自社の本当の強みとは

 企業に実力以上の勢いをつけるためには、充実した人員と強みをもって、ライバルの弱みや意表を突く方法をとるのがよい。

 企業において、顧客や競合他社の動向と同時に自社の前線の状況を把握しておくことが重要である。さらに、「孫子」では、これに先立って、時勢の把握、用兵の熟知、人心の一致、周到な準備、有能なリーダの五つを勝利のコアコンピタンスとして取り上げている。このことは、現代の企業におけるリスクマネジメントやコンティンジェンシープランにおいても通じる。

 ビジネスでは、戦う前に目的目標となる市場や顧客、敵であり障害となる競合他社をよく調べましょう。

 まず、市場の状況はどうか、顧客は何が欲しいのか、顧客の決裁者は誰か・予算を出すのは誰か・製品を選ぶのは誰か、予算はいくらか・納期はいつか・製品サービスを選ぶポイントは何かなど、マーケットや顧客について調べましょう。

 次に、競合他社の戦略・組織・製品・担当者・企画内容・提案内容など、ライバルについての情報も調べられる限り調べましょう。

 意外にきちんと理解できていない自社についても冷静に分析しましょう。ヒト・モノ・カネは充分か、製品やサービスはマーケットの求めるものに合致しているか、競合に勝っているか、など冷静に分析しましょう。

 これらの顧客・競合・自社の情報をよく知っておけば負けることはありません。

 仮に分析の結果、自社が劣っていて どうやっても勝てない場合には、戦わないという選択をすれば負けません。

 ライバル企業の状況、自社の状況、市場、地域の状況、経済の時流、事業のタイミング等を正しく把握すれば、確実に成功できる。

 企業に実力以上の勢いをつけるためには、充実した人員と強みをもって、ライバルの弱みや意表を突く方法をとるのがよい。

 これらの分析のための手法としては、SWOT分析 や PEST分析 があります。

 

自社の強み、弱みを知る

 

市場規模と成長性を把握する

市場分析は、需要の動向、供給の動向、市場競争力の動向を適切に判断するために行います。客観的なデータから調査したい市場の魅力、自社のポジショニングを把握します。

市場分析を行う上で必要なことは、市場の規模と成長性を捉えることです。

規模は金額で示されることが多く、「市場規模=平均単価×市場に流通する数量」となります。そのため、「平均単価」と「市場に流通する数量」を調査することになります。

成長性は、こちらも「平均単価」と「市場に流通する数量」の伸び率を分析することになります。

ここまで数値を捉えることができれば、おおよそ市場が「立ち上がり段階」、「成長段階」、「成熟段階」、「衰退段階」といった具合で、ライフサイクルのどの段階にあるのか、おおよその当たりをつけることができます。

 

 

顧客の状況を分析

市場の分析を行う上で必要なことは、「市場規模=平均単価×市場数量」となり、「平均単価」と「市場数量」を調査することになります。

ここでは顧客の状況を分析します。

顧客の需要やニーズが市場に影響を及ぼすことは当然ですが、ここでの顧客は自社にとっての直接的な顧客のみならず、顧客の顧客も見越す必要があります。

例えば、家電メーカーにとっての顧客は、主に家電量販店(小売店)になります。そこから、さらに私たち消費者は家電を購入します。そのため、直接的な顧客のニーズも重要ですが、私たち消費者のニーズも当然重要な分析対象となります。

ではどのようにして顧客の状況を把握するのでしょうか。

顧客の属性を分類することを「セグメンテーション」と言います。抜け漏れダブリなく、セグメントを作成することが重要です。

例えば、男女、法人と個人、年代などです。重要なポイントは、これらのセグメント毎に需要が異なっていることです。そのためには、予め仮説を立てておくことが大切です。

 

次に顧客の状況を把握します。

市場内では多種多様な製品を様々な顧客が購入しています。様々な顧客が存在するということは、それぞれにニーズが異なっていますし、需要の増減も異なってきます。顧客の属性を明確にするのがセグメンテーションとなります。

