カスタマー・リレーションシップ・マネジメント(CRM)
時代の移り変わりとともに、消費者の動向にも変化が表れています。
とくに、日本のような成熟した市場においては、従来型の宣伝手法をくり返しているだけでは、より多くの顧客を獲得することはできません。
たとえ多くの新規客を獲得できたとしても、優良顧客が離れてしまえば、結果的に売上も収益も低下してしまうのです。
そうした現状を加味し、顧客との関係性を構築することに重点を置いたマーケティング手法が「カスタマー・リレーションシップ・マネジメント(CRM)」です。
CRMは、特定の顧客にターゲットを絞り、継続的に関係性を築いていくという考えのもと、顧客生涯価値(ライフタイムバリュー)を重視するというのが基本的な戦略となります。
具体的には、より企業に利益をもたらしてくれる顧客を選別し、メリハリをつけたマーケティング活動を行うことで、重要顧客の獲得および維持を目的とします。
単価が低く、1度しか購入しない顧客に経営資源を投入するのではなく、高単価でくり返し購入してくれる顧客、あるいはクチコミを通じて企業の代わりに宣伝を行ってくれる顧客などに対し、積極的に働きかけていきます。そうすることで、企業の収益が安定するだけでなく、経費の削減にもつながります。
あるデータによると、新規顧客の獲得は、既存顧客を維持するよりもおよそ5倍の費用がかかるとされています。
広告予算を削減するためには、必要以上に新規顧客の開拓を目指すのではなく、今いる優良顧客をいかにつなぎとめるかを考えたほうが得策なのです。
CRMを考える際に欠かせないのが、「顧客生涯価値(ライフタイムバリュー)」です。
顧客生涯価値を考慮しなければならないのは、顧客の生涯を通じていかに価値を与えられるかという発想のもとに、長期的な付き合いを目指すことで、顧客満足とより多くの利益を模索することが企業の成長に不可欠だからです。
かつてのように、ただより多くの消費者に対して広告を行うような手法では、成熟した市場で生き残ることはできません。
経営資源の無駄遣いという点に加え、さまざまな企業からの広告にふれている消費者は、プッシュ型の広告そのものに対して懐疑的な傾向が強いのです。
つまり、無差別な広告は効果が薄いだけでなく、むしろ製品や企業のイメージを低下させてしまう可能性もあるのです。
これが成熟した市場でなければ、いわゆる「顧客創造」のような 1対多数 のマーケティングでも効果をあげることは可能でしょう。
高度経済成長期のように、消費者の購買意欲も十分にあり、よいものを提供すればそれだけで売れていくような社会であれば、CRMを考慮する必要もないかもしれません。それよりも、たくさんの広告を打つほうが得策でしょう。
しかし、日本の現状を見て分かるように、消費者の買い控えが進み、経済成長は鈍化し、市場も成熟している。こうした状況では、優良顧客に対して効率よくマーケティング活動を仕掛けていかなければ、右肩上がりの成長を続けることはできないのです。
もちろん、現状維持を目指す企業がやがて衰退してしまうことは言うまでもありません。
必要なのは、発想を転換し、「顧客創造」から「顧客維持」へと方向性をピボットすることです。
既存の顧客に目を向ければ、そこに企業が継続的に成長できるヒントが見つかります。
どの顧客が自社の成長に寄与してくれているのか。あるいは、どの顧客が自社の成長に貢献してくれていないのかを、しっかりと見極めることが重要となるのです。
現代では、インターネットやビックデータを活用すれば、それが容易にできるようになっています。
CRMが重要視される背景
時代の流れとともに、消費者の心理や動向にも変化が生じています。
そうした変化に敏感になり、正しい対処を行わなければ、競争に勝ち抜いていくことはできません。
CRMが重視されるようになった背景には、必ず何らかの理由があるはずです。CRMはロイヤルカスタマーを育成することを目的とします。
これまでのように、大衆を意識してマーケティングをするのではなく、顧客生涯価値(ライフタイムバリュー)を強く意識して、より長期的な関係性を構築することが重要視されているのです。
つまり、顧客の購買行動が、ただ消費をすることから「消費を楽しむ」へとシフトしているからこそ、個別の消費者を特別扱いしなければならないということです。
そうした背景には、次の4つの要素が関係しています。
・市場の成熟化
・費用対効果の変化
・顧客との力関係の変化
・ITの発達
市場の成熟化
物が溢れ、市場で手に入らないものがなくなっている現状を意味しています。
かつてのように、優れたものを提供するだけでは、成熟した市場において消費者のニーズを満たすことはできません。
その結果、欲しい物を購入するという消費から、「付加価値をつけた楽しいお買い物」へと消費の現場が変化しているのです。
