戦略的思考のリーダー

戦略思考のリーダー

 「事業の寿命は30年」と言われる。

 国内企業全体の9割以上を占める中小企業の多くが、事業転換せず、今までと同じ状態で事業を続けている。

 事業と経営の変化に対応する戦略をトップと一緒に考え、行動する「戦略リーダー」の育て方について考えていきたい。

戦略的なリーダーとは
 戦略的なリーダーとは、自社を取り巻く環境変化を的確に読み取り、事業を見直しながら戦略を策定していくリーダーである。

 これまでの会社経営は、創業社長のマーケットに素直な姿勢と卓越した事業センス、そして、人心を掌握する経営力で成長してきました。

また、その創業社長の背中をそばで見てきた2代目社長が、その理念と組織を受け継ぎ、経営に取り組む。

 優秀なリーダーのもと、恵まれた顧客基盤と顧客に支持された商品・サービス基盤を活用し、「決めたことを決めた通りに行い、約束を守る」というマネジメント力で成長してきました。

 まさに、トップの考えや会社の決めた目標や方針に沿って、決めたことを決めた通りにやる実行責任者としてのマネジャーが、業績づくりや顧客づくりにおいて重要な役割を果たす。

 しかし、環境変化のサイクルのスピードが増し、不確実性が高まる状況下では、決めたことを決めた通りに行うマネジメント力だけで業績が思うように上がらなくなってきた。

 それまでの顧客開拓や商品・サービス開発の手法だけだと、マーケットに通用しなくなってしまうのです。

 そこで、社内外の経営環境の現象やデータを総合的に捉え、自社が進むべき方向性を「あるべき姿」として描き、その実現に向けた取り組みを考え、行動していくリーダーの必要性が高まるのです。

 

マネジャーと戦略思考のリーダーとの違い

 これまでの業績の牽引車であり、これからも実行現場の責任者として活躍が期待されるマネジャーと、企業内での育成を提唱する「戦略思考のリーダー」との違いについて考えてみます。

1 事業そのものを見直す人
 まず、両者に求められる役割の点から比較してみましょう。

 マネジャーは、トップが決めた意思決定に基づいて目標を設定し、与えられたヒト(人材)・モノ(商品)・カネ(予算)を使って、顧客(マーケット)に対して決められた通りに実行し、時に発生するさまざまな問題の解決を期待される。

 まさに、管理、マネジメントが主となる役割である。

 しかし、戦略思考のリーダーは、トップ自らが今まで決めてきた「事業の見直し」や「戦略の設計」、そのために必要な「情報の収集と分析・活用」の分野にも、経営感覚を持った事業創造の担い手として関わり、活躍することが期待される存在です。

 「誰に(顧客・マーケット)、何を(商品・サービス)」を決めることが事業とすれば、その事業そのものをどう見直すか、それを決めることが求められるのです。

2 自ら強みを陳腐化させる人
 同一地域で、同一商品を、同一顧客に提供するという競合状態であれば、「誰に、何を」という戦略が他社と似たり寄ったりになり、目先の価格や付帯サービスという「わずかな差別化」に終始する経営になりやすい。

 ここでも、戦略思考のリーダーはね自社の存続目的から企業使命感をあらためて見直すこと、すなわち「自ら自社の強みを陳腐化」させることが求められるのです。

 そうしたイノベーション発想により、新たな顧客へ、新たな商品・サービスを、新たなアプローチ方法で、新たなチャネル開発に挑戦することが可能となるのです。

 

戦略思考のリーダーに向く適性

 戦略リーダーの適性を整理してみます。

1 事業変革力

(1)イノベーション発想力
 現状に満足することなく、常に新たな価値を創造し、変革を起こすことができる。

(2)決断力
 強い意志と事業に対する熱意を持ち、かつ、冷静で客観的に物事を見ることができる。

(3)実践力
 計画を実行に移し、高い成果を出すことができる。

 

2 組織推進力

(1)統率力
 部下や関係者を掌握・リードすることができる。

(2)コミュニケーション力
 対人関係を円滑に進める力を持ち、チームワークを醸成することができる。

 これらの項目と本人の適性を見極めた上で、戦略リーダーの育成を図っていきます。

 

