数字をいじる前にお客様の満足度を上げる

 商品やサービスの質を下げる形での値下げやコスト削減は、中小企業にとって命取りになります。

 経営において数字を見ることは非常に大切です。経営者たるもの、数字に弱いでは済まされません。しかし、「数字だけを見る」のはもっと危険です。数字だけを見ていると、原価さえ下げれば利益が出るように感じます。そして、原価を下げる方法はいくらでもあります。もっと安い業者から仕入れればよいのです。もう一段品質を落とした材料に替えればよいのです。現在の仕入れ先に値下げを強制する方法だってあります。もし、「多少の品質の低下は客にはわからない」と考えいいるならば問題です。お客様はそれほど愚かではありませんし、一時的に騙すことができても、やがて離れていくことになります。

 幸福の科学大川隆法総裁もこう指摘しております。

「何でも「経費削減第一」だけでやると、悪いものになってくる傾向はあるので、気を付けなくてはいけません。

経費が増大して赤字になっている場合、一時的には経費を減らせば効果は出ます。売上を上げて経費を落とせば、明らかに効果は出ますが、長い目で見たときには、「経費節減だけをずっとやり続けると、悪いものが出るので、客が離れていく」ということが起きてくるわけです。

これに対して、一倉さんは、やはり、「中身をよくしていかなくては駄目なのだ。最高のものをつくろうと努力して、心を込めてつくればこそ、長くお客様に愛されて、繰り返しリピートが出てきて、ファンができ、経費は黒字化、好転していくのだ」という考え方を説いているのです。」(『危機突破の社長学』P-75~76)

 

経費節減病に気をつけよ

 経費節減は、分かりやすいし、取り掛かりやすいし、効果もすぐに数字に現れるため、経営が回復した気になるものです。

 しかし、過度の経費節減は、かえって経営を危うくします。

 一倉先生は、次のように述べています。

「無為無策社長の最大の関心は、いうまでもなく「経費節減」である。それらの社長は、決算書を見てもチンプンカンプンであり、ただ損益計算書から、低業績、あるいは赤字と知っても、打つ手が分からない。そこでのめり込むのが「経費節約」である。

だから、決算書の製造経費や一般管理費、販売費などは、勘定項目の数字一つ一つにチェック印がつけてある。そして、それ以外の数字には一切チェックの印は付けていないのである。

経費に焦点を合わせて、これを節減しようとしても、よほど放漫な会社を別にすれば、経費を5%節減しようとしたら、殆どの会社で日常活動に大きな支障をきたすことは間違いない。」(『「一倉定の社長学」第5巻 増収増益戦略編』P-219)

 一倉先生は、こうした考え方を「経費節減病」と呼んで強く戒めています。

 もちろん、冗費のカットは必要ですが、経費節減を全社的なプロジェクトで取り組んだりすると、傍から見ていておかしなことになりやすいことは事実です。

「業務用にボールペン1本もらうのに、使用理由を明記した書類を提出して総務課の許可を得る」「一日中、担当者がコピー機や電話機の使用状況をチェックして回る」などということをし始めます。結局、経費を節減するための仕事が発生して、かえってコストがかかることになります。

 本業に直結する部分に経費節減が及ぶと大変です。「安い機械に入れ替えたら、すぐに壊れてかえって高くついた」「安い生地で服をつくったら、すぐにほつれてダメになった」「安い業者から野菜を仕入れたら味が落ちた」「交通費を惜しんで得意先回りを減らす」ということになっていきます。

 経営者が考えなければならないのは、「経費が高いかどうか」ではなく、「費用が効果的に使われているかどうか」です。

 たとえば、営業マンの得意先訪問の交通費を考えてみます。交通費が高いか安いかに注目しがちですが、見なければならないのは、「どの得意先を訪ねているか」です。案外、重要顧客のところをほとんど回らずに、取引金額が下位5%に入るような得意先ばかり回っていたりします。この場合、正しい対応は、重要顧客の訪問頻度を高めて、下位の得意先の頻度を低くすることです。そうすれば交通費は効果的に使えます。交通費の高さや安さ自体は、さほど重要ではないのです。

 経費節減病にかかると、「わざわざ訪問しなくても電話で済む」「わざわざ電話しなくてもメールで済む」などと言いかねないので要注意です。近年はインターネットが普及したためか、「何もかもネットで済ませれば効果的。訪問するのは時間もお金もかかるから無駄」と考える人が増えていますが、中小企業の経営にとっては、ある意味で危険思想です。「訪問しない」「電話しない」という選択は、「わざわざ訪問してくれる人」「わざわざ電話してくれる人」にお客様を持っていかれる可能性があることを意味します。経費節減をしたら「顧客節減」になったという笑えない話です。

 

コストが先か 品質が先か

 新商品の開発にあたって、注意点としては「安易にコストを下げない」ということです。

 中小企業にとって安売り合戦は危険です。安売りのために、原価を下げたり、品質を下げたりすると、ますます競争力を失います。逆に、「いかに品質を上げるか」「デザインや装飾に力を入れるか」「いかによい材料を使うか」に頭を絞る必要があります。特に、試作品の段階では、まず最高品質を目指すことが大事です。一倉先生も、「品質のコストを無視して、まず完璧な試作品をつくれ」と述べています。その上で、その品質を保ちながら、いかにコストを下げるかを考えるわけです。

 はじめから低コストありき になると、どうしても品質は後回しになってしまいます。

 「まず低コスト その範囲内で最高の品質を」 「まず最高の品質 次に低コストを」

 一見似ていますが、前者と後者とでは結果は大きく異なります。当然ですが、後者のほうがよい品質で安価なものができます。

 また、「まず品質、ついで低コスト」で行く場合、経営トップが陣頭指揮を執っていなければできないことも知っておく必要があります。青天井の予算で試作品をつくるのは社員では無理です。トップだからその判断ができます。「まず低コスト、つぎに品質」なら、はっきり言えば誰でもできます。その場合のトップの仕事は、はじめに予算の枠を提示することだけです。

 「誰でもできる仕事」と「トップでなければできない仕事」、どちらが成果を上げるかは考えるまでもありません。

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