コンプライアンス経営

 コンプライアンスとは、基本的解釈は「法令順守」です。

 企業活動に適用される法令を間違いなく順守することが『コンプライアンス経営』の基本となります。

 また、コンプライアンス経営の範囲は法令順守にとどまりません。
 法令順守を徹底するためには企業倫理の確立が必要となります。

 さらに、コンプライアンス経営は、不祥事を未然に防ぐためのものでもあり、リスク管理という意味合いも持っているのです。
 今日、企業経営における「コンプライアンス(compliance)の徹底」が強く求められていることから、中小企業においてもコンプライアンス経営を進める企業が増えています。

 企業の経営者がコンプライアンス経営の重要性、とりわけ社内不正を防ぐことの大切さをより強く意識しなければいけない時代になりました。

 中小企業において、コンプライアンス経営が社内不正を防ぐための一つの手段として位置付けられる点は大企業と変わりありません。
 さまざまなリスクコントロールを行い、それを制度として整え、マニュアル化する手法は、中小企業においても有効です。

 大企業と違い、経営資源に乏しい中小企業の場合、コンプライアンス経営のためだけに多くの人手や労力、時間をさくことはできません。大企業の制度をそのまま真似しても、何も実践できずに制度だけが残ってしまいかねません。

 中小企業の経営者には、ただ単に法令を覚えることよりも、法令感覚として「もしかしたらこれは危ないかもしれない」「非常に危ないことになってしまうかもしれない」「単に違法というだけではなく重大な違法かもしれない」というような感覚を身に付けることです。

 こうした体制を整えるには、少なからぬコストが発生するが、危機管理に敏感な企業は、「コンプライアンスに未対応であることこそが、企業経営の大きなリスクとなる」ことを理解しています。

 企業は、顧客、取引先、従業員などと密接なつながりを持っており、それぞれの関係には法令など、順守すべきルールがあります。企業がルールを順守し、倫理を守って活動していれば不祥事は起こらないはずなのですが、現実はそうではありません。

 「法令の存在すら知らない」「表面化しなければ問題ない」など、ルール順守に対する意識の希薄さが一連の不祥事の引き金となってしまっているのです。

 企業が起こす不祥事は、時として取り返しのつかない結果を招き、従業員すら知らなかった、企業のずさんな経営体制が露呈され、社内外からの信頼を一瞬にして失ってしまうといった事例は枚挙に暇がありません。

 これからコンプライアンス経営に取り組もうとする中小企業は、

・企業経営者が掲げる企業倫理がすべての従業員に認知されているか

・自社に関連する法令は何であるか

など、あらためて企業内部、外部の状況を確認してみる必要があります。

 こうした活動から、自社が順守すべきルールや企業としての倫理観の高さが明らかになります。これらを知ることこそが、コンプライアンス経営の第一歩につながるのです。 

 多大な悪影響の発生が明白であるにもかかわらず、企業の不祥事が続発するのは、「企業体質」に問題があるからです。

 企業が不祥事を防止するための制度を整備しても、それを実践する誠実な企業風土がなければ防止の効果は望めません。

 こうした問題は多くの企業が抱えるもので、多くの企業が不祥事発生のリスクを持っていることになります。

 企業の不祥事が続発する中で、消費者は不誠実な企業に厳しい目を向けています。一方、「公益性を重視した透明で誠実な経営を行う企業」「目先の利益だけではなく、従業員の生活にも配慮する企業」を高く評価しています。

 

コンプライアンンス経営の重要性

 日ごろから法令などのルール順守を徹底することで、必然的に企業内の倫理観が高まり、不要なトラブルに巻き込まれることも少なくなるでしょう。
 コンプライアンス経営を行う企業では、トラブルが発生した場合でも、営業担当者あるいはクレーム処理担当者が的確かつスピーディーに対処しているのです。

 また、複雑な事案については弁護士など専門家の助力を受ける準備もされています。

 一方、消費者契約法を知っていながらも、その対応をおざなりにしている企業には、突然のクレームが寄せられることもあります。
 コンプライアンスの徹底をおろそかにしている企業は、クレーム処理の体制も未熟であることが多く、取り返しのつかないレベルにまで状況を悪化させてしてしまうケースも少なくありません。

