採用システム

 企業組織が存続していくためには、新しい人材を採用していくことが必要です。

 企業組織が人材を採用する方法は、大きく分けて新卒採用と中途採用の2種類があります。

 

新卒採用

 日本の企業組織では、定期的に新卒採用を行うことによって人材を確保してきました。仕事の量に応じて人員の調整を行うのではなく、将来への投資として人材の採用を行ってきたのです。

 もちろん、極端に業績が悪ければ、採用数を抑えたり、もしくは採用を行わないこともあり得ます。

 このような新卒採用の背景として、入社後に時間をかけて採用した人材を育成していくという日本企業のスタイルがあります。

 即戦力にはならなくても、将来的に企業組織の屋台骨を支えていくことのできる潜在能力を持った人材を育成し、組織の次の時代を託すという方法がとられてきたのです。

 最近の新卒採用の動向としては、次の3点が挙げられます。

 ・採用時期の多様化

 ・インターンシップ

 ・インターネットを使用したエントリー

1 採用時期の多様化

 最近の動向としては、採用時期の多様化が挙げられます。かつては、新卒の採用時期が卒業時期に合わせて春の時期に1回という企業が多くありました。

 しかし、最近では、春と秋の2回実施したり、通年採用を行う企業が増えてきました。

 年1回での採用では、その時に必要な人材を確保しなければ次の年度に必要な人材を確保できなくなってしまいます。そのため、厳密な採用基準よりも採用数を優先してしまうこともあります。

 また、一時期に大量の希望者と面接や選考を行う必要があり、採用担当者の負担は一時的に重くなってしまいます。

 採用回数を増やし、年2回の採用や通年採用にすることによって、より優れた人材を採用しやすくなるということを狙っているのですが、採用担当者の負担については、かえって負担が重くなってしまうことが考えられます。

 また、採用時期が多様化することによって、就職希望者の学業への負担増や意思決定時期の複雑化などの問題も発生しています。

 しかし、採用担当者の負担の大きさを考慮するよりも、組織に必要な人材を確保するのに最も良い方法を考慮すべきです。

2 インターンシップ

 インターンシップ制度とは、実際に一定期間企業で働きながら、その仕事への適性を希望者自身と企業の採用担当者の双方で判断していくものです。

 例えば、実際に商品企画を行ったり、営業担当者の外回りに同行したりするなどして、多面的に人材の潜在能力を把握することができ、より適切な人材を採用できる可能性が高まります。

 就職希望者にとっても、実務を経験することによって、入社後のミスマッチを防ぐことができます。

 これは企業組織にとっても、採用した人材が短期間のうちにやめてしまうのを防ぐことができるため、メリットを享受できます。

3 インターネットを使用したエントリー

 採用時期の多様化やインターンシップは、時間をかけてより良い人材を採用しようと手間暇かけようという流れですが、その一方で、簡略化できるものは簡略化してしまおうという流れもあります。その代表例がインターネットでのエントリーです。

 エントリーとは、採用活動の始まりで、就職希望者が履歴や志望動機を記載して、就職を希望する企業の人事部へ提出するものです。

 かつては、紙のエントリーシートに必要事項を記入し、人事部あてに郵送するのが一般的でしたが、最近では、インターネットに公開されたホームページ上に必要事項を入力し、送信することができるようになっています。 このように、エントリーの受け付け方法が変わったことにより、かなりの量の事務作業が簡素化されたと思われます。

 以上の3つの動向より、簡素化できる事務作業は簡素化してしまい、人材の評価にかける時間を増やそうという点に重きが置かれていることが分かります。

 

