コアコンピタンス

 企業の競争力は、その企業のセールスポイントである、「他社が簡単に真似できないような独自の技術やノウハウ」から生まれます。こうした独自性を組み合わせてつくられる企業の能力をコア・コンピタンス(CoreCompetence) といいます。直訳すると「競争力の中核」という意味です。コア・コンピタンスになり得るのは、目に見える技術やノウハウ、あるいはそれに基づく商品やサービスだけではありません。人材、組織力、ビジネスモデルなども、競争力につながっていて他社が簡単に真似できないものであれば、立派なコア・コンピタンスであるといえます。

「自社ならではの価値」を意識し、活かせる展開を行うことが重要

なぜコアコンピタンスが必要なのか

 企業はいつも激しい競争のなかにさらされています。サービスや商品の価値、技術開発などにおいて、企業のポジションは常に変わり続けているのです。そのようななかで、顧客を獲得し続けていくためには、他社が到底追いつけないような力が必要であり、他社と差別化をはかるためには、コアコンピタンスが重要となるのです。

 企業は、6つの経営資源を活かすことで、顧客に対し価値を提供することのできる、他社には真似のできない、企業内部に秘められた自社独自の中核的能力である「コア・コンピタンス」を正しく見極め、「自社の強み」として磨き上げ、他社との明らかな違いを生み出すことで差別化を図らなければなりません。

 コア・コピタンスは、主にバリューチェーンにおける特定の機能における中核的能力(=強み)を指しており、組織的な中核的能力(=強み)を表す「ケイパビリティ」よりも さらにポイントが限定され、明確化された表現であると言えます。
 事業の拡大を図る際には、自社のコア・コンピタンスを念頭に、それが活かせる事業展開を図るのが市場における自社優位性を獲得するための大原則であり、成功への第一歩であると言っても過言ではありません。

コアコンピタンスとは、顧客に対して製品やサービスを提供していく中で、競合他社では真似できない自社独自の価値を提供するための中核となる力のことを指します。

「コンピタンス」(Competence)は能力という意味ですが、その中で「コア」(Core)となる中核の能力がコアコンピタンスです。

この概念は、ゲイリー・ハメル教授(ロンドンビジネススクール:国際経営)とC,K.プラハード教授(ミシガン大学ビジネススクール:企業戦略・国際ビジネス)が、1990年、共同で「ハーバード・ビジネス・レビュー」に寄稿した論文の中で紹介されたものです。その後、欧米諸国に広まっていきました。両氏によると、コアコンピタンスとは、以下の三つの条件を満たす「自社能力」のことであるとしています。

 

コア・コンピタンスを定義する3つの条件

 ・顧客に何らかの利益をもたらす自社能力

 ・競争相手にまねされにくい自社能力

 ・複数の商品・市場に推進できる自社能力

 漠然と自社の強みを理解しているだけでは、市場優位性の高い将来性のある企業経営はできません。コア・コンピタンスを明確化し、事業拡大や周辺事業への展開を計画的に行うことで、市場優位性を築くことが肝要です。

1 顧客に利益をもたらす自社能力

 どれだけ優れた技術力や戦略を持っていたとしても、顧客が利益であると感じなければ、その技術や戦略は浸透することはなく、また、浸透しても、いずれ代替え技術により淘汰されてしまう可能性が高いと言えます。このことから、コア・コンピタンスの定義には、顧客に対する利益がどれだけしっかりと意識されているかが重要です。

2 競合相手に真似されにくい自社能力

 競合他社は、常に最新情報や最新技術を収集し、自社の技術や戦略に活用できるものがないかと研究を重ねています。自社が長年かけて創作した技術や戦略であったとしても、競合他社が容易に再現できてしまうものであれば、その苦労は報われず、自社独自の中核能力としては将来性に欠けると言えます。このことから、コア・コンピタンスは、「競合他社に真似されにくい」ことが大切であり、さらに磨き上げることで将来的な強みとなる自社能力であることが重要です。

3 複数の商品・市場に推進できる展開力

 いかに素晴らしい技術であったとしても、単一製品にのみ活かせる技術であり、応用の効かないものをコア・コンピタンスとして定め、事業展開を行なったとしたとしたら、どうでしょうか。市場では、競合他社による新技術の開発だけでなく、異業種からの代替え品となる製品の新規参入など、あらゆる脅威が潜んでいます。もし市場価値の高い代替え品が誕生し、市場シェアを奪われた場合、いずれその技術は市場価値がなくなり、企業経営に大きなダメージを与えるだけでなく、経営そのものを揺るがす事態になりかねません。このことから、コア・コンピタンスには、複数の商品・市場に推進できる展開力が不可欠なのです。

