孫子・計篇(第一章)」に読むビジネスリーダー
経営は企業の大事である
営業活動は、企業にとって一番大切なものである。営業活動なくして企業は成り立たない。従業員全員の生活がかかり、企業の存亡に関わる 命がけの仕事なのである。
経営者は、企業の存亡をかけた大きな決断をする際に、一時の欲望や感情に駆られることなく、様々な角度から慎重に検討したうえで、決断すべきである。
孫子は、戦争の重大さについて触れ、それを徹底して研究するのは当然のことであると指摘している。孫子の言う兵、戦争は、現代の企業では「経営」と置き換えることができる。
『兵とは国の大事なり。死生の地、存亡の道、察せざる可からざるなり。故に、之を経るに五事を以てし、之を校ぶるに計を以てして、其の情を索む。』(第一章 計篇)
戦争は国家の一大事で、国民の生死、国家の存亡にも関わってくる。細心の注意を払って検討に検討を重ねなければならない。
戦うということはお金も人も資源も多くのものを使います。ビジネスも同じ。だからこそ、じっくりと行うべきかどうかを考える必要があります。
事業とは、「社会貢献という利益」を与えることにより、その「対価としての正当な利益」を得ることが目的(大義名分)である。
経営において、情報の収集とその活用は成果を実現させる最も大切な要素であって、マーケティングの最も根幹をなす考え方です。顧客が何を欲しているかという情報がわかれば、「百戦してあやうからず」の状況が実現されます。最小の経営資源で最大の成果を得るのは、情報が最も肝要な要素であり、時代を超えて基本戦略になります。
現代の経営においても、競合他社と戦う前に本当に戦うべきかよく検討する必要がある。価格競争のような消耗戦を仕掛けて目の前の戦いに勝ったとしても、それは自社の利益が減り経営体力を奪うことに繋がります。 たとえそれで何度か勝つことができても、そのような戦いを続けていれば、いずれ滅びることになるでしょう。 以上を心得ている経営者が社員を動かす場合は、ちょうど満々とたたえた水を戦陣の谷底へきって落とすように、万全の体制を整えて、一気に集中して、目標達成に向かって活動させる。だから成功するのである。成功する事業は、万全の体制を整えて事業活動を行っているから成功する。失敗する事業は、基本をわからずに活動しているから失敗するのである。
五事と七計
五事
戦争に突入するかどうかの判断をするための5つの基本事項を説きます。
孫子は、存亡を左右する戦争において、徹底研究すべきテーマを5つ挙げております。「道・天・地・将・法」の5つの条件が整っているかどうかで、戦争をするかどうかを判断することが大事と言っています。
『一に曰く道、二に曰く天、三に曰く地、四に曰く将、五に曰く法。道とは、民をして上と意を同じくせしむる者なり。故に之と死すべく、之と生く可くして、民は詭わざるなり。天とは、陰陽、寒暑、時制なり。地とは、遠近、険易、広狭、死生なり。将とは、智、信、仁、勇、厳なり。法とは、曲制、官道、主用なり。凡そ此の五者は、将は聞かざること莫きも、之を知る者は勝ち、知らざる者は勝たず。』(第一章 計篇)
企業経営においては、
1 経営理念や組織としての使命感
2 時流、トレンドや環境変化
3 事業構造や競合状況
4 経営者やリーダーの資質
5 組織体制や制度・規則
と考えれば良いでしょう。
第一に、経営理念や使命感が明確になっていて、社員と共有されていなければならない。自社が何のために存在し、どこへ行こうとしているのか、それによってどのようなプラスが世の中に生じるのかを明らかにしなければならない。真・善・美を感じる仕事をするからです。
第二に、それが時流やトレンドに合っているかどうかを考えてみる。理念や使命感の発露を時流や環境に合わせると言っても良い。真はともかく、善や美は時代によって移り変わる。独りよがりな思い込みでは経営にならない。
第三に、自社の事業構造、収益構造を見直し、競合とのポジショニングを考える。自社の収益構造がどうなっているのかをつかみ、利益を生み出す仕組みというものを知ること。その上で競合との差別化を考える。
