VRIO分析

各活動における自社や他社の強み・弱みを抽出したら、最後に強みごとにVRIO(ブリオ)分析で経営資源の競争優位性を整理します。

VRIO分析とは、次の4つの視点で経営資源を評価する手法です。

・Value(価値) :目標達成に有効か

・Rareness(希少性):希少性が高いか

・Imitability(模倣可能性):他社に真似されにくいか

・Organization(組織):強みを活かす組織づくりができるか

これらの視点で、それぞれの強みに0~5点の点数をつけ、力を入れるべき部分を明確にします。

たとえば、「通販サイトを運営することで、オンラインで販売できるようにしている」という強みにおいて、「他社に真似されやすい」という課題(Imitability)が見つかった場合、「通販サイトだけでなく、SNSからも1クリックで商品を購入できるようにする」といった戦略を立案できます。

このような流れで、経営資源を多く割り当てる部分や取り組む優先順位を決めれば、効率的に利益を増やせるでしょう。

 

Value(経済価値)評価の狙い

VRIO分析において、最初に判定を行うのが自社のValue(経済価値)である。この観点を最優先するのは、経営資源の中に経済価値が存在しなければ、ビジネスとして成り立たないからです。

Value評価では、自社の経営資源が、顧客、ひいては社会に対して何らかの価値を提供しているか否かを客観的に評価する。具体的には、経済価値に関するさまざまな確認項目に対して、イエスもしくはノーで評価を行っていく。

例えば、特定の設備に対する評価として、所有していることが売上の拡大やコストの低下に寄与しているか否か、といった評価項目になる。

なお、VRIO分析では、以下の「Rarity(希少性)」「Inimitability(模倣困難性)」「Organization(組織)」の3つの観点に関しても、すべて個々の項目ごとにイエスかノーで回答していく。

 

 

Rarity(希少性)評価の狙い

続いては、自社の経営資源にどの程度のRarity(希少性)があるかについて評価を行う。希少性が高ければ競合に模倣されにくくなり、厳しい市場環境の中でも有利にビジネスを進められるため、顧客から高い支持を獲得することにもつながる。

例えば、とある回転寿司チェーンが製造・供給工程を完全に自動化して、大幅な人件費削減を果たしたと仮定しよう。その装置(経営資源)は業績の向上に直結しそうだが、競合も導入可能なものであれば、希少性が高いとは言えないだろう。

企業が抱えている人材にしても、極めて特殊な分野で、かつ教育・育成にも相当な時間を有するならば、競争上において優位に立っていると判断できる。しかし、現時点ではニッチな分野で強みを発揮していても、教育・育成にさほど苦労しないのであれば、他社がすぐに追随することになろう。

 

 

Inimitability(模倣困難性)評価の狙い

希少性とも深く関連する項目だが、Inimitability(模倣困難性)とは、競合他社が容易に模倣できるか否かという観点での評価である。当然ながら、誰でもすぐに模倣できるものであれば、目先は優位に立っていたとしても、その状況が持続するのは困難と言えよう。

例えば、外食業界では、新たなビジネスモデルが脚光を浴びると、直ちに競合が類似店を立ち上げて対抗してくることもある。技術的な優位性があるならば特許申請によって法的に希少性をガードできるが、商品そのものやサービスなどはすぐに模倣できるため、外食業界では模様困難性を獲得するのは容易ではないだろう。

それに対して、SPA(製造小売)というビジネスモデルを確立したファーストリテイリングは、高い模倣困難性を獲得していると言える。同社のユニクロは、単に安価な服を販売するというわけではなく、品質やデザインにおいても高い評価を得られる衣料品を提供できる体制を整えており、このシステム構築は簡単に模倣できるものではない。

また、これまでに培ってきた企業の歴史的な背景も、模倣困難性に結びつく。「創業○年の老舗」という看板は、誰でも掲げられるものではないからだ。

さらに、製品・サービスが生み出されて世の中に供給されるプロセスがブラックボックス化されているビジネスも、自社以外は把握できないという点で模倣困難だと判定できる。

 

 

Organization(組織)評価の狙い

報酬体系や管理手法など、企業内のさまざまな仕組みや制度まで含めて、経営資源が積極的に活用される組織になっているかどうかを評価するのが、Organization(組織)評価の狙いである。

ここまでの3つのプロセスにおいて、その企業が有している経営資源の経済価値とその希少性、模倣困難性は明確になっており、最後に、それらのポテンシャルをフルに発揮できる組織になっているかどうかを判定するわけである。

自社のビジネスが、稀少で模倣されにくく、売上拡大やコスト抑制に結びつく経営資源を有しているにもかかわらず業績が悪いのならば、組織のあり方や運営の仕組みに何らかの問題がある可能性が高い。

