事業ドメイン

事業ドメインとは

 事業ドメインとは事業を展開する領域のことです。

 変動する市場に対応するには、限られた経営資源を効率的に運用し、会社の成長に貢献する多角化を実施しなければなりません。

 本来、ドメインとは、特定の者が最もうまく立ち回れる舞台のことです。そして事業ドメインとは、特定の企業が経済活動を実施している事業領域を意味し、ドメインと省略されて使われるケースも多くあります。

 事業ドメインを設けるには、事業の将来性・所有する技術や設備・顧客などの幅広い情報を把握・分析する必要があります。そのため、決して簡単には行えず、自社の現状・役割を適切に認識し幅広い知識を活用したうえで設定しなければなりません。

 事業ドメインを設定するということは、「自社のビジネスがどの事業領域を対象としているのか?」に関わる意思決定を行うことです。

 企業経営を継続させていくためには、企業としての成長は不可欠です。しかし、事業ドメインを定義しておかなければ、経営資源の投資対象は自然に拡散していきます。ここで求められることは、事業の選択集中です。選択した事業領域において、競争優位を構築していくことが重要となります。消費者の趣味趣向が多様化した現代においては、全ての領域で顧客を満足させる商品・サービスを提供することは不可能です。

 事業ドメインの設定は、既存事業だけではなく、将来的な事業展開も考慮しながら行わなければなりません。良い事業ドメインとは、「適度な広がりを持ち、狭すぎないドメイン設定となっていること」「将来の事業展開の方向を考慮していること」となります。

 事業ドメインを定義する上で、最も代表的な拡張軸は3つあり、その3つの軸によって他社との差別化や事業展開の方向性を定義することが一般的となっています。

1 市場軸

 ターゲットとする市場や顧客を定義します。例えば、金融サービスを提供している企業において、「年収が2,000万円以上の富裕層をターゲットとした金融サービスを推進する」というような定義になります。

2 技術軸

 自社が保有する技術・ノウハウによって定義します。製薬会社において、「バイオテクノロジーを有効活用した新薬を開発する」という定義になります。

3 機能軸

 自社が提供する機能を定義します。例えば、OA機器メーカーにおいて、「コスト削減に貢献し、且つ快適なオフィス環境を提供する」という定義になります。

  事業ドメインは、事業活動を行う領域のことであり、事業を推進する分野を定義しておいて無謀な多角化を抑制しつつ、適切な方向に事業展開していくことを目的としています。

 ドメイン設定における注意点は、設定領域は広すぎても狭すぎてもいけないということです。企業の成長維持のためには、事業の多角化は必須となります。しかし、事業ドメインが定義されていない無謀な多角化は回避するべきです。

 一方、ドメインを狭く設定すると、事業展開を行う際の制約事項となってしまい、既存事業そのものの失敗を招くリスクがあります。

 

事業ドメインを設定する基本的な流れ

STEP1 現状の把握・分析

 まずは今後の正しい方向性を見極めるために、CTF分析などを活用しながら現状を把握します。事業ドメインは「自社の強み」を軸に設定する必要があるため、特に市場における自社の独自性(アピールポイント)は明確にしておくとよいでしょう。

 

STEP2 事業ドメインの方向性を考える

 自社の現状を把握したら、次は事業ドメインの大まかな方向性を決めていきます。具体的には、STEP1で把握した自社の強みを意識しながら、「新規市場と既存市場のどちらで事業ドメインを設定するのか?」や「どの市場で勝負をするのか?」などを検討します。

 大まかな方向性が決まったら、いよいよ各事業の活動領域を細かく設定していきます。ただし、経営者の主観的なこだわりを反映しすぎると、やはり適切な事業ドメインの設定は難しくなるので、この工程においてもCTF分析の結果は強く意識しておきましょう。

STEP3 設定した事業ドメインの効果を調査・分析する

 STEP2で決定した事業ドメインをすぐ自社に反映させると、大きな失敗を招く恐れがあります。事業ドメインの設定は大企業でも失敗をすることがあるので、反映には慎重な姿勢を見せなくてはなりません。

 そこで必ず取り組んでおきたい工程が、設定した事業ドメインの調査・分析です。これまでの経営状態と、事業ドメインを設定した場合の新たな経営状態とを比較し、「どんな効果が表れるのか?」や「期待していた効果を得られるのか?」などを慎重に分析する必要があります。

 

STEP4 取締役会による承認決議

 「組織の一体化」を実現するには、設定した事業ドメインについて周囲からの理解を得る必要があります。そのため、事業ドメインの設定後には取締役会を開催し、役員に対してきちんと説明をすることが重要です。

 

