集中戦略

 集中戦略とは、ニッチ戦略、焦点化戦略、特化型戦略とも呼ばれ、特定の市場セグメントや流通チャネルに集中してコスト低減を図るか、差別化を図るか、もしくはその両方を目指す戦略です。特定市場に集中するため、自社が目標とする売上を獲得できる一定以上の市場規模に対し、自社の強みが発揮できる分野を選択することが重要となってきます。
 現在では、「戦略とは集中である」「戦略とは捨てることである」と言われる通り、どの戦略にも集中は不可欠とされているため、集中は事業において大原則だと言えます。

 

選択と集中

 ビジネスの世界においては、不利な状況のまま競合相手との競争を強いられる場合もあるでしょう。そういうときは、ランチェスター流の局地戦や集中戦などの「弱者の戦略」が有効になってきます。兵力に劣る弱者が資本や規模で上回る強者と戦うときは、全面対決を避けて、相手の弱い部分をこちらの総力で叩く。このような一点集中型の戦いを選択すべきです。そこに いわゆる「選択と集中」が必要となってくるのです。

 

小が大を制す

 競合があまり力を入れておらず、自社が得意で、しかも顧客ニーズの大きい分野に特化する ことが出来れば、その分野では勝てる可能性が出てくる。

 仮に敵の店が20人、こちらの店が5人で運営しているとすれば、敵はこちらの4倍の勢力であり、販売スペースも品ぞろえの規模でも圧倒され、勝ち目はほとんど無い。

 しかし、敵がⅠからⅣまで4分野を扱っていて、そのうちのⅣは20人中2人で細々とやっているとする。自社がもしこのⅣの分野に強ければ、こちらの5人すべてを集中させることで、Ⅳという局所では勝てる可能性が出てくる。

 小売業でいえば、大手は総じて顧客への目が行き届いていない。上得意客に対してはきちんとデータをとって接客しても、その他の大半の客には顔も名前も覚えぬまま、雑なサービスをしている。中小零細店はその弱点を突くべきなのです。

 こちらは、大企業の「ここだ!」と思う一点に狙いを定め、一点集中攻撃をかけるわけです。

 アイデアで勝負? サービスで勝負? 技術で勝負? 何か一つ相手に勝る物に戦力のすべてを賭けて勝負すれば、勝機が見出せるかも知れません。

 どんなに強大な相手でも、必ず守りが薄い場所があり、つけ込む隙があります。

 「ここが狙い目」という「時と場所」を定める事ができたなら、たとえどんなに遠くまで遠征しても勝てるし、それを見抜けなかったら戦力が分散され、お互いに協力し合う事もできないようになるのです。

 社員100人の会社が10万人の大企業と勝負する時は、1つの ニッチ な分野に戦力を集中させれば勝利できます。

 大企業は、10万人と言ってもいろんな製品を扱っていて、数多くの部署に人材を分けて配置しているので、某製品を扱う大企業の課は10人前後ということがあります。そのため、某製品に特化した100名の中小企業は、その分野においては大企業の10名の課よりも多くの戦力を保有しており十分に戦うことが可能です。

敵は分散、我は集中の状況を作れ

 自社と競合の経営資源を冷静に見極め、敵に味方の兵力を悟られないようにしながら、フォーカス戦略をとることが重要で。

 何であれ、戦いにおいて勝利するためには、集中の法則というものがあって、戦力の集中が非常に大事です。これは、総花的、八方美人的な経営は失敗しやすいため、戦力の集中を図って戦うという考え方です。特に、中小企業には大切な考え方です。また、大企業でも、不況期や経営不振に陥った時期には必要な考え方となります。少ない戦力(能力)しかない段階では、自分の置かれた場面で、「戦力の集中」をどのように図るかに智慧を絞ること。そうすれば、相手がいかに巨大でも、必ず勝利への道が開けていく。

