ブルー・オーシャン戦略

 

 競合企業がひしめき、飽和状態の市場をレッド・オーシャンと呼び、新しい市場を開拓し、競合企業のいない市場をブルー・オーシャンとしています。

 レッド・オーシャンを避けてブルーオーシャン市場でビジネスを進めることを「ブルー・オーシャン戦略」とし、低コスト化も実現させることを提唱しています。

 ビジネスでは競争相手が付きものであり、ブルー・オーシャンとは「競争相手が比較的少ない場所」を指すマーケティング用語を意味します。
 現存するサービスから新たな視点を見つけて差別化することで、競争する人が少ない場所を狙うことができます。
 この経営戦略は『ブルー・オーシャン戦略』の著書から広まりました。日本語に翻訳された著書は2005年から発売。執筆者はW・チャン・キムとレネ・モボルニュの二人であり、INSEAD(インシアード)ブルー・オーシャン戦略研究所の教授です。INSEADとはフランスを拠点とするビジネススクール兼経営大学院を指します。

 二人の視点がユニークなのは、実際に企業がこの戦略を導入する過程の考察にあります。注目すべき点は、「差別化」と「低コスト化」を同時に実現すべきだと何度も強調していることです。

 競争相手を差別化した場所で、価値のあるサービスを安い値段で顧客に提供する経営戦略を「ブルー・オーシャン戦略」と呼びます。

 ブルー・オーシャンを創造するためには、どうすればよいのでしょうか。W・チャン・キムらは、その手法の一つとして、業界標準に対して、「取り除く」「減らす」「増やす」「付け加える」という「四つのアクション」を通して考えることを奨めています。

 例えば、サーカスを再発明したといわれる シルク・ドゥ・ソレイユ でいえば こうなります。

・取り除く・・・花形パフォーマー、動物によるショー、館内でのグッズ販売、

隣接するいくつもの舞台でのショー

・減らす・・・笑いとユーモア、危険やスリル

・増やす・・・チケット代、個性あふれる独自のテント

・付け加える・・・テーマ性、洗練された環境、複数の演目、芸術性の高い音楽とダンス

 こうして、シルクは、従来のサーカスでは常識だった動物のショーなどを取り除き、まったく新しい演出によって新しい市場を創造することになりました。

 ポイントは、業界の常識を疑ってみるということです。「そのサービスは本当に必要なのか」「顧客が求めているのは別のものではないのか」「できる・できないは別として、こんなサービスがじつげんできたら顧客はよろこぶのではないか」「別のサービスや技術を転用できるのではないか」、という発想でアイデアを出していくことが大切です。

 

ブルーオーシャンの作り方

 レッドオーシャンでは、企業戦略の根本にある企業や製品の提供価値や市場価値(バリュー・プロポジション)と、市場価値を提供するためのコストを調整しながら、競合と市場のシェアを奪い合います。差別化低コスト化がすべてです。

 レッドオーシャン戦略では、差別化戦略と低コスト戦略は二者一択であり、両立することは基本的にありえませんでした。

 しかし、ブルーオーシャン戦略では、差別化戦略と低コスト戦略を同時に実現しながら、市場を作り出します。

 

戦略立案のためのフレームワーク

 ブルーオーシャン戦略のためには、何より新規市場の発見が欠かせません。市場開拓につながる代表的なフレームワークには「戦略キャンバス」と「4つのアクション」があります。

 「戦略キャンバス」とは、横軸に業界の競争要因、縦軸に顧客がどの程度のレベルを享受しているかを記すことで、空白の市場を見つけ出そうとするものです。例えば、カフェ業界であれば、横軸に「スペース」「ドリンクの種類」「価格」といった競争要因を記します。縦軸には「スペースは5段階のうち3点」のように他社と比較したスコアを記すといった方法です。競合他社を含めて、業界の動向を取り入れたキャンバスを作成することで、市場の発見につなげてみましょう。このカフェの例でいえば、「圧倒的に広いスペースをもつカフェ」というのもひとつのアイデアです。

 「4つのアクション」は、シンプルな戦略立案フレームで、4つの質問を通して新市場を見つけだす方法です。

 4つの質問は以下のとおりです。

 業界常識として備わっているもののうち、取り除くべきものは?

 業界の標準と比べ、大きく増やすべき要素は?

 業界の標準と比べ、大きく減らすべき要素は?

 これまで提供されていなかったもので、今後付け加えるべきものは?

