販売に必要な内部資料
販売に必要な内部資料は、たくさんあるわけではありません。一倉先生が重視していた内部資料に次の2つがあります。
・売上年計表
・売上高ABC分析表
そして、経営状態を知るには絶対額だけではなく、傾向を見るのがポイントです。
売上年計表
売上で大事なのは“傾向”を読むことです。そこで使えるのが「売上年計表」になります。
一倉先生も、顧問先の経営コンサルに行かれたら、毎月必ず年計を確認されていたそうです。
月別の売上は様々な要因で大きく変動します。稼働日数が少ない月は売上が落ちますし、納期が遅れて翌月に回った場合には、当月の売上が落ちて、翌月にドンと売上が上がってしまいます。また、季節変動、繁忙期、閑散期等の数字を比較しても、事業の実態はつかみにくいものです。そこで有効なのが「売上年計表」です。
売上の傾向を読むには、この年計をグラフ化するのがベストです。
年計は、1年間の売上を一か月ずつ移動して累計する方法です。1年間の売上累計を出します。
次は、一月過去から現在へ移動します。同じように一か月ずつずらして、累計を出していきます。そして、現在までの一年の累計を出します。これで一月毎の売上年計が出来上がりです。
これらの累計は季節変動がありませんので、売上が上昇しているのか、下降しているのか、傾向をはっきりと掴む事ができます。
次に、この数字をグラフ化してください。グラフにすると売上の動きが如実にわかるようになります。縦軸を大きく幅を取ると、売上の動き(傾向)がよく掴めるはずです。そして、全体の売上年計表のグラフに、得意先別なり、製品別なり、地域別で売上年計表を追加すると更に傾向が分かるでしょう。
あるいは、人件費、粗利益、営業利益など他の費目の年計グラフを追加することによって、費用と売上の関係も見えてくると思います。
このように、会社の数字は単独で見るものではなく、比較して見るものです。
毎月、売上の数字を出して分析しても、売上が上昇傾向になるのか下降傾向にあるかはわかりません。季節変動があるからです。たとえば、かき氷の売上を分析する場合、8月に比べて9月の売上が激減したとしても、かき氷そのものが売れなくなったとは言い切れません。おでん でやってもサンダルでやっても似たことになるでしょう。
こうした季節変動の影響を除いて、売上の上昇・下降の傾向を見るには、毎月、1年間の集計を出す必要があります。1年間であれば、何月から何月の集計であろうと、春夏秋冬すべて入りますから、純粋に売上が上がっているのか、下がっているのかが分かります。
さらに、これを加工して、宗売上とその内訳である主要商品を一覧にしてグラフにすると、我が社の実態がよりクリアに見て取れるようになります。
総売上が上がっている場合、どの商品が貢献しているのか、どの商品の売上低下が原因になっているのかがわかります。
同様に、総売上とその内訳である店舗別の売上を一覧にしてグラフにすることもできます。もし、1年に1度の決済のときだけに年の集計を出しているとすればどうなるでしょうか。1年も経ってから「売上が思う以上に下がってた」と驚くことになります。そらから手を打ったのでは明らかに遅いと言えます。
年内であれば、少なくとも3ヵ月ほどで上がっているか、下がっているかの傾向はつかめます。たとえば、3ヵ月前からA商品の売上が減少に転じたことが判明すれば、「3ヵ月前に何があったのか」を調べることで売上減少の原因を推測することができます。売上減少の原因が分かれば、次の一手を打つことができます。
売上高ABC分析表
一倉先生が販売において重要な内部資料とされていたのは「売上高ABC分析表」です。いわゆるパレート分析表です。
パレート分析表は、ある事象について現れる頻度によって分類する方法です。パレート分析
表は、元になったのが「パレートの法則」というもので、これは全体を構成する一部が全体の大部分を生み出しているというものです。
例えば、「国民の所得の大部分はごく少数の人々によって占められている」などがあります。
これを経営におきかえますと、「売上の大部分は、ごく少数の得意先又は商品によって構成されている」ということになります。よく言われるのが、20%の顧客が全体の80%の売上を構成しているというパターンです。
では、どのような売上ABC分析表を作ればよいのでしょうか。“得意先別”と“商品別”の2種類です。そして、売上期間は一年間がよいでしょう。
仮に得意先別の売上ABC分析表を作るとしますと、年間売上額の高いものから降順でソートします。そして、上から順に累計額を出していきます。
次に、全得意先の売上額から、その累計額が全体の何パーセントを構成しているかを算出します。
この計算式を複写して全得意先の数字を出します。
大切なことは、例え売上額が小さな得意先でも全て載せることです。その他数社等のように
まとめてしまうと意味がありません。売上がゼロでも載せて下さい。
次に、完成した表のなかで、上位10社が何パーセントを占めているかを見て下さい。おそらく全売上の80%などの結構な割合のはずです。
そして、累計から出た構成比で50%のところ、80%のところ、90%のところに、分かるように“しるし”を付けます。
この上位の顧客(顧客数にもよるが、目安80%以上)については、Aランクとし、社長が定期訪問をする顧客になります。
それから、売上が下位の部分を見てください。
ここは今後のつき合いをどうするか検討するところになります。
全得意先の半数の会社、一社一社を社長が検討し、今後も商売を継続するかどうかの結論を出さなければなりません。
そのために、全得意先をABC分析表に載せなければならないのです。
売上高ABC分析表の下位5~10%の得意先は、おそらく全得意先の半数位だと思います。その中から継続してつき合いをしていく得意先を社長が判断しなければなりません。
そこで気をつけなければいけないのは、現在は取引額が小さくても、将来有望な得意先になると判断した会社とは、きちんと継続したつき合いをしていくことです。ここを見抜かなければなりません。
それとは逆に、売上が大き過ぎる取引先も要注意です。
ABC分析の中で、トップの1社が全社売上の30%以上を占めていると、その得意先に大きな変化が起きた場合に、こちら側に大きなダメージが起こります。また、価格交渉なども得意先に優位に進められるリスクもあります。
できるだけ、30%以上を1社が占めないように、複数の得意先と商売をしてリスクを分散しておくことが大切です。
売上高ABC分析表は1年の期間で策定しますけど、過去3年分も一年ずつ策定して、得意先毎のわが社でのシェアを見比べるのもよいでしょう。
毎年取引高が1位という会社もあれば、どんどん取引高が下がっている会社もあるかもしれません。
逆に、近年取引高が急激に上がっている会社もあるかもしれません。
それらの変化を見て、必ず原因を調べて下さい。
何か取引先に変化があるときは必ず理由がありますので、そうしたイノベーションの機会を見逃さないようにして下さい。
良い面では他社に応用できることもありますし、まずいことをしている場合は自社の改善に役立ちます。
売上高ABC分析表からは色々なことが見えます。得意先別、商品別に策定することをお薦めします。
私は、夢中になって「事業経営とは何か」に焦点を合わせて勉強した。最も参考になったのは、現実の会社と、経営者の経営哲学や行動であった。 それらの勉強から、やっと分かったことは、「事業とは市場活動である」ということだった。「経営の思いがけないコツ」)