セグメンテーションを検討する際の留意点は、抜け漏れなくダブリのないようにセグメント分類することです。

これらの軸は単独で使用することもありますが、クロス(国×価格帯)で使用することもあります。

セグメンテーションを行う際の重要なポイントは、セグメント毎に需要やニーズに差が出るように分割することです。

差異がないのであれば、分割する理由がなく、意味がないためです。そのため、セグメンテーションは調査を進めていく中で見えてくる部分も多分にあります。 しかし、帰納的に積み上げていくだけでなく、演繹的に仮説を持っておくことも重要となります。

 

 

セグメント毎の需要・ニーズを把握

現在の需要の状況を把握する上で重要なことは、市場に流通する数量と紐付けることです。市場に流通する数量は、「市場数量=潜在ユーザー数×顕在化率×利用頻度」といった具合に、どれだけの顕在化の余地があるのか、全体のユーザーの内、どれだけが顕在化しているのか、それぞれの顕在化したユーザーが期間単位(例えば1年)毎にどれだけの商品を消費しているのか、といった要素に分解して調査を進めます。

 

需要の状況を裏付けたり、今後の需要予測を行うためには、将来的なニーズが必要となります。需要が移り変わっていくことも、各セグメントにおける消費者ニーズが変動しているためです。

 

 

業界分析

業界を分析する際には5フォース分析やPEST分析を用いることが多く、当該業界に影響を与える要因として、業界のプレイヤー構造、サプライ動向、新規参入業者の動向、代替品の動向、その他業界の動向(技術、法規制など)、顧客の動向が挙げられます。

 

業界のプレイヤー構造の把握

自社が属する業界内にどのようなプレイヤーが存在するのかを知っておくことが重要となります。

プレイヤーを洗い出す際に、製品セグメントやプレイヤーの売上規模別に整理しておくと後々の分析で役に立ちます。

 

 

新規参入業者の動向の把握

新規参入業者を調査する際は、「(1)近年新規参入した企業」、「(2)新規参入を検討している企業」、「新規参入に関して未知数の企業」の3つに分類して考えます。

 

 

代替品の動向を把握

代替品については、直接的な代替品や間接的な代替品をピックアップします。その後、業界内の製品と共に製品内容やサービス内容を分析することになります。こちらも、当該業界では考えてもみなかった製品が取って代わることもありますので要注意です。

例えば、FAXは電子メールの急伸により市場自体が急激に衰退しました。

 

 

その他業界の動向(技術、法規制など)の把握

こちらは、PEST分析を行うのと同様となります。

PEST分析の注意点は、全ての項目を調査するのではなく、当該業界に必要な項目を取捨選択した上で調査することです。

PEST分析を行う際は、当該業界には一体どの項目が影響を及ぼすのかを考えた上で分析項目を洗い出します。

 

 

自社分析

ベンチマーク分析と定量分析を用いた自社の分析

 

競合をベンチマーク

ベンチマークとは、自社および競合を様々な観点から比較することで、自社が競争力を保持しているかどうか、自社の強みや弱みを明確にすることです。

ベンチマーク分析では、4つの視点で行います。

自社・競合定量分析、ターゲット顧客分析、バリューチェーン分析、製品・サービス分析が挙げられます。

これらの4つの視点で競合企業との比較を行い、業界における成功要因を抽出していきます。

 

自社・競合定量分析

自社ベンチマークで行うことは、「プレイヤー間の定量的な比較」になります。

基本的な視点として、(1)市場シェアや(2)売上高や利益などの成長性、(3)利益率などの収益性、(4)損益(分岐点)の構造などになります。

市場シェアは、市場規模に対する各社の売上比率を比較したものです。各社の製品がどの程度普及しているかを見ることができます。

成長性と収益性については、各企業の位置づけを明確にする方法となります。

(1)~(3)の分析は、事業を行った結果の数値になり、表面的な分析となります。具体的になぜ、その数値になったのかまでは深掘りできません。それを分析するのが(4)の損益(分岐点)の構造分析やバリューチェーン分析などになります。

 

