CS経営
顧客満足発生のメカニズム
多くの企業では顧客満足度向上を最重要課題のひとつとして捉えています。
そのために、さまざまな施策に取り組んでいる企業も多いでしょう。
顧客満足度を着実に向上させ、それを実際の業績拡大につなげていくためには、漫然と取り組むのではなく、「どうすれば効率的に満足度を上げることができるのか」「そもそも何のために満足度向上を図るのか」といった合理的・目的的な視点が必要になります。
1 顧客満足の源泉
顧客満足度とは、その言葉通り、顧客が自社の商品やサービスを購入し、実際に使用してみて満足できたかどうかを示す尺度です。
そして、顧客が「満足した」という感情をもつためには、使用後の評価が購買時の事前期待以上であることが基本的な条件になります。
「①事前期待>評価」のときには、期待以下の満足感しか得られなかったわけですから、「裏切られた」という不満が発生します。
「②事前期待=評価」では、期待通りですから一定の満足感はあるでしょう。
「③事前期待<評価」では、予期せぬ満足も発生し、顧客に大きな満足感を与えることになります。
顧客満足を得るためには、最低でも「②事前期待=評価」の状態が必要であり、さらに満足度を向上させるためには「③事前期待<評価」をめざすことが求められます。
2 高まる事前期待に応えていく
ここで注意すべきは、顧客の事前期待は時間と共に自然と高まっていくということです。
たとえば、80点の事前期待をもっている顧客に対して90点の商品を提供した場合、事前期待以上ですから最初は顧客も満足してくれるでしょう。しかし、時間がたつにつれて、顧客にとって90点の商品はもはや当たり前になり、事前期待そのものが90点に高まっていきます。ここで、さらに顧客満足度を高めるためには、100点の商品を投入する以外ありません。そして、さらに時間がたてば顧客満足度向上のためには、110点、120点の商品が求められることになります。これは非常に大変なことではありますが、高まり続ける顧客の要求水準を上回る商品を提供し続けることは、競合企業との決定的な差別化要因になります。
たとえば、A、B、Cの3つの競合する飲食店があって、ある顧客がたまたま訪れたB店で大きな満足度を得た場合、その顧客は次もB店に行きたいと考えます。
そして、実際にまたB店に来店して事前期待を上回る料理やサービスが提供され続ければ、その顧客に「食事をするなら絶対にB店」という気持ちが生まれます。
たとえ、A店、C店が強力な販促策を打ち出したとしても、この顧客の気持ちは簡単には揺らぎません。
顧客満足度を向上させていくための基本的な要件は、
・顧客の事前期待以上の評価を得られる商品を提供すること
・競合企業を上回る事前期待をもってもらうこと
にあるといえるでしょう。
顧客の事前期待を理解する
1 期待事項に沿った改善が不可欠
顧客満足度を向上させるための基本は、顧客の事前期待を正しく理解することです。
この部分が明確になっていないと、商品やサービスの品質をどのような方向性で改善していけばよいのかがわかりません。
満足度向上につながらない部分に注力することは、単なる自己満足であり、収益圧迫要因にしかなりません。
たとえば、飛行機のエコノミークラスとビジネスクラスの客がもっている事前期待に大きな違いがあることは容易に想像できます。
前者は、「目的地までできるだけ安く到着する」という経済性にもっとも大きな期待をもっています。
もちろん、快適であるに越したことはありませんが、そのために運賃が高くなることには納得してくれません。
逆に、快適さを意識したサービスを前面に出しすぎると、「その分を削ってもっと運賃を安くしてくれ」という感情をもつかもしれません。
これに対し、ビジネスクラスの客がもっている最大の期待は、「目的地まで快適に過ごす」ことであり、より快適に過ごせるのであれば運賃が多少上がっても構わないと考えています。
エコノミークラス の客を対象にした顧客満足度向上の最大のポイントは「経済性」であり、ビジネスクラスのそれは「快適性」ということになります。
同様に、機能性が重視されるビジネスホテルのロビーに高価な絵画を飾ることなどは、顧客からみればまったく無駄なサービスであり、満足度も高まりません。
2 事前期待を階層化する
実際に、どのような視点で雇客の事前期待を捉えて、それに応える商品やサービスを強化していくべきなのでしょうか。
顧客の事前期待は、3つの階層に分解することで理解しやすくなります。
(1)ベースとなる期待
