参入の戦略

 リーダーは、自社がいま勝負しているマーケットの状況を見極め、参入の戦略を立てるとよいでしょう。

 有利・不利に差はなく、みんなが同じ条件で競争することになります。となれば、自社の疲労を極力軽減することが大事になってきます。例えば、ネット販売や通信販売など、初期投資とランニング・コストを軽減させる無店舗販売を利用するのも一つの方法でしょう。また、優秀なアドバイザーを持ち、少しでも効率の良いビジネスを考案してもらうのもよい。いたずらに「ヒト」「モノ」「カネ」を大量投入するのは避けたいところです。

 マーケット戦略においては、「参入してみたら思わぬ強敵が控えていた。しかし、既に事業は動き出していて撤退するわけにはいかない」という状況です。

 本来ならば、参入する前によく調べておくべきですが、調査が行き届かずに参入してしまった以上は仕方ない。独自の価値をアピールして、果敢に戦うしかありません。オンリーワンの商品やサービスを提供するように努めましょう

 「どう考えても その市場に利はない」状況、そのような市場にわざわざ出ていく必要はありません。

 ライバル会社が進出して利のある市場のように見せかける、そういう誘いに乗らないように注意すべきです。

 先行者利益が見込める分野、その市場に一番乗りして迅速に顧客獲得に全力を投入することです。そうすれば、他社の新規参入が難しくなります。ただし、ライバル会社に先を越されても、簡単に諦めることはありません。その会社に市場をたちまち席巻するほどの強みや戦略がないようなら、その脇の甘さに付け込めます。ライバル会社をしのぐ技術・ノウハウを駆使して逆転を計りましょう。

 これまで何社も参入に失敗しているような市場は、一番乗り出来ない限り参入を見送るべきです。一番乗り出来た場合は、他社が参入を諦めるように、顧客の支持を獲得することに専念しましょう。

 マーケット戦略上、どの会社が参入してきても規模・能力から見て互角の勝負が予想される状況で どうしても戦うなら、相討ち覚悟でいくしかありません。共倒れにならないよう注意が必要です。

 役職にかかわらず、誰しも家族やプライベートのことで何か心配があると仕事に身が入らないものです。特にリーダーがこんな風だと、下の者にまで その 気もそぞろ感が伝染し、組織のまとまりがなくなってしまいます。そういうときには、「戦いを中断して仕切りなおせ」と孫子は言っております。志が一つになるよう態勢を立て直すということです。心配事を引きずったまま仕事を続けても生産性は上がらない。心配事を解決して、すっきりした気持ちになってから仕切り直しにかかるとよいでしょう。

 会社の場合、人事異動が頻繁に行われるようだと、社員は「またすぐに異動になる」と思うので、所属意識が薄れます。会議などでも口先で適当なことを言うだけで、目標への追及力が弱まってしまうのです。社員の新しい能力を開発するために異動も必要ですが、あまり頻繁だと一つの仕事に熱が入りません。人事を預かる立場にある者としては、その点に注意が必要です。

 孫子は、「信頼できる協力者を集めて、落ち着いて事に当たれ」と言っております。

 全社一丸となり、シェア獲得に向けて一生懸命になるのはよいのですが、元気はそうそう長続きしません。会社でも、新規に事業を立ち上げたり新しい市場に参入したりするときは、最初のうちは「よし、行くぞ」と威勢がよいのですが、段々に失速してしまうのです。

 そうならないために、孫子は、「勇み足にならぬよう、落ち着いて事態を静観し、競争が一段落してから攻めるのも一つの戦略だ」としています。

 リーダーとしては、社員みんなと一緒になって初速を上げようとするよりも、「出るのは今でなくてもよいのではないか」という目で市場動向を睨み、その上で頑張りどころをしっかり示すことが大切です。

 市場に置き換えれば、次から次へとライバルが現れてくるような状態ですから、常に緊張が強いられます。攻めに注力して、いかに新規顧客を開拓しても、わずかの隙にライバルに奪われてしまいかねないからです。

 独立系の企業にとって、目の前のライバル会社の頭越しに大企業と親しくなればよい。たとえば、下請けの下請けのような地位に甘んじることなく、大企業からの直受けを目指すことを考える。それが孫子の言う「交を合わせる」ことです。よりスケールの大きな仕事ができようになるでしょう。

 自社の得意でない領域に首を突っ込み、競争に巻き込まれてしまうことがあります。社員は

 実力不足でアップアップになり、いつ強豪に呑み込まれるかわからないという不安に駆られるでしょう。そのようなときは、「持久戦を覚悟して食料や物資を現地調達しろ」と、孫子は言っております。会社に置き換えると、とにかく目の前のできることをやって、細々とでも事業を続けながら、現状を打開する機会を持つということです。どんな事業領域も やがて衰退していきます。そうして先細りになっていくなかで ねばっていれば、ライバルたちのほうが撤退してくれるかもしれません。「粘って粘って一人勝ち」を狙うのも一つの方法です。
 会社の経営でも、難題に続く難題という状況だと、「こんな状況がいつまで続くのか。永遠に終わらないのではないか」と 気持ちが暗澹としてきます。難題の向こうに広がる夢を思い描けなくなってしまうのです。そんな状況からは早く脱け出さなくてはいけません。孫子が、「速やかに通過しろ」と言っているように、少しでも体力のあるうちに全力疾走で乗り越えるのみです。その際のポイントは、諸問題の根本をえぐり取るつもりで、大胆な策を講じることです。リーダーは、同時に、「ここを抜ければ素晴らしい世界が開ける」と困難の先に広がる夢のある風景を描いてみせるとよい。困難を前に逡巡している暇も「一つずつ解決していこう」とのんびり構えている暇もないと腹をくくりましょう。

 中途採用で優秀な社員をどんどん増やし、これまで中心となってきた古参社員を孤立させてしまうことがありえます。場合によっては、トップ自身が似たような目に遭うこともあります。また、市場にあっては、長い時間をかけて自社の独壇場としたところへ うまみを嗅ぎ取った他社がどんどん参入してきて、じりじりとシェアを食われていくような場合です。

 やる気を失ってうずくまっているだけでは何も解決しません。孫子は「退路を断って一点突破をはかれ」と言っています。

 会社が倒産の危機に立たされると、白旗を振りたい気持ちに駆られるでしょう。しかし、会社は存続させることに意味がある。安易に諦めずに、決死の覚悟でなんとしてでも生き残る道を算段しなければなりません。「どうしてこんなことになったのだろう」などと悠長なことを考えず、ひたすら前を向いて死に物狂いで迅速に攻めていくしかないのです。

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