顧客生涯価値を意識しなければならないのは、長期的な関係性を構築するという意味もありますが、「物を購入するということ以外の価値も提供しなければならない」、となっているのです。
費用対効果の変化
市場が成熟した状態では、自然な成長は見込めません。
これまでは、大々的に広告を打っていれば良かったものの、市場の成長が鈍化している以上、収益力を高めるための施策を講じなければ、利益は目減りしていくのは明らかです。
そう考えたときに、もっとも企業に利益をもたらしてくれるのは、新規顧客ではなく既存の優良顧客なのです。
そのようなロイヤルカスタマーとの関係性を強固なものにしていくには、CRMという発想が重要となります。
顧客との力関係の変化
顧客のニーズが変化することにより、企業と顧客の力関係も変化しています。まだ市場に商品が少なかった時、消費者には限られた選択肢しかありませんでした。それが、現在では、さまざまな商品ラインナップがあり、企業側は顧客に擦り寄る商品開発が盛んに行われています。
これは、顧客の意向を無視していては、やがて淘汰されてしまうということを意味しています。
どんな大企業でも、それは例外ではありません。
顧客に豊富な選択肢がある以上、より効率的なマーケティング活動を行わなければ、収益率が低下してしまう状況を免れないのです。
ITの発達
ITの発達によって、消費者が得たものは膨大な情報です。より良い商品はないのか、より良いサービスを提供している企業はどこなのか。そういった情報を気軽に入手できる時代になったからこそ、企業は顧客との関係性を再考しなければなりません。
さらに、インターネット上で買い物ができる環境も整備されているので、顧客の判断はより早くなっています。
その時に、マス・マーケティングを行っていては、顧客との関係性を強化している企業に太刀打ちできないでしょう。
カスタマー・リレーションシップ・マネジメント(CRM)の実施
市場および顧客動向の変化によって、企業は、これまで行ってきた「顧客創造」から「顧客維持」へと舵を切らなければならなくなりました。
具体的には、1対多の「マス・マーケティング」ではなく、1対1による「優良顧客の囲い込み」を行う必要がある、ということです。そうしなければ、成熟化した市場の中で成長していくことはできません。
顧客維持の発想から、顧客生涯価値(ライフタイムバリュー)の提供を目指すのが「カスタマー・リレーションシップ・マネジメント(CRM)」の考え方です。
優良顧客がもたらす利益は多大であり、さらに新規客を獲得するよりもより低価格でマーケティング施策を行うことが可能。
つまり、企業にとって重点的に資源を投資する先となります。
実際に、どのような手順でCRMを行えば良いのでしょうか。
プロセスは以下のとおりです。
1. 顧客情報を収集して、顧客のデータベースを構築する
2. 優良顧客の選別を行う
3. ターゲット顧客に対して、重点的に製品やサービスを提供する
4. 顧客を維持するための施策を通じて、収益力アップを実現する
1 顧客情報を収集して、顧客のデータベースを構築する
CRMを実践する場合には、まず、顧客情報を収集しなければなりません。
自社の顧客がどのような属性なのか、あるいは、どのような傾向があるのかを分析し、データベースとして管理することによって、どの顧客に注力するべきかが見えてきます。
ただ、あらかじめ情報収集を仕組み化しておかなければ、効率よく集めることはできません。
たとえば、顧客と直接接することになる営業パーソンや接客担当、店舗スタッフ、あるいはPOSデータなどを、顧客情報を収集するために使用すると周知させておかなければ、情報の抜けや漏れが生じてしまう可能性があります。
CRMの目的となる「優良顧客の囲い込み」という観点から、情報収集体制を整えることが先決です。
場合によっては、経営サイドの意見ばかりではなく、現場の意見も聞かなければならないでしょう。
顧客情報の収集にばかり気を取られ、本来の接客業務がおろそかになってしまえば本末転倒です。
また、さまざまな部門にまたがる顧客情報を、マーケティング部門が一括管理できるようにしておくことも忘れてはなりません。
2 優良顧客の選別を行う
次に、収集した顧客情報を参考にしつつ、顧客の選別を行います。
それぞれの顧客をランク付けして、メインターゲットを見定めるのです。CRMが優良顧客との長期的な関係を築いていくことを目的としている以上、この作業を避けて通ることはできません。
かつては「お客さまは神様」というような考え方も支持されていましたが、一緒くたにしてしまうことはマーケティング上非効率なのです。
自社にとってのロイヤルカスタマーが判明すれば、より経営資源を効率的に配分することができます。
もちろん、他の顧客をまったく無視してよいということではなく、あくまでも優先順位、あるいはランク付けによって区分することで、限られた資源を適切に活用するということが目的です。