(1) 市場シェア

市場シェアは、市場規模に対しての各社の売上高の比率で決まります。これによって、各社の製品がどの程度市場に普及しているのかを把握することができます。

 

(2)成長性と(3)収益性

各企業の位置づけを明確にする方法として、「売上高成長率の成長性」と「営業利益率などの収益性」を2軸に取り、各企業の情報をプロットする方法があります。これによって、道徳性を持った企業を「見える化」することができます。これによって、業界の傾向を見るといくつかのグループに分類することができます。

低価格帯製品を主としている企業は、成長性は悪くないものの収益性は悪化しています。これは単価の下落が原因と考えられます。一方、中価格帯製品では、収益性は高いものの成長性が低くなっています。高価格帯製品は成長性、収益性ともに高くなっています。

 

(4) 損益(分岐点)の構造

各社の損益構造も分析します。

固定費と変動費を特定して損益分岐点を分析することで、販売数量が十分か否かを分析します。

その他に、損益構造として、例えば、粗利率が高いという結果がある場合、「高付加価値の製品を提供できている」、「生産効率が良く、売上原価を抑えられている」と考えられます。

これらを導き出すために、売上高や売上原価を売上数量で除算します。すると、売上単価や単位原価が算出され、それらを比較することで判断できます。

また、営業利益率が高いということは、「粗利率が高い」、「販管費が低い」ということが考えられます。

「販管費が低い」ということについては、販管費を売上高で除算した販管費率で比較すると良い。

販管費率が大きい、小さいということが見えてきた次には、どの費用項目による影響で分析結果の販管費率となっているのかを調査するのも有効です。

また、費用構造という観点では、固定費と変動費を特定して、損益分岐点分析を行うことも有効です。

 

 

ターゲット顧客分析

各社がターゲットとしている顧客層(顧客セグメント)毎に抱えている顧客数などを示します。

利益率の高い製品を購入する顧客を多く抱えていることは、魅力的なターゲットであると言えます。そのような顧客に対しては、スイッチングコスト(購入先を他の企業に切り替える際にかかる費用や労力など)を高く感じてもらえるような施策を打ち、顧客を囲い込むことができれば強みとなります。

 

 

バリューチェーン分析

バリューチェーンとは「製品やサービスを市場へ送り出すプロセス」となります。

すなわち、バリューチェーンを比較し、優れている方がおのずと製品・サービスに優れていると言えます。

そのため、各社のバリューチェーンを比較することはどの企業が優れているのかを抽出するための有効な手段となります。

その他にも、調達では、安くて品質の良い原材料を安定的に調達できるかが能力として必要となります。

また、マーケティングにおいては、広告費と比較して効率よく売上を上げられるかが販売促進力に繋がります。

営業では、効率よく多数の顧客を獲得できているか効率よくチャネルを押さえられてるかが営業力に繋がります。

これらをより詳細に分析しようとすると、業務プロセスレベルで評価することも一案です。

 

 

製品・サービス分析

マーケティングの4Pフレームワークを用いて分析します。

製品や価格は顧客ニーズに合致しているか否かが競争力に繋がります。

また、プロモーションは顧客のニーズに合致したメディア(webでのプロモーションやテレビCMを活用など)を活用しているか否かが競争力になります。

チャネルは、顧客ニーズにマッチした販売方法を行えているかなどが競争力となります。

若者世代の購入が多い商品の場合、Web販売は必須となります。そのWeb販売の基盤が整備されているか否かが競争力に繋がります。

 

これらの分析から、KSF(Key Success factor:主要成功要因)を抽出します。

これは、各社の強みの中でも競争力の源泉となっている要素が該当します。

この抽出が有効なのは、自社の根幹となる強みを把握することで、優先度が確定できる、現在自社では保有していない他社のKSFを補足することで、競争力を高めることができます。

 

 ほとんどの社長は、新規の見込み客などから、「御社の強みはどういった点ですか?」という質問を受けた場合には、自社の優れている点をいくつもあげることができると思います。

