会社経営における社内倫理

社内倫理(コンプライアンス)と会社経営

 個人情報の漏えい、ハラスメント、サービス残業など企業の不祥事が後を絶ちません。社会全体がモラルの低下に陥っている。

 社内倫理とは、社内における「行動の規範となる原理」のことです。

 社内(企業)倫理は、コンプライアンス(法令遵守)の訳語として用いられる時もあります。

 社内における原理ですので、当然それは各企業独自のものとなります。

 社内倫理は、規定として明文化されているケースや、不文律として社内に浸透しているケースなどがありますが、自社にあったスタイルであれば形式は問いません。
 もっとも重要なのは、自社の倫理をそれを定める背景となった理由や考え方とともに、社員全員に周知徹底させるという点です。

 どうしてその行為が許されないことなのかを全員に知らせ、例外の取り扱いや許容範囲について説明しなければなりません。

 今「社内倫理」が重要視されている。

 現代社会における企業経営を考えた場合、

 ・情報化社会への対応

 ・企業に対する消費者のイメージ

などが より重要になってきますが、これらは社員の考え方や行動に大きく左右されるという点で「社内倫理」と密接な関係にあります。

 したがって、社員に自社の倫理を定着させることは、現代の会社経営において非常に重要な意味をもっていると言えます。

 

社内倫理を考える視点

1 金銭に関する社内倫理

 金銭に関わる倫理は、企業にとってもっとも重要であるとともに備わっているべき基本的なものです。

 横領などの問題が表面化する前に「服務規律」や「権限規定」を明確に定め、徹底することです。

 特に、横領は、強盗や窃盗などのように他人が所持しているものを奪うのではなく、すでに自分が所持している現金などを使ってしまうという行為です。ちょっとした出来心から非常に発生しやすい犯罪といえます。それだけに、部下に金銭を扱わせる場合には上司の注意が必要となります。

 また、横領とまではいかなくても、その一歩手前ともいえる行為はどの企業でも決して珍しいことではありません。

 たとえば、「会社の備品を持ち帰り私物化する」「会社で私用電話をかける」など、どんな少額のことであっても会社の所有物を無断で私物化するなどの行為は問題です。

 こうしたことに対応するためには、

・金銭倫理に反した場合には、断固とした対応をとることを就業規則に明記する

・文房具など公私混同しやすいものについては、これも会社の所有物であるという認識を周知させるとともに備品管理をきちんと行う

・出金を伴う事項に関しては、必ず領収書をベースにして対応する

などの対策が必要でしょう。

 

2 情報に関する社内倫理

 情報の取り扱いに関わる倫理の欠如は、インサイダー取引(企業の内部関連者が未公開情報を利用して行う株式の不公正取引)といった大きな事件につながる可能性もあります。

 たとえば、「会社のコンピュータソフトをコピーして私用に使う」といったことはよく見受けられるのではないでしょうか。

 このようなこと自体が著作権上許されないのは当然ですが、これを放置しておくと、重要情報の社外流出といった事態をも引き起こしかねません。

 この問題に対しては、

 ・文書の破棄、保管方法

 ・社内情報の取り扱い

といった点についてルールを定めることが有効です。

 情報の取り扱いに関して最低限必要と思われるルールの視点を列挙します。

 ・文書やCD-ROMなどのメディアの廃棄方法に関するルール

 ・文書やCD-ROMなどのメディアの保管方法に関するルール

 ・対外秘文書の配布、保管、破棄に関するルール

 ・社内情報の社外持ち出しに関するルール

 ・退職時の機密保持に関するルール

 ・営業活動などで収集した顧客などの個人情報の扱いに関するルール

 ・インターネットに接続しているパソコンからの情報流出防止に関するルール

 

3 男女関係に関する社内倫理

 男女関係に関する問題は、組織風土に大きな影響を与えることになりますので、明確な対処をするべきです。

 問題とされるのは、

 ・セクシャルハラスメント

 ・不倫

が主なものでしょう。

 男女問題への対処は、各会社でそれぞれ異なるでしょうが、会社としての問題への取り組み姿勢が、今後その組織の男女問題に関する意識形成に大きな影響を与えるのだということを理解する必要があります。