中途採用

 時間をかけて採用した人材を育成していくという新卒採用は、今でも人材採用の主軸となっていますが、中途採用を活用する企業も増えてきています。

 企業組織が中途採用を行う理由としては、以下のようなものが挙げられます。

 1) 組織内に新卒者向けの育成プログラムやノウハウがない

 2) 中枢となる人材が組織からいなくなってしまった

 3) 緊急かつ重要な業務を担当する適切な人材が組織内にいない

 1)のような理由で中途採用を行う企業は、経営資源の乏しい中小企業に多いと言われています。

 2)と3)の背景としては、時間をかけて人材を育成する余裕がないことが挙げられます。

 経営環境の変化が激しく、その変化についていくために、即戦力の人材が必要とされているということです。

 同時に、近年中途採用市場が急速に拡大してきているという事情もあります。

 中途採用市場から人材を確保する方法としては、企業自らが募集から採用を行う方法と、人材紹介会社を活用する方法があります。

人材紹介会社

 人材紹介会社は、中途採用市場の拡大に伴って増加しています。

 人材紹介会社は様々な切り口から分類が可能です。

 候補となる人材の供給方法から分類すると、人材紹介会社は「登録型」と「ヘッドハンター型」に分けられます。

ヘッドハンター型

 ヘッドハンター型の人材紹介会社では、候補となる人材に転職の意思があるかどうかにかかわらず、クライアントである企業の求める条件に合致する人材を探し出してきます。

 見つけてきた候補者に転職の意思がない場合は、転職に興味を持ってもらうことから始めるということもあります。

登録型

 登録型の人材紹介会社の場合は、転職希望者にあらかじめ希望する雇用条件を登録しておいてもらい、採用側の企業のニーズに合わせて人材のマッチングを行うというものです。

 紹介手数料の支払い方法によっても分類することができます。

 支払方法については、成功報酬型とリテーナー型とがあります。

成功報酬型

 成功報酬型の場合は、候補人材が転職して入社した場合、その年俸の一定割合を成功報酬として人材紹介会社に支払うというものです。

リテーナー型

 リテーナー型の場合は、採用結果の成否に関わらず、所定の報酬で一定期間候補者探しを行うというものです。

この他にも、得意とする業界等によっても分類することができます。

 ある程度規模のある企業では、目的に応じて複数の人材紹介会社を使い分けているという企業もあります。

 

 最近の採用システムに関するトピックとしては、以下のようなものが挙げられます。

 ・総合職離れ

 ・プロフェッショナル志向

 ・再雇用

1 総合職離れ

 総合職離れとは、「総合職」となって働くというスタイルとは違うスタイルを志向する男性が増加している状況を指します。

 一般的に、総合職として採用されると、勤務地は日本全国又は世界各地となり、将来の幹部候補として働くことが期待されています。

 これに対して、男性でも勤務地を限定して働きたいという人が増えてきており、「地域限定社員」などの制度を持つ企業が増えてきています。

 地域限定社員制度では、一般的にキャリアパスは限定されていますが、給与等は保障されています。

 この地域限定社員制度ができてきた背景としては、新卒で入社した人材全員が管理職になることを希望しておらず、自分の生活スタイルを重視するという態度を重視しているということがあります。

 例えば、JR西日本は「エリア総合職」という制度を設けています。これは、女性や自分の出身地へUターンを希望する学生の採用を促進することを狙ったものです。同様の制度は、三井住友カードや大和証券グループでも活用されています。

2 プロフェッショナル志向

 管理職になることを目指すのではなく、プロフェッショナルとして働きたいという人も増えています。特に、中途採用の対象となる人材に このプロフェッショナル志向を持つ人が多いようです。