例えば、高度な特許技術を用いて価格競争力の高い製品を有していながら、組織全体ではその事実をきちんと認識できていないというケースだ。明確な経営戦略が打ち出されていなければ、営業部門は容易に販売できるコモディティ化した製品ばかりを取り扱い、せっかくの技術が“宝の持ち腐れ”になりかねない。

 

 

VRIO分析の手順

VRIO分析は、常に「①V:経済的価値→②R:希少性→③I:模倣困難性→④O:組織」の順に評価を行っていく。

4つの項目がすべてイエスであれば、「持続的な競争優位(VRIO)」とみなされる。つまり、稀少で模倣されにくい高価値の経営資産を有しており、そのフルパワーを引き出す組織が構築されているとの評価になる。

逆にすべてがノーであれば「競争劣位」との判定になる。企業が有している経営資源に価値すら見出せず、組織力においても他社との競争力がないという判定となるため、事業として存続させるか否かについても考えなければならない。

一方、経営資源に価値はあるものの、他の価値がない場合は「競争均衡(V)」と位置づけられる。価値と希少性があるものの、模倣が可能で組織力がなければ「一時的な競争優位(VR)」とみなされ、他社の追随を覚悟すべき状況にある。

価値、希少性、模倣困難性についてはイエスだが、組織がノーであれば、持続的な競争優位性のポテンシャルがあるにもかかわらず、それを生かせてないことを意味する。

 

 

VRIOの模倣困難性を高める要因

バーニーは、企業が持続的に競争優位を発揮するための重要要素である模倣困難性を高める要因について以下3つのパターンで解説しております。

 

歴史性

歴史性とは、歴的的な経緯によってもたらされる模倣困難性のことです。

たとえば、創業100年のお茶の老舗というブランドは、競合が明日から真似しようと思ってできるものではありません。

他にも世界で初めて開発した会社というブランドは、2番手以降の会社には模倣困難なものになります。

 

因果関係の不確かさ

因果関係の不確かさとは、外部から見たときに構築する方法がわからない模倣困難性のことです。

たとえば、競合の真似をしようとして優秀な人材を集めても、実際にはその優位の源泉が社内プロセスにあるとすると、人材だけ集めても真似をすることができません。

 

社会的複雑性

社会的複雑性とは、外から見えない社内外のコミュニケーションによって生まれる模倣困難性のことです。

たとえば、組織運営のフレームワークである7Sの中でも価値観や組織文化が優位性を支えている場合、外部からはその優位性の源泉が見えないので、簡単に真似できません。

 

 

VRIO分析のやり方

 

1 VRIO分析の目的やゴールを設定する

まずはVRIO分析を行う目的やゴールを明確に設定する必要があります。
例えば、自社の強みを理解して販売戦略に利用したい、自社の弱みを把握して採用戦

略に活用したいなど、さまざまな内容が考えられます。

ただし、目的やゴールを細かく設定しすぎると分析の負担が大きくなるため、分析範囲を明文化しておくことが大切です。

 

2 経営資源の棚卸しを行う

VRIO分析を行う際は、自社が持っている経営資源を棚卸しして把握する必要があります。
 経営資源の棚卸しを行う際は、事業活動を順序立てて構成要素を洗い出すバリューチェーン(価値連鎖)と呼ばれる手法が役立ちます。

例えば自社で製造から販売まで手掛けるメーカーであれば、企画→設計→仕入れ→製造→販売→梱包→配送→管理といった流れが考えられます。
その後に各要素の機能を洗い出し、経営資源(人、物、金、情報)ごとに分類します。

上記のバリューチェーンの「梱包」という機能であれば、検品ノウハウ、機械による包装、包装物の確認、大規模な独自の保管場所などが考えられます。

 

3 VRIO分析の項目にイエスかノーで評価する

棚卸しを行った経営資源をVRIOの項目に照らし合わせて評価します。

 

VRIO分析で得られるメリット

 

1 企業の弱みや強みを把握できる

VRIO分析によって自社の経営資源の弱みや強みを把握できます。

VRIO分析で自社の競争優位性を明確にすることによって、弱みの発見ができ、企業の方向性や経営戦略につなげることが可能です。

弱みの発見と同時に、自社が持っている経営資源の強みも把握できるため、今後どのような分野にリソースを集中すればよいかの判断基準になります。

このように、VRIO分析は、自社の経営資源の弱みと強みを把握することにより、弱みの改善を図りつつ、強みを活かせるというメリットがあります。

 

 

