ったのです。

 Apple社のiPodの事例にもありますように、デザイン思考の方法は、まず個別に人の行動観察などから課題の設定を行います。

 その課題に対して、多様なアイデアを持ったメンバーでディスカッションしながら解決する手段を、プロトタイプという形で具現化し、それらを テスト⇒改善する というプロセスを何度も繰り返します。

経営と真理 へ

「仏法真理」へ戻る