人的資源管理

 企業は、ヒト・モノ・カネ・情報の4つの経営資源(四大経営資源)を活用しながら活動を行います。4つの経営資源の中で最も重要とされるのが「人的資源」です。すべては「ヒト」がいて初めて活用できるものであり、ヒトがモノを使い、ヒトがカネを動かし、ヒトが情報を活かすことで初めて、企業活動を行うことができます。ヒトがいなければ全ての企業活動は始まらないことから、企業活動の根幹を支えているのが この「人的資源」だと言えるのです。

 人的資源の持つ多様な能力と可能性を効率的に有効活用することがマネージメント側の責任です。人的資源を動機付けできるか否かが事業の成果を大きく左右することから、人的資源の要素である「採用・人員配置、評価(人事考課)、報酬、賃金、能力開発」などを正しく理解し、適切な管理・運用を行う必要があります。

 ここでは、企業組織を構成するメンバーを「人的資源」としてとらえます。

 企業組織にとっての資源とは、他の資源と組み合わせることによって新たな価値を生み出すものです。

 人を資源としてとらえた場合、マネジメントの行動原則は、「人という資源をいかに活用するか」、つまりは、多様な経営資源をそれぞれの能力に応じてどのように組み合わせるかということになります。 

 企業組織の経営にあたっては、企業の内外の環境とは切っても切り離せないものです。

 企業組織を取り巻くステークホルダーには、労働組合や株主から地域住民に至るまで様々な人(ステークホルダー)が存在します。

 当然、人的資源の管理を行っていく上でも、その企業組織にかかわるステークホルダーへの影響を考慮に入れる必要があります。

 人的資源管理については、大きく3つの局面に分けることができます。

 ・人材の採用をはじめとする「インフロー」
 ・昇進や人材開発にかかわる「内部フロー」
 ・社員の退職に関する「アウトフロー」です

 人的資源管理においては、ステークホルダーへの影響を考慮に入れながら、上記3つの局面において企業と人とのかかわりを管理し、意思決定を行っていきます。

 これら人的資源管理に関する意思決定は、人事担当者だけが行うのではなく、ラインマネージャーをはじめ組織の全メンバーが関わっていくものです。

 企業の中で常に行われている製造・販売・管理等、様々な局面での意思決定について、人的資源管理にかかわる意思決定を行っているのです。

 その企業組織内において、すべての人々がこれらの様々な活動を理解しない限りは、その企業組織において、整合性を持った適切な人的資源管理システムを構築することはできないと言えます。

 つまり、人材募集や評価制度、組織開発など、各個別の問題に対して、それぞれに専門家や専門部署が唯一の実行部隊としてかかわったとしても、制度内での全体的な整合性を取っていくことは難しく、一貫性を持った対応が難しくなります。

 伝統的に、日本の企業組織の多くでは、人事部門が強力な権限を持っているため、人的資源管理の分野においては、「一括採用」「配置」「教育」「評価」等の各種機能のみがクローズアップされがちです。

 しかし、組織は人の集まりであり、企業の経営戦略を実行に移していくうえで、人的資源管理は最も重要な核となるものです。

 そのため、人事部門やマネージャーをはじめとする現場のメンバー達も、経営企画部門などと一緒に戦略の立案から実行まで主体的に役割を果たしていく必要があります。

 人的資源管理の目的は、「優秀な人材を募集・選考」し、「適切な昇進・昇給を管理」し、「報償(または報酬)やインセンティブを通じて社員のモチベーションを高める」ことを通じて、「人材を有効に活用し育成していくこと」にあるということができます。

 そのために重要となるポイントは次の3点になります。

  1. ビジネスの状況を理解すること
  2. 従業員のニーズを満たし、公平性を常に保つこと
  3. 人事部以外のスタッフやマネージャーも、積極的にこの機会や仕組みを理解し、意思決定に参加していくこと

 この3点がヒューマンリソースの要諦となります。

 

人的資源管理の変遷

 「人」を単なる労働力としてのみ捉えていたのは、それほど昔のことではなく、人的資源管理の考え方が発生してきたのは1980年ごろと言われています。

 人的資源管理は、アメリカにおいて製造業の競争力が低迷する中で、「経営における人的資源管理を有効活用することによって競争力を回復させる」という考えの下、従来の人事管理から一歩進めた考え方として誕生したと言われています。

 ところで、従来の人事管理にはどのような特徴があったのでしょうか。

 人事管理は、労働者の管理のために、採用管理から賃金管理や業績評価システム等、人事に関連する各制度を集めた、個々に独立した機能として認識されていました。

 経営戦略との関わりについては特に意識されずに、個別の機能として管理されてきました。

 人事管理の主な特徴は、以下の5点となります。

 ・短期的視点(志向)

 ・人事管理の機能面を重視

 ・従業員を労働力としてとらえる

 ・戦略との連動性が乏しい

 ・内部志向的(目標達成型)

 それに対して、人的資源管理では、従業員を重要な経営資源の一つとして捉えます。

 人的資源管理とは、企業の経営戦略や組織文化との結びつきを常に意識しながら実行していく必要があり、採用や評価など単に機能を集めてそれぞれを個別に管理することではないと考えます。

 人的資源管理の主な特徴は以下の5点となります。

 ・長期的視点(志向)