2 経営資源を明確にできる

VRIO分析によって自社の経済資源を明確にできるため、余剰資産を売却してリソースを集中させるといった経営判断などが可能です。

他にも、経営資源を見える化することで、全従業員の共通認識として浸透させやすくなり、ビジョンやミッションといった企業の行動指針にも反映できます。

このように、VRIO分析は、経営資源の明確化により、資産の集中化や従業員の意識改革などのメリットが期待できます。

 

VRIO分析の問題点

VRIO分析には、短期間での分析が困難かつ定期的な分析が必要という問題点があります。

短期間での分析は難しい

VRIO分析は自社の経営資源を正確に把握する必要がありますが、組織力や従業員なども資源に含まれるため、短期間での分析が難しいという問題点があります。

経営資源が限られている小規模な企業は比較的早期に分析できますが、企業規模が大きければ大きいほど、分析に時間がかかる点には注意が必要です。

VRIO分析には、競合他社との比較が前提の項目がありますが、競合他社の内部環境に関する情報は限定的な部分があるため、どれだけ時間をかけても正確な分析は難しいという点を考慮しておくことが大切です。

 

定期的な分析が必要

VRIO分析を行う際は時間やコストが必要ですが、一度行えば永続的に分析結果を活用できるわけではありません。
 マーケットの変化や競合他社の状況などを把握しつつ、定期的に分析する必要があります。

特に、リーマン・ショックのような大不況や、新型コロナウイルスのようなパンデミックによって大規模な市場の変化がある場合は、過去のVRIO分析の結果をそのまま活用するのではなく、抜本的な見直しが望ましいといえます。

 

VRIO分析事例

ユニクロ:

「低価格で質が高い製品開発」という価値(Value)

ユニクロのバリューは、高品質の商品を低価格で提供していこと。生産から販売までを自社で一貫して行う「SPA方式」を採用しているため、ピンチのときには生産数を減らすなど柔軟な調整もスピーディに行えます。

 

トヨタ:

「ロボット共存型工場」という希少性(Rarity)

世界最大級の自動車メーカーであるトヨタの強みとして工場が挙げられます。自動車メーカーが工場を持つのは珍しいことではありませんが、「ロボット共存型工場」を持っているメーカーは多くないでしょう。

 

プリウス

プリウスは、ハイブリッド車として生産・販売されており、2009年6月の新車販売台数ランキングで、軽自動車を含めた総合ランキングでスズキのワゴンRを上回る22,292台を販売したことで、発売開始以来初めて首位を獲得しています。その後、2010年12月までの19ヵ月連続で首位を獲得し続け、2010年の年間販売台数が31万5,669台となり、車名別による年間販売台数の歴代首位となっています。このような大ヒット製品となったプリウスをVRIO分析します。

経済的価値については、トヨタ自動車にとっても社会的・消費者的にも価値のあるものとして認識されています。それは販売台数が端的に表しているといえるでしょう。

また、プリウスに限らず、トヨタの経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報)を用いた生産方式は、経済的価値が非常に高いと世界的に認識されています。

希少性と模倣困難性について、プリウスのハイブリッドシステムは他社の追随を許していない状況と言えます。

さらに、大量生産、大量販売が実現できているため、コスト面においても他社は模倣困難な状況となっています。

組織面についてですが、今後もプリウスの生産で培った技術を他社種に横展開されていくことは容易に想像できますし、ハイブリッド車の販売ノウハウについても他社よりも先行していると言えます。

また、トヨタの生産方式は、グローバルで根付いた文化とも言える状態まで定着しており、組織面においても高い完成度と言えます。

 

 

オリックス:

複雑な事業ポートフォリオという模倣困難性(Imitability)

オリックスは、国内最大手の総合リースの会社と知られていますが、それ以外にも保険、信託、ホテル、レンタカー、金融サービス全般、不動産、事業投資、球団保有と、BtoB、BtoCを問わず事業を多角化しています。事業を多角化することで、全体としての収益変動リスクを抑えるとともに、顧客が複数のサービスを利用することで囲い込みにもつながります。一つの事業を展開している企業にはマネできない強みになるほか、企業の本質的な価値が外部から見えにくくする効果もあります。

 

 

リクルート:

新規事業が生まれる組織(Organization)

飲食や婚活、中古車、教育と幅広い業界で新しいビジネスを生み出しているリクルート。新しい事業を生み出し拡大できる人材が育つ組織はリクルートの大きな強みと言えるでしょう。単に優秀な人材を採用するだけでなく、新規事業提案制度「Ring」を運営するなど、企業が培ってきた文化や制度の賜物と言えるでしょう。

経営と真理 へ

「仏法真理」へ戻る