 しかし、そこでの答えは「相手に自社と取引したいと思わせるにはどうすれば効果的か」という対外的なアピールに重きが置かれていることが多いのではないでしょうか。

 もちろん、アピール材料として「自社の強みの見せ方」も重要ですが、会社の長期的な舵取りのためには、さらに深いレベルで自社の強みを捉える必要があります。

 

本当の強みとは自社の将来を保証してくれるもの

 会社経営において、つねに自社の「強み」をいかした経営がなされているかどうかは非常に重要なポイントです。

 ここでいう「強み」とは、現在の自社のアピールポイントではありませんし、今期の売り上げ目標を達成してくれる要因のことでもありません。

 もっとも重要なのは、この部分さえしっかりしていれば、自社は今後とも長期間にわたって、存続・成長し続けることができると社長が自信をもって言い切れる自社の「核」となる部分のことです。

 しかしながら、そのような核を見極めることは容易ではありません。

 核となる部分は社内外の環境によっても次第に変化していきますので、定期的な見直しも必要です。

 具体的には、以下のステップで自社の本当の強みについて確認してみます。

1)強みをできるだけ明確に特定する
    ↓
2)競合企業よりも本当に優れているかを確認する
    ↓
3)現状だけではなく、将来における強みも検討する
    ↓
4)強みを強化するための計画を策定する

 

1 強みをできるだけ明確に特定する

 自社の強みについて考えるときには、できるだけ強みを特定して把握することが大切です。

 たとえば、メーカーなどが「我が社の強みは技術力にある」とするときでも、どの分野の技術力が強みなのかを特定しておかないと、強みをさらに高める施策に結びついていきません。

 「ローコストで大量生産する技術力」と「高付加価値のオーダーメイドに応えていく技術力」では大きく異なります。

 

2 競合企業よりも本当に優れているかを確認する

 また、「自社の強みが商品開発力」にあると考える場合でも、「ユニークな商品を次々に設計する力」と「仕様通りに安定的に生産する力」では認識すべき強みは異なるでしょう。

 自社の強みを競合企業と比較するためには、さまざまな情報収集が必要になります。

 競合企業の製品やサービスを実際に利用したり、専門誌などによって業界動向をつねに把握しておかなければなりません。

 多くの社長は既にこのような情報収集を行っていると思いますが、大切なのは それをどれだけタイムリーに行っているかということです。

 たとえば、競合企業が自社よりも優れた製品の販売を開始した場合、「その販売前に気づくか」「販売直後に気づくか」「他社製品に自社の顧客を奪われてから気づくか」では、自社として対応可能な選択肢の幅は大きく異なってきます。

 また、どうしても自社の強みについては「過大評価」してしまいがちですので、時には第三者からの客観的な評価を受けることも大切でしょう。

3 現状だけではなく、将来における強みも検討する

 厳しい経営環境をくぐり抜けて会社がこれまで存続してきたのは、「過去」において、会社がその時代にマッチした何らかの「強み」をもっていたからに他なりません。

 しかし、これは将来に向けて会社存続を保証してくれるものではありません。現在の自社の強みがそのままの形で5年後、10年後も通用するとは通常は考えにくいでしょう。

 これは特定分野における強みの「度合い」だけの問題ではありません。

 たとえば、Aという精密機械製造のための熟練技術を「強み」として保有している会社が、今後もその熟練度合いをさらに高めていけば会社存続が保証されるか、といえばそうはなりません。それは、世の中に圧倒的な「技術革新」が起こって、A製品がもつ欠点をすべてカバーする新しいBという次世代製品が生まれたり、消費者の「ライフスタイルの激変」などによってA製品に対するニーズがまったくなくなることも大いにあり得るからです。

 つまり、既存の強みのレベルアップという「度合い」の問題だけではなく、既存とは異なる新たな強みという「質」そのものについても考慮する必要があるのです。

 たとえば、昔は音楽も映像も記録媒体としてはテープが使われていました。この分野に関わるメーカーは、テープ上にできるだけ高品質で記録するという目的のために、テープ自体もテープに記録するヘッドの部分についても改良を重ねてきました。

