職場のメンタルヘルス
うつは自殺に結びつきやすいことから、社員の心のケアに取り組む企業が少なくない。
職場の上司や同僚も、心の不調をきたした社員が取り返しのつかない問題を起こす前に、予兆をいち早く見抜くことが重要である。その際、相手の性格や態度などを問題視して、自尊心を傷つけるような対応をしないこと。大切なのは、相手に心から関心を持ち、素晴らしさを発見することです。それが互いの信頼感を高め、ひいては自殺を防ぎ、職場全体の雰囲気をポジティブに整えることにつながる。
悩んでいる人の話を上司や同僚が積極的に聴くことは、互いの理解と信頼関係を生み出す“導入”として重要です。私もこの傾聴法で相手の悩みの核心を探り、自発的な気づきを促すように心がけています。その際大切なことは、次の点です。
相手を受け入れることを心がけ、先入観にとらわれず「白紙の目」で相手を見る。
「何でも話してほしい」と話しかけ、相手が話題を限定せずに話せる雰囲気を作ること。途中で話をさえぎったり、自分の考えを押し付けたりしない。
相手のペースで満足いくまで話せるように、こちらからあまり言葉を発さない。「それは大変だったね」と相づちを打ち、相手の言うことを繰り返すなどして共感し、親身になって聞く。
自分の心を見つめる習慣のなかった人は、こうして共感されながら話すことで不安の正体が鮮明になり、気持ちの整理も進みます。例えば、上司が聞き上手になり、部下との信頼関係ができれば、やがて部下に具体的なアドバイスを求められるようになり、人間関係による職場のストレスも軽減できるでしょう。
悩んでいる人が自分の心を見つめられるように聴き出すためにも、聴く人には相手をありのままに受け入れる愛の心が求められます。
その意味では、聴く人自身が心の塵を取り除く宗教的な学びなどで人格を高めていくことも、「よく聴けるようになる」秘訣と言えるのではないでしょうか。
うつ病治療にはいい薬も開発されていますが、私は経験的に、うつは「思いの力」で、ほぼ回復できると思っています。
普通、人は失敗や挫折などで、思い描いていたレールからはずれざるを得なくなりながらも、大人へと成長していきます。ところが、うつになりやすい人は、レールからはずれて生きることができないと思っている人が多く、かくあるべしという思いが強すぎるのかもしれません。
また、うつ の人は自分を責めがちなので、人間関係で悩んでいるのなら、その関係がよくなることをイメージしつつ、「自分から変わろう」と決心することです。
仏法真理にあるように、人生は一冊の問題集です。その問題集を解く過程こそが大切だと考えて、気負わず生きていきたいものです。
自分と職場の「うつ」を防ぐ6つのスキル
A 自分の「うつ」を未然に防ぐために
(1) 口に出して自分をほめる
「言霊」と言うように、言葉には力がある。自分をほめる言葉を出して耳で聴くことで、落ち込みそうな自分を高揚させることができる。
(2) 自分が輝いていた時のことを紙に書き出す
同様に自分のプラス面を紙に書いて眺めれば、より客観的に自分が見えてくる。カウンセリングで用いられる手法の応用だ。
B 部下を「うつ」にまで追い込まないための基本的コミュニケーションスキル
(1) 基本は、あいさつ。ただし一言加えてみる
「おはよう」だけでなく、「最近は好物の××は旨いか?」などと言葉を添える。「最近は胃がもたれて」などという返事がきたら要注意。
(2) 「話を聴く姿勢」は、まず形から入る
なくて七癖。腕組み、貧乏ゆすり、眉間のシワ、ペン回し、パソコンで作業をしたままなどの相手に、本心を話す気になる人はいない。
(3) 仕事のメールも用件だけでなく、こんな言葉を添える
お疲れ様、大丈夫ですか?/いつも助かってます/ありがとうございます/など、コーチングでいう「承認」の言葉を発していくことが大事。
(4) 相手に心から関心を持つ
(1)~(3)とも、「相手を動かして成果を出そう」との下心でテクニックだけ用いても効果はない。相手に人間らしい関心を持ち、相手のためを思うことが前提だ。
「うつ」からくる自殺を減らすために ストレスを中和する宗教的な考え方
4人に1人が「うつになることがある」
「うつ」的な気持ちになることがあると答えた人は全体の25パーセント、4人に1人に上るという。
もし、うつ状態になったらという質問には、「気分転換する」「話を聞いてもらう」と答える人が多いが、「自分のいいところも考える」「神仏や宗教に救いを求める」と答える人は少数。几帳面な半面、自分や社会のマイナス面にばかり目がいきやすい日本人の気質や、戦後の唯物論的風潮の名残りが見て取れる。
「土俵の外」に出れば別の生きがいだってある
特に、うつに陥るような人は、世間的な競争に疲れると、「自分なんて価値がない。生きていてもしょうがない」とまで思いがち。だが、伝統的にこの部分の中和剤として働いてきたのが宗教だ。
宗教では、『この世の世界の基準や競争とは別の世界が、もう一つある』という考え方をします。『土俵の外があり、そこに出てみると、土俵の上とは違うものがあるのです。人それぞれ、幸福感も違うし、偉さもまた別なものがあり、生きがいだって別のものがあるのですよ』ということを、宗教は教えるわけです。
その意味で、高度なストレス社会においては、宗教の果たすべき役割は大きいのです」
誰でも目の前の勝ち負けや”常識”に縛られがちになる。しかし、そうした”ものさし”とは別のものさしを持つことが、うつを防ぎ、ひいては自殺者を減らす決め手になるのだ。