事業ドメインを設けるメリット

1 集中と選択を明確化できる

 メリットの1つ目は、集中と選択を明確化できる点です。そもそも事業ドメインの設定は、会社の主力事業を把握・選択したうえで、経営資源を重点的に投下する目的で行います。そのため、事業ドメインを適切に設けると、経営資源の無駄な投入・ノンコア事業への不必要な分散などを防止できるのです。これにより、会社にとって不要な多角化を未然に防げます。一見すると事業の多角化は企業拡大のきっかけにつながる要素となります。むやみに多角化を進めると経営資源を無駄にするうえに、企業が本来主力とすべき事業に資金を投入しなければ期待した成長が得られません。

2 企業の成長に直結する多角化が図れる

 メリットの2つ目は、事業ドメインの活用次第では企業の成長に貢献するような多角化を図れる点にあります。これにより、新たな顧客の獲得や新しい分野に進出するきっかけの創出などが可能です。

 事業ドメインを適切に設けると限られた経営資源を最大限に生かした多角化が図れるため、企業の安定的で継続的な成長の実現につなげられます。

 これら2つのメリットを押さえておけば、自社にとって事業ドメインの設定がどれほどの利点となるのか確認可能です。

 

事業ドメインを設けるときの注意点

①事業ドメイン設定前に企業を再定義する必要がある

 事業ドメインを設定する際は、事前に「自社の再定義」というプロセスを実施すべきです。ここでいう自社の再定義とは、「自分の企業は何をする企業なのか」を改めて定義する行為をさします。

 事業ドメインの提唱者であるセオドア・レビットは、自著において鉄道会社を引き合いに出し、彼らの事業が停滞した理由を「自社を鉄道会社と思っていたからだ」と語っています。

 つまり、鉄道会社が自社を鉄道会社であると定義したままでは、鉄道以上に効率的、かつ、有効範囲も広く運用できる自動車・飛行機関連企業との競合で勝てないと語ったのです。

 さらに、セオドア・レビットはディズニーを例に挙げて、「ディズニーは映画制作会社ではなくエンターテインメント会社として自己を再定義したために成長した」とも語っています。

 強みを生かせる適切な領域に企業を再定義できれば、効率的な多角化を促せるのです。この再定義とCTMフレームワーク分析のセットが、事業ドメイン設定における最重要プロセスといえます。

②設定範囲を慎重に検討する必要がある

 事業ドメインを設ける際は、狭すぎず広すぎない範囲で長所を生かす意識を持つ必要があります。事業ドメインの設定は、企業の主力事業を選択して経営資源の投入先を決める作業に他ならないためです。設定範囲を慎重に検討しなければなりません。

 事業ドメインは狭すぎても広すぎてもいけません。範囲が狭すぎると、市場の成長が即座に止まって、それ以上の発展が望めなくなります。範囲が広すぎると、経営資源の投入が遅延してしまい、即座に枯渇してしまうおそれがあるのです。

③設定する事業内容が限定される

 事業ドメインに設定する事業は、その企業の長所といえる事業である必要があります。たとえ経営者が気に入っていたとしても、実際に利益が上がっていない事業を事業ドメインに設定してしまえば、何の利益も生み出しません。そのため、あくまでも、経営資源を効率的に運用できるだけでなく、実際に利益を上げられる事業を選択する必要があります。長所といえない事業を強化したい場合には、事業拡大を図るとよいでしょう。

 

事業ドメインと経営理念

 経営理念とは、社員の行動指針や企業の姿勢を示すものです。経営者が会社あるいは社会に対してどのように働きかけたいのかを発信するスローガンとしての役割を担います。

 企業によっては、事業ドメインよりも広い範囲をさすケースや事業ドメインそのものをさすケースなどが見られます。

 こうした経営理念などを含めて設定されるのが企業ドメインです。企業ドメインは、事業ドメインの上位概念であって、事業を実施する企業の活動領域まで範囲が広がることから、より包括的で規模が大きい概念をさします。

 

事業ドメインと市場セグメンテーション

 事業ドメインと類似する言葉とて市場セグメンテーションが挙げられます。市場セグメンテーションとは、顧客の嗜好やニーズなどを詳細に分析したうえで市場を細分化することで、同質のニーズを把握して事業展開を実施するというマーケティング用語です。

 市場セグメンテーションと事業ドメインは、しばしば意味を混合しがちですが、事業ドメインの設定では、あくまでも自社の長所に重きを置いて市場を捉え直すために、両者は大きく異なる言葉といえます。

 ヤナセを例に挙げると、事業ドメインは「クルマではなく、クルマのある人生を提供する」であって、市場セグメンテーションにおけるセグメントは「30代~40代の既婚者男性」です。

 コア・コンピタンスも、事業ドメインに類似する言葉とされています。コア・コンピタンスとは企業の中核となる特徴を指しており、①顧客に利益をもたらす、②競合他社にまねされにくい、③複数の市場や商品に推進できる、といった3つの定義を含む言葉のことです。