 ・人事管理の戦略性を重視

 ・従業員を全人格的に尊重

 ・戦略との連動性が高い

 ・外部志向的(目標探索型)

 人的資源管理では、人事や労務を包括しながらも、企業の経営戦略に直結しているところに、従来の人事管理との違いがあります。

 人事部は、企業の経営戦略を担う部署として存在し、それらの意思決定に主導的にかかわる各スタッフやマネージャーが存在しているという考え方です。

 この人事管理から、人的資源管理への変化の中で一番大きな変化は人の捉え方です。

 従来の人事管理において、人は労務管理の対象として「コスト」として捉えられてきました。それが、人的資源管理においては、戦略的な「資源」として捉えられるようになったのです。

 人的資源管理において、人事は企業の業績を回復するうえで重要な手段の一つとして、「戦略的な存在」として認識されるようになっています。

 このような変化は、海外の経営学の教科書の内容にも色濃く反映されています。

 人事管理から人的資源管理へ変化した後では、「調達」や「労使関係」に関する内容が減っていたのに対して、働く「目的」に関する内容が増えているのです。

 目的の中でも、特に「方針」や「戦略」に関する記述が増えているようです。

 これは、人事に関する諸施策と経営戦略の結びつきが強くなったためということができます。

 また、このような人的資源管理の考え方は、従来の日本型の経営では昔から重視されてきたことでした。

 しかし、日本企業の人事部においては、人事管理と経営戦略との結びつきを考える戦略的思考が苦手だったようです。

 日本では、人的資源開発(HRD)という考え方はありましたが、学問として体系化はされてきませんでした。

 人的資源管理の元になる考え方が日本企業にもあったのですが、欧米の企業が日本的経営の考え方を取り入れていく中で、人的資源開発の考え方を取り込み、現在のような人的資源管理の考え方へ発展させてきたということができるでしょう。

 

人的資源管理フロー

 人的資源管理フロー(人的資源管理の流れ)は大きく分けて、「インフロー」「内部フロー」「アウトフロー」の3つに分けられます。 

 企業組織において、あらゆる階層の人が入社し、活動した後、退職していくという流れに沿っています。

 このフローにおいて、ポイントは、「適正な能力を持った人材を、適正な数の要員確保する」という要求に応えていくことです。

 また、その要求に応えていく中で、人事制度の各機能(採用・育成・人材活用・昇進・昇級・退職)が公平、公正なものであり、社会の法律の基準を満たしている必要があります。

 重要なことは、これらの領域での意思決定は、経営計画や売上、利益、成長等に対する意思決定にも大きな影響を及ぼすことです。人的資源管理における意思決定は、企業として経営戦略を達成し、従業員や社会に対する責任を果たしていく上での前提条件を決定していくことになるのです。

 この意思決定は、人事部門の担当者だけでなく、各スタッフやマネージャーも参加すべき重要な意思決定です。

 人的資源管理においては、常に経営戦略との関連性を意識して人材フローを検討していく必要があります。

 採用・育成・配置・昇進等の個別の機能としてではなく、あくまでも全体のベースとして大局的に見ていくことが重要です。そのためには、何か問題が発生した時にその機能を活用するのではなく、常に人事部と現場が連携しながら計画的な運営を行っていく必要があります。

 労働市場は、「外部労働市場」と「内部労働市場」の2つに分けられます。

 ここでの「外部」「内部」とは、企業組織の外部か内部かということです。

 外部労働市場とは、社外にあるオープンな労働市場(高校や大学、専門学校等で就職活動中の学生、求職活動中の人や転職希望者等)であり、内部労働市場とは、社内にある労働市場(その企業に入社して在籍している従業員)ということになります。

 外部労働市場から人を調達するということは、外部から人材を募集し、採用するということになります。

 一方、内部労働市場から人を調達するということは、社内の配置転換や昇進等を通じて人材を調達するということです。

 人的資源管理フローと併せて考えてみると、外部労働市場から人材を調達する部分が「インフロー」に該当し、内部労働市場から人を調達するのは「内部フロー」に該当します。 

 そして、内部労働市場から外部労働市場へ人材を移動させるのが「アウトフロー」に該当します。

 外部、内部ともに、労働市場の変化は激しく、人的資源管理においてもその変化に合わせて構造的に変革を行っていく必要があります。

 また、近年の雇用形態の多様化は、経営環境の悪化に伴う失業率の増加やワークシェアリングの方策等とも密接にかかわっています。

 雇用形態の多様化に伴って、従業員の意識も変化してきており、多様な人的資源管理システムへの必要性を後押ししています。

 これらは、労働に対する価値観と密接にかかわっており、「フレックスタイム制」や「テレワーク(在宅での勤務)」といった新しい働き方が出てきています。

 日本においても、終身雇用制度や年功序列制度といった従来の日本的経営システムが変化してきており、それに伴って従業員の意識も変化してきているようです。

 このように、人材を採用した後、企業組織内部での昇進・昇給や配置転換を経て、最後には退職していくというように、人的資源管理には一連の流れがあることを認識しておきましょう。

 この流れの中で、採用した人材を育成して戦力化し、企業組織全体の実力を高めながら実績を上げていくことが、環境の変化の激しい中で競争を勝ち残っていくために重要なポイントとなります。

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