 

コア・コンピタンス経営の基本

1 中核的な能力を高める

 コア・コンピタンス経営とは、企業が中核的な能力を徹底的に磨き上げることで、新しい市場を創造し、安定的な成長企業の実現につなげる戦略のあり方を指します。

 既存の競争ルールにしたがいながら成長を目指すのも企業のとるべき戦略の一方策です。しかし、挑戦者にとって、そうした方法に基づいた経営を継続しながら、業界内のリーダー的競合他社に追いつき追い越すのは大変な労力を必要とします。そこで、挑戦者はやや視点を変え、リーダー企業とは異なった方法で市場に接近し、新しい顧客を獲得することを考える必要があります。

 企業の置かれる外部経営環境の厳しさが増している現状にあって、それぞれの企業には、緻密な戦略の立案や事業の再構築が重要な経営課題となっています。

 コア・コンピタンス経営の概念にしたがい、外部環境に左右されない企業力をつける努力を続けるのは、大企業のみならず、中小企業にとっても重要な経営課題であるといえます。

 

 コア・コンピタンス経営の実践を大きく3つのステップに分けて考えます。

ステップ1:企業が追求すべき顧客の便益(benefit)を明らかにする

 顧客ニーズが多様化・高度化するなかで、それらに対応するためのマーケティング戦略を実践しない企業は市場からの撤退を余儀なくされます。

 多くの企業は、顧客ニーズへの対応は当然のこととして認識しているかもしれないが、顧客ニーズを細分化したうえで、自社の提供すべき便益を明にして迅速な市場対応を実践している企業は必ずしも多くは存在しません。したがって、コア・コンピタンス経営の最初の段階では、まず、顧客のプロフィールを精査していかなければなりません。その際には、既存の顧客便益を明らかにすることにとどまらず、便益の芽を見出す必要があります。そうした努力が将来の

 

ステップ2:顧客便益を提供するのに必要な自社の技術・能力を徹底的に高める

 自社の保有する経営資源には限りがあります。豊かな経営資源を確保する企業であっても、広範囲にわたる技術や能を高めるために経営資源を分散して投入するのは得策であるとはいえません。「選択と集中」の観点から経営資源の活用を進め、事業領域を焦点化していく必要があります。

 自社のコア・コンピタンスをどこに設定するか、そして、事業領域をいかにして絞り込んでいくかという戦略的な意思決定を行なうのは社長のもっとも重要な責務です。

 この一連の意思決定をするにあたっては、社内外のスタッフを最大限に活用して、可能な限り客観的な判断材料を集めるのがよいでしょう。そうした科学的な要素を追求するとともに、社長の価億観や経験などの要素を適宜加えて意思決定を行ないます。

2 顧客との接点を重視する

 顧客の便益を明らかにし、自社独自の能力に磨きをかけていくと企業の総合力は飛躍的に高まります。

 しかし、企業がより高い成長を実現するには、もうひとつ別の取り組みが求められます。

ステップ3:企業と顧客との接点を重視する

 自社のもつシーズ(技術)は製品化され、顧客ニーズと向き合います。十分な市場調査をもとに開発された製品は消費者の支持を受ける可能性が高まります。

 しかし、時間の経過とともに、シーズとニーズとの整合性が徐々に失われる可能性も否定できません。

 多様な企業との激しい競争環境から生まれる製品に触れる顧客は、より高い便益を手にすることを望むようになります。

 そこで、企業はつねに市場との接点を大切にしなければなりません。

 顧客の声を拾い上げデータベース化し、それらを全社員で共有して市場動向の微妙な変化を察知するよう努めます。

 具体的には、グループウエアを導入し、社員がいつでも必要とする顧客情報を入手できるようにするなどの取り組みが要求されます。

 こうして顧客とのコラボレーション(協業)を図り、企業の成長や競争優位の獲得を実現していきます。

 全社戦略を立案する際には、ドメインの設定、コアコンピタンスの確認、経営資源の配分を考慮する必要があります。

 企業のコアコンピタンスとして挙げられるものは、ブランド力、技術開発力、物流ネットワーク網、生産方式などがあります。

 コアコンピタンスの事例として、「トヨタの生産方式」「ホンダのエンジン技術」などがよく挙げられますが、これらだけがコアコンピタンスというわけでありません。業務プロセス、組織力、人材力、ビジネスモデルもコアコンピタンスとなりえます。