 つまり、「減らす」「増やす」「付け加える」「取り除く」という観点から、価値を創造しようとするアプローチ法といえます。より具体的な回答を出すことで市場の発見につながるでしょう。

 

「差別化」と「低コスト」でマーケットを拡大する

 W・チャン・キムとレネ・モボルニュは、「差別化」と「低コスト化」を同時に実現すべきだと何度も強調していることです。「差別化」のみで新規市場の開拓を狙っても、コスト優位性がなければ、あとから参入した別企業に簡単に新市場を乗っ取られることが理由でしょう。

 「イノベーションと価値を結びつけられなかった場合、技術イノベーターや市場のパイオニアは往々にして、自分たちで卵を産み落としながら、他社にそれを孵化される、という運命をたどりかねない」

 イノベーションと価格、コストなどを調和させて、消費者側に魅力的な変化となることを「バリュー・イノベーション」と呼び、この戦略の中心軸としています。

 また、新たな機能や利便性が増すことで、高価格に転嫁した商品にも否定的です。このような商品(高価格)では購入者の数が増えず、機能上のイノベーションが含まれていても、新たな市場を十分な大きさで生み出す原動力とならないからです。

 ブルー・オーシャン戦略では、イノベーションの重要性と同時に、それをマーケット化するアプローチ法にも力点が置かれています。新たに発見した市場の「サイズ(大きさ)」をどれほど魅力的にできるかが議論されている点も優れています。

 一つの懸念は、有望な新市場を発見する作業を企業戦略の中心軸にすることで、地味で時間のかかる技術蓄積型のイノベーションを起こす能力が弱まる危険性です。ブルー・オーシャン戦略の技術は、多くがマーケティングに属しており、時に大きな効果があることで、それ以外の能力の蓄積を軽視する雰囲気を企業に生み出しかねないのです。

 

コストをかけずに差別化できる

 ブルーオーシャン戦略では、低いコストで差別化することを重視しています。差別化をするとなると、つい他社よりもコストをかけなければいけないと考えてしまいますが、必ずしもコストをかける必要はありません。あえて価値を取り除くことで、差別化するのも一つの戦略なのです。イエローテイルは、「ぶどう園の格や伝統、コクや味わい深さ」という価値を取り除くことで、コストを下げながら差別化に成功しました。

 

シェアが獲得しやすい

 ブルーオーシャン戦略では、競争相手が一切いない市場で戦えるため、一般的な市場に比べて圧倒的にシェアが獲得しやすくなります。レッドオーシャンはシェアを伸ばすのが難しいどころか、常に競合にシェアを奪われるリスクすらはらんでいます。ブルーオーシャン戦略で一定以上のシェアを獲得できれば、利益の地盤を固めることもでき、新たな戦略にも投資しやすくなるでしょう。

 

ブルーオーシャン戦略の注意点

 成功すれば大きなメリットを得られるブルーオーシャンですが、実現する前はもちろん、実現した後も注意すべきことがあります。

市場を作り出す力が必要

 「新しい市場を作り出す」というのは、一見魅力的に聞こえるかもしれませんが、既存の市場に商品を投入するより難しい場合もあります。普段使い慣れている商品・サービスというのは それだけでも「安心感」という価値があるものです。そこに対して新しいコンセプトを認知し、手にとってもらうには適切なマーケティング戦略が必要です。どんなに優れた商品・サービスであっても、「新しいコンセプトだから売れるだろう」と甘く見ていては市場を作り出すことなく終わってしまうでしょう。

これまでブルーオーシャンだった理由を探る

 ブルーオーシャンを見つけた時は、思わずガッツポーズを取りたくなるかもしれませんが、「なぜこれまでブルーオーシャンだったのか」を考えましょう。多くの企業が躍起になってブルーオーシャンを探している中で、自分だけが見つけたという可能性はそう高くありません。既に誰か見つけたものの、法規制があって実現が難しかったり、市場が小さくて魅力的ではなかったり、実は意外な競合がいたりする可能性もあります。過去に同じようなサービスが存在しなかったか、利益を見込めるだけの市場規模があるかどうか調べてみましょう。

 

模倣リスクに対策する

 新しい市場を開拓できたからといって安心してはいけません。新しいブルーオーシャンはすぐに赤い血潮で染まっていきます。特に大企業による模倣ビジネスには要注意です。真っ向から「ミート戦略」に出られれば、資本の弱い企業に太刀打ちする術はありません。模倣ビジネスが現れる前にシェアを固める、模倣されない工夫をする、などの対策をすぐに取りましょう。

 

ブルーオーシャン戦略の実践

 ブルーオーシャンは闇雲に探しても見つかるものではありません。どのようにしてブルーオーシャンを見つけるのか、その方法を見ていきましょう。

バリューイノベーション

 ブルーオーシャン戦略を手がけようと思った際に、前提となる考え方が「バリューイノベーション(価値革新)」です。バリューイノベーションとは、「低コスト化」と「差別化」を同時に行うことを指します。書籍『ブルーオーシャン戦略』の中では「コストを押し下げながら、書い手にとっての価値を高めること」だと紹介されています。