自社が提供している商品やサービスに対する顧客のもっとも基本的な期待です。
飲食業であれば安全な食べ物を提供してくれること、製造業であれば仕様書通りの製品を納品してくれること、運送業であれば目的地まで確実に荷物を届けてくれることなどがそれに該当します。
いずれも「当たり前」の話ですが、会社側の手抜きや不注意でこの部分を維持できていないケースもあります。
実際に食品会社が産地を偽装したり、消費期限をごまかすといった事件は今も起こっています。
また、基本的な部分であるがゆえに、社長は「全社員が当然できているだろう」と考えて、大きな問題に発展するまで気づかない可能性もあります。
自社が「○○業」と名乗るにふさわしい商品やサービスを提供できているかについては、つねに確認しておく必要があります。
(2)自社の強みに対する期待
次にあげられるのが、競合他社に比べて自社が優れていると顧客が考えていることによる期待です。
たとえば、「競合に比べて短納期で対応できること」を強みとしている製造業者に対しては、顧客は当然ながらその強みを期待して注文します。
ここで実際に短納期対応ができれば、顧客は満足しますし、競合他社と同レベルの日数がかかってしまえば、大きな不満を招きます。
自社の強みを打ち出すことは、顧客への宣伝であり、顧客との約束でもあります。
自社が打ち出している強みに見合う商品・サービスを提供できているかどうかについての確認が大切です。
また、顧客は、時間経過と共に より高い事前期待をもつようになります。それに応えていくためには、強みに磨きをかけていくことが必要になります。
(3)個別対応に対する期待
顧客は、自分に対する個別対応も期待しています。標準的な商品やサービスを提供してくれるだけではなく、自分自身に何をしてくれるかという期待です。
自分の抱える個別具体的な問題を解決してくれることへの期待と言い換えることもできます。
個別対応に関する期待は、さらに、「①自分の特性に対応してくれる期待」と「②自分の状況変化に対応してくれる期待」に分けることができます。
まず、「①自分の特性に対応してくれる期待」です。
たとえば、飲食店の常連客のなかには、特定の食材を苦手としていたり、肉の焼き加減にこだわる人もいます。
このようなお客様に対して、店側が「Aさんはガーリックが苦手で、肉はウエルダンが好き」ということをわかっていれば、顧客からいちいち頼まれなくても、顧客の特性に応じてアレンジした料理を提供することができます。
顧客は「この店は自分のことを理解してそれに応じた対応をしてくれている」という満足感をもちます。
たんにガーリック抜きのメニューも選択肢としてあるということではなく、黙っていても顧客の好みに応じた料理が自動的に提供されるというのがポイントです。
次に、「②自分の状況変化に対応してくれる期待」です。
たとえば、通常は「100個の部品を2週間で納品している」顧客から、事情があって「200個の部品を1週間で納品してほしい」という依頼があったとします。
顧客は、無茶な注文であることは自覚していますが、「緊急事態であり何とかしてほしい」という期待をもっています。
このような期待に何とかして応えようという姿勢をみせること、そして、実際にできるだけ雇客の要望に近い形で納品することで、顧客満足度は大きく上がります。
「あの会社はどんなときでも頼りになるパートナーである」、という信頼感を勝ち得ることができるのです。
ただし、特に「②自分の状況変化に対応してくれる期待」に十分に応えるためには、会社側に求められる負担も大きくなります。
特に注力すべき顧客の重要度を見極めることなどが必要になります。
組織的な顧客満足度向上活動
顧客満足度向上活動は、特定の社員が自主的に取り組んで、結果として全社の満足度が上がっていくという流れではなく、会社全体として、「どのような目標に向かって」「いつまでに」「どのように」改善していくか、という計画的な取り組みが必要になります。
1 顧客を分類する
一般的に、既存顧客は、「ロイヤルユーザー」「リピーター」「トライアルユーザー」に分けることができます。
そして、それぞれの層に対して、効果的かつ効率的な満足度向上策を講じることで、「ロイヤルユーザー」の数を増やしていくことが顧客満足度向上活動の最終的な目標となります。
それによって、
・ロイヤルユーザーからの安定受注が拡大する
・ロイヤルユーザーからの紹介による新規顧客を獲得する
・顧客満足度を高める活動を通じて自社の経営力を高める
ことなどが可能になります。