第四は、経営者、管理者について考えます。物事の本質を見抜く智。部下や取引先からの信頼。部下を慈しみ育てる仁の心。困難に立ち向かい信念を貫く勇。組織を動かすルールを徹底し処断する厳しさ。人の上に立つ人間が「智・信・仁・勇・厳」の要素を有しているかどうかを見る。
第五には、組織体制や制度・規則が有効に機能しているかどうか。人事と言っても良い。何を評価し、それをどう処遇するかが明確になっていて、それが戦略と整合しているかどうかが重要である。
「道」とは道義のこと
「道」とは、民の意志を統治者が考えている意志に同化させること。平時からこれが実現されていれば、戦時において、統治者の命令について民衆が疑いを抱かずに、行動させることが可能になる。ビジネスに置き換えると、上司と部下のコミュニケーションを円滑にして、メンバー全員のベクトルを一致させることが大切だと説いています。
孫子は上に立つものと民衆の心がひとつになることが肝心だと説いています。
リーダーとメンバー、マネージャーとリーダー、役員と社員など、立場が違っていても、同じ方向を向いている組織は強い組織であると解釈できます。
どうやって同じ方向を向いているチームを作れるのでしょうか? 同じ方向を向いているとは、メンバーとリーダーが共通の目標を共有できており、同じ認識を持てている状態だと仮定することができます。
組織として、共通の目標があり、上司や部下ともに認識が合っていることが大事です。
新しい組織やなかなか成績の出ないチームでは、以下のようなことはないでしょうか?
・メンバーに部のミッションが伝わっていない
・危機的状況にも拘わらず全くメンバーに一体感がない
・営業メンバーがなかなか成長しない
その戦争に納得するだけの「大義名分」があるのか? 大義名分があれば、国民も納得し賛成してくれるはず。そうすれば、「主君と生死をともにする」という気持ちにもなる。 ビジネスで言えば、そのビジネスをやってなんの問題が解決し、誰が幸せになるのか?
ミッションやビジョンがしっかりとあるのかどうかということ
事業理念 ビジョン 製品で実現する未来 顧客の欲求
理想的な社会組織としての理念を誠心誠意つくり、社員に明示する
会社の理念を明示し、全社に周知徹底させたうえで、経営計画の「道」、すなわち目標を設定します。
一つは、自社の生存領域を明確にすること。それが結果として会社のアイデンティティを形成・強化することにつながります。
もう一つは、他に類のない価値の創造を見据えることです。
この二点を踏まえて、経営計画の目標を設定すれば、組織は知力を尽くした創造活動の場となり、新しい商品・サービス・システム・ビジネスモデルが次々と生み出されるようになります。
「天」とはタイミングのこと
時流や季節、天気などを考慮して今すべきことなのかどうか? ビジネスで言えば、世界情勢、時代の流れ、成長市場なのか、衰退市場なのか。社長個人レベルで言えば、自分の人生の中で今すべきことかどうかということ。天とは「強み」が活きかつ活かされる機会です。
世の中の情勢 マクロ環境(政治、経済、社会、技術など)
「地」とは場所のこと
どの場所でことを起こすのか? 場所の優位性、地の利があるのか? ということ。 ビジネスで言えば、どの市場に参入するのか? ということ。細かいレベルで言えば、どの地域で店を出すのか? ネットか? 女性向けか? なども場所、市場ということです。
戦う場所の状況 ターゲット市場 既存のバリエーション 競合分析
「将」とはリーダーのこと
リーダーが立派かどうか、信頼されているか? ということ。いかなる優れた戦略であっても、リーダーがマヌケではうまくはいかない。ビジネスで言えば、社長やプロジェクトリーダーが信頼される人物か? 指揮をとることができる決断力を持っているか? ということ。
社会人にリーダーとして求められる5つの資質(要素) 智・信・仁・勇・厳
将軍とは、知謀、信義、仁慈、勇気、威厳などの器量を備える者である。
将軍に必要な素養は、知力、部下からの信頼、部下を思いやる心、勇気、部下から恐れられる威厳、この5つであると孫子は説いています。これは現代のリーダーにおいてもそのまま当てはまる条件です。「知力だけでなく勇気(実行力)が必要」「部下から恐れられるだけではなく、信頼が必要」。5つをバランスよく備えるリーダーでありたい。