 コアコンピタンスとなるための要件は3つあります。 

 (1)競合企業が模倣困難であること

 (2)顧客に対する価値創出に繋がること

 (3)多様な市場に対して展開可能であること

 例えば、スポーツシューズ・メーカーのナイキの場合を見てみます。競合企業の製品(スポーツシューズ)と比べたときに、技術面、品質面で大きな差はないとも言えます。しかし、そのような場合でも、消費者がナイキのシューズに対して高付加価値を感じるのは、「ナイキ」のブランドに価値を感じているためであり、ナイキにとっては、このブランド力がコア・コンピタンスとなっています。

 事業戦略を策定する際に、把握している自社のコアコンピタンスを適用していくことになりますが、うまく適合させることのできる事業ドメインでこそ効果を発揮します。

 

経営資源とコア・コンピタンス

 企業には、核となる3つの経営資源に加え、近年では、さらに3つの経営資源が必要とされており、これら6つの経営資源を活用することで自社優位性を確立し、市場優位性を高めていくことが重要です。

 6つの経営資源には、①ヒト、②モノ、③カネ、④情報、⑤時間、⑥知的財産 があり、ケイパピリティ(企業や組織が持つ、全体的な組織的能力)により経営資源をフルに活用することで、コア・コンピタンス(競合他社を圧倒的に上まわるレベルの能力または、競合他社に真似できない核となる能力)を構築することで市場優位性を高めて行きます。

 これらの経営資源を会社の経営状態に応じて適切に配分することで、より効率的な会社経営を目指します。経営者は、これらの経営資源を適切に管理し、最適なタイミングを図り投資していく必要があります。

①ヒト(人)

 経営資源として最重要項目にあげられるのは「人」、すなわち、「会社で働く従業員」を指しています。どのようなプロジェクトであっても、全てのプロジェクトは人が動かしていきます。

 人の力により仕事が生まれ、人の力により仕事が納められていくことからも、企業活動において何よりも大切なのは「人」であることは言うまでもありません。
 また、広義では、協業先や委託先も含まれてきます。全ての業務をアウトソーシングするとしても、やはり、人は企業活動に必要不可欠な最重要資源であることから、人を大切にすることが会社経営の大原則であると言えます。

 近年、人的資源の不足が懸念される日本企業にとって、人材の確保は大きな課題となっています。優秀な人材をいかに獲得するかが会社経営を大きく左右すると言っても過言ではありません。

②モノ(物)

 経営資源における「モノ」とは、製品そのものだけでなく、それらを製造する機械や管理・販売に必要な設備に至るまで、会社で所有する物理的な物のことを指しています。企業活動には、ヒトが扱う様々なモノが必要となります。いかにしてモノを活用できるかが企業利益に直結することから、モノの活用は、経営戦略やマーケティング戦略により策定され、管理されていきます。

③カネ(金)

 経営資源における「カネ」とは経営資金を指しています。企業が成長するためには、優秀な人材を採用し、その人材が活躍するための設備投資を行わなければなりません。また、設備を活用した製品製造やサービス開発にも経営資金が不可欠です。カネの資源は財務や経理の分野で管理され、キャッシュフローが適切に行われることで、会社経営を円滑にします。

④情報

 経営資源における「情報」とは、その会社にしかないノウハウのほか、企業の所有する顧客データ、さらには、顧客や地域などコミュニティとのつながりなど、無形資産の全般を指しています。テクノロジーの飛躍的な進化により、ヒト・モノ・カネなど形のある資源だけでなく、無形資産である情報の価値が高まり重要視されるようになりました。情報は、扱い方により多大な利益を生み出す原資となる可能性を秘めていることから、慎重な扱いが必要不可欠です。

⑤時間

 経営資源における「時間」とは、あらゆる時間のことを指しています。事業展開や事業拡大などに関わる意思決定にかかる時間をはじめ、商品を市場にリリースするまでにかかる期間、さらには従業員が同じ時間を用いて生産できる作業効率など、限りある時間をいかに適切に活用し、市場への価値を生み出せるかが企業の成長速度に多大な影響を及ぼすことから、時間を経営資源と捉える考え方が近年多くの企業で浸透してきています。