「ロイヤルユーザー」
多数の購買履歴があり、自社に対して十分な信頼をもっている。自社の対応に余程の不手際がない限り、競合他社へ乗り換えることはない。
「リピートユーザー」
2回以上の購買履歴がある。自社に対して一応の評価はしているが、ロイヤルユーザーほどの信頼感はもっていない。
「トライアルユーザー」
自社から1何だけ購入したことがある。リピートオーダーするか迷っている、あるいは、リピートせずに他社に乗り換えた。
「見込み客」
自社に関心があるが、まだ利用したことがない。
「潜在顧客」
自社を知らない、あるいは関心がない未利用客。
このように自社の顧客を分類し、
・ロイヤルユーザーやリピートユーザーを いつまでに何社増やすかを決めること
・そのために、どのような施策を展開するかを計画すること
が顧客満足度向上施策の根幹になります。
2 顧客層分類に応じた施策を検討する
自社の顧客を分類できたら、それぞれの層に向けどのような満足度向上施策を展開していくかを検討します。
その際には、顧客が自社に対してもっている「①べースとなる期待」「②自社の強みに対する期待」「③個別対応に対する期待」に分けて、顧客は具体的にどのような事前期待をもっているか、それに対して十分な対応ができているかどうかを考えます。
そのうえで、満足度向上のためにそれぞれの顧客層に対してどのような施策を展開するのかを検討していきます。
本来であれば、すべての層の顧客に対して◎の対応をすることが好ましいのですが、たとえば、「③個別対応に対する期待」への対応について、トライアルユーザーにまで万全を期していくことは企業にとって大きな負担になります。そこで、絶対に手放してはならないロイヤルユーザーに対しては、手厚く接するなど顧客層に合わせて施策に強弱をつけていくことが大切になります。
ただし、トライアルユーザーのなかでも、会社の規模や成長性などから判断して、将来的に特に重要になると考えられる顧客に対しては、早い段階から特別な対応をしていくことが求められます。
3 部門計画・個人計画に落とし込む
ここまでの段階で、自社の顧客満足度向上に対する基本方針が明らかになったことになります。
これを全社員に徹底させるために、現在抱えている顧客に対して、具体的にどのような活動を行っていくかを計画させます。
その際には、「自分が担当しているAという雇客は現在リピートユーザーの段階であり、これを3ヵ月後にロイヤルユーザーにするためにこのような施策を行う」ということを個人レベルまで徹底させます。
単なる努力目標として「日々の活動によって満足度を向上させていく」、という漠然としたスタンスではなく、「いつまでにどのような施策でステップアップさせる」ということを計画として、明確に意識させることが大切です。
CS経営の効果
A社とB社という企業があり、仮にA社の商品、B社の商品ともに同じ価格、同じ品質、同じイメージであったとした場合、例えば、A社の商品を購入することによって、何らかの付加価値・サービスが得られ、より高い満足度が期待できれば、消費者はA社の商品を購入することになります。
A社の提供する商品やサービスに満足した顧客は、再びその企業の商品やサービスを購入するようになり、固定客となります。
満足度が高ければ高いほど、固定客が増加し、その結果収益の増大が図れるのです。
また、もう一つの効果は、CSによってその顧客は家族や友人など他の人に満足を話し、それによってよい口コミとなり、新しい顧客の獲得につながることです。
口コミの効果は絶大で、「満足した顧客は、最もよいセールスマンです」というセールスの名言がありますが、この名言どおりの効果が期待できます。
反面、顧客の満足が得られなければ、一人の顧客を失うだけでなく、悪い口コミにより、多数の見込客を失うことになります。
CSのメリットの第二は、最小の費用で最大の収益が得られることです。
収益を上げる方法には、
(1)新規顧客を開拓して収益を増やす方法
(2)既存の顧客のCSを高め、1人当たりの収益を上げる方法
の2つがあります。
(1)の方法は、市場が成長期にある場合は容易に開拓することができました。しかし、現在のように市場が成熟期に達すると、成長期のように簡単にいかず、それにかかるコストも多くなります。
それに比べて、(2)の方法は、ターゲットがはっきりしており、効率的にアプローチができます。
顧客の満足を高めるために費用はかかるものの、1の方法より小さくてすみ、効果も大きいといえるでしょう。
