就業規則(21)

第7章 退職金

 退職金制度を、作成して支給する場合には、その旨を就業規則に定めておかなければなりません。 

 退職金は法律上とくに支払いが義務づけられているものではないが、退職金制度を設ける会社は必ず記載しなければなりません。この場合、賃金と同様に、就業規則本体で詳細に定めるのではなく、別規程を作成しておくのが一般的です。(附属規程「退職金規程」)

 退職金規程では、

 ・適用される従業員の範囲

 ・退職金の決定・計算・支払方法

 ・支払いの時期

に関することを定めます。

 退職金は、金額が大きいだけにトラブルに発展し、最終的に裁判沙汰になることも少なくありません 。慎重に規定しましょう。

就業規則規定例

第○条 (退職金の支給)

 従業員が次の各号に該当する場合は退職金を支給しない。ただし、事由により減額して支給することがある  

(1) 就業規則第 条により、懲戒解雇された者

(2) 退職後、支給日までの間において在職中の行為につき懲戒解雇事由に該当する行為が発覚した者

(3) 就業規則第 条による退職手続を正等に行わなかった者

2 退職金の支払いは退職の日から3ヵ月以内とする。

 

注意すべき就業規則規定例

第○条 (退職金の支給)

・・・

2 退職金は、従業員が退職した後7日以内に支払う。

 退職金は賃金に該当し、労働基準法23条1項で「労働者の退職の場合に労働者から請求があれば7日以内に支払わなければならない」ものとされています。

 ただし、退職金は、支払期日を就業規則で明示していれば、その期日に支払うことが認められます。支払期日がない場合には、本人からの請求があれば7日以内に支払わなければなりませんので、支払期日は必ず就業規則に定めておくことです。

 退職金の支払時期については、就業規則(退職金規程)に定めた時期に支給すれば良いことになっています。

 在籍中の非行行為調査(懲戒事由行為の存在調査)に時間がかかることも考えられるため、2~3ヵ月程度の余裕を設けておくべきでしょう。

 パートタイマーに対しては、退職金を支払わない場合や別の方法により支払う場合には、その旨を定めておかなければなりません。パートタイマーを適用除外にしておかなければ、正社員と同様の退職金を支給することにもなりかねません。

 例えば、ある従業員が自主退職し、その後に会社のお金を横領していたことが発覚した場合において、その横領について懲戒解雇に処し退職金も不支給にしようと思っても、自己都合退職が成立してしまった後ゆえ懲戒解雇が無効で、退職金不支給にはできないということがあり得ます。就業規則の規定で「懲戒解雇の場合、退職金を不支給とする」とした場合、「懲戒解雇」は現役社員にのみ対象となる表現の為、退社後の従業員には引用する事が出来ません。そこで、ポイントは「懲戒解雇」ではなく「懲戒解雇事由」という文言です。就業規則の退職金規定には後になって不正が発覚した場合にも対応できるようにしておきます。「懲戒解雇事由に該当する行為が発覚した場合」とすれば、退社後に非行が発覚した場合でも退職金の返還などが認められることになります。

就業規則規定例

第○条 (退職金の不支給、減額)

 従業員が懲戒解雇に処せられたときは、退職金の全部又は一部を支給しない。

2 従業員が退職した後であっても、在職中の行為が懲戒解雇事由に該当すると判明した場合、退職金の全部又は一部を支給しない。この場合、既に支払っているものについて、会社は返還を求めることができる。

 内部機密を熟知した従業員が同業社に引き抜かれ、この機密を利用すれば、会社が大きな損失をこうむることは容易に想像できます。これに制限を加えたいと考えるのは会社の自衛として当然でしょう。しかし憲法に職業選択の自由が定められているため制限を加えることは、難しいと考えられますが、はたしてどう判断されるのでしょうか?  やはりこの場合もまず第一に就業規則に競業禁止規定が定められているかが問題になります。もちろん定めていない場合、返還請求は無効です。

 競業禁止規定は「退職後一年以内に同市内の同業他社へ就職した場合または同種の事業を開始する場合には、退職金を減額または不支給とする」といった定めをし、禁止する期間・場所的範囲・職種・代償の有無を特定します。しかし、職業選択の自由も認められているため、この条項は必要最小限のものでなくてはなりません。「日本国内で10年間禁止する」というのは認められません。  そしてこの場合の不支給ですが、よっぽどの事情が無い限り減額は認められますが、全額不支給にするのは難しい事案だと考えられます。

 競合避止や守秘義務を徹底させるため、退職金の支払いを一定期間留保する取扱いも考えられますが、全額払いや職業選択の自由を不当に拘束するものと解されるおそれもあり、退職金の一部については、退職年金のように分割払いとして支払時期及び回数を段階的に定め、離職時に取り交わした誓約書や契約書とあわせて運用を図ることが無難といえます。

 

 退職金不支給や減額の規定 業務の引継ぎを完了しない場合の、退職金不支給や減額の規定を定めます。

 判例

 「退職願提出後、14日間正常勤務しなかった者には、退職金を支給しない。」という旨の定めが有効とされた(大宝タクシー事件:大阪高裁)。

 

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