戦略思考のリーダーに求められる能力と行動

 自社が環境変化に対応するため、経営の視点で考え、行動する戦略リーダーを育てるためのあるべき姿(能力と行動)について考えます。

1 戦略思考のリーダーにあるべき「能力」
 ここでの「能力」とは、身に付いている力、すなわち「実行力」である。

 頭だけで分かっていても、それを実行できないものは能力ではない。

 日常の習慣となって、特に力むことなく実行できるものが能力と言えるのです。

 この“日常の習慣”という点がポイントです。

 人は、誰しも、同じ行動を繰り返していると、その行動以外の変化を嫌い出す傾向がある。悪い習慣を改め、良い習慣へと変える。

 この新しい変化に対し、素直に取り組めるかどうかが、戦略思考のリーダーとしての知識と経験を習得するスピードを左右する。

 戦略思考のリーダーが日常で習慣化すべき三つの能力は以下と考えます。

(1)戦略的な判断力
 マネージャーと戦略的なリーダーは、どちらもリーダーとしての判断力を求められるが、その中身については根本的に異なる。

 マネージャーは、会社の考え方のもとになる経営理念や年度方針に沿って、所属する組織が今やるべきことを見極める「価値判断能力」が求められる。

 一般的には、社内の経験豊富な上司・先輩への相談や報告を通じて、この価値判断能力は鍛えられるのです。

 ところが、戦略思考のリーダーには、自社の考えはいったん置いて、顧客はなぜ、自社と取引しているのかという顧客価値の視点を持つことが強く求められる。

 過去からの思い込みにとらわれず、「顧客にとって何が正しいのか」という観点で考える(戦略的な判断力)。

 場合によっては、ライバル企業もパートナーという発想にもなり得るのです。

 この戦略的な判断力を高めるには、自社の顧客価値を高めることです。つまり、自社が取引する顧客にとっての顧客である最終エンドユーザーに、どのようなメリットを与えることができるかを、自社の顧客に成り代わって真剣に考えます。

 いわば、「自社の強みの磨き直し」を行うのです。

 その結果、現状よりも価値のある商品・サービスを通じて、顧客自身の価値を高める支援ができるのです。

 この顧客価値を高めること(マーケット)と、自社の強みをどう組み合わせるか。この仮説設定の経験の数を増やすことが、戦略的な判断力を磨くことにつながる。

(2)組織推進力
 戦略思考のリーダーとして組織を推進するには、現状の課題解決にとらわれない時間軸を持つことが必要です。

 「今さえよければいい」という近視眼的な現場発想ではなく、将来どのような会社(職場)にしたいか、というテーマについて、受け身ではなく「当事者意識」でもって取り組む必要がある。そのためには、自分が何を期待されているか。今の自分の役職より一段、二段と次元の高い役割意識を働かせ、「自分がもし社長だったら」「自分がもし取締役事業本部長だったら」と考えを深めて、組織人としての使命感(ミッション)を磨き、高めていくことが必要である。

 この使命感を磨き、高めるためには、「より多くの人のことを」「より先のことまで」、常に考えることです。

 自分の部署だけでなく、関連部署のことも、自社だけでなく、仕入れ先のことまでも考える。

 また、今月のことしか考えていなかったのであれば、その期間を3ヵ月先まで延ばす。

 あるいは、今期の業績のことしか視野に入っていなければ、3年先の商品開発や5年先の人材の成長のことまで視野に入れることです。

 この思考の幅を広げることが、組織の未来志向を高め、「将来のために今、頑張る」という一体感づくりにつながるのです。

(3)情報分析力
 現代は、さまざまなチャネルから情報が飛び込んでくる時代です。

 そうした情報群を いかにうまく処理・整理・管理するかが重要となります。

 常に意識して収集する情報を明確にし、アンテナを張る。

 そして、定期的に鮮度の高い情報を分析し、戦略的判断に活用していく。

 「どのように活用するか」というゴール感が明確になればなるほど、情報の精度とタイムリーさが高まり、戦略的判断に活用する場面が増える。

 逆に、集めるだけ、集計するだけで活用されない情報は、「労多くして功少なし」になりかねない。

 情報収集もコストである。生産性を高める情報収集活動を あらためて組織としての取り組みとして見直していきましょう。

 

2 戦略思考のリーダーにあるべき「行動」

 戦略リーダーに求められる行動としては、まず精神的若さを保つこと。

 若さ・新鮮さ・集中力を常に意識し、変化に対しては素直に対応するとともに、時として貪欲に突き進むバイタリティーも併せ持った行動が必要です。

 リーダーとしての立場では自分の思い通りにいかない場合もある。

 その際に、「逃げる」「言い訳をする」「他人に責任を振り向ける」ことをしていないだろうか。

 対策もなければ、行動も起こさないなど、精神的若さを失った「老化現象」状態である。

 今、戦略思考のリーダーに求められているのは、「顧客の価値を高める道はコレだ」という信念に基づいて、周囲に理解させ、組織を動かして将来ビジョンを描き、それに近付くことです。

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