コンフィギュレーション派のミンツバーグ

ヘンリー・ミンツバーグは、MITでマネジメント博士号を取得後、カナダのマギル大学で教鞭を執る。ポジショニング派とケイパビリティ派の争いに「そんなものに答えはない。場合によって答えは変わる」と主張。発展期にはポジショニング重視、安定期にはケイパビリティを重視して組織を強化といった具合です。これを「コンフィギュレーション」と呼んだ。

ミンツバーグは、1970年代から、企業経営は本来非定型で、不確実なものであり、大きな方針だけ決めて とりあえず行動して、後から修正を加えていく創発型こそが現実的な経営戦略だと主張しました。戦略とはアートであり手作りのものだと呼びました(クラフティング型)。たとえば、戦略の成功例として語られた「アメリカでのホンダのスーパーカブの成功」は、本当は、たまたまホンダの社員が乗っていたものに人気が出たのが真実で事前の戦略など無かったという話が有名です。

ミンツバーグは、ポジショニング重視かケイパビリティ重視かは「場合による」と主張し、企業の発展段階などに応じて二つをきちんと統合することを説きました。ポーターを「ビジネス全体のことを理解していない経済学者」と公然と批判し、一度は否定された「経営はアート」という考えを再び持ち出すなど、時代に流されない姿勢がありました。

「時と場合によっては、ポジショニング派もリソース・ベースト・ビュー派もどちらの戦略も必要だ」というミンツバーグのコンフィギュレーション派が登場します。

 

 

 1990年代に入ると、ミンツバーグが、多種多様な経営戦略研究の流れを「戦略サファリ」とよんで、10のスクールに分類し評価を行っている。

 

第1学派:デザイン・スクール
第2学派:プランニング・スクール
第3学派:ポジショニング・スクール
第4学派:アントレプレナー・スクール
第5学派:コグニティブ・スクール
第6学派:ラーニング・スクール
第7学派:パワー・スクール
第8学派:カルチャー・スクール
第9学派:エンバイロメント・スクール
第10学派:コンフィギュレーション・スクール

 

ミンツバーグは、その中で、デザイン(design)、プランニング(planning)、ポジショニング(positioning)、の各スクール(分析型戦略論)に見られる戦略形成プロセスではなく、創発的に現われた戦略を組織に取り込んでいくプロセスに焦点を当て、組織学習を重視するラーニング(learning)・スクール(プロセス型戦略論)が最も注目されているという。

 

 

ミンツバーグの「コンフィギュレーション」経営戦略

 

 

 

状況に応じてポジショニングとケイパビリティを統合させる

 

ミンツバーグは、その代表的な著書「戦略サファリ」の中で、企業の発展段階(発展→安定→適応→模索→革命)に応じて、戦略や組織のあり方やその組み合わせは変わると論じました。

発展期にはポジショニングを重視して市場を探索し、安定期にはケイパビリティを重視して組織力を十二分に活用し、模索期にはラーニング論で組織の方向性を調整し、革命期にはアントレプレナー論(ターマン、スティーブンソン)を用いて組織に破壊的大変革をもたらすというように、常に状況変化次第で企業戦略において何を重視してどういう方法論を用いるかを柔軟に考えようとするものです。

そうした状況の変化に適切な方法論の適用は、何をもって最適かを判断することができるのでしょうか。トップダウンで行うのが正しいのか、それともボトムアップで行う方が間違いが少ないのか。ミンツバーグによれば、それすら定型的な判断基準が明確に存在するわけではなく、その企業のリーダーやマネージャーの判断力と与えられた時間的余裕次第であると、組織にいるリーダー層の人にとってはつかみどころのない厳しい言葉を投げかけているのです。

 

市場における競争論を経営戦略に初めて持ち込んだアンゾフは、ポジショニング派とケイパビリティ派の論争が激しくなる前に、一つの示唆をその著書「戦略経営論」(1976)で明らかにしています。

・「環境」に対して企業の「戦略的な推進力(ポジショニング)」と「能力(ケイパビリティ)」は、整合していなくてはならない。ずれていることが失敗の原因となる
・「環境」はその乱気流度合いによって次の5段階に分けられる。

「安定的」「反応的」「先行的」「探求的」「創造的」

 

ケイパビリティ学派とポジショニング学派の融合

アンゾフは、1979年に、『経営戦略論』を著し、もっと統合的なアプローチで戦略経営を進めるべき、という主張をしました。

1.外部環境への順応だけでなく、内部要素も重視
2.戦略作成だけでなく、実行とコントロールも重視
3.社外環境のハード面(技術・経済など)だけでなく、社会・政治面も重視