⑥知的財産

 経営資源における「知的財産」とは、人材、技術、組織力、顧客とのネットワーク、ブランド等の目に見えない資産のことで、企業の競争力の源泉となるものです。これは、特許やノウハウなどの「知的財産」だけではなく、組織や人材、ネットワークなどの企業の強みとなる資産を総称する幅広い考え方であるです。さらに、このような企業に固有の知的資産を認識し、有効に組み合わせて活用していくことを通じて収益につなげる経営を「知的資産経営」と呼びます。

 

コア・コンピタンスを評価する5つの視点

 コア・コンピタンスの定義には、①顧客に利益をもたらす自社能力、②競合相手に真似されにくい自社能力、③複数の商品・市場に推進できる展開力、の3つの条件が必要だと言われています。

 コア・コンピタンスの見極めは、SWOT分析を始めとするフレームワークにより自社の強みを多角的に洗い出すことです。上記の3つの条件に照らし合わせることで精査されてきます。

 さらに、自社のコア・コンピタンスを確実なものとしていくためには、以下にあげる5つの視点で評価を行っていく必要があります。

①模倣可能性(Imitability)

 模倣可能性は、自社が抱えている能力やノウハウが同じ分野の競合他社に容易にコピーされてしまうものかどうか、というものです。

 「競合他社にコピーされることはない」「この分野においては自社にしか実現できない技術がある」という場合であれば、その企業は競争で優位に立つことができます。反対に、容易に真似される場合は模倣可能性が高く、コアコンピタンスとはいい難いでしょう。

 顧客にとってどんなに素晴らしいサービスだとしても、それが簡単に模倣されるようであれば、市場を独占できません。

 市場を独り占めできるくらい、他社には絶対に模倣されないレベルの能力こそ自社の中核となる強みと言えるでしょう。

 模倣可能性は、コア・コンピタンスとなるその技術や戦略が競合相手に真似されにくいものであるかの視点から評価を行います。模倣が困難な技術や戦略であればあるほど、市場優位性が高く、将来性があると言えます。

②移動可能性(Transferability)

 移動可能性とは、自社が持つ技術やサービスが適用できる範囲の広さを指しており、「汎用性」や「応用性」と言い換えることもできます。

 移動可能性が高ければ、一つの技術でいくつもの商品やサービスに展開できるため、事業領域を拡大しやすくなり、新たなビジネスチャンスを生み出すことが可能です。その結果、他社にはないビジネスができ、競争で優位を確保できます。

 移動可能性の低い技術や製品であれば、それに集中して投資をしても、その技術や製品が市場から求められなくなった場合、その時点で投資したリソースを回収できなくなります。

 汎用性が高ければ別の事業へと応用が利くため、柔軟な対応ができるのです。

 移動可能性は、コア・コンピタンスとなるその技術や戦略がどれだけ多くの製品や市場に応用していくことができるかの視点から評価を行います。多様性があればあるほど、市場においての横展開が可能となり、新商品や新サービス開発の範囲が広がります。

③代替可能性(Substitutability)

 代替可能性は、自社の製品やサービス、技術が競合他社のもので置き換えられるかどうか、という視点です。

 自社の中核となる強みが、他の商品で置き換えることができる場合、それは代替可能性が高く、コアコンピタンスとは言えないでしょう。

 自社が持つ技術が唯一無二のものであり、需要があるものであれば、必然的にその価値は高くなり、市場を独占することができます。その結果、その技術は競争を生き残るうえで強い武器となるのです。

 代替可能性は、コア・コンピタンスとなるその技術や戦略が代替えしやすいか否かの視点から評価を行います。代替えしにくい唯一無二な存在であればあるほど市場優位性は高まり、市場シェア獲得の可能性も高まります。

④希少性(Scarcity)

 自社の唯一無二の強みを探すには、希少性という視点も欠かせません。

 希少性とは、文字通り、供給が少なく手に入りにくいことです。

 自社の製品やサービスが市場にあまり供給されていないものであれば、「希少性が高い」と評価されるため、その価値も高くなります。

 しかし、同じようなものが多く出回っているようであれば、自社の技術の粋を集めたものであろうと、市場を独占することはできません。したがって、競争優位性も確保できずに激しい競争に飲み込まれていくでしょう。ですが、代替可能性と模倣可能性が高ければ、ほとんどの場合は希少性も高いということになります。これら3つの条件を満たしているのであれば、市場を大きくリードできるはずです。

