ジャック・ウェルチのナンバーワン戦略

 ランチェスターの法則を用いて戦略を策定する際には、市場の動向などを見極めた上で、自社を弱者と捉えるか、強者と捉えるかの判断が非常に重要になります。ただ、ここでも1つ気をつけなくてはならないポイントがあります。

 ジャック・ウェルチは、GEを去るにあたって、すべての事業に対し、市場でナンバーワン、もしくはナンバーツーであるように求めたのは誤りであったと語ったと言われています。そのために、経営幹部たちは市場を狭く定義するようになり、GEは機会と成長のチャンスを逃す結果になったからです。市場セグメントを小さく分割し、勝つために適切なターゲット市場を絞り込んで、集中的に市場を攻略することで、ビジネスの成功確率は非常に高まるでしょう。しかし、常勝するためのその戦略は、時として勝てる可能性がある市場機会をとり逃すことになります。判断の時点では、自社の能力が十分ではないと考えられるために、市場で勝つ確率も低く見込まれたとしても、実際に市場で事業活動を行なうちに自社の能力自体が成長することは少なくありません。そのため、常に市場でのナンバーワン、ナンバーツーの座を目指し、市場を必要以上に狭くセグメント化することは、機会と成長をともに逃すことにもなります。既存の事業においては常に勝つことが求められますが、企業が継続企業として、変化する環境に適応する能力を維持していくためには、機会と成長を逃さないことも重要なポイントです。ランチェスターの法則を用いる際には、短期的な成功を目指す視点と中長期的な成長の余地を残す視点のバランスも必要だと言えそうです。

 

インターネット戦略を実行する上でどのような活用方法が考えられるか?

1 インターネット上で使うランチェスターの法則はSEOが決め手

 インターネットの強みは、弱者の戦略の接近戦にも、強者の戦略の遠隔戦にも、いずれにも使えるツールであることでしょう。もちろん、2つの戦略を同時に行なうことはできません(そもそも、それでは戦略の意味がありません)。しかし、インターネットを用いれば、確率戦、遠隔戦からはじめて、一騎打ち、接近戦に持ち込むという流れをシームレスに連続して行なうことも可能です。例えば、メールマガジンの発行と連載コラムによって、ユーザーの知識ベースに共通の興味、関心を構築しながら、問合せやご意見を積極的に集めることで、メールのやりとりの個別対応によって、ロイヤルティーを高めていくということも可能でしょう。この場合、市場における弱者/強者の関係も無関係とまでは言えませんが、それ以上にSEO(検索エンジン対策)的観点での弱者/強者の関係が大きく影響することと思われます。企業名や商品名など、企業が独自に保有する言葉は別として、ターゲットとするユーザーが興味、関心をもつキーワードを把握し、検索エンジン対策を行なうことは重要です。効果的なSEOの実践により、インターネット上の強者の地位を確立した上で、メールマガジンや記事コラムで価値ある情報を提供。この時点である程度、ユーザーの囲い込みができたら、接近戦での一騎打ち(個別コミュニケーション)に移る。こうした流れを計画的に実行することで、弱者の戦略と強者の戦略を効果的にバランスよく使うことができるでしょう。

 

2 ランチェスターの法則とパレートの法則

 ビジネスにおいては、競合する敵が1社とは限りません。むしろ、それ以上の数である場合の方が多いでしょう。そして、勝者より敗者の方が圧倒的に多いはずです。いわゆる パレートの法則 が当てはまるからです。例えば、競合する会社が10社あれば、勝ちを得るのは上位2社だったりするでしょう。ジャック・ウェルチがナンバーワン戦略を示したのもこのためです。勝ちを得るには、セグメントを小さく絞ったターゲットに対して局地戦(ニッチ市場)を行なうことで、ナンバーワンの座を得ることが重要です。ただ、その際、注意すべきはナンバーワンの座を得たあとの成長をあらかじめ計画に入れておくことでしょう。ニッチ市場を制圧したら、次のニッチ市場に攻め込むことが成長のためには必要です。イノベーションのジレンマで、イノベーションを起こした側の新興企業のように、最初のニッチ市場を足がかりにして徐々に市場を拡大していくには、ボーリングでトップピンに狙い定めるようにあらかじめその後のターゲットも視野に入れておかなくてはなりません。

 これをインターネット上で実現するには、まずロイヤルティーの高いユーザーのための拠点を用意することでしょう。ロイヤルティーの高いユーザーは売り上げへの貢献以上に、その製品・サービスに対する情熱から伝道師的な役割を果たします。また、ロイヤル・ユーザーの期待を知ることは、製品・サービスの真の価値を知ることにもつながり、製品・サービスへの共感~購買につなげるためのコミュニケーションのためのヒントも得ることができるでしょう。ロイヤルティーの高いユーザーのマインド・シェアを制圧することを足がかりにすることで、効果的かつ効率的に他のターゲットへと攻め込むことが可能となります。

 

3 他のコミュニケーションとのシナジー効果を生み出す

 ビジネスにおける兵力数を単純に、営業マンの数だとか、広告の数だとか考えると大きな間違いを起こすことになります。「うちは全国に営業マンがいるから」とか、「ゴールデンタイムにこれだけCMを流しているのだから」などと考え、自社の兵力数を過大評価していると痛い目にあうでしょう。むしろ、この場合の兵力数とは、訪問した客先の数や顧客の心におけるマインド・シェアであるはずです。自社に対して共感を覚え、好意的に感じてくれている顧客の数こそ、兵力数だと捉えるべきです。そのためには、顧客との効果的なコミュニケーションによって、自社の価値を顧客に知ってもらうことが必要になります。他メディアと比較して、容易に大量の情報をタイムリーに更新でき、また、パーソナライズした情報の発信が可能なインターネットは、顧客とのコミュニケーションの施策の中軸に据え、広告やPR、スポンサー活動、イベントなどの他のコミュニケーションを支援し、シナジー効果を生み出すものとして活用することで、効果を発揮するものです。

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