現場レベルで考えるなら、対応を大きく変える必要はない場合もあることでしょう。
顧客の選別によく用いられるのが「RFM分析」です。
RFM分析で使用する指標は次の3つです。
・最新購入日(Recency)
・購入頻度(Frequency)
・購入金額(Monetary)
「最新購入日」とは、もっとも直近で購入した日にちのこと。
「購入頻度」とは、その顧客がどのくらいの頻度で購入するかという指標。
「購入金額」は、一定の期間内や1回あたりにどのくらいの購入金額となるか、という指標です。
これらをもとに顧客のランク付けを行います。
それぞれの指標の優先順位に関しては、企業や業種ごとに異なるでしょう。
日用品を取り扱っている企業では購入頻度が重要となりますし、購入回数がそもそも少ない贅沢品に関して言えば、どのくらいの金額のものを購入するのかということが重要になるはずです。
CRM導入の際の注意点
CRMをただ顧客を選別するものだと考えていると、思わぬ落とし穴にハマってしまうことになります。
CRMとは、優良顧客との長期的な関係性を構築することですので、顧客生涯価値の理解やマーケティング段階からの取り組みが欠かせません。
具体的な注意点は次の4つです。
1 製品特性に合わせる
その企業がどのような製品を取り扱っているかによって、CRMの持つ意味合いは変わってきます。
たとえば、スーパーやコンビニエンスストア、あるいはその他の小売店が販売しているひとつひとつの製品にCRMを適用しようと思っても、実際には難しいでしょう。
また、効果も限定的なものとなっていまします。
なぜなら、そうした顧客は、あくまでも「安さ」「立地」「商品ラインナップ」を基準にお店選びをしているケースが多いと考えられるからです。
どんなに充実したサービスを提供していても、10キロ離れたコンビニエンスストアにわざわざ行く人は少ないでしょう。スーパーや小売店も同様です。
そこで、ポイントとなるのは製品に付随するサービスです。このサービスに関する比重が大きい製品を取り扱っている場合には、CRMの効果がより大きく発揮される傾向にあります。それは、付加価値であり、社員教育やマニュアルの徹底によって高められる可能性があるからです。
顧客ごとに差別化することも可能となるのです。
2 組織全体で取り組む
CRMは、マーケティング部門だけが率先して行っても成果をあげることはできません。
お客さまと直接接することになる営業部門やサービススタッフはもちろんのこと、事務や管理部門も含めたすべての社員がCRMの考え方を理解していなければ、具体的な行動に落としこむことはできません。
そのために必要なのは、CRMという考え方を社内に浸透させ、全社的に取り組むということです。
システムを構築することがゴールなのではなく、優良顧客を囲い込み、長期的な関係性を築くことで収益力を高めることが目的です。
その点を理解しておけば、顧客を選別して対応を変える意義についても しっかりと認識できることでしょう。
3 個人情報の保護
ただし、顧客情報を管理するということについて言えば、個人情報保護の観点から慎重に行わなければなりません。
顧客情報が流出して事件となる事例は枚挙にいとまがありませんが、CRMを実施する以上、その危険性はどの企業にもあるのです。
個人情報の管理を徹底しつつ、より厳格なルールのもとで運用しなければなりません。
4 改めて顧客理解を深める
CRMを通じて、「どんなビジネスも結局は人対人である」ということを学べます。
とくに、直接的に顧客と接していない管理部門の人ほど、システマチックに顧客を考えてしまうことは少なくありません。
しかし、現場レベルで考えてみると、やはりそこには人がいて、顧客に支えられていることで事業が継続できていると気がつくでしょう。
自分も含め、同じ人間としての「生活者」を意識することは、マーケティングにおいて欠かせない視点です。
CRMを導入するメリット
CRMが必要な時代となり、顧客管理が重要な意味を持つようになりました。
CRMには他にもメリットがあります。そのメリットが下記の3つです。
顧客情報の一括管理ができる
営業の担当者が独自に顧客情報を管理している場合は、その扱いが属人的なものとなり、管理が不十分になる可能性があります。
そこで、CRMを用いることで顧客情報を一括して管理できるため、情報の可視化ができます。その結果、適切な管理・フォローアップができるようになるのです。
顧客満足度を高められる
顧客情報を組織内で広く共有できるため、営業やマーケティングといった部門を超えた連携が可能になり、組織全体で顧客に対して最適な対応ができるようになります。
また、顧客情報の可視化により、顧客の潜在的な欲求やニーズを捉えることができるため、それぞれの顧客に適した提案やアプローチが可能になります。この結果、顧客満足度の向上につながるのです。