・「セクハラ」には明快に対処

 「セクハラ」は、その存在が対外的に知られると人材確保の面からも不利になる。
全社的な問題として捉えた予防策が不可欠

・「不倫」については敢然と対処する

深刻な事態に至る前に適切な対応策を打つことが必要である

 

4 上司・部下の関係に関する社内倫理

 ここ数年で注目されるようになった問題に「パワーハラスメント(パワハラ)」があります。これは、上司がその役職を利用して、部下に理不尽な心理的圧力をかけたり、嫌がらせをすることです。

 セクハラは男女間の問題ですが、パワハラは同性間でも起こります。たとえば、客観的にみて実行不可能な業務を部下に与え、できないことを理由に激しく叱責したり、逆に一切仕事を与えずに職場での居心地を悪くするなどのケースが考えられます。

 パワハラを受け続けた部下は、それに耐えきれずに退職に追い込まれることもあり、後にそれがもとで、会社が訴えられるといった可能性もあります。

 上司が「部下を成長させるために厳しく指導している」というつもりでも、それが度を超せばパワハラにつながります。

 パワハラを防ぐためには、幹部陣に部下の指導に関する会社としての考え方を理解させるとともに、パワハラを受けていると認識した部下が経営者などに直接相談できる仕組みを作っておくことが有効です。

 

社内倫理を定着させる

 社内倫理の定着には、社員に周知徹底するほか、経営者や幹部が行動することによって規範となることが重要です。

 社員に「私用電話を禁止する」とした場合、経営者自身が決して社内で私用電話をしてはいけません。

 経営者が私用電話をしているなら社員に対して禁じるわけにはいきませんし、禁じたところで守らないでしょう。
 また、禁止事項を設けた場合には、例外や許容範囲についても明確に定めることが必要です。

 たとえば、「私用電話を禁じるなら社内に公衆電話を設置する」「私用外出を禁じるなら外出規定を作る」などです。

 もちろん、「許す範囲」を同時に決めることも重要です。

 そして、そのうえで断固とした態度で臨むことが必要です。

 それは、罰則を設けるという意味ではなく、そういった倫理とその重要性について繰り返し説明するとともに、明確な態度で注意をすることです。

 そうした徹底が社内倫理を確固としたものにしていくことでしょう。

 いずれにしても、社員に定着するにはかなりの時間がかかるものとして、気長に取り組むことが必要です。

 常識だと思われていることも、あらためてチェックしてみると完全でなかったり、抜けが
あるということも案外あるものです。

 もう一度、基本的なところから「社内倫理」をチェックし、問題があると思われる項目については根本的に見直す必要があります。

 自社の倫理について検討し、独自のチェックリストを作成することをおすすめします。

 

社内不正の防止策

社内不正は企業土壌に
 最近の新聞記事を見ても、多くの「社内不正事件」 があることに気付くことでしょう。しかも、表面化した社員不正は、実体から見れば氷山の一角に過ぎません。 
 社員が不正に走るきっかけは様々です。
 例えば、取引先と親しくなりすぎてその誘惑に負けるとか、単に現金に直接触れることが出来るから、それを懐に入れるとか、組織的な社内不正に経理担当者が巻き込まれるとか、さらに、社内での業績を上げる、いわば出世のために不正に走るといったことです。
 会社側にも原因がある場合が多いようです。「臭いものには蓋」というが、日本企業独特の企業風土といってもいいかもしれません。

 例えば、ある社員はとても仕事ができるが、一方で不正を行っているという噂があるとします。この場合、本来であれば直ちにその不正を究明し、処罰の対象とすべきなのですが、往々にしてその小さな不正には目をつぶり、むしろ責任者の度量を示すかのごとく振る舞い、うまく使ってやろうという考えが働くようです。
 「責任とその所在」 を明確にせず、うまく事を運ぼうとするその体質が不正の芽を育てていくのです。
 過去の事例では、不正はあらゆる会社にその萌芽があり、特に不正が生まれやすい会社は2つのタイプに分かれると言います。
 1つは、急成長しているが会社の組織、人事など内部体制がその規模の拡大に追いつかない会社。1つは、業績悪化が何年も続き、社内の雰囲気が暗く、人心が乱れている会社です。

