中堅リーダーの役割

 性別、年齢、性格、能力、働くということに対する意識など、企業はさまざまな考え方やキャリアを持つ人間の集団です。

 個々の社員の利害が完全に一致することはないため、企業には常に衝突と分裂の危険性があります。

 それでも、企業が一定のルールによって統制された「組織」として活動できるのは、企業に明確なビジョンやミッションがあるからです。

 「ビジョンやミッションを達成する」といった一つの目的が共有されることで、個々の社員が有機的に結びつき、結束して活動することができます。

 明確かつ焦点のはっきりとした共通の使命だけが、組織を一体とし、成果をあげさせる。
 焦点の定まった明確な使命がなければ、組織はただちに組織としての信頼性を失う。(ドラッカー名言集「経営の哲学」)

個々の社員によって、ビジョンやミッションの達成に対する情熱、魅力を感じる条件(賃金・地位・権限委譲・顧客からの感謝など)は異なります。

 しかし、ビジョンやミッションの達成が何らかの形で「会社や自分のためになる」と考えているからこそ、社員は活動を続けます。

 ビジョンやミッションの達成という目的の共有が、社員の活動の原動力であると考えた場合、企業という組織にはリーダーの存在が不可欠です。

 リーダーは、社員にビジョンやミッションを示し、また、それらを達成するための具体的な行動を起こすように動機付ける存在であるからです。

 事実、どのような企業にもリーダーがいます。

 リーダーは、各階層に存在し、それぞれが異なる影響力と支配力を持ちながら、企業が組織として結束できるよう活動しています。

 中でも重要なのは社長のリーダーシップです。

 企業経営者が示すビジョンやミッションは、企業の方向性や存在意義そのものであり、それが社員の心に響かなければ、組織は結束することが難しくなります。

 

中堅リーダーの役割

 ある程度の権限を与えられている中堅社員がチームリーダーとしての役割を果たすことも、組織の活性化のために重要です。

 中堅リーダーは、社長と自分よりも下位に位置する社員の両方の考えを理解することができます。そのため、優れた中堅リーダーは、組織の真ん中に位置しながら全体のバランスを取る役割を担っています。

 しかし、中小企業の中堅リーダーが必ずしも組織に貢献できるようなリーダーシップを発揮できているわけではありません。

 中小企業のリーダーには、リーダーとマネージャーの両方の役割が期待されますが、中小企業の中堅リーダーの多くは、会社での経験の長さや業務推進能力の高さなど、マネージャーとしての資質が評価されて、中堅リーダーというポジションに位置しています。

 こうして誕生した中堅リーダーは、プロジェクトの運営を指揮することはできます。

 しかし、プロジェクト自体を立案したり、その重要性を社員の心に訴えることが苦手な場合が多々あります。マネージャー的な資質は備えていても、リーダー的な資質は不足している堅リーダーが少なくありません。

 リーダー的な資質が不足している中堅リーダーは、自分にリーダーとしての資質が不足していることを認識しています。

 しかし、リーダーシップは書籍などから簡単に学べるものではないため、「自分がリーダーとしてどのように立ち振る舞えばよいのか」を逡巡しています。

 リーダーは常に自信を持っていなければなりません。

 しかし、中堅リーダーは自信を失いがちです。

 自分を信じることができないため、手探りでリーダーシップを発揮しようとしますが、その結果、一つ一つの言葉や行動に統一性がなくなって周囲からの信頼を失うというケースもあります。

 

中堅リーダー(入社後10~15年)に求められる能力

(1)リーダーとマネージャーの違い

 社員をマネジメントする立場にある人をリーダーやマネージャーと呼びます。

 リーダーとマネージャーは、同義語として紹介されることもありますが、基本的な役割は異なります。

<リーダーとマネージャーの基本的な役割>

リーダー(「示し、動かす」ポジション)

 ・明確なビジョンとミッションを示す

 ・上記項目を達成するための戦略を立案する

 ・企業全体や個々の社員の動機付けをする

 ・実際に行動を起こさせる

マネージャー(「まとめ、推進する」ポジション)

 ・プロジェクトを推進する

 ・具体的な計画を立てる

 ・メンバーのモチベーション管理を行う

 ・進行状況を管理し、リーダーに報告する

 大企業では、リーダーとマネージャーの役割が明確に分担されています。大企業の経営者はリーダーであり、マネージャーのように細かい業務指示を出すことはほとんどありません。

