バランスト・スコアカード(BSC)

 

ロバート・S・キャプラン(ハーバード・ビジネス・スクール教授)とデビッド・ノートン(コンサルタント会社社長)が、1992年に、「Harvard Business Review」誌上に「バランスト・スコアカード」(BSC:Balanced Scorecard)を業績評価システムとして発表しました。バランスト・スコアカードにより、多様なステークホルダー間の利害調整を上手にこなす秘宝を授けてくれた。

 

儲からなければ株式市場ではない

1950年代から、米国株式市場では、大企業を中心とした労組がペンション・ドライブを展開したことで企業年金の普及が進みました。ミューチュアル・ファンド(MF)と年金基金がいわゆる機関投資家として強い存在感を示し、1967~1974年の全米株式取引に占めるMFの割合は平均20.5%に達し、全機関投資家では実に44.0%を占めるようになりました。

個人投資家から預かった資金を、高利回りで運用する必要がある機関投資家が恒常的に実現する必要がある収益性はどれくらいでしょうか。

富裕層個人投資家が自分の投資ポートフォリオに期待する長期的な平均収益率は、インフレ調整後で年8.5%だという。債券の利回りが2.5%前後だとすると、株と債券で構成する一般的なポートフォリオで8.5%の目標を達成するには、株価が年12.5%のペースで上昇する必要がある。

その後、よりハイリスクハイリターンを好むヘッジファンドが1980年代から勢いを増していきます。中でも、買収先の資産を担保に買収資金を借り入れ、買収後、企業資産を切り売りして、高レバレッジを解消して高い収益を上げるLBO(レバレッジド・バイアウト:Leveraged Buyout)が1980年代に隆盛を極めました。コールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)が総額300億ドル超、負債の調達比率8割でRJRナビスコを買収したのがその好例です。

株式市場におけるこうした機会主義ともいえる短期的な株主の行動が経営者に影響を与えないわけがありません。敵対的な投資家からの買収を避けるため、または積極的に自らがM&Aにより企業規模を拡大するため、猫も杓子も株価偏重の経営が行われ、投資家(株主)も経営者も気にする経営指標は、ROE(自己資本利益率)、EPS(一株当たり利益)、PER(株価収益率)、PBR(株価純資産倍率)といった、株式または短期利益に関連するものばかりとなりました。

 

 

バランスト・スコアカードが与えた新しい視点

キャプランとノートンは、そうした短期主義、財務指標偏重主義に警鐘を鳴らし、もっと有効な業績管理指標と業績管理手法は、企業の持続可能性を高めるに資する成長性と収益性を最も大事にすべきもののためにあるとしました。さらに、そうした業績管理指標(KPI:Key performance indicators)を可視化することで、経営管理の有効性、従業員同士の相互理解の深化も、企業パフォーマンスの向上に帰結することを明らかにしました。

 

これまでの財務指標による業績管理方法は、過去の財務実績に頼るもので、環境変化の激しい将来に必ずしも有効であるとは言い切れない。

利潤を追求する企業である以上、利益を上げることが最終的な目的であることは間違いない。ただし、利益指標を直接見ていても、利益を向上させる施策のヒントが見いだせることはまれであるむしろ、財務指標を中長期的に向上させるために、財務以外の経営管理指標を観察して、企業行動を修正する必要がある。

最終的な財務指標を改善するために、貢献する非財務指標が何で、非財務指標がどれくらい改善すると最終的に利益が良くなるか、その相関を分析できれば、より適切な企業行動に導くことができる。

 

BSCは、財務指標一辺倒になりかかっていた1990年代のアメリカで、財務指標以外の視点を重視しようというフレームワークであり、斬新でもありました。「財務(過去)偏重の経営を変える」「長期の戦略(未来)と今の活動(現在)をつなげる」ことを目指したキャプランたちの努力が評価され、1997年にはアメリカ企業の64%が、BSCのような「多面的な業績評価ツール」を採用している。

BSC自体は、良くも悪くも、経営管理ツールであって、それ自体が経営戦略手法というわけではありません。経営戦略は所与であって、経営戦略の実行面や管理面に焦点を当てたものになります。

しかし、すべての経営戦略に起因する企業行動、企業内各所で管理されるべき業績指標(KPI)は、整合的な経営戦略の実行のためには、全て何らかの因果関係によってつながっていなければならない。これを強く思い出させてくれる素晴らしいフレームワークなのです。

 

 

 バランス・スコアカードは、ポジショニング(顧客の視点)とケイパビリティ(業務・学習の視点)をつなぎ、それをさらに財務指標にまでつなげようとした偉大な試みだったのです。

 そして、それらが 繋がりうるものであり、繋げないといけないものなのだという意識を広めたという意味で、アンゾフやミンツバーグの「環境・ポジショニング・ケイパビリティの整合・統合」という概念をサポートするものでした。

 その試みは21世紀になって花開きます。「ブルー・オーシャン戦略」の誕生です。

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