戦略キャンバス

 バリューイノベーションを起こすには、「戦略キャンバス」というチャートを用います。戦略キャンバスとは、既存の市場の現状を折れ線グラフで表したもので、競合や業界平均と比べてどのような差別化をするのか考えやすくなります。

 戦略キャンバスを作るには、まず、お客さんが商品・サービスを選ぶ代表的な指標を7つほど挙げます。例えば、イエローテイル以前のワイン市場を例に例えると、「価格・ぶどうの品種・伝統や格式・香りや味わい・ヴィンテージ」などが挙げられます。

 次に、それらの指標を横軸に、縦軸には競合や業界平均が、それらの要素をどれだけ提供できているかを5段階ほどの評価で表します。業界をひとまとめにするのは難しいので、「高級ワイン」と「デイリーワイン」など いくつかのカテゴリーに分けると作りやすいでしょう。

4アクション(ERRCグリッド)

 完成した戦略キャンバスをもとに、今度は「4アクション」と呼ばれる操作を行っていきます。

 4アクションとは、次の4つのアクションのことを指します。

 Eliminete:取り除く

 Reduce:大胆に減らす

 Raise:大胆に増やす

 Create:付け加える

 それぞれの頭文字をとって「ERRCグリッド」と呼ばれることもあります。バリューイノベーションの「低コスト化」を実現するには、今の業界で常識となっている要素を大胆に取り除く、もしくは業界の基準を大胆に下回ることで達成できます。

 一方、差別化を実現するには、今まで業界にはなかった価値を付け加えるか、業界の基準を大胆に上回る要素を作ることが必要です。4アクションを行うことで論理的にバリューイノベーションを引き起こすことが可能になります。

 未開拓市場であるブルー・オーシャンを見つけるために最も有効的なのが、既存製品やサービスの価値を転換させることです。新たに創出する製品やサービスなどに付与された価値を転換することで、新たなユーザーを獲得できる可能性があります。

 例えば、主婦層をターゲットにした利便的価値に優れた製品があったとします。これに対して、新たにファッション性やかわいさといった感性的価値を採用することで、流行に敏感な若者層のユーザーを新たに獲得できるチャンスが高まります。

 このように、ブルー・オーシャン戦略は、既存の製品やサービスの価値を転換するだけで、新たな市場開拓およびユーザー獲得につながる可能性を秘めているわけです。

 

ポジショニングマップの重要性

 ポジショニングマップを作成することはブルーオーシャン戦略を実行する上で欠かせません。なぜなら、ポジショニングマップにより市場における自社の立ち位置や市場の「空白」を見つけ出せるからです。

 

ポジショニングマップとは

 ポジショニングマップとは、市場における自社の優位性を確保するためのフレームワークです。縦軸・横軸に商品・サービスの特徴をあげて、枠内に競合名を明記します。市場の中で自社がどの位置を狙うべきかを視覚的に理解しながら戦略を立てられるのがメリットです。

 その一方で、縦軸・横軸を正しく設定していない場合、期待している成果が得られません。ポジショニング戦略はその後のマーケティング戦略に大きく関わるので慎重に分析しましょう。

 

ポジショニングマップの作り方

1 自社のKBFを一通り整理する

 まずは、KBFの整理を行います。KBFとは、「Key Buying Factor」の略称で、顧客の購買判断に影響を与える、商品・サービスの特徴や機能を指します。

 最近では、商品そのものの価値に加えて、口コミやレビューといった第三者による評価もKBFの要素として考えられています。

 塾業界の場合、以下のようなKBFが考えられます。

  授業料

  講師の質

  交通の利便さ

  生徒フォローの充実さ

  合格実績

  オンライン授業

  教材の質

 このように、ポジショニングマップを作成する前にKBFを一通り整理しましょう。

2 KBFの中から重要な点を列挙する

 KBFの中から重要な点を列挙する際に大切なのは、「ターゲットを明確に設定する」ことです。なぜなら人によって年齢、環境、価値観などが大きく異なるからです。

 今回のターゲットは「勉強習慣や勉強方法が身に付いていないが、首都圏の難関私立大学への進学を考えている方」であると仮定して、KBFを選定していきます。

 このターゲットにとって「きめ細かい個別指導」と「難関私立大学の対策が得意」という点が重要です。一方で、教材の質やオンライン環境などは重要な要素ではないと判断できるでしょう。