 

事業ドメインの分析方法として活用可能なフレームワーク

 事業ドメインを設定する際は、CTMフレームワーク分析という方法を活用するのが一般的です。ハーバード・ビジネススクールの経営会社フレデリック・エーベルが提唱した分析方法です。

 企業の強みが発揮される「顧客」「技術」「機能」の3本軸を規定・分析します。顧客・技術・機能というと堅苦しさがありますが、5W1HでいうところのWho(誰に)・What(何を)・How(どのように)に置き換えることも可能です。

 CTMフレームワーク分析の最終的な目的は、「顧客が何を求めていて、自社は何を用いてどうやって応えられるのか」を見つけ出すことです。

①顧客

 CTMフレームワーク分析の「顧客」とは、事業が提供する商品・サービスを実際に消費する人のことです。ここでは、顧客を年齢・性別・嗜好性・地域などの属性に細分化したうえで、自社商品・サービスの価値が最も発揮できるターゲットを特定します。

 重要なプロセスですが軽視されることも多く、「明確なターゲットを設定していない」あるいは「ターゲットの絞り込みが甘い」企業が多く見られます。しかし、顧客を詳細に分析できれば、事業拡大に役立つうえに、従来はターゲット外であった層を新規顧客として獲得することも可能です。

②技術

 CTMフレームワーク分析における「技術」の分析は、企業が持っている「競合他社にはない差別化できる技術」を特定する作業です。つまり、自社の技術を他企業と比較しながら分析し、自社の特有技術を発見するプロセスをさします。

 上記のプロセスを通じて発見された技術は、主力事業を立ち上げて発展させていくうえで重要な基盤となります。

 なお、フレームワーク分析でいう技術は、コア・コンピタンスの3定義に近いニュアンスです。

③機能

 CTMフレームワーク分析における「機能」とは、提供する商品・サービスが顧客に対してどのような価値を提供できるかを規定するプロセスのことです。ここでは、企業の商品・サービスが顧客に対してどのような価値を与えていくかを明確化します。

 このプロセスを徹底すると、顧客にとって高い価値をもたらす商品・サービスの開発に役立ちます。CTMフレームワーク分析における「機能」は、事業ドメインの設定における商品と同様の概念と捉えて。

 商品はただのモノではなく、顧客に対して何らかの価値を与えるための機能といえるのです。そのため、機能を考えるうえでは、その商品が顧客のどのようなニーズを充足させて、どのような価値を与えられるかを慎重に検討する必要があります。

 

事業ドメインの定義が顧客・商品・競合を決める

 「私たちは八百屋である」という事業の定義であれば、取り扱う商品は野菜しかありませんこれが商品くくりでビジネスをする「業種ビジネス」です。

 しかし、顧客は、野菜ではなく夕飯の材料を買いいくるわけですから、野菜だけ置いてあるお店は使いづらい。そこに、「私たちは夕飯の支度や生活必需品の利便性を向上させるビジネスである」という定義であれば、業態はスーパーマーケットになり、扱う商品は野菜だけではなくなり、商圏も拡大します。

 例えば、ディズニーのテーマパークの競合は関東にある他のテーマパークでしょうか? 「花やしき」に行くか、ディズニーランドに行くか迷うことがあるでしょうか? なかなかないと思います。キャラクターグッズを買うのに、ミッキーか、ドラえもんかで迷うこともありません。

 ディズニーの事業ドメインは、テーマパークでもなければキャラクターグッズ販売でもなければ、飲食業やホテル業でも映画プロダクションでもありません。「夢の国」というコンセプトで作られたエンターテインメントを楽しみに行きます。ディズニーの事業領域は、夢の国を提供するためのエンターテイメントに関わるあらゆる付随事業が領域です。

 伸びている企業の事業ドメインは、このように、製品でくくるのではなく、顧客が求める「コト」に対して決められています。

 

 

環境の変化に応じて自社の事業領域を柔軟に見直ししているか

 企業を取り巻く環境は変化しますから、事業ドメインもそれに合ったものに変えていかなくてはなりません。もし仮に鉄道事業のみにこだわった事業ドメインを維持していれば、電鉄会社の多くは今ほど成長していなかったでしょう。ただし、あまりに頻繁な変更は、社内外に混乱を招きます。少なくとも5年先から10年先を見越した長期的な視点で事業ドメインを決定していくことが求められます。

 

将来有望な事業分野および商品に対して重点的に投資しているか

 事業ドメインの見直しによる企業の具体的な行動として考えられるのが、製品やサービスの見直しです。長年の主力商品は経営者や従業員にとって愛着があり、なかなか切り捨てることができないものです。ただ、売上も収益力も低下し、ライフサイクルが終わろうとしている製品に過度の投資をすることは、企業の生き残りにとって得策ではありません。経営資源や資金に限りがある中小企業だからこそ、個別の事業分野や商品の将来性を分析した上で、将来有望な事業分野や商品などに対して、重点的、集中的な投資戦略を練る必要があるといえるでしょう。