事前の調査で不正の温床を探る

 原因論を云々していても、具体的に今行われているかもしれない不正を発見し、予防することにはなりません。
 病気の原因を調べても、その病の部位の発見、さらには治療を行わなければ治らないのと同じです。
 そこで、未然防止や早期発見をいかにすべきか ということになります。

「企業健康度リスト」でチェック 
 早期発見は、まず社内不正の芽があるか、または不正が存在してるかどうかの確認から始めます。
 これには社員・従業員の素行、勤務態度、勤務部署など人の動きから、不正の起こりそうな場所、人物をある程度見極めることです。 
 その際、一例として「企業健康度チェックリスト」があります。
 このリストの中の「休日出勤する社員」「全く休暇をとらない社員」などは職務熱心で、通常は社内的に信用のおける社員とされています。
 しかし、その社員が同時に「過去に不正をした者」あるいは「サラ金に出入りしている者」であったとしたら、ちょっと疑問を感じざるを得ません。

 仮に、これらの者が勤務部署として内部管理の甘い部署に就けば、かなりの確率で不正を行うことは明らかです。こういった観点から、「企業健康度チェックリスト」を使用し、チェックすべき部署あるいは人物を特定するわけです。

 

社内チェックを誰がやるか

 次の段階は社内チェック。
 ここでは2つの大きな問題があります。
 1つは「誰がチェックするのか」ということ、2つめは「社内のチェックに対するコンセンサスをいかにして得るか」です。
 誰がチェックするかについては、それでなくとも忙しい勤務時間の中で、総務、経理担当者が行うのか、それとも税理士に頼むのか、監査役が行うのかということです。 
 ただ、企業外部の立場である税理士にとっては、こうした業務は税務顧問としての仕事ではないので、特別に依頼しない限り実行は難しいでしょう。
 また、社内チェックに対するコンセンサスは一朝一夕にできるものではありませんが、つね日頃からその必要性について説くこと、さらに代表者をはじめとして幹部が身辺を清潔にしておくことが重要です。 
 チェックの結果、会社の弱い部分が明らかになり、内部牽制組織の充実への一歩が刻まれていきます。
 しかし、チェックの実行やチェックシステム導入の必要性は痛感しながらも、はっきりと不正が露呈していない限り、特定の部署が担当する業務や特定の社員が扱った取引についてチェックを入れることは難しいのが事実です。
 今まで培われてきた信頼関係にひびを入れるようで、経営者としても心情的に言い出しにくいようです。そこで、そういった様々な心理的障害をクリアーするために、以下のような理由設定を行い、他の役員や社員のコンセンサスを得たらどうでしょうか。

例えば、チェックの実行に際しては、
①融資を受けている、もしくは融資の追加を依頼している金融機関からの要請で診断のための監査が必要となった
②近々に税務調査が想定されるので、事前準備のため帳票書類の見直しが必要になった
③新しいコンピューターシステムを導入するために、会計手続きや帳票記録の見直しが必要となった
④将来、合併その他の会社再構築に向けて株式の評価や、体力評価のために財産債務の洗い出しが必要となった
などが理由です。 
 こうした大義名分を用意することで、意外にスムーズに理解が得られます。
 チェック対象のターゲット部署だけでなく、他の2~3の部署も合わせて実行する配慮も必要でしょう。
 さらに、内部チェックシステムの導入に際しては、株式公開における資格審査事項の中に、内部統制組織の整備と運用の状況が挙げられていることを示し、「企業内不正をチェックするシステムを持たない企業は、成長企業としての道を歩めない」ことをトップが力説するのも一法でしょう。