3 自社と競合他社のKBFを比較していく

 KBFの列挙が終わったら、自社と競合他社のKBFを比較しながら整理します。

 各企業のKBFを整理することで、〇社の優位性が掴めてきます。これらの情報をもとにポジショニングマップを作成していきます。

4 ポジショニングマップの作成・分析を行う

 各企業のKBFのリストが完成したら、最後にポジショニングマップを作成します。

 ポジショニングマップを作成することの利点は、「競合と比較した際の優位性」「市場における空白」を確認できる点にあります。特に新規事業を開始する場合、市場において狙い目はどこかを把握することが自身のブランドの構築にも繋がります。

 

ポジショニングマップ作成の注意事項

1 重要度の高いKBFを縦・横軸に設定する

 ポジショニングマップを作成する際には「重要度の高いKBF」の選出が肝心です。

 KBFを選ぶ際に起こりがちな失敗は顧客ではなく企業目線でKBFを決めることです。

 特に、自社のサービスやプロダクトを開発している方だと、自社の商品に惚れ込んでしまっており、客観的な視点が抜け落ちていることがあります。

 KBFを決定する際には、実際の顧客からアンケートをとるなどの手法は有効でしょう。

2 相関性の低い要素を縦軸・横軸にする

 ポジショニングマップを作成する時には「相関関係の低いKBFを選ぶ」ことを意識しましょう。

 「値段・品質」「値段・容量」といった2軸を選ぶことにあまり意味がありません。なぜなら、基本的に右肩上がりの直線上の図表が完成してしまうからです。

 どの業界においても、「高価格であれば高品質」「低価格であれば低品質」という傾向が見られるでしょう。もし、「値段」を軸として使うのであれば、「値段・デザイン」のように相関関係の低い2つの軸を選ぶと良いでしょう。

 

ブルーオーシャンのメリット・デメリット

 ブルーオーシャンのメリットは2点挙げられます。

 1点目は、「高単価・低コストでの商品販売」が望めるという点です。

 ブルーオーシャンでは、競合相手が存在しないため、自社の手で価格相場を決定できる上、競合他社が参入する前に自社に有利な環境を作れます。この有利な環境は独自の流通・販売チャネルを確保し低価格での商品提供によって実現されます。

 2点目は、「ブランド育成による長期的な成長が見込める」という点です。

 ブルーオーシャン戦略は、新製品を通して顧客の認知度を向上させることに役立ちます。潜在的な顧客にその市場の第一人者として認知されることで、他社が模倣できないブランドの確立が期待できます。

 新規事業を立ち上げる際には、ニッチな領域を選ぶことでブランド育成を行いや好くなるでしょう。

 

 ブルーオーシャン戦略のデメリットは2点あげられます。

 1点目は、営業力や開発力だけでなく「高度なマーケティングの知識が求められる点」です。ブルーオーシャン戦略を実践するには、戦略キャンバスやアクションマトリックスなどのフレームワークに精通している必要があります。

 それらのフレームワークを活用することで、初めて他社との差別化や市場分析を行うことができます。ブルーオーシャン戦略を導入する前に、自社にマーケティングの基本的な知識を有する人材がいるか確認しておきましょう。

 2点目は、「競争優位性を失いやすい点」です。

 ブルーオーシャンでよくある失敗例として、他社に模倣されることが挙げられます。経営資源の豊かな大企業が新規事業を立ち上げるために、ブルーオーシャン戦略を行なった結果、短期間で他社に模倣されて競争優位性を失ってしまうのはよくある話です。

 他社からの模倣を避けるためには、真似できない差別化や新たなイノベーションを継続する必要があります。

 

ブルーオーシャンの事例

シルク・ドゥ・ソレイユ

 シルク・ドゥ・ソレイユは、サーカス業界でブルーオーシャン戦略を成功させた企業として知られています。当時のサーカス市場では動物を扱ったパフォーマンスが主流でした。しかし、シルク・ドゥ・ソレイユは、バレエや演劇などの要素や観客を飽きさせないストーリ性を導入することで、「芸術」としての地位を確立。それに伴いターゲットが子供から大人に変わり、価格設定を引き上げることに成功しました。このシルク・ドゥ・ソレイユの戦略は、新たな市場を開拓しつつ顧客単価を改善したという点でブルーオーシャン戦略の模範と言えるでしょう。

 