・社会の情勢や求められる仕組みなど常に外にアンテナを向け(智)
・社会のルールを守り(厳)
・難しいプロジェクトや仕事にも前向きに挑戦し(勇)
・独りよがりな仕事、立場を利用しない(仁)
・事を肝に銘じて動いていれば社会からの信頼も受け入れてもらえる(信)。
「法」とは軍の力のこと
軍の能力はどうか?ということ。戦争を実行するのは軍。軍が強いかどうか? 武器は?資金は? 編成は? 配置は? 足の速さ、食料は? と言った様々な要素で軍の力は決まります。
ビジネスで言えば、業態と組織のこと。武器は商品サービス。マーケティング戦略の実行、マネジメント、オペレーションといった実行に関することです。
これらの条件が揃って、初めて戦いに出る決断ができると孫子は言っています。相手と自分を見比べて、これらの基本的な条件をどちらが満たしているかで、勝てるか勝てないかの判断をする。「勝てない戦争はしない」というのが孫子の鉄則ですから、おのずと戦争をするかしないかの決定もすることになります。
勝敗の鍵は「道」「天」「地」「将」「法」にある。この五つの要因を企業にも通用する言葉で言いかえれば、「道」が『理念』、「天」と「地」が『環境』、「将」が『現場の指揮官』、「法」が『経営システム』ということになる。これらの定義は、現代のビジネスにおいての組織のあり方や、戦略の進め方にも通用する普遍性を持ったものであるといえます。
企業経営について考えるなら、『戦略』をあげることができる。
理念、戦略、現場の指揮官、経営システム、この四つが経営の成否を決める企業の内部変数で、企業を取り巻く外的要因として環境があると孫子の言葉を読み解くことができる。孫子は、道あるいは理念を最も大切と考えている。
孫子の説く五事は、事業計画や商品計画にも応用できます。
事業計画
「道」・・・他にない価値は何か
「天」・・・社会のどのようなニーズに応えるか
「地」・・・市場におけるポジショニングをどう取るか
「将」・・・発揮すべき必須の能力は何か
「法」・・・どういう組織で行うのがベストか
商品計画
「道」・・・商品コンセプトをどうするか
「天」・・・どのようなトレンドに応えるか
「地」・・・自社の既成商品に対して、どのようなポジショニングを取るか
「将」・・・どんな能力のある者をリーダーにするか
「法」・・・商品が優位性を持つための条件は何か
七計
「七計」は、敵対する相手との戦力比較をするための項目です。
ビジネスの場合、明確な商売敵が存在する場合は少ないので、五事と同じように自らのとして考えればよいと思います。
1.リーダーは人々の心をつかんでいるか
どちらの経営者の経営が良いのか
どちらの価値創造が素晴らしいか
自分たちの商売は、お客様に支持されているか
2.将軍が優秀か
どちらの役員が有能なのか
→良い人材を幹部登用しているか
3.戦う環境が有利か
どちらが外部環境やマーケット環境に合致しているか
→市場の状況
4.ルールや仕組みが守られているか
法令が行き届いているか
→組織力、意思決定の早さ
雇用者がいるときのルールは徹底できているだろうか
5.兵力は大きいか
どちらの営業力・開発力が強いのか
→社員の資質、胆力
雇用者のスキルチェックを確認し、戦える武器(ビジネスツール)を用意できているだろうか
6.兵士が訓練されているか
どちらの組織力が強いのか
→社員の熟練度
雇用者の訓練を行い。常に最善の対応ができるように鍛えてやれているだろうか
7.賞罰が分かりやすく行われているか
賞罰はどちらが公平に行っているか
→報奨、適正評価・査定
競争・交渉をうまく進めるには
様々な駆け引きを持って得られる『勢い』は、有利な情況を見抜いた上で臨機応変に対応することで生まれるものである。ビジネス上で「これだけは譲れない」という一線を決め、そこに引き寄せるために臨機応変に対応していくことが重要です。
『将 吾が計を聴くときは、これを用うれば必ず勝つ、これを留めん。
将 吾が計を聴かざるときは、これを用うれば、必ず敗る、これを去らん。
計 利として以て聴かるれば、乃ちこれが勢を為して、以て其の外を佐(たす)く。勢とは利に因りて権を制するなり。』(第一章 計篇)