これは、自社のみならず顧客にとっても良いことがあります。それは、以前に買った商品やサービスに関する情報や、サポートなど自分にとって有益な情報を受け取れることです。
また、担当者が変わった場合でも、顧客情報が共有されているため、以前と同じアフターサービスを受けられます。
PDCAサイクルを素早く回せる
CRMでは、顧客の活動や動向の履歴を分析できるため、PDCAサイクルを素早く回せるようになります。
PDCAサイクルは、下記の単語の略称であり、業務効率化を目指すフレームワークです。
Plan :計画
Do :実行
Check :評価
Action :改善
効果的なアプローチやプロセスを分析・改善することで、戦略がより洗練されていきます。
CRMにはいくつものメリットがありますが、一方、デメリットも存在します。
CRMを導入したとしても直ちに効果がでるわけではない。CRMシステムを導入する場合、効果が表れるまで時間がかかるということは認識しておくべきです。
CRMの効果としてあらわれるのは、顧客満足度の向上やライフタイムバリューの向上であるため、長期的に見ていくしかありません。
効果を実感することが難しいと投資に消極的になってしまいますが、的確な運用をしてシステムが定着するまで継続することや試行錯誤をしていく体制をつくりあげることが重要です。
CRMは、顧客との関係性を強めて、利益を上げたり、顧客満足度の向上につなげるのに役立つツールです。しかし、CRMを導入することで すべてがうまくいくというような魔法のツールではないということも、覚えておきましょう。
CRM以外にも、組織にとって有用なツールやシステムは数多くありますが、導入したはいいものの、使い勝手が悪いと利用頻度が下がっていきますし、慣れるまでに時間がかかるとやりにくさを感じてしまいます。
導入の前に、本当に自社にそれが必要なのかどうか、何の目的で導入するのか、を明確にしておかなければ、ツールやシステムを導入しても宝の持ち腐れになってしまいます。
自社の商品・サービスの提供経路として、代理店等を有効に活用しているか
流通チャネルに関しては、3つの基本政策があります。下記のうち自社に適した戦略を選ぶようにしましょう。
第1の流通チャネル政策は「開放的チャネル政策」です。
消費者の購買頻度の高さに適合するように、できるだけ多くの小売店に配荷し、卸売業者も多く用います。メーカーのコントロール力は最も弱くなります。
第2は「排他的チャネル政策」です。
ブランド・イメージの厳格な管理、希少性の維持や消費者への高サービスの必要性から小売店を限定します。メーカーのコントロール力は最も強くなります。
第3は「選択的チャネル政策」です。
販売窓口をある程度制限するなどメーカーは適度なコントロール力を有します。上記2政策の中間的特徴を持ちます。
「排他的チャネル政策」や「選択的チャネル政策」を採用する場合には、代理店の活用も有効になるでしょう。代理店を含めた流通チャネルを、単なる取引先ではなく、パートナーと捉えることが流通戦略に成功するためのポイントです。
悪い口コミの発生を抑制するための方策があるか
口コミについては、よい口コミだけでなく、悪い口コミがあることも忘れてはいけません。悪い口コミは中小企業に重大なダメージを与えてしまいます。
悪い口コミの発生を抑制するためには どのようにすればよいのでしょうか。人は苦情の持って行き場がない時に悪い口コミを行います。ということは、顧客の不満を苦情というかたちで顕在化させ、それを聞くことによって、悪い口コミの発生を最小限に抑えることができるはずです。
他者に伝えられる情動的な経験の6割ほどは、その日のうちに行われるといいます。従って、不満への対応は早ければ早いほうが効果的です。普段から、顧客満足保証の姿勢や交換、返金、修理などに対する方針を顧客に周知しておき、顧客が不満や苦情をできるだけいいやすくしておきましょう。
CRMとSFA
CRMは顧客との関係をマネジメントする手法ですが、混同されるツールにSFAがあります。
SFAと一緒に用いることでより高い効果を期待できます。
SFA
SFAは、「Sales Force Automation」の略称で、直訳すると「営業活動の自動化」となり、一般的には「営業支援システム」と呼ばれています。営業活動を成功に導くためのシステムやツールがSFAです。
SFAでは、営業活動で集めた見込み顧客の情報や取引の進み具合などを、数値や文章として保存することができます。そして、そのデータは自社の従業員とすぐに共有ができるうえに、自社にいなくても社外から情報のチェックや保存も可能です。
営業活動は、個人個人のスキルや能力によって成績が異なることが多く、属人的なものでした。しかし、SFAにより、営業活動で得られるデータを蓄積・共有することで営業活動の業務効率化が可能になるのです。