QBハウス

 チェーンの床屋として最も知名度の高いQBハウス。普通の理髪店では、カラーリングやシャンプー、パーマなどができますが、QBハウスは10分1,000円で行うカットのみという特徴があります。同店には各席に姿見が置かれており、洗面台を作る分のコストはかかっていません。その上、10分で1,000円であるため、1時間につき最大6,000円の売上です。一般的な理髪店では13,000円〜4,000円ほどの相場なので、普通の床屋よりも高単価・低コストで営業を行うことができます。QBハウスは平成8年創立の理髪店です。QBハウスは従来の理髪店とは異なり、全ての無駄を省いているところに工夫が見られます。シャンプーや髭剃りと言ったサービスを行わず、カットのみをサービス内容としています。そのカットを10分1000 円という安価で提供しています。カットを終えると、シャンプーは行わずに壁に備え付けてある吸引機で髪を取るだけと徹底した無駄の省略です。所要時間がわずか10分ということもあって時間のないビジネスマンから人気を集めています。また、店内には電話が置いておらず、予約をすることはできません。従業員に対しても、時間に対する意識を高めるために、給与明細に1分あたりの給与「分給」を記載しています。このようなサービス内容のため、店舗設計の際に洗面台を作る必要がないので低コストで済みます。しかも、10分で1,000円ということは1時間あたり6,000円の売上になります。通常の床屋が1時間で3,000〜4,000円と考えると、通常の床屋よりも時間当たりの単価は高くなります。

出店場所の工夫

 QBハウスは人が多く集まるところに出店していますが、特に力を入れているのは駅や地下街、ショッピングセンターのトイレの脇です。通常トイレの脇は奥まっていて目立たない、清潔感とは対極にあるので出店するのは避ける店舗が多いのですが、家賃が安いという理由であえて選択しています。もう一つの理由は、トイレに行くと必ずと言っていいほど鏡を見ます。その際、「少し髪が伸びた」と感じた時に10分で済む理髪店があったから行ってみようと思う人が出てくる可能性もあります。

期待値のコントロール

 雑誌切り抜きを持参して美容院に行って髪を切ってもらった場合でも、1時間後には自分の理想とはかけ離れた姿になっているという経験をした人も多いと思います。この場合、散髪代を損した気分になりますが、これは散髪への期待値が高いために発生します。一方、QBハウスはその期待値をあえて下げています。来店するお客さんは10分の散髪で自分の理想とする髪形になるとは思っておらず、髪が伸びたからスッキリさせたいと思って来店している顧客が多いのです。

5つの差別化要素

 QBハウスは、他の理髪店とは異なる5つの要素を備えています。低価格、短時間、高利便性、ヘアカットのみのサービス、予約不要です。これら5つの手軽さをサービス内容に盛り込むことで成功しています。

 

ユニクロ

 ヒット商品である「ヒートテック」は、それまでの衣類にはあまり伺えなかった機能性の高さを誇った製品であり、製造から販売までのプロセスを一貫して行うことで、流通や仕入れ、買い付けにまつわるコストを削り、ユーザーに安価で提供することに成功しました。さらに、新たな市場を創造しながら、夏は「シルキードライ」、冬はヒートテックに合った手袋やニット製品など幅広く商品を展開しています。ヒートテック、シルキードライなど、それまでの衣類には無かった機能性の高い製品を提供しています。同時に、製造から販売までを自社で一貫して行い流通や仕入れ・買い付けなどのコストを削りました。そして、新たな市場を作りながら、市場での需要を掘り起こし、彼らのブルーオーシャンを創り出しました。

 ユニクロは、差別化と低コスト戦略を、ユニクロにとって最適な形で自社のビジネスモデルと結びつけたと言えます。

 

IKEA

 IKEAは、モダンなデザインの家具を非常に早い納品スピードで提供します。消費者は、IKEAのモデルルームのような売り場で利用イメージを目の前で体感しながらIKEAの家具が購入できます。このような消費者のメリットが、従来の競争相手からの差別化につながっています。IKEAの家具は全て組み立てであり、耐久性を落として家具は一生ものという常識を覆しました。同時に、製品ラインナップを減らすだけでなく販売店舗数もあまり多くありません。これらはすべて低コスト戦略にあたります。従来からデザインから企画・製造・販売まで手がけていたIKEAが、自社にとって最適な形で差別化と低コストを結びつけ、ブルーオーシャンを創りだしました。それまで、家具は「完成品」を選んで買うのが常識でした。イケアは、コスト低下を実現するため、「完成品を売る」という要素を取り除き、「自分たちで組み立てる」という要素を創造したのです。さらに、イケアは、実際に自分たちが使っているイメージが湧くモデルルームを作って、お客さんに体験してもらうという価値も付け加えました。「家具を買う場所」から「家具のある生活を体験する場所」にシフトすることで、他社との差別化を図ったのです。

 

吉野家

 今でこそレッドオーシャンと言ってもよい「牛丼チェーン市場」も、かつては吉野家が切り開いたブルーオーシャンでした。それまで「高くてゆっくり」食べるものであった牛丼を、ファストフードとして初めて売り出したのが吉野家です。「落ち着いた空間でゆっくり食べる」という価値をなくし、「早くて安い」という新たな価値を創り出しました。