もし、(呉王が)私の兵法を聴き入れるなら、私は将軍として軍隊を率いて必ず勝利する。ゆえに、この地に留まろう。もし、(呉王が)私の兵法を理解し受け入れないのであれば、たとえ私が将軍となっても必ず敗北する。ならば、この地を去るしかない。
孫武は、呉王に対して泰然と自分の採否の決断を迫りました。5つの要点をもとに自分のモノサシ(判断基準)を定めたら、安易に意見を曲げることなく、異論に対して自らの考えをきちんと主張しましょう。孫武のように「聞き入れないのなら辞めてやる」くらいの覚悟が時には必要です。孫子は国王に迎合してまで将軍になろうとはしなかった。戦争の素人である国王がプロである孫子の言うことを聞かないようでは戦争で勝てないからです。あくまでも孫子の考えを理解し、賛同してもらわなければならない。それが先決であって、もしそれができないなら、自ら去ると宣言した。
経営とは相手を欺くこと
『孫子』では、「戦争とは、敵を欺く行為である」と書かれており、戦争の本質を「詭道」だとしています。また、「戦争はまず正攻法で相手にあたり、奇策によって勝利する」ともいい、真向から勝負するのではなく、意表を突くことを説いております。
作戦なしに戦うことによって、両軍に被害が生じ、利益の損失が発生することを避けよといっています。ビジネスにおいても同様だといえるでしょう。
『兵とは詭道なり。故に、能なるも之に不能を示し、用いて之に用いざるを示す。近くとも之に遠きを示し、遠くとも之に近きを示し、利して之を誘い、乱して之を取り、実にして之に備え、強にして之を避け、怒にして之を撓し、卑にして之を驕らせ、佚にしてこれを労し、親にして之を離す。其の無備を攻め、其の不意に出づ。此れ兵家の勝にして、先には伝う可からざるなり。』
孫子の言う詭道とは 相手を欺くこと。ここで言う相手とは、競合先と顧客の二通りで考えることができる。こちらの動き、実力、考えなどを競合先に悟られないようにし、相手の裏をかかなければならない。馬鹿正直にこちらの手の内を見せるようなことをしてはならない。
相手の手の内を読みながら、こちらはその裏を行く詭道で攻める。攻めると見せかけて退き、出来ないと思わせて、裏で虎視眈々と準備を進めるのです。それぞれ、強くとも敵には弱く見せる、遠方にあっても近くにいるように見せる、低姿勢に出て敵を驕らせる、相手の無防備を攻めたり予想していないところに出るということで、すべて相手を欺き、相手の裏をかくような行動である。
相手を顧客とした場合、顧客満足とは顧客の期待を超えることであり、顧客の期待を良い方向に裏切る詭道である。期待に応えるとは予想通りということであって、不満足は生まないが満足度を上げることにはならない。顧客の評価は、事前の期待値と商品なりサービスなりを購入した後の実績値とのギャップの大きさによって決まる。高いものが上等だったり美味しかったりするのは当然である。 普通は商売だから、顧客の期待値を高めようとする。当然のことであって、それが悪いわけではないが、詭道ではない。敢えて期待値を下げてみることもあってよい。
顧客が考えていないことを考えよ。顧客にニーズを聞いているようでは、ただの御用聞きである。
顧客を良い意味で裏切り、欺くことができなければならない。そのためには、顧客をよく理解し、自社の商品力を高めておくべきなのは言うまでもない。
戦はあくまで敵を倒すことを目的とするものである。しかし、企業の競争は競合相手を打ち負かすことが目的ではない。顧客を獲得すること、顧客の満足を競合相手よりもより多く勝ち取ることを目的としている。競合相手を負かしても、顧客にそっぽを向かれるのなら、戦略に意味はない。顧客を欺き裏をかくのは、企業戦略の基本にもとる。顧客を相手に偽りの道は長期的には成立しない。しかし、競合相手の裏をかく、競合相手の動きを巧みに利用する、という意味での詭道は、戦略としてありうる。競合相手の裏をかいて、より顧客の満足を勝ち取るという意味での「詭道」である。
あるいは、「顧客を驚かす」という意味での詭道ならば、戦略としてありうるでしょう。
顧客が新しい製品を使って、「大いに驚き、感動する」ことで、市場は大きく動く。それではじめてイノベーションが実現するという。
