禁止事項

○強制労働の禁止

(労働基準法第5条)

 使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によって、労働者の意思に反して労働を強制してはならない。

 本規定は、暴行その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段をもって労働者の意思に反して労働を強制することを禁止したものです。  

 わが国においては、かつて暴行脅迫等の手段によって強制労働をさせる封建的な慣習が広くみられましたが、従来、こうした強制労働に対する直接の処罰規定がありませんでした。  

 憲法第18条は、「何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。また、犯罪による処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない」ことを保障していますが、これは、国又は地方公共団体による意に反する苦役を科せられないことの保障のみでなく、国民相互間についても同様の保障を規定しているものであり、本規定も憲法第18条の趣旨に則ってこれを労働関係について具体化したものです。  ポイントは、「身体的な自由だけでなく、精神的な自由を拘束する手段をもって、意思に反して労働を強制してはならない」ということです。

 労働基準法は昭和22年に制定されましたが、当時は強制労働が横行していたのでこのような規定が設けられたのではないかと思いますが、現在、一般的にはこの規定に反する行為は行われていないと思います。

 

(精神又は身体の自由を不当に拘束する手段とは)

  (1) 暴行、脅迫、監禁 (2) 長期労働契約 (3) 労働契約不履行に関する賠償予定契約 (4) 前借金相殺 (5) 強制貯金 のような手段をいいます。

 精神又は身体の自由を拘束する手段とは、精神の作用又は身体の行動を何等かの形で妨げられる状態を生じさせる方法をいい、不当とは、不法なもののみに限らず社会通念上是認しがたい手段をもってすることも含みます。

 暴行とは、労働者の身体に対し、不法な自然力を行使することをいい、殴る、蹴る、水をかける等はすべて暴行であり、通常障害を伴いやすいのものですが、必ずしもその必要はなく、また、身体に疼痛を与えることも要しません。  監禁とは、一定の区画された場所から脱出できない状態におくことによって、労働者の身体の自由を拘束することをいい、必ずしも物質的障害ともって手段とする必要はありません。  長期労働契約も自由を不当に拘束する手段となるため、労働基準法では期間の定めのないものを除き労働契約期間の上限が定められています。

 期間の定めのない労働契約はいつでも契約解除ができるため問題となりません。

 強制労働の禁止に違反した場合の罰則は、労働基準法中で最も重い1年以上10年以下の懲役又は20万円以上300万円以下の罰金が課せられます。

 

○中間搾取の排除

(労働基準法第6条)

 何人も、法律に基づいて許される場合の外、業として他人の就業に介入して利益を得てはならない。

 「業として(仕事として)利益を得ることが禁じられている」ということですので、個人が、好意で、就職を紹介し、多少のお礼を受けることは全く問題ありません。

 他人の就業に介入するとは、使用者と労働者の中間に第三者が介入して、その労働関係の開始存続について、何等かの因果関係を有する関与をしていることをいいます。  法人が他人の就業に介入して利益を得た場合、処罰の対象は法人だけに限らず、法人のために違反行為を計画実行した労働者も処罰されます  労働者派遣は派遣元と労働者との間に労働契約関係がある場合、労働者供給は供給元と労働者との間に労働契約関係がある場合は、いずれも他人の就業に介入することにはなりません。

 また、所定の手続きをとれば法律で許される場合にあたります。

 

○賠償予定の禁止

(労働基準法第16条)

  使用者は労働契約の不履行について、違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。

 違約金とは、契約不履行について不履行者がその相手方に支払う金銭のことであり、実害の有無にかかわりなく取り立てることができるものと解されます。こうしたことから、従来労働者の足留策に利用され、労働者の身分を拘束する作用をしていました。  損害賠償額の予定とは、債務不履行によって賠償すべき損害額を実害のいかんにかかわらず、一定の金額を賠償額として定めておくことをいいます。すなわち、あらかじめ金額を定めておいてはいけないということです。

 労働契約の締結にあたり損害賠償額を約定する場合には、債務不履行による実害額のいかんにかかわらず予め定められた損害賠償額を支払うべき義務を労働者が負うことになり、労働者の弱みにつけ込んだ異常に高い損害賠償額が定められ、労働者の退職の自由が拘束され、労働者の足留め策となる等の弊害があるため、これを禁止したものです。  しかし、違約金を定めたり、損害賠償額を予定する契約をすることを禁止するだけで、労働者の債務不履行や不法行為を認めるものではないため、現実の損害が発生した場合に、その実損害額を賠償させることは禁止していません。  違約事項を定めたり、損害賠償をする旨を定めることは差し支えありません。

