自社の営業体制の見直し

 営業は、明るくてしゃべりがうまくて根性があって押しの強い人が向いている。とかく営業というと、一般的にそんなイメージが持たれてきました。

 

時代は変わったが営業スタイルは変わらない

 高度経済成長期やバブル期など、これまで日本はいくつかの好景気を経験してきました。

 ところが、近年では長い不況が続いていて、回復の兆しすら見えない状態です。そんなときに、かつての好況時にやっていた営業スタイルをそのまま使っても、成果に結びつかないというのは、薄々気づいているはずです。

 その理由には、以下のようなものがあります。

1 欲しいものが減っている
 カラーテレビの次はエアコンで、その次は電子レンジ。かつては、新しい家電をひとつひとつ買い足していくというのが、多くの家庭の夢でした。欲しいモノがたくさんあった時代です。ところが、今ではもうほとんどそろっているのが現状です。あとは故障したときの買い替え需要だけ。ニーズがないところに売るというのが、現在の営業の主流です。

2 インターネットの普及

 かつては商品説明をいかに上手にできるかというのが、売れるポイントでしたが、今ではインターネットがそれを代行してくれます。ほかにも、事例紹介やお客様の声など、かつては営業担当者が持参していたものをネットがやってくれています。
 一瞬にして営業の役割が大きく変わったのです。

3 営業手法の飽和状態

 かつては有効だった営業テクニックも時間が経つに連れて陳腐化します。どんどん新しい手法が開発されるにつれて、お客様も鍛えられてきます。結果としてお客様は、営業が来たとわかると瞬時に警戒してガードを上げるようになり、だまされたくない心理が強くなってきたのです。

 このように、営業をとりまく環境が変わり、お客様のニーズや心理も変わってきているなかで、相変わらず昔ながらの営業スタイルを続けていては、売れないのは明白です。それは、現場の営業担当者が一番感じていることでしょう。しかし、それでもかたくなに、かつて自分がやっていた営業を部下に強制している上司のなんと多いことか。上司から言われたセールス手法がお客様には通じない。そんな板ばさみで悩んでいる営業担当者はかわいそうです。

 

初対面の人に笑顔で接していないか

 ところで、あなたが街を歩いていて、見ず知らずの人が親しげに近づいてきたらどうしますか。警戒するか、無視して通り過ぎるでしょう。その理由は、だまされて何か売りつけられるのではないかと思うからです。

 このように普段の生活では、にこやかに近づいてくる営業を避けるのに、自分が営業する場面では同じように笑顔で接していないだろうか。
 もちろん、既存の相手に対してはよいのです。初対面の相手にも笑顔で行くから断られるのです。

 多くの人が勘違いをしているのですが、新規のアポ取りや飛び込み営業というのは、お客様になるような相手を探している状態です。つまり、営業ではなくリサーチの段階なのです。

 そこで、営業っぽく接してしまうと、相手は当然ながら警戒して、逆に正確なリサーチができなくなります。
 話をする前からシャットアウトされてしまうと、もうそれ以上何もできません。ですから、初対面の相手に対しては、営業色を一切消さなければならないのです。

 営業が苦手な担当者に多くみられる行動が、まわりと同じように明るく元気なふうを装ってお客様のところへ行くことです。それが営業だと思っていたからです。そして、当然のように門前払いをされ続けているのです。
 そこで、開き直って、内気で大人しい素の性格のまま行動してみてください。苦手な笑顔も封印しましましょう。すると、お客様はそれまでの対応とうって変わって、ごく普通に接してくれるようになるでしょう。

 相手が受け入れてくれて、なおかつあなたもラクなスタイルにるので、一石二鳥です。営業スマイルという言葉があります。

 かつては「親しみやすさ」を伝えるためのものでした。しかし、現在では「うさんくさい」と思われて警戒されるのがオチです。それではいくら上手に商品説明ができたとしても、聞いてもくれません。近年は、巧妙な詐欺なども横行しており、ちょっとでも怪しいと思う相手にはすぐに心のシャッターを閉めてしまう傾向にあります。どんなに自分では正直だと思っていても、相手にはそれが通じません。だとしたら、最初から怪しまれるような接し方をしないほうがよいのです。

 営業だからいつでもどこでも笑顔でいなければいけないという時代は もう終わったのです。

 

相手にしゃべらせる

 営業側がしゃべらないということは、裏を返せば相手側がしゃべっているということです。

お客様は、自身がしゃべるほどに警戒心を解き、心を開いてくれます。営業がしゃべらないということは、相手の心のシャッターを開くための行為でもあるのです。

 営業は最初から仕事の話をせずに、まずは世間話から始めなさい、とよく言われます。いわゆる雑談をして場を和ませようという意味です。
 ここで勘違いしている人が多いのが、面白い話をすればいいと思っている傾向があります。営業担当者が一生懸命にネタを披露して、お客様を笑わせるのが雑談だと思っていないだろうか。それでは効果はありません。営業の場面での有効な雑談とは、相手にしゃべらせることなのです。
 営業担当者は、できるだけ聞き役にまわって、相手が主になって会話をするのが理想です。可笑しいときには声を出して一緒に笑い、まじめな話のときには神妙な顔で黙ってうなずく。そこには営業スマイルや相手を持ち上げる感じなどありません。だからこそ、相手も本気で話してくれるのです。

 そうして相手の気持ちを和らげてから、徐々に仕事に関する質問、ヒアリングをしていくと、本音で答えてくれやすくなるのです。この相手が本音で答えてくれるということが、次の商品説明に不可欠な要素になります。