 希少性は、コア・コンピタンスとなるその技術や戦略に希少性があるか否かという視点から評価を行います。希少性は模倣可能性や移動可能性とも親和性が高い。希少性、模倣可能性、移動可能性の3つにおいて高い評価を得ることのできる技術や戦略は、市場において高いアドバンテージを得ることが可能になるため、将来性があると言えます。

⑤耐久性(Durability)

 ここでいう耐久性とは、そのサービスや製品の物理的な丈夫さや堅牢性を示しているのではなく、いかに「強みを長期的に維持できるか」や「競争優位性を長く保てるか」といった意味を持っています。

 耐久性が高い強みであれば、顧客からの信用も高まり、自社の中核として確立することが可能です。

 しかし、現代は変化が激しく、技術革新のスピードも速まっているため、耐久性の維持は困難だと言えます。例えば、いくら最新の技術を用いた製品であっても、すぐに陳腐化してしまう技術であれば耐久性が低く、コアコンピタンスではありません。

 このような時代だからこそ、普遍的で耐久性の高い技術やサービスを追求することは、より良い強みにつながるでしょう。

 耐久性とは、コア・コンピタンスとなるその技術や戦略が長期間にわたり優位性を維持できるか否かという視点から評価を行います。この耐久性が高ければ高いほど、コア・コンピタンスの価値が保証されると言い換えることもできます。例えば、日々、技術進歩を繰り返すIT技術などは耐久性の低い技術として評価される傾向がある一方、高いスキルを必要とするものづくりや高い名声を有するブランドなどは耐久性が高く評価される傾向にあります。

 どの要素が重要になるかは、市場や競争環境により異、なり、また築き上げた市場優位性も時代や環境の変化とともに陳腐化する恐れがあるため、経営資源とコア・コンピタンスは定期的な見直しが不可欠です。

 

より良いコア・コンピタンスを突き止めるステップ

 5つの条件を満たすコア・コンピタンスを突き止めるには、下記の3つのステップを踏むのが一般的です。

1 強みの抽出、洗い出し

 まず、自社のコア・コンピタンスを突き止めるために、下記のような自社の強みとなりうるものを全て挙げていきます。

 ・人材

 ・技術

 ・企業文化

 ・能力

 ・理念

 ・サービス

 ・ノウハウ

 ・製品

 このように、とにかくあらゆる視点で考えて、強みとなりそうなものを列挙していきます。

 この時点では、「本当に強みと言えるのだろうか?」といった厳格な判断はする必要はありません。

 柔軟な発想をもとに、迷ったとしてもリストアップしておきましょう。思わぬ強みが発見できるかもしれません。

 

2 洗い出した強みの評価・判定

 強みとなりうるものを列挙したら、下記にある3つの条件をクリアしているかの評価・判定をします。

 ・顧客に利益をもたらすか

 ・他社に模倣されないか

 ・応用しやすいか

 

3 強みの絞り込み

 そして、最後に、評価・判定した強みのなかから、さらにコアコンピタンスとして最適なものを絞り込んでいきます。

 ・長期間にわたり自社の強みとして耐えられるか

 ・顧客にどれほどの価値を与えられるか

 ・簡単に真似されるものではないか

 ・他の事業領域でも使えるくらい汎用性が高いか

 といったように、「代替可能性」や「移動可能性」、「模倣可能性」といった5つの基準に照らし合わせていきます。

ポイントは、その強みが競合他社と比較した際に、どれほどコアコンピタンスとして強いのかを考えることです。

 

コアコンピタンス経営に求められる条件

 コアコンピタンスを突き止めるための「洗い出した強みの評価・判定」というステップでは、必要な3つの条件を満たさなければなりません。

1 顧客に利益をもたらしていること

 コア・コンピタンスとして成立するためには、まず、その強みとなる能力が「顧客に本当の意味で利益をもたらしていること」が求められます。

 企業の目的は利潤の追求ですが、それだけでは企業は生き残ることができません。

 利潤の追求ができたとしても、それが顧客にとってネガティブな影響をもたらすものであれば、強みとは言えないのです。

 したがって、自社のコアコンピタンスを突き止める際には、

 ・顧客が本当に喜ぶものか

 ・社会に付加価値を与えられるものか

といった視点で、この条件を満たしているかどうかを考えましょう。

 