また、CS度を高めることによって、口コミにより、新規顧客を開拓することも期待できます。
CS経営とは、顧客の満足度を高める経営です。つまり、「自社の提供する商品・サービスなどについて、顧客がどれくらい満足したか、顧客の満足度を調査し、その結果にもとづいて、不満足な点を改善し、より高い顧客の満足を追求していく経営」といえます。
顧客満足の構成要素としては、
・商品・サービスの直接的要素
・企業イメージの間接的要素
の2つからなります。
これらの要素を総合したものがCSなのです。
以前は、商品のハード面としての品質、機能、価格などのウエートが大きく、商品の品質がよくて、価格が安ければ、それで顧客の満足は得られました。しかし、市場が成熟化してきており、すでにハード面だけではCSが得られないのが現状です。
CS達成においては、商品のソフト面のデザイン、カラー、使いやすさなどや、購入時の店の雰囲気、店員の応対マナーといったサービス面のウエートが高まっています。
また、商品・サービスといった直接的要素に加えて企業イメージなどの間接的要素も重要となっています。
CS経営の導入と推進
1 CS経営推進の手順
CS 経営を導入し、推進していくには、顧客の視点に立って新たな経営のシステムづくりを行う必要があります。
出発点は、社長の「CS経営確立」という強い意思に始まり、CS経営推進の組織をつくり、全社員のマインド醸成を行い、意識改革を図ります。
次に、顧客満足度調査を行い、どこに自社の問題点があり、顧客が何を望んでいるかを的確に把握し、それぞれの問題点の改善、顧客の要望の実現への改善計画を立て実施することとなります。
改善計画が実施されれば、一応問題点は改善され顧客満足の向上は図られます。
そして、その時点からさらに新しいCS項目への挑戦の始まりともなるのです。
(1)CS経営理念の確立
CS経営の成功事例からいえることは、いずれも経営トップが先頭に立って、確固たる信念にもとづいてCS経営理念の確立に当たったことです。
トップ自らが「CS経営とは何か」を理解し、「どうすれば顧客の満足が得られるか」、全社員と一丸となって実施することによって成功することができます。
(2)CS経営の組織
CS経営を推進するには組織が必要です。
CS委員会の発足を推進のスタートとし、委員長は企業トップがなります。
CS委員には取締役や各部門の部長がなり、横断的な組織とします。
この委員会によってCS向上の内容が検討され決定されるわけです。
決定された事項は各部門において実施されることとなります。
さらに、CS委員会をスムーズに運営するために事務局を置き、CSマインドの醸成などを含めた活動をさせます。
(3)CSマインド醸成
CS経営に対するトップの確固たる信念が全社員に理解され、行動に移されることが必要です。
このような方向に進むためには、経営トップが、「いまなぜCS経営なのか」「CSとは何か」について優しく語りかけることが求められます。
そして、「顧客の満足に向けて当社は何をすべきか」という企業目的を明確にし、「それに向かって全社員が担当分野で何をすべきか」を明示することが必要です。
CSの行動基準をより徹底するためには、わかりやすい言葉で表現することが大切です。
(4)CS調査
CS理念が確立され、CSマインドが醸成されると、次は、顧客の満足度を測定したり、顧客の要望を知るためのCS調査を実施します。
CS調査は、商品やサービスの改善計画の大切な資料となるため、十分な事前準備のもとに行う必要があります。
CS調査は、次の三つの原則に基づいて行います。
①継続性
定期的に、しかも継続的に行うことであり、これによって顧客の満足度の状況や問題を時系列的に把握でき、比較検討ができます。
②定量性
前年度との比較や時系列的な傾向を知るためには、調査結果が数字で表わされているとはっきり比較することができます。
顧客の満足度を定量的に把握するには、質問項目を設定し、3~5の回答項目によって、「大いに満足」は5点、「満足」は4点、「やや満足」は3点、というような評価点をつけるのがよいでしょう。
こうすることにより、どの項目が満足度が高く、どの項目が低いかを知ることができます。
③正確性
せっかく、時間と費用をかけて調査をしても、調査結果が正確でなければ意味がありません。
正確性実現のため、次の点に注意することが必要です。
・調査対象のサンプリング(抽出方法)が適切であるかどうか
・調査項目が経営実態を十分に調査できるものであるか
・調査方法が適切であるか