 しかし、今では、デジタル技術の革新によって音楽も映像もハードディスクなどに保存することが当たり前になっています。「テープに高品質に記録できる度合い」はいくら高めても強みとはいえなくなったのです。

 また、最近では消費者の環境意識が高まるなか、自動車メーカーでは「低燃費で環境に優しいエコカー」の開発にしのぎを削ってきています。自動車メーカーに製品を納入している中小企業にとっては、エコカーに対応した技術開発が当面の「強み」にはなります。しかし、ハイブリット車の普及が加速しているように、近い将来には電気自動車が自動車の標準スタイルになる時代が必ずくるでしょう。その際には、従来型の燃料自動車をエコ化する技術は、そのままでは電気自動車に対応できなくなることも十分に考えられます。それまで築き上げてきた燃料自動車製造における「強み」が通用しなくなる可能性があるということです。

 自社の強みについて検討するためには、このような将来的な環境変化についても十分に考慮し、必要に応じて、現時点では直接的には収益に結びつかない「次世代の強み」についても育てていく必要があります。

  
4 強みを強化するための計画を策定する

 自社の強みが明らかになったら、それらの強みを具体的にどのような手順で強化していくのかという計画策定に入ります。

 ここでは、「技術革新・ライフスタイルの転換点」なども意識した計画にする必要があります。

 また、ここで重要になるのが「マイルストーン化」、「定量化」、「優先順位付け」です。

 「マイルストーン化」ですが、これは、自社の強みを数年後までどのような段階を経て獲得していくかについての道筋をつけるということです。

 たとえば、自社の特定の製造技術を今後も強みとする場合、「1年後にはこのレベルの技術者を何人保有、3年後にはさらに何人」という具合に明確にしていきます。

 次に「定量化」ですが、これは、後の進捗管理の段階でどれだけ計画通りに進んでいるかを、分かりやすくするために可能な限り目標を数値に置き換えておくということです。

 たとえば、顧客サービスの充実を自社の強みとする場合、「3年後には地域でもっとも愛される店になる」という計画を掲げても、何をもってそうなったといえるのか分かりません。

 「顧客満足度アンケートを3年後には10点満点中9.5点にする」など定量化することで、はじめてその進捗状況が把握できます。

 最後に「優先順位付け」です。

 自社の強みを高めていくためには、目前の競争に勝っていくための短期的な強みの強化から次世代に向けた種まき的な強化まで、さまざまなレンジでの施策が必要になります。

 問題はこれらのバランスです。

 実際には、現時点での自社の経営状況や現在の強みの発展性、次世代の強みが収益につながり始める時期などを考慮して、優先順位付けすることになります。

 特に、経営状況が思わしくない場合に、長期的な施策は後回しにせざるを得ない場合もありますが、少なくともどのような条件がそろったら次世代の強みを本格的に育成していくかという目安はもっておくべきでしょう。

 

自社の強みを棚卸しする

1 自社の価値はどのプロセスで生み出されているか

 自社の強みをさらに明確化するために、自社の強みを棚卸しするために「価値連鎖」という考え方があります。

 これは、企業がその活動全体を通じて、どのような価値を生み出しているかを総合的に判断する手法です。

 たとえば、不況のなか、消費者の節約志向は高まるばかりですが、世の中には「一斤が数千円のパン」を売って成功している会社もあります。普通のお店で売られているパンはせいぜい数百円程度ですから、このお店は約十倍の価値のあるパンを売っていることになります。おそらく特別な材料を使っているだろうことは容易に想像できます。また、お客さんに自社のパンがいかに安全でおいしいかという告知活動も上手に行っていることでしょう。

 さまざまなプロセスで自社の強みをいかし、商品に価値を加えることでこのような高額販売が可能となっているのです。

 価値連鎖の分析は、このような価値創出のプロセスをできるだけ分解して捉えようとするものです。

 この分析を行うことで、自社の経営活動全体のなかのどのプロセスで価値を創出しているかということが明らかになります。これは、その強みをいかに高めていくかということだけではなく、強みを利用して新たな事業領域を探ることにもつながります。

