目標管理のフレームワーク
一言で目標管理といっても、1954年、ドラッカーによって目標管理が提唱されて以来、時代に合わせて改良・改善が繰り返され、現代では様々なフレームワークが存在しています。
目標管理を導入し、上手く機能させるには、組織にあった手法で運用する必要があります。組織にあった手法で目標管理を行えていないばかりに、目標管理が形骸化してしまっている組織も多くあります。それぞれのフレームワークを参考にして、組み合わせたり、よい部分をとってカスタマイズすることで、組織にあった手法で目標管理を行うことができます。
MBO
MBOという言葉の由来は、ドラッカーが唱えた目標管理の原文「Management by Objectives」の頭文字です。そのため、目標管理とMBOは同義であり、部下のモチベーションを高め生産性を高めるマネジメント手法を指す言葉でした。しかし日本では、MBOという言葉は、ドラッカーが唱えた本来の理念とは異なる「フレームワーク」として拡がっていきました。
フレームワークとしてのMBOは、一言でいうと「目標と評価を密接に紐づけた」目標管理フレームワークです。ドラッカーの提唱した目標管理から得られる「納得性の高い人事考課の実現」というメリットを生かした目標管理です。
MBOの本質
フレームワークとしてのMBOの本質としては「給与に直結する目標を設定し、従業員のモチベーションを高める」ことです。ドラッカーが唱えた本来の目標管理の意味合いは薄くなってしまっていますが、評価制度と目標管理を連動させたい場合に参考にすると良いかもしれません。
MBOの特徴
・目標と評価・給与が密接に結びつく
・目標と評価が結びつくため、目標に関する情報公開範囲は「上司と部下のみ」
・組織の給与改定に合わせるため、目標期間は半年、もしくは年
・目標を上回る成果を出せば高い評価、目標を下回った場合は低い評価
・達成水準は100%
MBOのメリット
・目標設定と結果が明確なのでシンプルな評価制度ができる
・納得感のある人事考課の実現
・目標達成が報酬に反映されるため、個人のモチベーションに紐づきやすい
・自分自身で行動を定めるため指針が明確になり、スキルアップにつながる
・組織によって解釈の余地があり、カスタマイズしやすい
MBOのデメリット
・評価に紐づくため、社員は達成できるラインの目標ばかり設定する可能性がある
・評価がかかわるため、情報公開性が低くなり、誰が何しているのかわかりづらい
・目標期間が長いため、目標を忘れてしまい、モチベーションが継続されづらい
・評価のための目標であるため、本当に目指したい個人目標とかけ離れてしまう
・目標管理ではなく、評価制度として運用になりがち
OKR
OKRは、intel(インテル)から生まれた管理手法で、GoogleやFacebook、日本ではメルカリなどのITベンチャー企業がこぞって導入し、飛躍的な成長を遂げる原動力になっている革新的な目標管理のフレームワークです。
OKRとは、「Objective and Key Result」頭文字を取った略称です。Objective(O)は「目標」とKey Result(KR)は「重要な指標(目標の達成のためにやるべきこと)」で構成されています。
OKRは、「チームメンバーを同じ目標に導くためのフレームワーク」と言えます。それぞれの立場や役割は違っても、メンバー全員が勝利を目指して点を取りに行くサッカーのような団体競技をイメージすると良いでしょう。
OKRの本質
OKRの本質は、「みんなで同じ方向を向いて、ワクワクしながら、高い目標を目指す」ということです。個人よりも組織の団結力や成長が重要と言われている現代には非常に理にかなったフレームワークであるといえます。また、3ヵ月という短いスパンでレビューを行うので、状況や環境の変化に柔軟に対応できるという点も現代社会にあっているのではないでしょうか。
OKRの特徴
・組織の目標から個人の目標まで繋げて設定する
・達成率が60〜70%ほどが予想されるチャレンジングなObjectiveを設定(OKRの世界ではムーンショットと呼ばれます)
・人事評価に直結させない
・目標に関する情報はオープンにする
・やるべきことを明確にするために、Objectiveは1つ、Key Resultは3つから5つ
・環境や状況の変化に対応できるよう、目標期間は3ヵ月1サイクル
MBOと比べたOKRの特徴は大きく3つです。