・調査担当者が適切であるかどうか
2 CS調査分析と商品・サービスの改善
CS調査分析を実施し、次は分析の段階に入ります。
分析の段階で問題となるのは、顧客の満足度のとらえ方です。
満足度は厳しく評価することにより、より正確性を期することができます。
例えば、「非常に満足」「満足」「やや満足」「やや不満足」「不満」の五肢択一のような場合は、「満足」までを満足度の点数に入れるようにすると良いでしょう。
また、回答者が特定の性別、年齢などの属性に片寄らないよう注意を払う必要があります。
過去のデータと比較して、全体および項目ごとに満足度が上っているかどうか、下っている場合は その理由は何か検討します。
そして、問題点を抽出し、問題点の改善に向かって改善計画を立てて実施します。
改善計画の段階の大切なポイントは、満足度の低い分野への迅速な対応です。
顧客満足度向上の必要性
CS向上でお客様に選ばれる企業にならなければ今後生き残っていけない、ということについては、誰もが頭では理解していても、実感はなく、危機感がないまま これまで通りの企業活動を続けている会社が多いのも事実です。
1 マーケットの縮小
1950年の8000万人から現在の1憶2800万人まで、年間100万人弱の人口増加と、一人当たりの給与所得の増加が、日本の個人消費の増加を生んできました。
しかし、人口は政府予想より早く2005年から減少に転じ、2050年の予測では8000万人程度にもなってしまうとの説もあります。
1年平均およそ100万人ずつ減少する計算になります。
2 顧客主導(お客様が主体的に判断する)
○マーケットの主導権はお客様に
日本経済が拡大していた時期とは異なり、物が溢れる時代では、消費者の好みも多様化し、選別も厳しくり企業のいいなりにはならない時代になっています。
お客様は、勧められても納得しなければ購入しない、自分で選んだものしか購入しないといった傾向が強くなっています。
○マーケットでは評判や口コミの噂が重要
お客様は、企業の宣伝文句を鵜呑みにせず、企業が宣伝をするよりも消費者の口コミによる効果が何倍も強いことは言わずもがなです。
また、お客様が不満の場合に、周りの人に言いふらす件数はが満足の時の何倍にもなると言われており、増幅されてブランドイメージを形成する影響があります。
企業は環境適応業
究極の目的である「永続発展」のためには、常に外部環境の変化に敏感でなくてはならないのです。
特に、顧客の動向はマーケットやライバルと並んで重要な要素です。
顧客が何を求めているか、何を評価するかという点に関しては、「顧客満足度」(CS)という切り口からアプローチすると分かりやすい。
顧客への貢献なしに企業の存続はありません。
企業活動を改善していく価値判断基準の中心には CSを据えて考えたい。
CS向上によるビジネスモデルの進化
CSについては、多くの会社で経営目標の一つとして、ビジョンや方針の中に掲げられることが多いでしょう。
しかし、トップが機会あるごとに「CSが大事だ」と社員に伝えたとしても、具体的に業務へ落とし込まれなければ、目に見える成果は表れにくいのです。
特に、「どのレベルまで顧客を満足させるのか」という点については、トップと社員の間でギャップが発生しやすい。
しかし、それ以上に、「今、携わっている業務で、何を進化させればよいのか」、という具体的な行動の変革を促す仕組みを細かく設定することが大切です。
なぜCSの向上が必要か、その入り口は何か
CSを高めるための社内改善に当たり、何から取り組むべきでしょうか。
ビジネスモデルをとらえる時、自社を大きく三つの要素で分けて検討するとシンプルに理解しやすくなります。
①事業戦略、②組織戦略、③収益構造で考えます。
事業戦略とは、「どこに(顧客)、何を(商品・サービス)」について検討することであり、組織戦略は、「誰(社員)に、どのように(経営システム)」させるかを検討することです。
事業戦略と組織戦略は常に進化させていかなければ、陳腐化していきます。
顧客に合わせて機敏に変化させていくことを「ビジネスモデルを磨く」と表現する。
変化の方向性は、
・どこに(顧客):顧客を新たに開拓したり、自社のよさを理解する顧客に絞る
・何を(商品・サービス):新たに開発するのか、既存のものを複合させて新たな付加価値を付ける
・誰に:どの社員に権限委譲するか
・どのように:業務活動を支えるコミュニケーションパイプ(会議)や経営システムを進化させる
などが挙げられる。