 

お客さまは「商品説明」を求めていない

 さて、どうして営業はついつい「しやべり」を重視しがちなのかというと、それは商品説明にあります。

かつては、営業の仕事のメインと言えば、商品を説明することにありました。お客様の知らない情報を伝えるので、相手もきちんと聞いてくれたものです。ところが、インターネットの出現によって、お客様は知りたいことを何でも手軽に調べることができる世の中になりました。
 当然ながら、いままで営業担当者が説明してきたことも、すべてネット上に公開されています。お客様がすでに知っている可能性があるのです。

 知っているかどうかもわからない相手に対して、丸暗記してきた商品説明をしゃべるとどうなるでしょう。もし相手がすでに知っていたとしたら、それはとても失礼なことになります。そして、説明を続けるにしたがって、相手はどんどん不機嫌になっていきます。自分が知っていることをわざわざ説明されたら、誰でも気分が良くありません。最悪は怒り出してしまいます。

 これからの商品説明は、憶えた知識をそのまましゃべるという従来の手法では通用しません。お客様は決して商品説明を求めてはいないのです。なぜなら、ちょっと調べればわかることなのですから。

 では、営業はなにをすればいいのでしょうか。それは、「目の前のお客様専用の説明」です。相手の知識と興味の度合いを知ったうえで、お客様にピッタリの説明をすることなのです。
 商品について詳しい人には、そもそも説明する必要もありませんし、全く知らない人には一から説明したほうがよいでしょう。

 このように、相手に合わせて説明を変えることが重要なのです。

 ホームページに載っている情報は、不特定多数の人に対して説明するものです。興味がある人はそれをすでに見ている可能性があります。それに対して、営業担当者は、目の前の相手に特化した説明をすればいいのです。
 相手に特化すればするほど、お客様はどんどん引き込まれていきます。自分のことをよくわかってくれる営業担当者に対して、信頼を寄せ始めます。そうなれば、ライバル他社よりも大きくリードすることができるのです。もちろん、そのためには、事前のヒアリングが必須であることもわかります。

 いずれにしても、商品説明を上手にしゃべることだけを念頭に置いたトレーニングは無意味だといえるでしょう。

 営業はできるだけ「しゃべらない」ほうが良い結果がでるのです。

 

営業担当者の声よりも相手に響くものとは

 都合の良いことばかり言う営業のセリフは、ほとんど信じてもらえていないと思っておくべきです。相手が聞いているからわかってもらえたと思ったら大間違い。お客様は、一応聞いているように見せかけて、他のことを考えていたりするのです。これは、営業の言葉は鵜のみにしないという、現代人の防衛本能のようなものでしょう。営業担当者は、その現実を まずは受け入れなければなりません。

 ではどうすればよいのか。いままで口で伝えていたことを、別のもので伝えればよいのです。例えば、「この商品は耐久性に優れています」と伝えたいときは、「こちらをご覧ください」とだけ言って、そっとデータを差し出だす。「これは女性に人気の商品です」と口で言う代わりに、アンケート結果を見せる。

 このように、言いたいことをグッとこらえて別のもので伝えるように心がけてみてください。相手の反応が明らかに違ってくるのがわかるはずです。

 他にも、新聞記事や公共の資料など、自社で作成したものではないものも有効です。そのなかでもっとも効果的なのは、ずばり現物です。商品そのものを見せることができるのなら、それに越したことはありません。
 どんなに「手触りがいいですよ」と力説するよりも、黙って現物を触ってもらったほうがわかりやすいのです。

 しゃべって伝えることが苦手な人は、同じことを何かに置き換えて考えるクセをつけましょう。

 営業という仕事は、「売れる」というゴールに向かう道筋が何通りもある職業です。
 なにもまわりの人と同じことをしなければいけないルールはありません。自分に一番合ったスタイルでゴールにたどり着くのがベストなのです。

 営業担当者は自分の言葉の軽さを自覚するのと同時に、何か別の伝え方がないかを常に考えて実行しましょう。

 自分の言葉で伝えるときは、すでに相手に信頼を与えてからです。

 

営業は しゃべらないほうが「売れる」

 こうして考えてみると、現在の営業スタイルというのは、かつての営業像とは反対に、落ち着いていて誠実で頁面目なタイプが求められているというのがわかるでしょう。

 景気の良い時代には、営業の手法も進化してきましたが、不況の時代には、逆にお客様の対応法がより進化しているのです。

 うるさい営業をどうやって断るか。“居留守”も、営業から逃れる手法として当たり前のように使われてきました。営業がだまそうとしているのなら、客側もウソで応戦しなければならない。そんなゆがんだ関係がずっと続いてきたのです。しかし、もうそろそろ正常なビジネスに戻したいと思いませんか。

 人を疑ったり、腹の中を探り合ったりするようなやり取りは、健全とはいえません。それはお客様も望んでいることなのです。「しゃべらない」ということ自体は、テクニックでもなんでもありません。
 相手の話をじっくりと聞き、それに基づいて適確な提案をし、資料やデータで納得してもらう。そのためには営業の不要なしゃべりをやめたほうがいい。

 営業担当者とお客様という関係ではなく、人と人とのコミュニケーションを重視した結果が「しゃべらない」なのです。そして、本当に信頼できる人からのアドバイスを求めています。

 お客様にとっての信頼できる人物になる方法こそが、「しゃべらない営業の技術」なのです。

 これからの時代に合った営業スタイルを確立するためにも、ぜひ自社の営業体制の見直しをしてみてください。

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