 

スタディサプリ

 スタディサプリはリクルートが提供する学習サービスです。
小学校から高校までの幅広い年代を対象としつつ、月額980円という低価格で、予備校の人気講師陣が行うオンライン授業を好きなだけ受けられます。

 これまで学習業界がフォローできていなかった、家庭の経済状況や居住地により塾や予備校に通えない層を取り込むことに成功しました。

 

星野リゾート

 高級ホテルブランドを全国に展開する星野リゾートは、施設を保有せず、ホテル運営のみに特化した経営が特徴です。
 保有と運営を分離させる経営は都市型ホテルでは一般的でしたが、地方旅館においては業界初めての取り組みとなります。
 「ホテルを保有したいけど運営はしたくない」というオーナーに対し、競争力の高いホテル事業を提供できる唯一無二の存在として注目されています。

 

レッドオーシャン化した既存業界の中からブルーオーシャンカテゴリを開拓した事例

消せるボールペン

 パイロットの「消せるボールペン・フリクションシリーズ」は、ボールペン業界を驚かせた画期的な商品でした。それまで、「消せない」ことが当たり前だったボールペンが消せるようになり、利便性が広がりました。特殊なインクにはこすることで生じた熱で文字を透明にする機能が付与されたのです。この機能はボールペンのために開発されたものではありません。熱を加えると色が変わる、という「メタモカラー」の原理は、当初コップにお湯を入れると絵が浮き出てくるといった用途で使われていたのです。その後は、チケットの偽造防止にも利用されています。その原理を筆記具に応用したときも、最初は「熱を加えると別の色に変わる」ボールペンとして発売されています。その後、「別の色に変えるのではなく、『透明に変える』ことはできないだろうか?」と、パイロットコーポレーション・オブ・ヨーロッパの取締役社長が発言したことがきっかけとなり、消せるボールペンの誕生に繋がりました。この発想の根底には、欧州の小学生は学校で鉛筆ではなくペンを使うことが一般的なため、消しゴムで簡単に文字を消せずに不便であるという状況があったのです。視野を広げることで新しい需要を見つけ出し、既存の巨大市場からブルーオーシャンカテゴリを切り拓いたという事例です。

 

任天堂

 任天堂は、ブルーオーシャン戦略を生かすことでWiiの開発を成功させました当時のゲーム業界の顧客層は「10代後半」。任天堂は新たなブルーオーシャンを発掘するためにターゲットの年齢層を変更しました。「10代後半」から「これまでゲームであまり遊ばなかった小さい子どもや大人」が楽しめるゲームを制作するというアイディアに着想し、Wiiが開発されました。任天堂は、ターゲット層を拡大することで、今までのユーザーに好まれた複雑な仕様を捨てて、誰でも簡単に遊べる手軽な性能を追求しました。さらに、任天堂は、ブルーオーシャン戦略によって低コストを達成しています。既存のゲーム会社の多くは、ソフトの販売から収益を得ていたましたが、Wiiは不要な機能を徹底的に取り除くことで生産費用を抑えることに成功しました。任天堂は、既存の顧客層ではない「子供・大人」をターゲットにすることで、新規開拓をし、他者との差別化を実現しました。

 

星野リゾート

 星野リゾートは、多くの温泉宿とは一線を画したスタイルでブルーオーシャンを開拓した会社の一つです。星野リゾートが他と違う点はいくつかありますが、その一つはリゾート施設や温泉旅館に対して「施設を所有せず運営に特化する」というものです。運営スタイルのヒントは海外のホテル経営でした。海外においては、ホテルの経営と運営が分離されているのは一般的です。一方、日本の温泉旅館については、今でも、経営者が運営も兼ねていることが多いのが実状でした。そこで、「温泉旅館やリゾート施設を所有したいけれど運営はしたくない」という富裕層の需要に目を付けています。星野リゾートは、「所有」と「運営」を完全に分けることで、オーナーを募り温泉旅館やリゾート施設の資金を集めることに成功したのです。また、星野リゾートによる海外進出もブルーオーシャンを切り拓いた事例の一つです。日本では、温泉旅館で女将さんのサービスを受けるというのは一般的です。しかし、海外にはそのようなシステムはあまり存在しません。女将さんは気配りできるうえに手掛ける仕事は幅広く、いわばマルチタスクに優れています。一般的に、海外のホテルスタッフは、「受付担当」「ルームサービス担当」など専門職の人ばかりで構成されています。その中で、マルチタスクに働けるスタッフを揃えて運営していくということは、他社との差別化を図り、お客様満足度を高めるだけでなく、コスト削減やスタッフの質のアップにもつながる、というわけです。星野リゾートの事例を見ると、視野を広く持ち、別の業界や海外の常識を取り入れることがブルーオーシャン開拓につながるといいえるでしょう。