 消費者契約法は企業が順守すべきルールの一例にすぎない。

ほんの出来心であったとしても、企業がルール順守を怠れば、それがきっかけで大きな不祥事につながることを忘れないでください。
 企業間の取引に際しても、コンプライアンスに積極的な企業は、そうでない企業に比べて信頼度が高く、新規取引や既存取引の拡大などのビジネスチャンスを獲得できる可能性が高まります。

 また、トラブルに巻き込まれる頻度や有事発生時の対処に大きな差が出ます。

規定の整備

 コンプライアンス経営を行う際の基本となる書類(規定)を整備します。

 整備する規定はさまざまですが、「コンプライアンスガイドライン(企業倫理規定)」などと
呼ばれる、コンプライアンス経営の目的や行動規範を定めたものが中心となります。

 従業員の日ごろの活動の基本になるだけではなく、コンプライアンス経営を対外的にアピールするツールにもなります。
 複数の規定を整備することが難しい場合は、最低限、就業規則の服務規定に従業員の法令順守(具体的な不正取引、飲酒運転、セクシャルハラスメントの禁止など)を定めます。同時に、それに違反した場合の懲戒規定も定め、「○○した場合は、○○の罰を受ける」ということを従業員に周知します。
 他社との差別化は、決して高度なテクニックや規模、営業スキルが優れているといったことではありません。  

 正しいことを決められたとおり継続実行することです。目先の利益も大切ですが、会社が存続していくためにはルールを守ることです。

経営者のリーダーシップ

 中小企業がコンプライアンス経営を行う際は、経営者の強いリーダーシップが求められます。

 経営者自身が社内外での言動に留意して規範になるとともに、朝礼などの場を利用して、自社が社会の一員として果たす役割を伝える必要があります。

 朝礼の都度、企業理念を唱和して、組織への定着を図ります。
また、経営者が従業員に訓示をする際は、従業員の誤解を招かないように分かりやすい言葉

で伝えるとともに、間違った伝わり方をしていないかを定期的に確認しなければなりません。

 コンプライアンス経営を実行していくためには、日々の正しい報連相と組織人としてのマナー・ルールの徹底が欠かせません。

 

コンプライアンス体制の構築は恩恵をもたらす投資となる

 企業がコンプライアンス体制を構築するべき理由は、それが企業にとって有益な取り組みとなるからです。ただ、法令を守るという意識ではコストとしか感じられませんが、社会の要請に応えるという解釈ならば、社会貢献によって利益を得る企業にとって重要な投資となります。

 具体的には、以下のようなメリットを獲得することが期待できるでしょう。

社内の生産性向上

 労働基準法や安全衛生法など従業員の労働環境にかかわる法律を遵守し、さらに働きやすい職場を作ることで、仕事の健康改善や意欲向上を促し、ひいては生産性の向上を見込むことが可能です。

信用力の向上

 隠蔽していた情報が明らかになることで、社会的信用を失墜させる企業が後を絶たない昨今、反対に透明性を高くすることで、大きな信用を獲得することが可能です。東京商工リサーチの調査によると、情報開示に取り組むことで信用力の向上を実現したという企業が全ての企業規模で60%を超えました。特に、従業員規模が大きくなるほど企業イメージに、小さくなるほど金融機関からの資金調達において恩恵を感じているようです。

採用力の強化

 コンプライアンス意識を高く持ち、常に改善に努めていることを証明できる企業は、採用活動において大きな優位性を得ることが可能です。その証明手段の一つとして、従業員の健康改善、メンタルヘルス対策、過労防止、安全管理などの取り組みを行う企業を厚生労働省が認定する「安全衛生優良企業公表制度(ホワイトマーク)」という制度があります。

 

なぜ企業のコンプライアンス違反はなくならないのか

 コンプライアンスやCSRの重要性が指摘される一方、神戸製鋼の品質管理データの改ざんや電通の過重労働問題、日産の金融商品取引法違反問題など、企業の不祥事は後を絶ちません。やってはいけない とわかっていることが なぜ続いてしまうのでしょうか。

