組織の運用

組織の運用の重要性

 組織構造や人事システムは、その組織に所属するメンバーの行動をコントロールして、経営戦略で目標とする成果を達成していくことを目的としています。

 その目的を達成するためには、システムを構成する各要素の間で互いに整合性を保つ必要があります。

 構成要素の間で整合性がとられていない場合、システムが意図した機能を実現し、最終的な目標を達成することが難しくなってしまいます。

 通常は、システム全体の目的が最終的に達成できるように目標は細分化された上で各担当者に割り当てられ、それぞれの目標が相互に対立しないように調整を行う必要があります。

 しかし、実際には、担当部署それぞれが自らに課せられた目標を達成しようとして、結果的に対立してしまうことがよくあります。

 このような対立が発生してしまう原因として、人間の持つ認知能力の限界が考えられます。これは、人事システムの設計を行った時点では予測できなかった要因で対立が発生してしまうということです。

 しかし、人は協働することによって、より大きな仕事を成し遂げることができます。むしろ、認知能力に限界があるからこそ、目標達成のためにどのように工夫することができるかを考えていくべきでしょう。

 システムの設計にあたって、特に予測が難しいのが人間の行動によるものです。

 企業組織の目標は数値によって明確に示されるものです。

 組織に所属するメンバーも、経済的合理性に基づいて行動することを当然と考え、また、少なくとも表面上はそのように行動しているように見えます。

 しかし、実際に自分の行動の段階になってみると、システムによって定められたルールに単純には従わないことがあります。

 例えば、業績評価において明確に評価基準が示され、上司と部下との間で目標について合意していたとしても、部下が上司の期待する通りに行動するとは限りません。

 これは、根本的なところでメンバーが納得できない部分が残っているためで、これにより行動のばらつきにつながっていくのです。

 このような設計面の限界を補うために、運用が重要な意味を持つこととなるのです。

 

組織の運用の注意点

 

 運用とは、経済的合理性以外の要因に着目し、ひとりひとりに働きかけることによって、最終的に目的を達成できるように望ましい行動をとらせる工夫のことをいいます。

 言い換えるならば、作り上げた制度やシステムに魂を宿らせる作業であるということです。

 業績評価システムを例に考えてみましょう。

 業績評価システムの設計の際には、可能な限り客観性の高い評価基準を設定し、業績評価に対するメンバーの納得性を高めるようにします。

 しかし、実際には評価基準が十分に客観的なものであったとしても、メンバーが評価内容に不満を持つことはよくあることです。

 人によっては、その不満の原因を客観的な評価基準である業務の実績に求めるのではなく、上司との人間関係に求めることもあります。

 また、人によっては、人事異動に不満を持ち、「なぜ自分がこのような仕事をしなければならないのか」と思い、不承不承命令に従うという態度を取ってしまうこともあります

 しかし、このような不満を抱く人であっても、組織の経済的合理性を尊重して業務に取り組んでおり、組織の論理に対して表だって反論することはありません。

 マネジメントの立場から注意しなければならないことは、不満が不満としてくすぶったまま放置され、メンバーの仕事への取組みに影響を及ぼしてしまうことです。

 このような不満は実際に不満を抱えているメンバー1人の問題にとどまらず、協働している他のメンバーの仕事にも影響を与えてしまうことが考えられます。

 このような組織への悪影響を排除して人事システムを適切に運営していくために、何によって人は動かされるものなのかを改めて考えていきましょう。

 人の行動というものは、経済的合理性のみに従って引き起こされるわけではありません。人の行動は、経済的合理性など知的な活動よりも情動での判断が優先されることが多く、最近の脳科学や神経認知学等の知見でもそのような考え方が支持されています。

 例えば、GEの名経営者であるジャック・ウェルチは、ミドルクラスのマネージャであった時に、トップレベルの営業成績をたたき出しましたが、昇給額が他の社員と同額レベルであることを知ると、会社を辞めることを決断しマネージャーに退職を申し出ました。その反応に驚いたマネージャは、ウェルチだけ倍の昇給額を与えてウェルチを引き留めました。このケースにおいては、ウェルチは、経済的合理性のみを優先して会社を辞めることを決断したのではなく、トップクラスの成績を残したのにも関わらず評価が他のメンバーと同等であったことに自尊心を傷つけられ、会社を辞めることを決断したのです。

 認知神経学者の山鳥重氏によると、情動が知的活動を制約し、知的活動が意図や意思のあり方に影響を与えていると考えられているようです。

 このモデルにおいては、情動の落ち込みは単に知的活動を不活発化するだけでなく、意図や意思を持つという態度にも影響を与え、何かをしようとする意欲自体が減退する恐れがあるのです。

 このように考えると、マネージャには、メンバーひとりひとりの情動を理解し、それに訴えかけていくことが重要であることが分かります。

 複数の人が集まって集団で行動する場合にはどのようなメカニズムが働くのでしょうか。この点について、マネジメントの視点から考えてみましょう。

 ある人Aの行動が別のある人Bの行動にどのように影響を及ぼすかという視点です。

 組織の公式のルールに従って他者の行動に影響を与えることはできますが、実際にはそれだけでは不十分です。

 上司が部下に命令を下したとしても、部下が命令した指示内容の100%行動するということはありません。

 これは、指示の意図する内容が100%の正確さで相手に伝わることがないことを示しています。

 その原因は、言葉が受け手独自の認知構造を通じて理解されるためです。

 この認知のプロセスの中で、どこに重点を置くか、何に価値を求めるかは、情報の発信側と受信側とでも変わってきますし、受信側の人によっても変わってきます。

 そして、人の認知構造はそれまでの経験や情動の影響を受けます。

 当然、上司に対して好ましい感情を抱いていた場合、上司の命令は上司の期待したとおりに伝わる可能性が高まるのです。

 どんなに優れたシステムを設計したとしても、それだけでは不十分なのです。

 設計したシステムをどのように動かし、メンバーに対してどのように働きかけを行い、経営戦略の目的の実現に向けて動かしていくかが重要なのです。 

 そして、何より組織を構成し動かしていくのは人間です。

 人間の能力や認知能力には人によって違いがあることを前提として、組織の運用にあたっては、メンバーがどのように考え、どのように指示を受け止めているかについて注意を払いながら、コミュニケーションをとっていく必要があるのです。

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