会社の誠実さが問われるクレーム対応

 「お客様訪問」「面倒なサービス」と並んで、一倉先生は、「クレーム処理」を「事業経営の三大盲点」の一つに数えています。

 クレームが一切ない会社は存在しません。どんな優良企業でも、何かしらの苦情は発生します。そこで、避けられないクレームにどのような対応をするかで、会社の未来は変わっていくことになります。

 先生は、クレームについて次のような考え方を持っていました。

・事業経営のなかで、クレーム処理ほど重要でありながら、これほどその重要性を認識されていないものはほかにない。

・いったんクレーム処理を誤ると、社長がその座を去らなければならない事態さえ現実に起こっているのである。

・社長の誠実さと企業の責任を、これほどハッキリと証明できるものはほかにはない。

・正しいクレーム処理は、お客様の信頼を大きく高め、さらに、これによって長期的にお客様との信頼関係を維持することができるようになるのである。

(『経営の思いがけないコツ』P-70~71)

 

 経営者が誠実であるかどうかは、クレーム処理を見れば分かります。また、経営者が本当に「お客様第一」の姿勢を持っているかどうかも、クレーム処理を見れば分かります。

 経営における「誠実さ」の価値は決定的なものです。ドラッカーも、「経営管理者にとって決定的に重要なものは、教育や技能ではない。それは真摯さである」と指摘しています。

 「ごまかせるならごまかしたい」「バレないなら黙っている」と考える経営者は少なからずいます。しかし、そうした企業が最終的にどうなるかは、数々の企業不祥事を見れば明らかです。一歩間違えば、社長のクビは飛び、会社は倒産するのです。

 一方、お客様の不満と正面から向き合い、真摯に耳を傾けながら対処していこうとする誠実な企業は、やがて顧客の支持を得て発展していきます。お客様の意見のなかには、わが社を成長させるためのヒントが数多く埋まっているからです。

 幸福の科学大川隆法総裁は、以下のように説かれました。

「お客様がほめてくれることは めったにありません。むしろ怒られることのほうが多いと思います。

経済学のほうでも言われますが、これは「クレーム処理」です。「クレーム処理は宝の山」と経営コンサルタントの一倉定は言っていました。

お客様のクレームを聞くのは末端の人であることが多いのですが、末端の人がクレームを上には伝えないことがよくあります。そのため、「いったい何がお客様の癇に障っているのか」ということを上はわからないところがあるのです。

厨房にいるコック長などは、出した料理の皿が戻ってきたとき、料理の残り具合を見て、「味が悪かったかどうか」というようなことを、毎日計画的に判断しますが、実際には、客席でサービスをしている側の人は、客のクレームを聞いていることがよくあります。

しかし、「クレームが経営的にイノベーションを起こすきっかけになるのだ」ということを なかなか素直に認められないのです。

大きな会社になると、クレームが社会的な問題になった場合には、トップのクビが飛ぶことも多いので、「どれだけ早くクレームが上まで伝わってくるか」というのは非常に大事なことなのです。

会社が巨大化すると、かつて言わていたように、「恐竜が尻尾を鼠に食われても、それが脳まで伝わるのに30分くらいかかる」というような状態になるのです。1万人規模のかいしゃでは そのようなことはよくあります。「尻尾を噛みつかれていても分からない。頭までは上方が来ない」ということが やはりあるのです。

そういうクレームなどを上が知らないでいると、大きな会社等、「公器」の場合には、実際には現場には関係がなく、直接にはタッチしていない社員や、その部門の担当役員などが責任を取って辞めざるをえなくなることがあります。

この慣行自体については、よいか悪いか、異論はあろうと思いますが、「全体的な監督不行き届き」という意味では そのとおりだろうと思います。

そうしたクレームを上に伝えるのは簡単なことではありません。とても難しいことです。

ただ、そのクレームのなかに「経営改善の種」があるのです。」(『希望の経済学入門』P-93~96)

 

クレームを言うのは27人に1人

 クレームの怖さは、「本当のことを言ってくれるお客様はほんの一部に過ぎない」ということです。

 自分自身が客として「これは嫌だな」と思うことがあっても、基本的には指摘しないことが多いはずです。「この店は今回限りだな」「この人とは次の取引はないな」と心のなかで静かに決断を下すものです。一倉先生の言う「無警告首切り」です。

 ある調査によれば、クレームを言ったお客様1人に対して、26人の「サイレントクレーマー」が存在するそうです。サービスに不満を感じた人のうち、96%は何も言わずに黙って去っていくというのです。