 企業が法令違反、つまり、コンプライアンス違反をするのには、誰かが意図的に行うものと慣習的に行うものがあります。特に後者については、企業文化として根付いてしまっているため、改善が難しくなります。特定の首謀者が存在せず、その行いが組織内の論理で正当なものとして機能してしまっているためです。現場レベルでたとえると、

・上司や先輩が退社しないと部下も帰れない

・就業時間より早く出社して無給でオフィスの清掃を行う

・上司の飲み会の誘いを断ると昇進に影響する

 こうした要素が組織内の閉鎖的な環境で当たり前とされ、誰も疑問に感じなければ改善することは難しいでしょう。こういった空気を読む行動「忖度」がエスカレートすると、食品偽装や粉飾決算といった大きな問題にまで発展することとなります。もちろん、従業員の中には、法令違反の罪悪感を持つ人もいるかもしれません。しかし、それよりも目の前の問題を穏便に処理することや周囲と協調していくことに、優先順位を高くつけてしまうことは、社会人として生きる私たちにとって想像に難くないことでしょう。

 したがって、組織がコンプライアンス体制を構築するためには、個々の意識ではなく、企業全体がシステムとして変革に取り組んでいかなければならないのです。

 

企業のコンプライアンス体制を構築するには

 企業がコンプライアンス体制を構築するには、以下のステップを着実にこなしていくことが大切です。

1 トップの管理者が方針を明確にする

 コンプライアンス体制の第一歩は、トップの主導によって始まります。組織の慣習としてコンプライアンスに課題があるのであれば、最も影響力のある存在が方針を打ち出さなければ組織は根本的に変わることはありません。トップが明確な方針を打ち出せば、組織全体の動きとして強く波及していくことになります。

2 コンプライアンス担当組織を設置する

 方針を打ち出した後は、コンプライアンス意識の普及と取り組みを管理する担当組織を設置します。担当組織は特定部署に影響されてはいけませんので、トップ直下の独立組織として設置し、コンプライアンス推進の権限を与えるようにします。

3 従業員への周知・意識づけを徹底する

 担当組織を設置したら、トップ主導の方針を従業員へ周知させ意識づけを行います。一度や数度、社内でメールを流したり掲示したりするだけでは定着は難しいでしょう。定例会議や社内報、パソコンのスクリーンセーバーの設定など、あらゆる機会、手段、媒体を活用して根付かせていく必要があります。

4 PDCAを循環させる仕組みを作る

 担当組織の設置と社内周知を進めたら、方針の達成の障害となる組織の課題を洗い出し改善施策を策定・実行していきます。実行の後は、効果測定と分析を行い、その情報を基にさらなる改善策を打ち出していきます。コンプライアンスが社会の要請に応えることである以上、状況の変化に合わせて、常に最適解も変わっていきます。それに合わせて、常にPDCAを繰り返す文化を形成することが、コンプライアンス体制の構築をもたらしていくことになります。

 

事業活動に関連する重要な法令を把握し、遵守する仕組みを構築

コンプライアンス(法令遵守)を徹底する3つのメリット

 企業が法令遵守を徹底することで生まれるメリットとして、第1に顧客からの信頼が高まることです。その結果、固定客が増え、売上増につながります。

 第2は、長い目で見るとコストダウンになることです。法律を犯すことで受ける社会的な制裁は大きく、信頼を回復するコストははかりしれません。法律違反を予防するコストは結局割安になります。

 第3は、人材確保につながることです。倫理観のない企業にはそれなりの従業員しか来ません。誠実な企業には誠実な人材が集まります。

 