内部チェックの実行は社内の信頼感が前提
 社内不正を防ぐには内部牽制制度を設けることです。
 内部牽制というのは、一例を挙げれば、「一つの取引事実を一人の担当者で完結させない」こと。
 さらに、「一人の担当者が営業活動をし、受注契約を取り、現金を回収する」ことをさせない、 「一人の担当者が会社の預金通帳を預り、現金を入金し、あるいは出金し、さらに小切手を記入し、社印を押印する」ようなことをさせない等です。 
 させてしまえば、過度の値引販売をするとか、回収を遅らせて取引先の便宜を図り「バックリベートを収受する」 など、また「現金の横領とそれを隠蔽するための不正経理」 の恐れがあります。「受注」「販売」「回収」の各部門を担当者別に分けることや、入出金業務と現金出納帳記帳業務を分け、さらに小切手の記入者とその押捺者を分けることが内部牽制となるのです。
 そして、もう一つ重要なことは、これらの内部牽制機能を維持するために社内基準を策定し、それを社員が順守するよう徹底することです。
 こうして内部牽制組織が出来上がりますが、これですべて終わりというわけにはいきません。
 人が替わり、組織に変更があれば、またその牽制組織の見直しが必要となり、さらに、不正はその牽制組織の網の目をくぐって行われることもあるからです。
 従って、随時行うことで、一層内部牽制組織を充実していく必要があります。
 チェックの手法として、一般的には「帳簿」「記録類」「現金」「現物」の突合があります。
 何と何の突合が、あるいはどのようなオーダーで突合するのが容易で効果的かを、チェック担当者自らが考えながら実行していかなければなりません。
 このチェックをする際に使用する道具として、「部門別業務チェックリスト」があります。

営業部門のチェックリスト例の項目内容
・未使用の領収書の回収状況、保存状況を確認する 
・商品券や印紙などについて、その使用先、使用理由、使用枚数などを申請書にもとづき確認する 
・商品券や印紙などの受払簿の残高と現金を照合する 
・売掛債権について半期もしくは四半期ごとに得意先との残高確認が行われているか確認する 
・最近の取引に係わる債権が回収されているにも関わらず、過去の取引の係わる債権が未回収になっているものはないか確認する 
・年間の取引金額に比べて、売掛金残高が過大な取引先はないか確認する 
・取引停止後、長期に滞留している債権についてその原因を究明する 
・売掛債権の償却内容について、所定の社内基準と照合する 
・売掛債権について紛争が発生している場合、その内容を確認する
・売掛金台帳の売掛残高と得意先元帳の売掛金残高を確認する 
・受取手形記入帳の受入金額と得意先元帳の手形決済額を照合する

 このチェックリストは一応誰にでもできるように体裁を整えています。
 各業務の段階別にグルーピングされているものですが、例えば、受注に関し「受注記録簿と売上日報、納品書、請求書を照合する」 というのがあります。
 この場合留意すべきことは、不当に廉価で販売されていないか(バックリベートの収受)ということです。
 納品書(控)の単価、日報における取引先と担当者の交渉の経緯などを中心に調査をする必要があります。

 また、記録類の相互の関連と、いつ、誰が、どこで・・・という発想から記録相互間のチェックを行い、不突合が発見された場合、その原因を最後まで追及するというものです。

 以上のまとめとして、最低限のチェックポイントを次のように列挙します。
(1)売掛金について得意先に残高確認をすることが出来るか、また、したことがあるか。
(2)買掛金・未払金について相手先経理担当者に直接確認できるか、また、したことがあるか。
(3)仮受金・仮払金・預り金・前渡金などの仮勘定等について滞留や個人別整理をしたことがあるか、また、報告書を提出したことがあるか
(4)在庫品の帳簿棚卸数量と実地棚卸数量の照合を行い、その差を追及している か。
(5)固定資産の現物と固定資産台帳との照合を年1回行っているか。 

 このように、企業が行うべきことは簡単ですが実行されていないし、その意識も薄いことが問題なのです。 
 社内に何かおかしなことがあると薄々感じながら、それを放っておくことによって、社員も何か自分たちが疑われていると感じつつ何事も解決されず仕事を続けるようでは、モラールも低下し不正も横行する。
 悪い部分は早めに的確に摘出し、内部牽制システムを確立し、お互いに信頼し合える職場を目指さなければなりません。
 「暗い中での信頼関係ではなく、会社の中に明かりをつけよう」 というわけです。
 トップは自ら襟を正し、社員各々もその明かりを絶やすことなく協力し合って守り続ける努力こそが必要なのです。

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