 大川隆法総裁は、以下のように説かれました。

「これは旅館などでも同じことだろうと思います。「リピーターがつく旅館」になるためには、やはり、「心配りがどこまで行き届くか」ということが大事でしょう。

人は、嫌なところには もう二度と泊まりませんし、たいてい、来なくなるお客様の場合は、一倉定さんがよく言っているように、無警告首切りで、一方的に打ち切るだけです。要するに、買わなくなるだけ、使わなくなるだけで、「なぜ買わないのか、なぜ使わないのか」ということは言ってくれないのです。

そうしたお客様は、勝手に「お店に来なくなる」「お店のパンを買わなくなる」「お店のケーキを買わなくなる」「ご飯を食べに来なくなる」「ラーメンを食べに来なくなる」だけで、「それはなぜか」という理由を言ってから来なくなったりはしないわけです。

それは、ホテルであっても同じで、泊まって感じが悪ければもう二度と泊まりません。それだけのことです。

しかし、その簡単な積み重ねが大きなものを生むことがあります。」(『危機突破の社長学』P-81~84)

 このように、些細なことで無自覚のままお客様を失うことになりますから、いかにして「声なきクレーム」を拾うかが大切になります。

 お客様の意見を伺う方法としては、アンケート調査、電話調査、訪問調査、対面調査、覆面調査など多くの方法がありますので、自社の事情に合わせて お客様の本音を集めるために知恵を絞らなければなりません。

 経営者自ら得意先回りを行うことも効果的です。

 

クレームの対処法

 一倉先生は、対処仕方の鉄則を4項目挙げています。

 ・クレーム処理はすべての業務に最優先

 ・絶対に言い訳しない

 ・費用と時間を無視してお客様の満足だけを考える

 ・クレーム自体の責任は一切問わず、クレーム不報告の責任を問う

 

 問題が起きれば、責任者がすっ飛んでいって謝ることが原則です。よくある対応が、「まず、事実関係を調べてから謝るべきかどうかを決めよう」という対応です。我が社に落ち度がなかった場合に、謝り損にならないようにという配慮です。しかし、すぐに対応しなかった場合に、こじれるケースが数多くあります。「今頃やって来て一体何の用だ」と ますますお客様を怒らせてしまうのです。

 問題が発生した場合、経営陣が犯人捜しをして、担当者の責任を追及する組織はこうなりやすいので注意です。担当者からすれば、お客様のお叱りに対応しながら、上司の叱責にも対応しなければなりません。多くの場合、遠くのお客様よりも、近くの上司の怒りへの対応を優先させてしまいます。その結果、「自分=我が社には落ち度がない」という状況をつくる方向で動いてしまうのです。つまり、自分の対応に問題はなかったという理論武装をし始めるのです。それどころか、クレームがあっても隠すようになります。大きな不祥事を起こした企業は、たいてい こうした組織風土を持っています。これを防ぐには、先の4つの鉄則を普段から徹底しておく必要があります。そのためには、経営者自身が本当の意味で「お客様第一主義」を心の底から信じていないとできません。

 どの企業も「顧客第一」の旗印を掲げているものですが、それが空念仏であるか、本心からの願いであるかは、クレーム処理の対応に見事に現れます。

 通常は、すぐにすっ飛んでいって、お客様のお叱りを頭に垂れて受け止めるだけで問題は解決します。経営トップなど権限を持った上役の人が同行すれば、その場で必要な措置も取れるため、なおのこと効果があります。

 

感動を生む土壌はチームの「絆」

「クレーム自体の責任は追及しないが、クレームを報告しない責任と指示したクレーム対策を直ちに実行しない責任は追及せよ」

これは5000社を超える企業の社長を指導し、企業を倒産から救った伝説の経営コンサルタント・一倉先生の有名な言葉です。 お客様の声は、会社の不完全な部分を教えてくれる「天の声」であり、極めて重要な経営情報なのです。

リーダーは、どうしても悪い情報に耳をふさぎがちになります。また、部下も、報告すれば自分の立場が悪くなったり、難しい対応が発生するようなクレームには蓋をしがちです。

ただ、「事業の成功を決めるのはお客様である」という大原則を無視することはできません。

一人ひとりがそのことを理解し、事業を成功させようとチームで心を一つにするからこそ、お客様の本音を「宝」と見て扱えるようになるのです。

自分たちが何のために事業を行っているのか、というミッションを共有できると、そこに絆が生まれ、事業の問題を根本的に解決する力が出てきます。そして、真摯なサービスがお客様の感動を呼び、その感動を求めてさらに人が集まってくるのです。

全ては、「お客様の声」をどう受け止めるかにかかっています。勇気を出して、その声に耳を傾けてみるところから始めてみませんか。

経営と真理 へ

「仏法真理」へ戻る