PEST分析

 外部環境分析は、マクロな視点から自社を取り巻く環境を分析することが大切です。PEST分析は、経営学の第一人者として知られるフィリップ・コトラーが提唱するフレームワークのひとつです。

 PESTとは、外部環境のなかでも自力では制御できない「マクロ環境」の構成要素である以下の各頭文字をとったものです。

 マクロ環境分析(クロ環境の代表とされる「政治・法律(Political Environment)」「経済(Economic Environment)」 「社会(Social Environment)」「技術(Technological Environment)」の観点から分析を行います。

 

・政治分析・・・政治動向分析、特に政策(新法律、規制緩和、補助金など)

 政治的環境要因とは、政策・法律・条令などの政治的な要因によって生じる環境の変化です。
 政治的な環境変化の特徴は、その発生が非連続的であることです。
 通常、ほかの3つのマクロ環境変化(経済的環境要因、社会的環境要因、技術的環境要因)は、時間の経過につれて少しずつ変化していくものです。しかし、政治的環境要因の変化は、「200X年Y月から施行」というように変化が起きる時期が定められます。
 それ以前の政治的環境に適合していたビジネスが、ある日を境に成り立たなくなるという特殊性があります。
 特に、多くの規制がある業界などに関しては その変化に十分注意しなければなりません。
 政治的環境要因の変化は以下の3種類です。
・実施される時期が既に決定しており、改正ポイントなども明確になって周知されているもの
→早急にその対応を実現し、事業活動に反映させなければなりません。
・いずれは実施されるものとして周知されているが、その時期などに関しては流動的であるもの
→いつ実施されても対応できるような対応策を検討し、迅速に事業活動に反映することができる体制を整えなければなりません。
・いずれは実施しなければならないと認知はされているが、具体的にどのようになるかについては白紙状態のもの
→実施に向けた進ちょく度合いを政府系の調査会や法案研究会などの議論状況から把握するなど、情報の収集・分析を進めておきます。
 これらを混同すると、政治的環境要因の変化が自社に与える影響を見誤る恐れがあるばかりか、事業活動の方向性を誤る危険性も出てきます。

・経済分析・・・景気、株価、金利、為替、原油価格、国民負担率など

 経済的環境要因とはマクロ経済の変化です。
 マクロ経済の変化に関しては、多くの経営者が報道などを通じて十分理解していると思いがちです。しかし、そのほとんどは大まかな傾向を理解する程度の内容でしかありません。
 経済的環境要因は数値で押さえる必要があります。
 変化が誰の目にも明らかになってしまった時点(つまりマスコミなどが大きく報道した時点)では、既に他社が変化への取り組みを完了させています。
 変化の最初の兆しは小さなものです。この兆しを見落とさないためにも、自社の事業に関連性の高い経済指標類は数値で押さえておくべきでしょう。
 経済的環境要因に関しては、地域紛争や突発的な事象が発生しない限り、おおむね一定のトレンドを示すものがほとんどです。
 このトレンドを把握した上でマクロ経済に与える影響を検討していきましょう。

 

・社会分析・・・人口動態、高齢化率等の年齢構成、ライフスタイルなど

 社会的環境要因とは、人口動態やライフスタイルなどの変化です。
 これらの変化から、自社の事業に関連性の強い社会的動向を分析します。
 人口動態は、経済的環境要因と同様に1年単位では変化が顕在化しにくいため、「10年単位」といったように長期的な視点で把握していくことがポイントです。
 また、トレンドなどは定量的に把握しにくいものですが、業界団体の研究資料などを確認することで、業界に与える影響を大まかに把握することができます。
 これだけに留まらず、業界団体・シンクタンク・金融機関のリポートなどのような第三者的な意見で作成されている情報も収集・分析するとよいでしょう。
 社内の意見だけで検討を加えると、どうしても自社に都合のよい近視眼的な意見が大勢を占め、冷静かつ客観的に変化をとらえることができなくなる傾向が強くなってしまうからです。

 

・技術分析・・・自社関連技術、社会インフラ技術(ITなど)など

 技術的環境要因とは、文字通り技術革新などの変化です。
 特に、製造業においては、技術的環境要因は自社の事業基盤そのものを揺るがすことにもなるので十分な検討が必要です。
 製品関連の技術動向のみならず、生産技術や代替技術が発生する可能性、技術的ブレイクスルーの予想時期なども検討しましょう。
 特に、基盤的な技術が海外からもたらされるような業界の場合、海外での技術動向の変化などを学会発表や学会誌、あるいは親密な関係にある研究者などから収集するように努めましょう。
 小売業やサービス業においても、店舗オペレーションや物流管理へのITの活用(ICタグなど)などには十分注意を払う必要があります。

 マクロ環境の分析において、必要とされるのは抽象的な概念や定性的な表現ではありません。
 あくまでも、事実に基づいた分析、定量的な分析が重要です。
 「低下傾向にあった金利が上向きつつある」とか、「いずれ規制緩和がなされる可能性がある」というような形でのとらえ方では正確な経営判断はできないものです。
 金利であれば、メインバンクのプライムレートがどのように推移し、それに対して自社の借入金利はどのように変化しているのかを把握しなければなりません。
 また、規制緩和であれば、その緩和の目標達成年度に関して政府あるいは関係省庁の公式の発表があったのか、あるいは海外からの緩和要請に目標達成年度は言及されているかなど、正確に把握することが重要です。
 一方、マクロ環境の分析において最も避けなければならないのは、マスコミなどの報道を何となく周知の事実のように考えてしまい、正確な情報の分析を怠ってしまうことです。

 

 