 ソフトウェア技術者や薬剤師、弁護士、会計士、税理士等の資格を持って企業組織の中でその専門スキルを活かしたいという人は増えています。

 企業としても、即戦力となる人材なのでニーズは高いのですが、通常の採用や配置では対応が難しいという面もあります。

 中途採用市場でどのように採用していくか、そして、採用した人材をどのように処遇していくかが新たな課題となってきています。

3 再雇用

 近年、景気が回復してきた場合に、一度職場を離れた人材を再雇用する企業が出始めています。

 景気の低迷した時期に人材採用を手控えた企業は、給与減額や人員整理も行っており、その結果、有能な人材も職場を去っていました。

 60歳の定年後に嘱託社員として再雇用したり、65歳定年制度に移行したりなどして、再雇用の仕組みを設けています。

 再雇用は、女性の能力活用という観点からも重要な意味を持ちます。

 出産・育児を理由として退職する女性はまだまだ多くいます。

 企業でも、単に再雇用で受け入れるだけではなく、キャッチアップのために能力開発プログラムを提供したり、モチベーション向上につながるような評価制度を用意するなどの対応も必要となります。

 採用システムは、将来にわたって企業組織を支えていく人材を確保していくために必要不可欠なものです。

 日本企業では、かつては春季の新卒一括採用が中心でしたが、通年での新卒採用や中途採用も増えてきました。

 長期的な視点から企業の成長に貢献する人材を採用するとともに、短期的に直面する課題に対応する人材も同時に採用していくことも求められているのです。

 

採用戦略を策定

 新卒・中途に関わらず、人材採用の際に「採用戦略の策定」を行うことが大切です。

 採用戦略では、「求める人物像の定義」や「採用目標の策定」、「採用戦略と人事戦略の整合性の確認」などを行い、入社以降の研修制度や教育・育成などを考慮して求人手法の選定や人材選考方法を策定していきます。

 戦略策定において大切なのは、自社の採用に関する方針が明確化されていることです。明確化された採用指針の下、採用プロジェクトを進めることで、はじめて求職者側の誤解もなく中長期的に戦力となる優秀な人材を確保することができるのです。

 

求める人物像の定義

 まず、はじめに行うべきことは、求める人物像を定義することです。経営戦略に照らし合わせ、どのようなスキルやパーソナルを持った人材が適材なのか選考基準を考えます。
 その際に重要なのは、現状の課題を解決するために短期的な視点で必要な人材を検討するだけでなく、自社の未来に必要な人材を中長期的な視点で検討することです。中長期的に求める人物像は、経営目標や経営戦略に照らせば方向性がブレることなく明確化できます。それにより、新卒採用・中途採用のどちらに注力すべきかの採用戦略の方向性も見えてくるでしょう。

 

採用目標の策定

 採用目標の設定は、「いつまでに」「どのような人材を」「何人採用するか」等を骨組みとし、採用活動のゴールを策定することです。求める人物像が明確化され、ある程度の方向性が見えてきたならば、具体的な採用目標に落とし込む必要があります。
 はじめに、目標とする採用人数や1人あたりの面接コスト、採用コストなどを定めます。「いつまでに」「何をしなければならないか」を明確化しておく必要があるため、スケジュールは初期段階で確定させることが重要です。新卒採用は長期に渡る活動となりますので、適時調整出来るようバッファを設けてスケジュールを組みましょう。
 短期戦略として中途採用の目標人数を決める場合、各部署に必要な人員数の聞き取りをする必要があり、中長期戦略として新卒・中途を併せて目標人数を定める場合は、各部署への聞き取りだけでなく、以後数年で定年退職を迎える社員の人数やプロジェクト、売上などの経営目標を達成するために必要な人数を予め算出しておく必要があります。その上で人件費の予算を考慮し、経営との調整を経て最終的な採用目標人数を策定することになります。長期活動する新卒採用は、予測が立て難く、採用目標の変更が必要となる場合もありますが、そのような場合には、候補者となる学生の状況を考慮しつつ適宜調整することが肝要です。

 

採用戦略と人事戦略の整合性

 採用戦略は人事戦略と一貫性を持たせなければなりません。新卒採用に注力する採用戦略を策定する一方、人事戦略にて育成コストをかけない方針であれば矛盾していることになります。新卒採用のスタッフを戦力に変えるまでには、相応の育成コストがかかることは想像に難くありません。人事戦略として、育成に人材や時間、資本投下を行わないのであれば、新卒採用ではなく即戦力となりうる中途採用を戦略として採用すべきです。長期的な成長を前提に採用戦略を策定するのであれば、短期評価の人事戦略では矛盾することになります。育成を前提に採用を行うのであれば、成果だけでなくプロセスを評価する施策などが必要です。