ただし、変化させても、自社の利益率が上がらなければ意味はないため、「収益構造」という要素を考慮しながら戦略を検討する必要がある。
このように、ビジネスモデルを磨くことは企業の永続発展に必要なことなのです。
では、「変化」の入り口は何にすべきか。それが「顧客にとっての価値」です。
お客様が感じている不便、不快、不満などを解消する。または、これまで以上に快適、便利、楽しくなるなどのプラス要素を付加する。
このように、顧客が価値を感じることを提供するという視点で、自社の「何か」を変更することを検討するアプローチが大事です。
CS現状認識の手法
CSを考える際に大切なのは、データを用いて何を導き出すかである。
1 CSドックとは
課題に対する本質的なアプローチを試みる場合、「ドック」という手法を用いることが多い。
「ドック」とは、人間ドックのドックであり、「点検を行い、異常事項を見つけ出し、修理の方針を出す」ことを指す。
経営全般を見直したい時には「経営ドック」、人事機能の場合では「人事ドック」、開発機能ならば「開発ドック」となる。
同様に、CSをしっかりと見直す場合には、「CSドック」となる。
CSを測定するには、さまざまな手法があります。
しかし、現象面だけをとらえていると、本質的な解決策に至らない恐れもある。
CSドックを用いることで、問題の核心を突いた対策が可能となる。
2 CSドックの構成
CSドックは、次の四つのパーツで構成される。
(1)仮説設定(目的の確認)
(2)現状認識
(3)改善の方向性
(4)突破口作戦の実行
一般に使用されるCSアンケートなどは「現状認識」の手法に含まれる。
CSアンケートだけでも十分な対策を得ることができるが、「ビジネスモデルを磨く」という視点から考えると、(1)~(4)のプロセスを通じ、本質的なアプローチをしていただきたい。
3 本質的なアプローチとは
本質的なアプローチを試みるとはどういうことか?
例えば、あるビジネスパーソンが体調不良を訴えた。彼の症状をつらい順に並べていくと、「熱が出やすい」「頭が痛い」「よく眠れない」「イライラしがちである」などが挙げられた。そこで、常に解熱剤を携帯し、症状が出るたびに飲むようにした。確かに熱は治まったが、頭痛や不眠症は治らなかった。しかも、新たに「定期的に胸が痛くなる」という症状が表れた。そこで彼は「なぜ体調不良が起こるのか」を考えた。突き詰めて考えると、直接の原因はオーバーワークにあった。なぜオーバーワークになるかと言えば、「部下が信用できず、自分で仕事を抱え込み過ぎる」という原因に思い当たった。そこで、「安心して仕事を部下に任せる」ことを目的に、自分の仕事の標準化と部下へのトレーニングを実施した。結果、多少時間はかかったものの、最終的にオーバーワーク分の大半を部下に引き継ぐことができ、症状は徐々になくなった。
「熱があること」に対する対症療法の処方箋の一つは「解熱剤を飲む」ことである。ただし、問題の本質を突いていないため、新たな症状が発生しやすい。
それに対して、対因療法の処方箋の一つが「自分の仕事を標準化する」ことである。発熱に対して「仕事の標準化」という対処法は一見結びつかない。しかし、本質的なアプローチを行えば、効果的な具体策を導き出すことができる。これを体系化したものが「CSドック」の手法である。
CSアンケートは有効な手段かもしれないが、症状ばかりが目につき、対策が対症療法になる恐れがある。せっかくCSの向上に取り組むのであれば、本質的なアプローチをお願いしたい。
CS現状認識の精度を上げる「仮説」の設定
1 仮説の設定はなぜ必要か
現状認識の入り口である「仮説設定」というプロセスを取り入れる重要性を説明する。
CSアンケートなどで顧客満足度を測ろうとする企業は多いものの、十分に生かし切れている企業は少ない。
原因の一つとして、「実施側の目的が漠然としている」ことが挙げられる。しかも、漠然としているという認識自体がない企業も多い。
CSアンケートを進める際、ここが最も議論となる点である。「取り敢えずやってみよう」という意見と、「アンケート設計のプロセスにこそ時間と知恵を投入すべきだ」という意見が衝突するのです。
例えば、日用品製造業のA社には直販部門があり、店舗を有している。その店舗の売上げ向上を目指し、来店者アンケートを実施した。アンケートの質問には、「店舗スタッフの接客態度はいかがですか? 5点満点 でお答え下さい」という項目をつくり、その集計結果は平均「3.5点」だった。この事実から何が分かるだろうか?