2 競合他社に容易にコピーされにくいものであること

 競合他社に簡単にコピーされるような強みや能力では、コアコンピタンスとして認められません。すぐに模倣されるような技術やサービスであれば、競争優位性を確保できないからです。

 競合他社は常に他の会社の強みを潰すために、また、自社の強みとして応用するために、他社の技術やサービスの良いところを応用できないかを考えています。したがって、コア・コンピタンスとして成立する能力には、市場を独占できるほどの強烈な、独自性の高い強みである必要があるのです。

 

3 いくつかの事業領域に応用・転用できること

 最後の条件となるのが いくつかの事業領域に応用・転用できることです。これは移動可能性の高さを示しています。

 ある一定のサービスや製品にしか用いることができない技術であれば、そのサービスが廃れたら、その技術は無用の長物となってしまいます。

 さらに、現代は環境の変化が激しいため、このような変化に対応できない技術はコアコンピタンスとしては成り立ちません。

 

自社のコアコンピタンスを確立するには

 自社のコアコンピタンスを確立させるために どのような経営方針を持つべきなのでしょうか。

差別化された技術を持つ

 まず、コアコンピタンスを確立させるには、他社と差別化された高い技術力を追求することが必要です。自社が持つ技術力をどこよりも高めることは、それ自体が他社との差別化に繋がります。また、他社の力を借りるのではなく自社内で開発することが、競合より優位に立つために望ましいと言えるでしょう

組織力を高めスピードを上げる

 差別化された技術力を商品やサービスにしていくための組織力も重要です。技術力があっても、それを活用して新しい商品開発に向けるには、社内の各事業部が連携をとらなければいけません。会社全体の総力を上げて商品開発をするには、部門ごとに分散されている力をまとめる組織力や どの商品に注力するのかスピード感が必要になります。

常に進化し続ける

 コアコンピタンスは他社との差別化を図ることです。そのため、一度自社で確立したと思われたコアコンピタンスも、時代の移り変わりによる需要の変化や競合他社の新商品などによって その地位を損ねてしまうこともあります。流行や話題に合わせて自社の存在感の見せ方も変わってくるでしょう。コアコンピタンス経営をするためには、常にその時代に合わせて進化し続けることが重要なのです。

 

独自のノウハウや技術を社内に蓄積させる仕組みがあるか

 独自のノウハウや技術があっても、それがいつのまにか散逸してしまっては意味がありません。まずは何が独自性なのかを知ったうえで、社内に蓄積していく仕組みが大切です。有形の物であれば比較的容易ですが、ノウハウや技術のなかにはベテラン従業員が属人的に持っている無形のものも少なくありません。それらを若手従業員に伝えるために、マンツーマンの指導や文書化など、何らかの方策を考えていくことが求められています。

 

大企業や大型店舗にはない優位点を持っているか

 中小企業は、総合的な経営資源では大企業や大型店舗より劣っている傾向にあるのは間違いありません。ただ、人材、組織力など個別にみていけば、かえって優れている点がどこかにあるはずです。ライバルとなる大企業や大型店舗と自社の経営資源を比較し、すでに優位である点、あるいは少し努力すれば優位に立てそうな点をまず発見し、それを武器に戦っていくことが必要ではないでしょうか。

 

常に善玉遺伝子を意識し、悪玉を払拭するメカニズムを組織に構築する

 「企業遺伝子」とは、企業において長期間にわたって組織や構成員に共有され、継承される暗黙の前提となっている価値観や考え方、行動規範・行動様式などの総体のこと。「企業DNA」と呼ばれることもあります。

 企業が成長・発展し続けていくには、野球に例えると単発のホームランに頼るのではなく、連続してヒットを打ち続けることのできるチーム(組織風土)の形成が重要です。そのためには、戦略を超えた組織の持つ体質を、うまくマネジメントする必要があります。組織全体として環境変化を見極め、常に危機感を持ち、先手を打つことを「仕組み」として仕掛けられる体質を持ち続けること。それこそがまさに、企業遺伝子なのです。つまり、企業経営のあり方を決定づけ、持続的な競争優位の源泉となる組織体質が企業遺伝子というわけです。

 その際に重要となるのは、企業遺伝子が善玉であること。どの企業にも組織体質として企業遺伝子は存在します。しかし、「悪貨が良貨を駆逐する」の例えにあるように、善玉よりも悪玉の方がパワー(感染力)の大きい傾向があります。そのため、常に企業遺伝子が善玉であることを意識し、悪玉を払拭するメカニズムを組織内に内包することが大切です。そのことが可能な企業が、永続的に勝ち残ることができるのです。