 

事業ドメイン設定の成功事例

 もともと事業ドメインが提唱されたアメリカでは、マクドナルドなど事業ドメイン設定の成功事例が多く見られますが、事業ドメインの設定を成功させて成長につなげている日本企業も少なくありません。

 

富士フィルム

 富士フィルムは、名前にある通り、もともとは写真フィルムのトップメーカーでした。しかし、現在の事業領域はヘルスケア、マテリアルズ、イメージングと幅広く事業を多角化し、さらなる成長を遂げています。

 フィルム産業が衰退していくなかで、もし富士フィルムが「ウチはフィルム屋だ」と事業ドメインを変えようとしなければ、コダックのようになっていたはずです。しかし、富士フィルムは事業ドメインを再定義しました。そして、自社のコア・コンピタンス(企業の強み)である高機能材料や3次元構造化の高度な技術などを有効活用し事業を多角化して生き残ったのです。

 

 

セブンイレブン  モノではなく「便利」の提供

 国内の代表的な成功例としては、大手コンビニチェーンの『セブンイレブン』の事業ドメインが挙げられる。コンビニと言えばさまざまなモノを販売するイメージが強いが、同社は事業ドメインとして「便利を提供すること」を設定した。

 この事業ドメインの通り、セブンイレブンは荷物の受け取りやATM、公共料金の支払いなど、利便性の高いサービスを次々と生み出している。駅前などのアクセスが良い場所に店舗が多い点も、同社の売上に大きく貢献しているポイントだろう。

 このセブンイレブンのような成功を収めるには、固定観念にとらわれず事業ドメインを見直すことが重要になる。

 

タニタ  「計測機器」から「食堂」へつなげた

 今でこそタニタは「タニタ食堂」で有名な企業になりましたが、もともとは計測機器をつくるメーカーでした。そこからタニタは事業ドメインを「人々の健康を作る」に定義し直し、できたのがタニタ食堂です。

 タニタ食堂の成功によりタニタは新規顧客と新規事業を獲得しました。しかし、もし事業ドメインを再定義せずに「計測機器メーカー」として経営を続けていれば、タニタ食堂の成功はなかったでしょう。

 

NEC

 1970年代に通信事業とPC開発をつなげて自らの事業ドメインを「C&C(コンピューター&コミュニケーション)」と再定義したNECも、事業ドメインの設定に成功した企業のひとつです。

 NECは、本業の通信事業に加えて、コンピューター・半導体事業などに進出したことで、情報社会の主軸を担う地位の獲得に成功しました。

 主力事業に対して過剰に固執せず、時代の変化や自身の強みを適切に読み取ったうえで柔軟に事業ドメインを設定した結果だといえます。

 

モスフードサービス  利益よりも顧客満足度を追求

 全国でハンバーガーチェーンを展開する『モスフードサービス』も、斬新な事業ドメインの設定によって成功を収めた企業である。日本国内では低価格帯のハンバーガーチェーンが人気を集めているが、同社はあえて「安心・安全・高品質」という方向に舵を切ることで、他店との差別化を実現した。

 この思い切った事業ドメインが功を奏し、今やモスバーガーは満足度の高いファーストフード店として人気を集めている。会社を成長・存続させる上では、利益だけではなく顧客満足度を高める努力も必須になる。

 

ヤナセ

 ヤナセは、高級外国車であるメルセデス・ベンツ/BMW/Audiなどの輸入販売や中古車販売を手掛けている会社です。「自動車はつくらない。自動車のある人生をつくっている」という事業ドメインを設定し、富裕層にターゲットを絞ったうえで、高クオリティの商品・サービスを提供しています。

 ヤナセは、自動車開発事業を取らず、あくまでも「商品の提供」に重きを置くことで事業ドメインを明確化できました。これは、経営戦略のかじ取りがしやすくなったという側面でも成功事例といえます。

 

コダック  事業ドメインで失敗した

 コダックは富士フィルムに並ぶ世界トップレベルの写真フィルムメーカーで、デジタルカメラに使われる技術の発明もしています。しかし、富士フィルムとは異なり市場の変化に対応しきれず、コダックは事業ドメインの再定義に失敗し倒産してしまいました。

 両者とも高度な技術を持っていましたが、コダックは技術を転用して新規事業に乗り出さなかったことが原因です。つまり、コダックは自社を「フィルム屋」と定義していたことにより、デジタル化に乗り遅れてしまいました。

 

経営・マネジメント へ

「仏法真理」へ戻る