 

魅力的な市場を見つける6つのパス

 ブルー・オーシャン戦略では、新市場を生み出す場合に「商業的に魅力があるか否か」を重視します。そのため、この戦略では発見のためのツール「魅力的な市場を見つける6つのパス」が提示されています。

(1)代替産業に学ぶ

 大成功したアメリカのサウスウエスト航空は、飛行機の代替として自動車による移動に着目し、自動車並みのコストでフライトを提供し人気を得ています。資産管理ソフトのクイッケンは、ソフトウエアの代替である鉛筆の走り書きによる簡素な使いやすさを目指してヒット商品となりました。

(2)業界内の他の戦略グループから学ぶ

 フィットネス・フランチャイズのカーブスは、これまでのフィットネスクラブと家庭用の運動プログラムの魅力的な点を融合して、新たな市場を切り拓いています。前者の魅力は「通うことへの強制力」「やる気を高める環境」であり、後者の魅力は「安価で手軽」「(女性が)異性の目を気にせずにできる」点です。それ以外の点は極度に削ぎ落としていることも特徴です。

(3)買い手グループに目を向ける

 製品やサービスは購入者と利用者が異なることがあります。デンマークの製薬会社ノボは、医師ではなく利用者である糖尿病患者への利便性に注目して、ペン型インシュリン注入器を開発。独占的な市場の獲得に成功しています(ヨーロッパで60%、日本で80%)。

(4)補完財や補完サービスを見渡す

 何かを付け足すことで価値が倍増するものがあります。フィリップス・エレクトロニクスは、イギリス人がお茶を入れるとき、同社のヤカンではなく水質に問題があることに気づき(石灰含有量が多い)、フィルター付きヤカンを発売して大成功を収めました。

(5)機能志向と感性志向を切り替える

 スイス製腕時計のスウォッチは、機能志向の強かった業界で、感性志向のファッションを取り入れて成功し、イギリスの保険会社ダイレクトラインは「顧客との心の絆」ではなく、迅速な保険金支払い、手続きの簡素化などの機能性で成功した例です。

(6)将来を見通す

 未来予測を元に、トレンドについていくだけではなく、先回りすることで新たな市場の発見と独占が可能になります。音楽の無料ダウンロードが流行する兆しを見つけたアップルのiTunes、高速データ通信の需要の伸びに着目したシスコシステムズの互換性の高いネットワーク機器などは、高いシェアと高利益の新市場を生みました。

 見慣れている企業や同業、既存顧客とは「別の体系」から異なる特徴を探すことで新市場のヒントを見つける、という点で 6つは共通しています。対象顧客が違うことで、価格帯ごとに同業界でも違う戦略を採用していることが多いものです。別の価格帯の違う戦略と組み合わせることで、新たなブルー・オーシャン発見のヒントとなることがあります。

 新市場を一番に発見できたとしても、必ず追従する企業が出てきます。ブルー・オーシャン戦略が「低コスト化」と「差別化」を両立すべきと指摘するのは、量産化や低価格化が得意な二番手以降の企業に、せっかく見つけたおいしい新市場を奪われないための措置なのです。

 その上で、「市場拡大につながる価格帯を狙え」としているのは、発見した金鉱脈(新市場)の中で、消費者の層が最も厚いところまで価格を下げることで、利益率と販売数量の大きさを兼ね備えた旨みのあるビジネスに育てることを提案しているのです。

 ブルー・オーシャン戦略の示すポイントにより、高性能・新技術で新市場をつくりながら、価格が高いことで、ハイエンド以外に販売が広がらず、やがて新興国による量産品化で市場の最も分厚く儲かるところを簡単に奪われてしまう、最近の日本企業の失敗の理由も説明できるでしょう。

 新市場という金鉱脈を見つけたら、コスト削減を早急に行い量産化が得意な二番手を食い止め、販売数の一番多い価格帯を探し当てて販売数量も最大化すべきなのです。

 ブルー・オーシャン戦略を採用することのメリットは、低コスト、高単価でビジネスができるということです。一方、デメリットは、そのような競合企業もいない新市場があるのならば、他社は模倣して参入してきます。そのため、自社がブルーオーシャン市場を開拓したら安泰ということはなく、いかに参入障壁を高くするか、または次のブルーオーシャン市場を開拓するなどの動きが必要になってきます。