1つ目は目標や進捗指標は100%の達成を前提としていないところです。MBOでは目標の達成度合いが人事評価や給与指標と結び付いていることもあり、100%の達成が望まれます。ですが、OKRは報酬制度とは関係ありません。そのため、60~70%の達成が見込まれるような よりチャレンジングな目標の方が好まれるのです。
2つ目は目標を振り返るスパンが短いことです。MBOが1年ごとに目標を振り返ることが多いのに比べて、OKRでは1~3ヵ月というスパンで振り返りを行います。より高頻度での目標設定や軌道修正が必要です。
3つ目は目標の共有範囲が広いことです。MBOでは基本的に従業員と上司の間で目標が共有されますが、OKRでは全社に公開・共有されます。従業員に企業への貢献度をより強く感じてもらうための制度設計です。
OKRのメリット
・会社全員で高い目標に挑戦することで、生産性が向上し、組織力が向上する
・会社・部署・個人が同じ方向に向かって進むことで、エンゲージメントが上昇する
・情報公開性が高いので、社員間のコラボレーションが生まれやすく、コミュニケーションが活性化する
・高頻度のフィードバックによって、目標の意識付けができる
・目標期間は短期間のため、世の中の変化や状況に柔軟に対応できる
OKRのデメリット
・すぐに機能することは珍しく、トライアンドエラーが必要となる
・挑戦的な目標を設定する必要があるため、目標設定の難易度が高い
・フィードバックは高頻度であるため、時間を確保する必要がある
・評価制度と直接的には結び付けられない
KPI
KPIは、「Key Performance Indicator」の略で、日本語では「重要業績評価指標」と訳されます。
KPIは「プロジェクト単位の目標を達成するためのフレームワーク」です。KPIを設定することにより、プロジェクトがどの程度目標達成に向かって進んでいるのかを確認することができます。
また、KPIと共に紹介される概念として、「KGI」というものがあります。
KGIは、「Key Goal Indicator」の頭文字をとった略称であり、「重要目標達成指標(ビジネスの最終目標を定量的に評価できる指標)」と紹介されることが多い。
KPIは、プロジェクトの最終的な目標であるKGIを達成するための過程を計測する中間指標のことで、KPIを適切に設定することで、KGIの達成へどれだけ進んでいるのかが分かるようになるということです。
KPIの本質
KPIの本質は、「目標達成のためのプロセスを数字で計っていくこと」であり、プロジェクト単位の定量的な目標を達成するためには効果的なフレームワークであるといえます。
数値目標を追う上で指針として活用できるフレームワークであるといえるでしょう。
KPIの特徴
・プロジェクトチームごとの少人数単位で行われる
・定量的に数値で計測する
・目標期間はプロジェクトの期間
・KGIから逆算してKPIが設定されるため、100%以上の達成を目指す
・レビューの頻度は高頻度が望ましいが、プロジェクトリーダーに裁量あり
KPIのメリット
・目標達成に向けての行動が明確化する
・目標達成までのプロセスを可視化し、計測することができる
・定量的な目標を設定するため、解釈が統一される
・優先順位が明確化する
・数字の進捗を短いスパンで追っていくため、方向転換がしやすい
KPIのデメリット
・数値的な「量」が重視されることで、仕事の「質」が下がってしまう
・ルーティンワークになってしまいがちで、モチベーションが低下しやすい
・数値を追うべきであるという指標のため、イノベーションの余地が少ない
・指標であるKGIと目標の関係性が直接的ではないため、KPIをクリアしても目標は達成しないということが起こってしまう
MBOとOKRとKPIの違い
MBOとOKR、KPIは、それぞれ共通しているところもあり、また、相反しているところもあります。何か一つを取り入れるだけではなく、それぞれのフレームワークを参考にして、組み合わせたり、よい部分をとってカスタマイズすることで組織にあった手法で目標管理を行うことができます。
MBOとOKR、KPIは、以下のような目的を持ったフレームワークなのです。
MBO:目標と評価を直接紐づけ、報酬や昇格といった評価の決定的要素にするため
OKR:メンバーを同じ目標に導き、組織全員で高い目標を達成するため
KPI:プロジェクト単位の目標に対する数値的な指標を追うため