1.は、ケイパビリティ vs ポジショニング、2.はキャプラン、ノートンのBSCやミンツバーグのクラフティング、3.はCSR経営など、アンゾフはつくづく、全ての経営戦略論における議論の源流と言えましょう。

外部環境の「乱気流度合い」に合わせて、企業の戦略や組織は「同じレベルで」変わらなければならないと結論付けます。戦略が先行しても、組織が先行しても失敗するよと。

 

アンゾフの意図は、「環境」「ポジショニング」「ケイパビリティ」を整合させることにあり、「組織は戦略に従う」のは、組織が戦略ほど急には変われないからだ、戦略が失敗しないように組織(ケイパビリティ)を先に変革してしまおう というものでした。
 アンゾフにとっては、変化とボラティリティの大きい順に、市場環境、戦略(ポジショニング)、組織(ケイパビリティ)というイメージを持っている、と理解することができるのです。

 

HBSのアンドルーズは、戦略プランニング手法として「SWOT分析」を世に送り出しました。彼は、企業戦略はある種のアートであり、SWOT分析もいわば彼のアート作品を作るための手段、一種の思考法のフレームワークにすぎず、ここから自動的に企業がどうすればよいのか“解”が導かれるとは考えていなかったわけです。アンドルーズの愛弟子の一人だったポーターが戦略はアートではなく、経営分析(5フォース分析)も経営戦略(戦略3類型)も定型化できると思い立った歴史を我々は知る必要があります。

ミンツバーグは、ポジショニング派とケイパビリティ派の論争が激高する中、こうした、アンゾフやアンドルーズの説いたポイントまで一気に経営戦略論の時計の針を戻したわけです。

 

 

経営戦略論をアートもしくはクラフトに戻した

ミンツバーグの出世作「マネジャーの仕事」(1973)は、彼が実際にフィールドワークを通じて、マネジャーの仕事に張り付いて得た知見をまとめた実証的なものでした。

・企業でもっとも大事なのはリーダーではなくマネジャーである。マネジャーたちの無数の意思決定や行動が企業の活動を支えている。
・マネジャーの仕事は断片的で瞬間的で雑多である。その判断は多く「直感」によってなされている

 

ミンツバーグは、後年、その著作「戦略クラフティング」(1987)でよきマネジャーは教室で育つこともないし、よき戦略が机上で定期的に生み出されるのでもない として、マネジャーの現場における創発的な活動が経営戦略の源泉であると主張します。これをあまりに単純化して飲み込んでしまうと、すべてが経験主義で説明され、近代マネジメント論として、ここまで「理論」を様々な角度から検証してきたすべてのアプローチが無駄であったといっても過言ではない、強いメッセージとなり、拒絶反応を示す人も少なくはありません。

 

戦略
戦略は、理性や合理的な統制、競合他社や市場環境への客観的なシステマティックな分析に

基づき、未来に向かって「プランニング(計画立案)」されるものではなく、長年の経験や現場で行われた試行錯誤から、経験とひらめきが創発的に徐々に経営戦略を形作っていくのであって、その意味で「クラフティング」されるものということができるのです。

指摘した「戦略プランニング」における3つの誤謬は以下の通り。

(1)予測は可能である
(2)戦略家は戦略課題と別世界に存在できる
(3)戦略策定プロセスは定型化できる

 

組織
組織とは、その時に採用された戦略に応じて、柔軟に管理範囲、職務拡大の程度、外部から

の産業的制約条件の考慮、存続年数と構成員のタイプ、持ち合わせている生産技術などと整合性をもって、落ち着くところに落ち着かせるもの、つまり、コンフィギュレーション(相対的配置)がなされる対象であるとみなされています。

コンフィギュレーションされるべき対象、組織の構成要素に次の5つを挙げます。

1.戦略の司令塔(経営執行者)

2.ミドル・ライン(ライン・マネジャー)
3.オペレーションの主役(現場の人たち)
4.テクノストラクチャー(職能スタッフ)
5.サポート・スタッフ(事務管理)

 

事業部制や機械的官僚制など、組織が採り得る組織形態は、この5つの構成要素が様々に変化して表現される。

経営戦略は、優秀なテクノクラートが定型的に生み出せせるものとして「サイエンス」重視の考え方でもなく、卓越した個人としてのトップ経営者でしか生み出せないとする「アート」の世界のものでもなく、現場で創意工夫のもと、会社を動かしているマネジャーが「クラフト」として形作るものである という結論になります。

 

このように、「経営戦略は○○である」というステートメントの形式をとらずに、「経営戦略はクラフティングから生み出す」という方法論を主張した点で、その他の論説と一線を画するものであるともいえるのです。

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