年金 5年に1度の「財政検証」

 現在の年金税制は、平成16年(2004年)の制度改正で導入されたものです。

 少子高齢化が進行する中、将来世代の負担が過重なものになることを避けるために、将来にわたって保険料水準を固定し、その範囲内で給付が賄えるようマクロ経済スライドによって給付水準を調整するようになっている。

 「マクロ経済スライド」は、少子高齢化の進展で、支え手である現役世代が減少しても、制度が維持できるよう、給付水準を自動的に下げる制度です。

5年に1度の「財政検証」

 「財政検証」は、将来の年金の給付状況を5年に1度検証するものです。100年先までの人口構成や経済情勢を仮定したうえで、公的年金の給付水準の見通しを示す。年金制度の健全性を点検する いわば健康診断である。厚生労働省の「社会保障審議会年金部会」という会議で公的年金の「財政検証」が公開されます。2019年度の結果が2019年8月27日公表された。

経済成長によって6つのケースを想定

 2019年の財政検証では、経済状況によって6つのケースを想定し、現役世代の収入に対して、どれぐらいの比率で年金が給付できるかを表す「所得代替率」を計算しました。

2019年度の所得代替率 61.7%

所得代替率=夫婦2人の基礎年金+夫の厚生年金)/現役男子の平均手取り収入額  61.7%     13.0万円   9.0万円        35.7万円

 経済成長と労働参加が進めば、所得代替率(現役世代の平均手取り収入額に対する年金額の比率)は50%以上を維持できるが、経済成長と労働参加が一定程度だったり、進まない場合は2040年代半ばに所得代替率が50%を割り込むことが示された。

 高めから低めの6つのケース(ケースI~VI)を想定して、それぞれについて試算しました。

 

経済成長率

所得代替率

将来の経済状況の仮定

ケースⅠ

0.9%

51.9%

経済成長と労働参加が進むケース

ケースⅡ

0.6%

51.6%

ケースⅢ

0.4%

50.8%

ケースⅣ

0.2%

46.5%

経済成長と労働参加が一定程度進むケース

ケースⅤ

0.0%

44.5%

ケースⅥ

-0.5%

38.0~36.0%

経済成長と労働参加が進まないケース

 経済成長や労働参加がある程度以上の水準で推移すれば(ケースI~Ⅲ)、年金制度に求められている所得代替率が50%を維持する。現役世代の平均収入の50%以上が維持できるとしています。

   ケースⅠ : 2046年度に51.9%まで下がる。

   ケースⅡ : 2046年度に51.6%まで下がる。

   ケースⅢ : 2047年度に50.8%まで下がる。

 経済成長や労働参加がある程度の水準にとどまれば、2040年代半ばには所得代替率は50%に達する。その後もマクロ経済スライドを続けると、所得代替率は40%台半ばにまで低下してしまいます。所得代替率が50%を下回ると見込まれる場合は、給付と費用負担のありかたについて検討を行なうこととしています。年金保険料の値上げや、消費税の増税などの措置が必要になる。

   ケースⅣ : 2045年度に50.0%を割り込み、2053年度に46.5%まで下がる。

   ケースⅤ : 2044年度に50.0%を割り込み、2058年度に44.5%まで下がる。

 経済成長や労働参加が低いままだと(ケースⅥ)、積立金が枯渇し、所得代替率は50%を下回ることになります。

   ケースⅥ : 2044年度に50.0%を割り込み、2052年度に年金積立金が枯渇する。

 所得代替率が2044年度に50%を割り込み、2052年度には国民年金の積立金が枯渇してしまう。完全賦課方式に移行することになりますが、その場合の所得代替率は36~38%程度にまで低下することになる。

 現役世代のうちに、年金以外の収入源を確保できるよう、資産形成をきちんとしておいた方が良さそうです。

 ただ、所得代替率の計算方法には、大きな欠陥が隠されています。その隠された欠陥とは、所得代替率を計算する時の分子である高齢者が受け取る年金額が「税金や社会保障費を支払う前の額」であるのに、分母である現役世代の所得が「税金や社会保険料を支払った後の額(可処分所得)」になっているということです。分子と分母を同じ基準(課税前あるいは課税後)にそろえて計算すると、所得代替率は大幅に低下し、現時点で50%を下回ってしまうというわけです。

 財政検証では、経済成長が横ばいだとすると、20歳の世代が現在65歳の世代と同じ所得代替率を確保するには68歳9ヵ月まで働く必要があるとの試算を示した。0.4%成長ならば66歳9ヵ月となる。

 日本の厚生年金の65歳支給は、先進国標準の67~68歳よりも早すぎる。しかも、世界でトップ水準の日本人の平均寿命(男性81.3歳、女性87.3歳。2018年)と比較すれば、年金の平均受給期間は、男性で16年、女性で22年間を超える。これは、平均寿命の短い他先進国の平均受給期間が男性で10年程度と比べて、大盤振る舞いが過ぎる制度となっている。

 現実的な経済前提を置けば、現在の制度では年金財政を維持できなくなる。70歳支給開始が不可避になるでしょう。ただ、今回の財政検証では発表はありませんでした。

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