 また、自社の価値連鎖を改めて見直した結果、現時点ではまったく価値を生み出していない、そして、将来的にも大きな価値創出は期待できないと思われるプロセスがあれば、そのプロセスを得意としている会社にアウトソーシングしてしまうという選択肢も生まれます。

 

2 自社の価値連鎖を分析する

 業種業態によって違いはありますが、会社経営における価値創造の流れ(価値連鎖)を整理します。

 たとえば、ある製造業者が前記の流れに沿って、価値連鎖分析を行ったところ、以下のような結果になったとします。

①購買物涜

 入手困難な貴重な原材料を仕入れるルートを確立している

②設計・製造

 顧客ニーズを忠実に商品化するための設計ノウハウがある

③出荷物流

 共同物流によりコスト削減などの取り組みをしているが改善の余地あり

④販売・マーケティング

 市場変化をタイムリーに把握する情報収集力がある

⑤サービス

 既存顧客へのフォローが不足しており、顧客流出比率が高い

⑥全般管理

 社員の成長を加速する人材育成システム・評価システムがある

 この会社が生み出している価値は、おもに①②④⑥から創出されており、③および⑤、とりわけ⑤ではマイナスの価値が発生している可能性があります。

 このとき、会社全体の価値を増大させる方向性としては、①②④⑥の強みについては、今後とも競合企業に対する優位性を確保することが考えられます。

 この4つのなかで特にどれに注力していくかについては、それぞれの費用対効果を試算して決めていきます。

 そして、③⑤のうち、たとえば⑤については緊急課題として改善に取り組むが、③については将来的にも自社の価値創出には貢献しにくいので、専門業者にアウトソーシングしてしまうということなども考えられます。

 このように、自社の価値連鎖の分析では、それぞれのステップごとの価値増大とともに全体としての価値の最大化も考慮する必要があります。

 

3 強みを強化し新規事業につなげる

 価値連鎖分析によって特に自社にとって強みと思われる部分を強化することで、新たなビジネス進出の可能性を検討することもできます。

 川上から川下までをカバーする大企業においては、特定の機能を担う部門を別会社化し、親会社だけではなく外部からも収益を獲得するというのは一般的な手法になっています。

 別会社化することで間接コスト負担が増すなどの問題点もありますが、中小企業においても、自社内の一部門として新たな収益源を広げるという取り組みは可能でしょう。

 たとえば、外食事業者が自社の強みを考えるときに、まず目が向くのは「最終的に顧客に提供する料理の味やサービスの質」ということになるでしょう。

 もちろん、これ自体は重要な要素ですが、もう少し上流にさかのぼれば、「購買物流」のなかの食材調達に強みを見いだすこともできます。特に、最近の消費者は、料理にどのような材料を使っているかということに非常に敏感になっているため、仮に「安全・安心な食材を安価かつ安定的に調達できる」というノウハウをもっていれば、それ自体が大きな強みになります。

 このように考えると、外食事業そのものではなく、「購買物流」を自社の強みとしてさらに強化し、他の外食事業者、食品メーカー、小売業などにも確かな食材を提供する「食材提供業」という新規事業への取り組むことも考えられます。

 そのためには、「農協などの窓口との連携強化」「契約栽培農家の直接開拓」「自社農園の運営」などの施策が考えられるでしょう。

 さらに、多数の店舗を抱えるチェーン店では、店長やアルバイトをいかに短期間で成長させるかということが重要な要素になっています。

 また、多数の店舗を効率的にコントロールするためのチェーンオペレーションに関してのノウハウも蓄積されています。

 これらの人材育成やオペレーションに関するノウハウを活用して、直接競合しない分野のチェーン店に対する支援ビジネスを行うことなども考えられます。

 

 自社の強みとは、たんに現時点で競合企業よりも優れていると思える部分ではなく、「この強みさえしっかりしていれば、自社は今後とも長期間にわたって、存続・成長し続けることができる」という会社の屋台骨ともいえる部分です。

 景気低迷で今後も不透明感が増すなかにおいては、自社の強みをしっかりと見極めた経営が一層重要になってくるでしょう。

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