参考

 無理な事業展開で成功を重ねたとしても、最善の策とは言えない。

 ビジネスで、「レッドオーシャン」と言われる強力な競合がひしめく環境で戦い続けた場合、たとえ勝利を続けても充分な利益は得られません。

 それよりも、「ブルーオーシャン」で先行して プラットフォームを作り、後から参入してくる競合にも、そのプラットフォームを利用させてあげるくらいのほうが、戦うよりも利益を得ることができます。ライバル会社と競合し自社が消耗し衰弱してしまうようであれば、争いを避けるのも一つの手なのです。

 ときには吸収合併してしまうのも得策となります。

 競合するライバル会社の商品開発や販売戦略といった情報やマーケットの動きを確認し、細かく分析することも大切です。

 正確なデータや情報を用いて、ライバル会社が次に何を仕掛けてくるかを探ること、自社の情報をライバル会社に安易に利用されないようにすることです。

 ときに、企業買収時に敵対的買収で徹底的に戦って勝ったとしても、買収先の優秀な人材が他社に流れてしまっては、勝利の価値が減ってしまいます。それよりも、友好的買収かつ買収先の人材を主要ポストに就かせて活かすほうが、企業価値の向上につながります。

 商品が売れて売上があり、その売上から経費(費用)を差し引いたところに、収益(利益)が出てこそ商売は成り立ちます。

 売上 - 経費 = 利益 です。

 当然、商売が成り立つことは大切なのですが、経営者は利益だけを見るのではなく、利益を生み出すために どれだけの経営資源が使われたかを見なければいけないのです。商売人か経営者かを分ける点はここにあります。

 経営者として優秀であるためには、人、物、金、情報、空間、時間などを無駄なく使いながら、利益や売上を上げていかなければなりません。例えば、現業の売上は横ばいの場合、人、物、金、情報、空間、時間をなるべく削減していきます。そして、削減した分の経営資源をシフトし、新たな事業に投入して、そこでも付加価値を上げていくわけです。

 「経営資源の値を下げながら、売上を上げる」のは、そんなに簡単ではありません。通常、投入する経営資源を小さくしたら、売上も下がってしまいます。仕入れる商品を減らせば売上は減ります。営業マンの数を減らせば、やはり売上は減るでしょう。しかし、経営資源を増やさずに業績を上げなければ、経営効率はよくなりません。この一見無理なことを成功させるには、経営者が「智慧を絞る」か「汗をかく」しかありません。では、具体的にどう智慧を絞るのかと言うと、ポーターの競争戦略である、オーバー・オール・コスト・リーダーシップ、集中化、差別化などの戦略を使って、現業を見直し、人を育て、新しい事業を常に考えていくということです。

 「コストを下げつつ、売上(付加価値)を上げる」という考えこそ、近年注目を集めている「ブルー・オーシャン戦略」そのものなのです。

 

 正しい市場(顧客)を選択しなければ、ビジネスは最初から躓いてしまうのです。そして、新しくビジネスを始める際には、ターゲットを絞ることが大切です。需要が多様化している現代では、誰にでも売れるモノなどありません。自社商品の価値を理解してくれる一部の人々に向けて、商品を販売していくのです。

 資本も知名度もない中小企業にとっては、ニッチ市場をターゲットにすると良いでしょう。

 しかし、ターゲットを絞ると聞いて、多くの人が陥る落とし穴があります。それが「ニッチの罠」です。

ブルーオーシャンによるニッチの罠

 ブルーオーシャン戦略とは、競合ひしめく飽和市場(レッドオーシャン)を避けて、競合企業が手を出していない新市場(ブルーオーシャン)を開拓し、そこで一人勝ちをするという戦略です。ブルーオーシャン戦略のメリットは、競合がいないので、低コスト高単価でビジネスができるということです。ブルーオーシャン戦略が流行してから、多くの企業が自社だけの新市場を見つけようとやっきになりました。多くの企業は失敗しました。せっかくニッチな市場を見つけたのはよいのですが、そこには自社商品の需要がなかったのです。

レッドオーシャンの一部を取りにいく

 市場を選択する場合におすすめなのは、レッドオーシャンの一部を取りにいくという考え方です。レッドオーシャンには多数の競合が存在しますが、競合が多いということは儲かる市場だということでもあります。つまり、レッドオーシャンには多くの需要があるのです。

 需要が多いということは、市場のパイが大きいということでもあります。その大きなパイを多くの企業で取り合っています。新しくビジネスを始める際は、需要があることが保証されている分、大きなパイの一部を取りにいく方が簡単なのです。

 「誰に売るのか」を考える際には、まず需要があることが絶対条件だということを忘れてはなりません。魚がたくさんいる場所で独自のニッチ市場を作り上げることが重要です。

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