 一方、中小企業の社長もリーダーですが、自ら現場に出て営業活動を行います。

 中堅リーダーについても同様で、マネージャーの役割も求められます。

(2)中堅リーダーのポジションマップ

 中堅リーダーは、リーダーとマネージャーの両方の役割を担うことが期待されますが、リーダーとマネージャーに求められる資質は同じではない。

 中小企業の中堅リーダーは、「マネージャー偏向タイプ(リーダー的な資質不足)」に該当する人が少なくありません。

 「リーダー偏向タイプ(マネージャー的な資質不足)」や「マネージャー偏向タイプ」である中堅リーダーは、「理想タイプ」になるための努力が必要となります。

 いずれも相当な努力が必要ですが、リーダー偏向タイプから理想タイプへの進化は比較的簡単かもしれません。リーダー偏向タイプに不足している資質の一つは、業務の細かな進ちょく管理です。

 日ごろから意識することを心がければ、目の届く範囲は広がり、業務の細かな進ちょく管理ができるようになるでしょう。

 これに比べると、マネージャー偏向タイプから理想タイプへの進化は困難かもしれません。

 リーダーの資質には、「人を引きつける話し方」など属人的なものが多く、上司のまねなどをしてみても、なかなか自分のものにすることができないからです。

 ここでは、中小企業の中堅リーダーに多く存在するマネージャー偏向タイプから理想タイプに進化していくために必要な、

 ・中堅リーダーとしての自覚

・中堅リーダーとして必要な機能

を確認していきます。

中堅リーダーとしての自覚を持つ

 人は、特別な意識をしていなくても、日々の生活の中で自然に適切な役割を果たすことができています。

 自然に適切な役割を果たすことができるのは、自分自身のスタイルを役割に置き換えて行動しているからです。

 リーダーは、「リーダーとしての私」という役割を果たすことになりますが、多くの中堅リーダーは、リーダーとしての役割を果たすために、「理想のリーダー像」をイメージし、その通りに演技をしようとします。

 中堅リーダーが理想のリーダー像をイメージして演じる努力は否定されるものではありません。

 しかし、最後まで理想のリーダーを演じきることができる中堅リーダーは少ないのが現状です。

 例えば、「本来、仕事中は非常に厳しい表情をする人」が中堅リーダーになったことをきっかけに、「仕事中は常ににこやかな表情をする人」を演じたとします。

 この場合、周囲の社員はにこやかな中堅リーダーに親しみを感じるかもしれませんが、当の中堅リーダーは、常に業務以外のことを意識しなければならず、どこかぎこちないことでしょう。

 また、「にこやかな表情」は一つの役柄にすぎないため、ふとした拍子に本来の「仕事中は非常に厳しい表情をする人」に戻ってしまいます。

 この変ぼうをみた周囲の社員は、一体どちらが本当のリーダーなのだろうと疑問に思うことでしょう。

 特に、マネージャー偏向タイプの中堅リーダーは、「皆に信頼され、好かれるようなリーダーにならなければならない」と考え、現にその理想像を演じようとします。これは、「社員のために我慢する」ことが、リーダーとしての美学であると勘違いをしている例といえるでしょう。

 演じることと自分のスタイルを曲げることは違います。

 リーダーの言動には常に一本の筋が通っていなければなりません。

にこやかでいることが自然なのであれば終始にこやかに、厳しくすることが自然なのであれば終始厳しくすればよいということですが、表情はさして重要なポイントではありません。

 リーダーには、

 ・時間をかけてでも自分のスタイルを周囲に受け入れてもらうこと

 ・組織を力強く導くこと

が求められているのです。

 リーダーの仕事は、常ににこやかな笑顔を振りまくことではありません。

 必要であれば、多少の衝突も覚悟して、組織を正しい方向に導き、成果を上げることなのです。

 

中堅リーダーが果たすべき機能

1 組織の利益を個々の社員の利益に置き換える

 会社という組織は、「ビジョンやミッションを達成する」といった一つの目的が共有されることで、個々の社員が有機的に結びついている面があります。これは、社員がビジョンやミッションの達成により、自分も幸福になれると考えるからです。

 中小企業の中堅リーダーは、まず、企業のビジョンやミッションを社員の分かりやすい形に変換して伝えなければなりません。社員は自らのメリットを理解したとき、情熱的に行動しようと考えるものだからです。

 例えば、社長が「毎年10%ずつ売上高を伸ばし、○年後にはシェアを○%アップさせる」とのビジョンを示しても、社員はピンとこないでしょう。

 何やら大きなことを言っているようだが、具体的に自分がどうなるのか、あるいは何をするべきなのかが分からないのです。

 中堅リーダーが社員に企業のビジョンを伝えるときは、「毎年10%ずつ売上高を伸ばし…」ではなく、「毎年、○件の新規を獲得することで、10%ずつ売上高を伸ばしていく。そのために、○と○に取り組む必要がある」と、具体的な業務遂行レベルに落とし込んで伝えることです。