 一方、自社の企業遺伝子の存在をよく知らずに、悪玉遺伝子の増殖を抑え切れなかった企業は組織運営が立ち行かなくなります。不祥事を起こし、市場から退場する場合も少なくありません。このような観点からも、企業は日々の企業遺伝子の変化・動向を常に意識し、的確に見極めることが重要です。

 

コアコンピタンスの事例

セブン&アイ・ホールディングス

 コンビニエンスストアをはじめ、総合スーパーから金融サービスまで幅広い事業を展開するセブン&アイ。全国に広がる店舗と流通のネットワークというコアコンピタンスを利用して事業を広めていったのがセブン銀行です。他社には真似できない巨大なネットワークを有効に活用して、各店舗に銀行ATMを設置。手数料をメインの収入源としたビジネス事業を急激に広めていきました。

 

ソニー

 ソニーのコアコンピタンスは、重くて高価な商品を「小さく軽くしたい」という思いから生まれました。社長の「小さくできないか?」という口癖から技術開発が行われ、競合他社に比べて圧倒的に小型化させる能力が高くなりました。ソニーは、電化製品を小型化する力に特化し、他社から抜きんでた存在となったのです。

ソニーが日本を代表する電機メーカーへと飛躍することとなったのには、「ウォークマン」の存在が大きく影響しています。ウォークマンは、ラジカセを小型化させたものとして1980年代では画期的な商品でした。まさに小型化技術がソニーのコアコンピタンスになり、その後の事業の発展に大きく貢献しました。ソニーのコアコンピタンスである小型化技術は、コアコンピタンスの3要件を満たしています。1つ目は、ソニーの競合企業はウォークマンの発売直後にラジカセを小型化して携帯できるようにする技術を模倣することができませんでした。2つ目は、当時大きなラジカセを持ち歩かないと外で音楽を聴くことができませんでしたが、外出時に音楽を手軽に聴くことができる生活スタイルへと変化させて消費者に価値を提供しました。3つ目は、ソニーではウォークマン発売後もポータブルCDラジカセやポータブルMDプレイヤー、ポータブルテレビなどを次々と新商品を発売しており、コアコンピタンスを活用して横展開していました。この3要件を満たしていたソニーは大きく事業を成長させたと言えます。

 

シャープ

 シャープは当初シャープペンシルを生産する会社でしたが、電卓を製造することから液晶パネルの開発がはじまりました。そこから研究が重ねられ、「液晶といったらシャープ」という地位までに登りつめたのです。シャープの事業内容が大きく変わるとしても、将来性のあるものには力を入れるという能力が他社に比べ圧倒的であり、結果として液晶技術がコアコンピタンスとなりました。

 

本田技研工業

 日本におけるコアコンピタンスの事例として有名な本田技研工業。アメリカ環境保護局の認定を世界で始めて取得した「高性能エンジン」がHONDAのコアコンピタンスです。他の商品にも応用できる汎用性の高い能力であり、オートバイのみならず除雪機や芝刈り機などにも応用し、世界的に事業を広めていきました。1970年に法改正があり、車の排気ガス排出量を基準値以下にしないと販売できなくなりました。多くの自動車会社がこれに反発するなか、ホンダは低公害エンジンの開発に力を入れたのです。結果として、世界で一番早くに基準値以下のエンジンを開発できました。このエンジンは車だけではなく、トラックやバイク、芝刈り機まで応用可能であり、世界的に成功したといえます。

 

富士フィルム 

 社名のとおり、写真用のフィルム事業を展開する富士フィルム。しかし、デジタルカメラの普及により、フィルム事業の売上は大きく減少。そこで、同社はヘルスケア分野に注力していくことを決断しました。これは、自社の「高機能材料における高度なエンジニアリング技術」をコアコンピタンスとして捉えての判断でした。コアコンピタンスである「カラーフィルムの技術」をヘルスケア事業に転用し、新規事業の立ち上げに成功した事例です。

 

スポーツシューズ・メーカーのナイキ

 競合企業の製品(スポーツシューズ)と比べた時に技術面、品質面で大きな差はないとも言えます。しかし、そのような場合でも、消費者がナイキのシューズに対して高付加価値を感じるのは、「ナイキ」のブランドに価値を感じているためであり、ナイキにとってはこのブランド力がコア・コンピタンスとなっています。

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