移りゆく自閉症の概念

 2016年4月、コミュニケーションや社会性の発達に障害を持つ「自閉症スペクトラム障害」について、人工知能で判別する技術を開発したとする論文が英科学誌ネイチャーコミュニケーションズ(電子版)に掲載された。

 研究チームは、患者らと健常者らの脳を測定し、約1万組の神経回路の状態を人工知能で解析した。研究では、16組の回路を調べると、85%の正確さで判別できたという。

 現在、自閉症の診断は知能テストや行動テスト、面接などを繰り返して行われているが、主観が入る。人工知能を使うことによって、「より客観的で正確な診断」ができ、治療法の開発にもつながると期待されている。

参考 

移りゆく自閉症の概念

 自閉症の診断は難しいとされるが、診断基準自体が、ここ数十年で繰り返し変わってきた。

 1950年代、自閉症という概念ができてすぐのころは、両親の育て方の問題による子供の精神障害とされていた。これが1960年代には脳の障害であるとされるようになり、1980年代にはアメリカ精神学会によって診断基準が作られた。そして、1987年に、自閉症は子供に限らない「生涯にわたる障害」であると診断基準が変更されている。

 そして、1990年代には、自閉症は「広汎性発達障害」という概念の中の一つに位置付けられた。そして2013年以降は、重度の自閉症から軽度の自閉症までが連続的に繋がっている「自閉症スペクトラム障害」という概念が新しく設けられ、以前は区別されていた「アスペルガー症候群」などと同じ診断名が出されるようになった。

 このように、自閉症はかなり広義になっている。実際には、医学的にも、うまくつかみきれていない概念となっているようです。

 

「自閉症は治らない」と言える?

 ただ、医者が診断できない病気を、人工知能が診断できるのかどうかには疑問が残る。

 確かに、「自閉症の診断を受けた人に、特有の神経回路の状態がある」ということは、医学的にも重要な発見です。しかし、「特有の神経回路の状態がある人は自閉症である」と言えるのでしょうか。

自閉症をどう見るかは、人間をどう見るかによって変わる

 「人間の心は脳の中にある」と考えれば、脳に異常があれば、心にも異常があることになる。

 一方、宗教的に人間をとらえると、人間の本質は「魂」であり、心は魂の中核部分である。肉体は魂を宿す乗り船のようなものであり、脳はあくまでコンピューターのようなものにすぎない。そして、人間の魂は障害のあるなしに限らず、神仏と同じ性質を宿しており、磨けば光るものであるのです。

 一般社団法人「ユー・アー・エンゼル」は、このような見方に基づいて障害児支援を行っている。活動の中では、それまで独り言しか言えなかった自閉症児が、1年後には普通の会話ができるようになり、就職できたという奇跡も起きた。支援を行う際は、「本来、人間の魂は完全で、仏と同じ性質である『仏性』を持っている」という前提に立ち、「障害があるからできない」というレッテルを貼らないようにしているという。

 人工知能で脳の回路の状態が分かったとしても、その人の可能性までは見抜けない。「唯脳主義」に基づいた医学の限界に、目を向ける必要があるでしょう。

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