 採用戦略は、育成、評価、報酬、配属など人事を司る戦略と整合性を持たせるように策定することが大切です。

 

採用戦略策定に使えるフレームワーク

 自社分析に適したフレームワークのうち、「3C分析」「SWOT分析」「4C分析」「PDCA」の4つがあります。

 採用戦略策定には、まずは自社を深く理解する必要があり、客観的な視点で自社を捉えることで、自社が本当に必要とする人材像の抽出が可能となります。
 また、求める人材像が定義されることで、求職者に伝えるメッセージが明確となり、心に深くリーチする採用ツール制作へとつなげて行くことができます。

 

3C分析

 「Customer:市場・顧客」「Competitor:競合」「Company:自社」の頭文字をとった3つの視点で分析を行うため「3C分析」と呼ばれます。

 3C分析を行うと、外部要因である市場・顧客(求職者)と内部要因である自社の関係性を把握することができるため、求職者と競合企業に対し、どのように対応すべきかが明確化されます。
 この3C分析をSWOT分析と合わせて活用することで、顧客(求職者)と競合に対しどのように自社の強みを活かすことができ、どのような弱みを克服すべきかの可視化が可能です。ターゲットである求職者の価値観やニーズを分析し、同時に、自社と競合の状況を分析することで、自社の採用を成功へ導くためのヒントが見つかります。

 

SWOT分析

 「Strength(強み)」「Weakness(弱み)」「Opportunity(機会)」「Threat(脅威)」と、4視点の頭文字をとったフレームワークで「SWOT分析」と呼ばれます。
 SWOT分析を行うことで自社の強みと弱み、活用可能な機会と排除すべき驚異などの情報を整理することができ、ターゲットとなる人材にどのように自社の魅力をアピールすべきかが見つかります。

 

4C分析

 「Customer Value:顧客(求職者)にとっての価値」「Customer Cost:顧客(求職者)の負担」「Convenience:顧客(求職者)の利便性」「Communication:顧客(求職者)との対話」の頭文字をとった4つの視点で分析を行うため、「4C分析」と呼ばれます。
 売り手側が商品・サービスをチェックするフレームワークとして設計された4Pに対し、4Cは、顧客側の視点で商品・サービスをチェックするフレームワークとして設計されております。

 4C分析を行うと、求職者にとって自社のどの点にプラスとマイナスがあるのかを把握できます。利便性やコミュニケーションで魅力が思い浮かばない場合などは、自分が求職者ならば応募企業にどうあって欲しいか、を念頭に置いて考えると自社の魅力を構築することができます。

 

 PDCA採用戦略は、計画(Plan)し実行(Do)に移して終了ではなく、年度ごとの課題の洗い出し(Check)を行うことが大切です。採用活動の終了後には必ずフィードバックを行い、次年度の採用活動(Action)に活かしましょう。

 どれだけ綿密に計画しても、実行段階で課題は数多く見つかりますので、採用戦略を練るフェーズの内、どの点に課題があったのかを明確化することが重要です。目標とする人材設定にそもそも誤りがあったのか、求人手段が適していなかったのか、内定後・入社後のフォロー不足であるのかなど具体的に考えます。そして、課題の洗い出しは、結果のデータを基に定量的に考察することが重要です。

 課題の洗い出しを終えたら、採用活動に関わったメンバー皆で改善施策について検討します。課題と改善施策のアイデアはメンバー間で共有し、次年度の採用戦略立案時に前年度の課題を潰した形で策定します。このようなPDCAの繰り返しが効果的な採用戦略へと繋がります。

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