 例えば、運送会社がトラック運転手を雇い入れる際、「故意又は重大な過失により会社に損害を与えた場合、損害賠償を行わせることがある」旨の契約を締結することは構いません。

賠償予定の禁止(昭和22年9月13日基発17号)

 本条は、金額を予定することを禁止するのであって、現実に生じた損害について賠償を請求することを禁止する趣旨ではないこと。

 この規定は、違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約の締結当事者をしての使用者の相手方を労働者に限定はしていませんので、労働者本人に負担させる場合だけでなく、親権者、身元保証人等に負担させる場合も同様に禁止されます。

 

○前借金相殺の禁止

(労働基準法第17条)

 使用者は、前借金その労働基準他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺してはならない。

 前借金とは、労働契約の締結の際、又はその後に、労働することを条件として使用者から借り入れ、将来、賃金により弁済することを約束した金銭をいいます。  相殺とは、互いに相対立する同種の債権を有する場合に、現実の弁済に代えて相互の債権を対等額だけ消滅させるための単独の意思表示です。  この趣旨は、前借金と賃金とを相殺することを禁止し、金銭貸借関係に基づく身分的拘束の発生を防止することを目的としています。

 従って、使用者が労働者に金銭を貸し付けた場合、賃金から貸付分をあらかじめ控除することはできません。しかし、労働することが条件となっていないことが明白な場合は本規定は適用されません。

 明らかに身分的拘束を伴わないものは、労働することを条件とする債権には含まれません。 

 使用者が労働組合との労働協約の締結あるいは労働者からの申出に基づき、生活必需品の購入等のための生活資金を貸し付け、その後この貸付金を賃金より分割控除する場合においては、その貸付の原因、期間、金額、金利の有無等を総合的に判断して労働することが条件となっていないことが極めて明白な場合には、この規定は適用されません。  事業主が育児休業期間中に社会保険料の被保険者負担分を立替え、復職後に賃金から控除する制度は、著しい高金利が付される等により、その貸付が労働することを条件としている場合を除いて、一般的には前借金相殺の禁止には抵触しません。ただし、この場合は労使協定が必要となります。

 

○強制貯蓄の禁止

(労働基準法第18条)

 使用者は、労働契約に付随して貯蓄の契約をさせ、又は貯蓄金を管理する契約をしてはならない。

2 使用者は、労働者の貯蓄金をその委託を受けて管理しようとする場合においては、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、これを行政官庁に届け出なければならない。

3 使用者は、労働者の貯蓄金をその委託を受けて管理する場合においては、貯蓄金の管理に関する規程を定め、これを労働者に周知させるため作業場に備え付ける等の措置をとらなければならない。

4 使用者は、労働者の貯蓄金をその委託を受けて管理する場合において、貯蓄金の管理が労働者の預金の受入であるときは、利子をつけなければならない。この場合において、その利子が、金融機関の受け入れる預金の利率を考慮して厚生労働省令で定める利率による利子を下るときは、その厚生労働省令で定める利率による利子をつけたものとみなす。

5 使用者は、労働者の貯蓄金をその委託を受けて管理する場合において、労働者がその返還を請求したときは、遅滞なく、これを返還しなければならない。

6 使用者が前項の規定に違反した場合において、当該貯蓄金の管理を継続することが労働者の利益を著しく害すると認められるときは、行政官庁は、使用者に対して、その必要な限度の範囲内で、当該貯蓄金の管理を中止すべきことを命ずることができる。

7 前項の規定により貯蓄金の管理を中止すべきことを命ぜられた使用者は、遅滞なく、その管理に係る貯蓄金を労働者に返還しなければならない。

 労働契約に付随してとは、労働契約を締結したりあるいは存続させたりするときの条件とすることをいいます。  貯蓄の契約をさせとは、労働者に使用者以外の第三者と貯蓄の契約をさせることをいいます。

 貯蓄金を管理する契約とは、使用者が自ら直接現金を管理する契約や、使用者又は労働者の名義で金融機関に預け入れ、通帳又は印鑑を保管する契約をいいます。  なお、労働者の委託を受けて貯蓄金を管理する(労働者の意思によって貯蓄をする)ことは、所定の手続をとれば可能です。

 派遣労働者の社内貯金については、強制貯蓄の禁止規定は派遣元の使用者に適用されますので、派遣元の使用者は、法第18条に定める条件のもとに、派遣中の労働者の貯金を受け入れることができます。一方、派遣先の使用者は、派遣中の労働者と労働契約関係にないので、派遣中の労働者の貯金を受け入れることはできません。

 

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