コンプライアンスを徹底する方法

 中小企業が法令遵守を徹底するにはどうすればよいのでしょうか。
 第1は、自社にとっての重要度の高い法令などを明らかにすることです。企業を対象とする法令は多岐にわたります。そのすべてに対してマニュアルを作成するなどの対応策を講じるのは現実的ではありません。自社の事業活動にとって重要度の高いものから対応策を講じなければなりません。そして、重要度は、法令違反の発生確率と発生した場合の影響度によって判断します。
 最も重要度が高いのは、「①発生確率が高く、影響度が大きいもの」です。例えば、個人情報の漏えいは多くの企業で発生するおそれがあり、その影響は大きいので、ここに分類されます。次いで「②発生確率は低いが影響度が大きいもの」、「③発生確率が高く、影響度が小さいもの」と続き、優先順位が最も低いのは「④発生確率が低く、影響度も小さいもの」です。
 第2は社内外に法令遵守を徹底することを表明することです。法令遵守が企業の維持発展にとって不可欠であることを企業の経営方針などに掲げ、従業員の意識に訴えます。また、社外に公表することで監視の目を意識するようになるなど健全な緊張感が生まれます。
 第3はマニュアルを作成します。重要度の高い法令(前述の①~③)をカバーするマニュアルをめざします。なお、東京商工会議所では「経営者のための企業行動規範対応チェックシート」を公開しているので、参考にしてもよいでしょう。
 第4は実践体制づくりです。マニュアルをもとに勉強会を開催したり、通信教育制度(東京商工会議所「通信講座・ビジネス実務法務検定試験」など)を設けたりします。

 

個人情報を管理する体制やルールがあるか

 個人情報保護法では、適用事業者に対して利用目的を明確にして正当な方法で個人情報を収集し、正確かつ安全に保管し、本人から内容の確認や訂正・削除を求められたら応じる といったことを求めています。しかし、企業は個人情報の収集や管理を適切に行うことが重要です。
 そのためには、まず第1に社内の体制を整える必要があります。担当者を定め、自社にある「保護すべき個人情報」を洗い出すのです。担当者には情報システムに詳しい人が適任ですが、そうした人材がいければ経営者自身が務めることになります。従業員に対する研修も担当者が定期的に行います。
 第2には内部ルールを定めます。個人情報にアクセスできる人を定めたり、個人情報の取扱状況を記録する制度を設けたりします。コンピュータにパスワードを設定し定期的に変更する、スクリーンセーバーにパスワードによる保護をかける、といったことも定めます。
 第3は外注先などに対するルールの制定です。ダイレクトメールの宛先ラベルの印刷や発送を委託するなど、個人情報の受け渡しをする相手に対して、個人情報保護に対する意識を向上させる必要があります。可能であれば、簡単なものでもかまわないので文書を取り交わすこともひとつの方法です。

 以上のような対策を講じたら、自社の個人情報保護の方針を社内外に対して打ち出すことで、一般消費者をはじめとする顧客に対してアピールできます。

 

情報漏えいが判明した時の対処方法を決めているか

 個人情報を取り扱うのが人である以上、絶対に情報が漏えいしないとは断言できません。残念ながら個人情報が漏えいした場合は、さらなる漏えいを防ぐためにどのルートから漏えいしたのかをつき止める必要があります。また、情報を漏えいさせてしまった相手に対するお詫びや、漏えいした情報の中身次第では損害金の支払いが必要になるかもしれません。こうしたことに備えて、「情報漏えい賠償責任保険」(日本商工会議所)などに加入することも検討に値します。

 

自社の信用を大きく左右する業務について、担当者を定期的に交代させているか

 従業員が40人程度以上おり、組織としての体裁が整っている企業でなければ難しいかもしれませんが、従業員の担当業務や担当部署、担当取引先などを数年おきに交代させることが望ましいでしょう。そうすることで、不正に対する抑止効果が期待できます。また、担当業務などが時々変わることが、従業員にとっても新たな刺激になるという副次的な効果も期待できます。もちろん、担当替えの際には、個々の従業員の適性などを見極める必要があります。

 

問題が発生した原因を追及して、対応策を定めているか

 内部通報制度を定めることで、人為的な不祥事に対してはある程度の抑止効果があります。しかし、内部通報制度の本質は、問題が大きくならないうちに把握し、再発しないように早期に対応策を構築できる点にあります。問題を起こした従業員に対して、単に処分を科するだけではなく、問題が発生した原因を追及して再発しないように対応策を定めなければ意味がありません。例えば、法令を知らなかったことが原因であれば、法令の理解を深めるように勉強会などを開催しなければなりません。

 さらに、内部通報制度よりも重要なことは経営者の姿勢です。日頃から企業倫理に則り、誠実な経営を率先垂範しなければなりません。そうすることで、従業員からマイナス情報も確実に伝わるようになるはずです。

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