 社長は数字を重視しますが、一般社員にはピンとこないこともあるのです。また、「○年後にはシェア○%」という目標が達成された場合の社員のメリット(賃金、地位、権限委譲、顧客からの感謝など)も示すことができれば理想的です。

2 社員の信頼を得る

 組織の利益を個々の社員の利益に置き換えることで、社員への動機付けはほぼ完了したといえます。

 「自分の利益のため」という動機は社員にとって分かりやすく、積極的に活動するきっかけとなります。

 また、中堅リーダーが組織の利益を個々の社員の利益に置き換えたことは、社員の動機付けのほかにも「信頼」という効果があります。

 社員は、「この中堅リーダーは、常に自分たちのことを考えている」とリーダーを慕うようになります。

 この効果を期待することは中堅リーダーの一つのテクニックです。

 本来、人(社員)を動機付けて信頼を得ることは簡単なものではありません。それを、利益の置き換えによって同時に達成できることがあります。

3 組織の雰囲気をつくり出す

 中堅リーダーは、組織に対して一定の影響力を持っています。

 また、中堅リーダーが考えている以上に、社員はあなた(中堅リーダー)に注目しています。

 中堅リーダーの言動により、組織の雰囲気は大きく変わってくるものです。

 中堅リーダーは、こうした影響力を利用して組織の雰囲気づくりを進めていかなければなりません。
 社員は、業務に対してそれぞれ異なるスタンスを持っていますが、基本的には組織のスタンスに従います。

 雰囲気についても同じことで、和気あいあいとした雰囲気を好む社員でも、組織の雰囲気が厳しいものであれば それに従います。

 中堅リーダーがつくり出す組織の雰囲気は、第一に社長がよしとする組織の雰囲気、第二に自分がリーダーシップを発揮しやすい組織の雰囲気であり、両者が一致しない場合は、社長がよしとする雰囲気に従います。

4 謙虚な心と礼儀正しさを持つ

 中堅リーダーは常に成長する存在でなければなりません。

 マネジャーを兼務する中小企業の中堅リーダーには多くのことが期待されるため、既存の能力を磨く、新たな知識を習得するといった努力を怠ることができません。

 たとえ、今の時点でほかの社員よりも多くの権限が委譲されていたり、判断力に長けていたとしても、決してそれに慢心することなく、謙虚な姿勢で業務に取り組まなければなりません。

 また、中堅リーダーは誰よりも礼儀正しくなければなりません。

 多くの権限を与えられていることに慢心し、横柄な態度で社員に接すれば、短い期間で社員の信頼を失います。

 同時に、社員は中堅リーダーをよく観察し、その影響を受けます。

 横柄な態度の中堅リーダーが率いる組織は、やはり横柄な組織となってしまいます。

5 考えや意見が異なる相手を恐れない

 優れた中堅リーダーであっても、すべての社員がその考えや方針に同意するわけではありません。

 社員の考え方はさまざまであり、「中堅リーダーと対立する考えや意見を持つ社員」が出てきます。これは仕方のないことですが、対立関係に発展してしまうのは好ましくありません。

 中堅リーダーと対立する考えや意見を持つ社員と接する際は、中堅リーダーのほうからアプローチし、話し合いの場を設けることが肝要です。

 中堅リーダーのほうからアプローチするのは、中堅リーダーが相手を理解しようとしている姿勢を示すと同時に、抵抗勢力の活動をけん制するためです。

 中堅リーダーと抵抗勢力が本音で話し合った結果、どうしても理解し合えないことがあります。

 ケースによっては、中堅リーダーはリーダーとしての権限を使って相手を従わせなければならないこともあります。

 これが正しい方法であるか否かについては意見が分かれるところですが、抵抗勢力によって全体の結束が乱されることは避けなければなりません。

6 協力者を得る

 中堅リーダーは2つのタイプの協力者を獲得しましょう。

 1つ目のタイプは、中堅リーダーの考えをよく理解し、ほかの社員に中堅リーダーの考えを伝えてくれる協力者です。こうした協力者がいると、中堅リーダーの考えは組織に浸透しやすくなります。

 2つ目のタイプは中堅リーダーの業務をサポートしてくれる協力者です。理解力があり、何らかの分野で高い能力を有している社員が好ましいといえます。

 こうした社員は、最低限の指示をするだけで業務を完了してくれるため、中堅リーダーの業務負担を軽減してくれます。

7 組織の利益を優先する

 中堅リーダーは、リーダーといえどもそれほど大きな権限を与えられているわけではありません。

 また、与えられる権限の大きさもケースバイケースです。

 一方、中堅リーダーは日々 判断の連続です。

 限られた権限の中で多くを判断しなければなりませんが、もし、判断に迷うような場合は、組織の利益を優先します。

 組織の利益は最終的に社員や自分の利益にもつながるからです。

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