情報戦を制せよ
戦力は、ビジネスにおいては資金力であったり、社員のスキルであったりします。例えば、新規事業に参入しようとすれば、経営者は事業計画書を策定します。勝算(=ビジネスでの成功)の見込みを立てるには、自社の競争力、ライバルの動向などマーケットの状況をつぶさに調査しなければなりません。
また、戦場においては、戦闘がビジネスで新規事業をスタートさせたときは、市況などが刻一刻と変化していきます。指揮官はその状況を見極めながら、臨機応変な対応を取らなければなりません。戦い方を変えなければならないこともあれば、時には撤退も考えなければなりません。そういった判断を正しく下すには「情報力」が必要です。
戦略を立てるには、戦況やマクロ環境の情報をいかに集めるかというのが重要になります。
ただし、単に調べものをすることだけではありません。戦う相手も同じように情報を集めているのですから、まさに「情報戦」を勝ち抜く必要があるのです。それゆえ、強くとも敵には弱く見せかけ、勇敢でも敵には臆病に見せかけ、近づいても敵には遠く見せかけ、遠方にあっても敵には近く見せかけ、敵が利を求めているときにはそれを誘い出し、敵が混乱しているときはそれを奪い取り、敵が充実しているときはそれに防備し、敵が強いときはそれを避け、敵が怒りたけっているときはそれをかき乱し、敵が謙虚なときはそれを驕りたぶらせ、敵が安楽であるときはそれを疲労させ、敵が親しみあっているときはそれを分裂させる。こうして敵の無備を攻め、敵の不意をつくのである。
競争に勝つには、したたかな駆け引きが必要である。経営とは、良い意味で相手を欺くことであって、相手の考えていないことを考え、新たな価値を生み出すことで驚きを与えるものでなくてはならない。当り前のことができていないのでは話にならないが、当り前のことを当り前にやっているだけでは、儲けることはできない。差別化、差異化、独自性と考えれば、企業経営においても必須であることが分かる。
計画失くして経営なし
机上で勝ちがイメージできないのに、実戦で思うように事が運ぶはずがない。計画なくして経営なしである。
計画性のない投資は失敗します。成功するためには、慎重に計画し、リスク管理を徹底し、勝算を立ててから投資すべきです。
孫子の兵法では、当たって砕けたら死ぬ、負けたら死ぬ、という命がけの判断にあるという。経営者は社員の命を預かっていると考えてみてはどうか。管理職は部下の命を預かっていると考えてみよう。勝てるかどうかも分からない戦いに社員や部下を追いやるだろうか。戦場に投入する前に、勝てるかどうかを吟味し、慎重に命令を下すのではないか。きちんとストーリーを描き、計画を立てて、シミュレーションしてみるのではないか。
そもそも、計画やストーリーは、その通りに行くことだけのために作るものではない。少しでも計画からズレたら、すぐそれに気付き、早めに修正を行えるようにするために計画がある。ズレるから計画するのであって、計画通りに事が進むなら、なんでも思い通りになるということだから、計画など不要である。
机上の空論段階、すなわち計画策定段階で「勝ち」がイメージできないのに、実戦で勝つことはないし、社員が納得、得心して取り組めませんから、組織を動かすこともできません。まずは、勝つための戦略ストーリー、その展開計画を明確にしていきます。
『未だ戦わずして廟算(びょうさん)して勝つ者は、算を得ること多ければなり。未だ戦わずして廟算して勝たざる者は、算を得ること少なければなり。算多きは勝ち、算少なきは勝たず。而るを況や算なきに於いてをや。吾れ此れを以てこれを観るに、勝負見(あら)わる。』(第一章 計篇)
会戦もしないうちから廟堂で目算して既に勝つのは、五事・七計を基準に比較・計量して得られた勝算が相手よりも多いからである。
まだ戦端も開かぬうちから廟算して勝たないのは、勝算が相手よりも少ないからである。
勝算が多い方は実戦でも勝利するし、勝算が少ない方は実戦でも敗北する。
ましてや、勝算が一つもないというに至っては、何をかいわんやである。
こうした比較・計算によってこの戦争の行方を観察するに、もはや勝敗は目に見えている。