なぜ「PEST分析」が必要か

企業の活動は常に前項のような要因に左右されています。
法律改定に伴い販売できる商品の内容やルールが変わったり、消費税が上がることを見越し

て駆け込み需要が起こったりします。

誰もが知っているような情報では差別化を図ることは難しいですが、このような要因を様々な角度から分析することで自社のチャンスやリスクを早期発見できる可能性があります。それに基づいて迅速な経営判断を下すことができるのです。

こうした将来の予測や判断をする際、ただ情報を集めるだけでは明確な分析に繋がらず非効率です。決められた基準に基づいて情報を収集、整理、分析することで自社のやるべきことが見えてきます。そのために「PEST分析は必要なのです。

 

 

「PEST分析」の進め方

 

1 目的確認

まず始めに「何のために分析するのか」という目的の確認が大切です。
目的もなくただ「PEST分析」を行っただけでは自社に役立つ結果は得られません。それ

を活用して自社のチャンスを見つけ、リスクに対する対策をすることが分析の基盤となります。

フレームワークは、自社のチャンスとリスクを見出す手法であり、「PEST分析」は経済や世の中の動きを広範囲で捉え、分析できる手法でもあるのです。

 

2 情報収集

次に行うのは情報収集です。公的機関や専門家のレポート、報道などから情報を集めていきます。

場合によっては漠然とした情報を収集することもありますが、そこから深く思考を巡らせ、具体的な調査結果として形に残すことが重要です。

 

3 情報整理

集めた情報を単に羅列しただけでは何も分かりません。その中から市場に変化をもたらす要因は何なのか、自社の事業活動に影響を及ぼす可能性がある情報はどれなのか見極め、情報を整理していきます。

 

 

「PEST分析」の注意点

「PEST分析」は政治や経済、社会など広範囲にわたる外部の変化を対象としています。そのため、内部に深くフォーカスする分析ではありません。

自社のチャンスとリスクを明確にするためには、まず「PEST分析」で外部環境の変化を正確に把握することが大切です。そこから得られた結果を基に企業は市場の未来を予測し、対応策を考えていきます。

明確なビジョンを打ち出す根底に「PEST分析」は欠かせないのです。その特性を理解した上で活用する必要があります。

 

 

PEST分析の実例

 

酒税増税と第3のビール

政治的な変化をうまく利用した事例として「第3のビール」があります。今や一般的に飲まれている「第3のビール」の誕生の裏には、酒税の増税があります。お酒にかかる税=「酒税」はお酒の種類によって違う税率が定められています。ビールは他のお酒に比べて酒税が高く設定されていたため、飲料メーカーはビールよりも麦芽の割合を下げて「発泡酒」として発売していました。なお、原料の3分の2以上に麦芽を使っているものをビール、それより少ないものが発泡酒です。

その安さから人気を博していた発泡酒ですが、2003年の酒税法改正により税率が上がることが決定。「安さ」が魅力の発泡酒は、値段が上がれば消費者も離れてしまいます。そこで、飲料メーカーが考えたのがビール、発泡酒に次ぐ「第3のビール」です。第3のビールは、麦芽が使われていない、もしくは発泡酒に別のアルコール飲料を混ぜて作られており、いずれにしても「ビール」「発泡酒」に分類されません。これにより飲料メーカーは酒税の増税による消費者離れを回避したのです。

 

 

人件費の高騰とオフショア開発

システムやアプリのなどの開発を海外の会社に委託する「オフショア開発」。様々なメリットがありますが、その中でも大きなものが「人件費の削減」です。日本よりも人件費の安い国に開発を依頼することで、コストカットが望めます。

これまでオフショア開発で人気の国と言えば「インド」と「中国」でした。高い技術力を持ちながら、人件費が安かったのです。しかし、ここ近年の経済成長に伴い、いずれの国も人件費が高まっています。そのため、コスト削減だけを目的にしていた企業は、ベトナムやフィリピンといったさらに人件費の安い国にシフトしているのです。経済的な変化をうまく読み解かなければいけない戦略と言えるでしょう。

 

 

家庭環境の変化とレトルト食品

ここ近年、レトルト食品や調理キットの種類が増加し、スーパーなどでも多くのスペースを占めています。昔は専業主婦の家庭が多かったため、料理はゼロから調理し、レトルト食品などのニーズはあまり高くありませんでした。

しかし、徐々に女性が社会進出を果たしたのに加え、独身世帯も増えたため、徐々に専業主婦の家庭は減り、早く簡単に調理できる商品のニーズが高まっているのです。「ゼロからは調理したくないけど、出来合いのものばかりではイヤ」というニーズが表すように、レトル食品や調理キットの売上が伸びています。

 

 

AI、ドローン技術の発達とドライバー不足問題

配達業界においてドライバー不足は深刻な問題になっています。オンラインで買い物する人が増えたことに、配送する商品は増える一方で、ドライバーが全く足りないのです。そこで解決の鍵を握るのがAIとドローンです。

どのようなルートを通って配達するかは配達時間に大きく左右し、ベテランと新人では作業効率が大きく差が出ます。新人でも最適なルートで配達できるよう、AIが分析して提案する技術が広がりつつあります。もし普及すれば、今と同じ人数のドライバーでも これまでより高い効率で配達できるようになるでしょう。

また、ドローンを使った配達にも期待が集まります。離島や山間部の家に配達するのに、わざわざ人が運ぶのは非効率的でした。もしドローンで配達できるようになれば、ドライバーがいなくても配達できるため、ドライバー不足を解決する糸口になるでしょう。新しい技術に即してビジネスを再構築しなければいけない事例と言えます。

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