「お客さまは、A社の接客をそれほど評価していない」と結論を出す人がいるかもしれない。しかし、導き出された点数には あまり意味がない。つまり、この点数は活用できないデータなためです。なぜなら、集計後に「自社の何かを変えることを促す結論」が出せない質問項目だからです。次回のアンケートで同じ質問をすれば、「一定期間の顧客評価の変化」という比較はできるが、経営資源を投入する以上、同じ労力でより高い成果が出るように工夫したいものです。そのためには、アンケート作成時に、質問項目について議論する時間を増やす必要があります。
まず、そもそも「直販部門に何を求めるか」との議論が不足していたのではないだろうか。単純に、部門業績を追うための改善活動でよいのか、メーカーのアンテナショップとしての情報発信のあり方、顧客の要望を積極的に取り入れる仕組みのあり方まで考えた議論ができていたのか。そう考えると、アンケート作成に関わった部門や階層は正しかったのかという視点につながる。
CSアンケートは、「顧客の要望と自社の持ち味の接点を探る」という極めて高度な役割が求められる。よって、質問項目にはトップの考えが反映されなくてはならない領域である。
次に、「質問の仕方は、それでよかったのか」という視点も必要である。
仮に、「接客態度が重要な要素である」との結論が得られたとする。しかし、接客態度の点数を聞くだけでは、接客のレベルは分かっても、何が良くて、何が悪かったかが分からない。
2 仮説の設定プロセス
アンケートなどのCS現状認識ツールが「使える」ものであるためには、測定結果が自社の改善活動に利用できるものでなくてはならない。
アンケートの質問項目を何にするかを決めるには、判断基準が必要である。
その判断基準の元となるものが「仮説」である。
仮説は目的や時期(定期的なCSアンケートでも年により目的が異なる場合もある)によって変化していく。
仮説を設定するということは、「自社の経営目的を達成するためには、現在○○が不足している」という文章をつくることである。
経営環境が変われば、不足している要素も異なってくる。常に、成長や衰退の要因を自社で捉えておく必要がある。
仮説を立案する際に押さえておくべきポイント
(1)自社の経営理念・社是
自社が、存在意義・社会に対して提供している価値を再度認識する。売っているのは商品やサービスではなく、商品やサービスを通じた「何か」である。
その存在価値を押さえて仮説を立案する。
(2)経営方針
現在取り組んでいる年度目標を仮説に反映させる。
「今後も顧客に選ばれるためには、○○(年度目標の項目)を強化しなくてはならない」という仮説が導かれるはずです。
(3)業績
「現在の自社の業績が良い(悪い)のは、○○だからである」という仮説を設定し、実際に合っているかを確認する。
ただし、この仮説がアンケート結果とずれていることが多い。
「顧客が評価している自社の強み」が間違っていると、成長段階の変わり目で後手を踏むことになります。
(4)環境の変化
環境の変化により顧客が求めている要求事項の変化を押さえる。
「コスト」は当たり前であり、その次に求められていることが差別化項目です。
自社と顧客の認識のずれがないか確認する。
また、顧客が評価しているライバルの取り組みも押さえておくべきポイントです。
(5)新しい取り組み
新しく行っている、または行おうとすることに対する評価を問う。
新商品・サービスなどは、「自社の思い」から始まることが多いため、できるだけ早い段階でユーザーの意見を聞き、反映させることが望ましい。
これら5つを再認識した上で、再度「自社の経営目的を達成するためには、現在○○が不足している」という文章を作成してください。
もちろん、仮説は複数になっても構いません。
この仮説を検証し、経営活動の改善を促すために、アンケートやインタビューなどを実施する。
このようなプロセスでアプローチすると、精度の高い顧客コミュニケーションが可能となる。