 幸福の科学大川隆法総裁は、『希望の法』で以下のように説かれました。

「大企業には、動きが大きすぎ、長蛇の陣のように伸びきっていて、細かい部分で作戦が立たない面があります。そのため、「ここを襲えば勝てる」というコア(中核)の部分を攻められると、崩れてしまうことがあります。
 大手のスーパーなどでは売り上げが落ちているのに、ユニクロなどは何倍もの成長をしました。なぜなら、リスクは大きいのですが、中国で最初から最後まで一貫して生産を行い、それによって、ものすごく安い値段で勝負したからです。それで、消費者はサーッとそちらに走っていきました。不況期で、ほかのところの売り上げが落ちていても、ユニクロなどの売り上げはグーッと増えたのです。
 安売りのスーパーが安売りで負けたわけですが、なぜ負けたかというと、多角化しすぎていたことが原因です。長蛇の陣を敷いていると、経営者は、個別のところについて、それほど絞り込んで見ることはできません。そのため、狭い範囲を一気に攻めてこられると、そこを破られてしまうのです。
 やはり、戦略を持たない者は勝てません。しかし、成功していると、どうしても、「このやり方でよいのだ」と思って、その戦略が固まってきてしまい、やがて、新しい者に敗れていきます。
 これは、大きくなったこと自体が致命傷になっているのです。「大きくなっても隙がない」ということは、まずありません。図体が大きくて動きの鈍いところを見ていけば、どこかに攻撃材料があるものです。それで、衣料品なら衣料品、食品なら食品に特化して攻撃すれば、大手のスーパーであっても破ることができるのです。
 そのように、一部の大手のスーパーやデパートが傾いたりしていますが、そういうところを捉えているのはどこかというと、コンビニなど、小さな駆逐艦のような戦い方をしているところです。そういうところが、ある程度、流行っています。
 ところが、この駆逐艦のようなところは、品揃えが何百種類もあるため、それに対して、今度は、ハンバーガーの単品や丼物の単品などで安売り攻撃をかけ、お弁当マーケットを攻めてくるところが出てきます。そういう狭い範囲に絞って攻めていくと勝てるのです。
 力が大きくなったときには、大きくなったなりの戦い方があるのですが、大きくなるまでの戦い方としては、やはり、絞り込んで戦力を集中しなければいけません。そうしないと勝てないのです。
 いかに相手が大きくても、すべての部分で同じように強いわけではないので、相手の弱いところに戦力を集中し、特化すれば、そこを撃破することができます。
 市場では、こういうことが繰り返されています。
 いずれにせよ、力が充分でない場合には、いつも「戦力の集中」ということを考えておかないと駄目になるわけです。」
(255~258ページ)

 

中小企業は経営資源の集中投下を

 高付加価値路線でいく場合、経営資源の限られた中小企業は、必然的に集中戦略を採らざるを得ません。

「中小企業の場合は、「従業員数も資本金も少ない。銀行取引の条件も悪い。商売においても商品を買い叩かれる」という厳しい条件下での戦いとなります。

 また、セールスマンの数も大企業に比べて少ないでしょうから、「少ない経営資源を利用して、いかにして大企業と戦うか」ということを考えなければなりません。

 今は、大企業のほうも、のたうち回る巨象や竜のように、冷静な判断が出来なくなっているので、「利がある」と思うと何にでも すぐに食いついてきます。大企業は、中小企業を潰すぐらいは気にもかけません。

 苦しんでいる大企業の隙を狙って生き延びるためには、中小企業は、何とかして特色を出さなければなりません。そのためには、経営資源の集中投下が非常に重要です。「満遍なく、さまざまな分野に手を出す」などということは絶対にしてはいけません。」(『経営入門』P-351~352)

 事業に熱心な経営者ほど、事業を拡大したがる傾向がある。事業を大きく見せたいという見栄もある。こうした考え方が経営者の心のなかにあると、集中戦略が採れなくなる。「分を超えた欲」や「見栄」は熱意の影に隠されることが多いので気をつけたい。これは、中小企業の経営者への戒めである。

「高度成長期には、総合商社のように、「総合」という名が付くものには とてもよいイメージがありました。「総花的に様々なことをすることが、規模が大きいことの証明であり、世の中の役に立っているように見えて かっこいい」と思われていたのです。

 ところが、今は、「総合」と名の付くようなところは駄目になっていく可能性が高いと言えます。

 「総合」という言葉は、「総花」と読み替える必要があり、「総花主義の企業は潰れる可能性が高い」と考えなければいけません。「いろいろな部門を持っている」ということは、昔は強みであったのですが、今の時代においては弱みになることが多いのです。

 総花的ではなく、筋のよい商品や事業に絞り込み、そこを大きく伸ばしていくことが、これからの「生き筋」なのです。それを知らなくてはなりません。」(『経営入門』P-353~354)

 

集中戦略で優位性を維持する

 集中戦略は、大きく分けると2つの戦略に分類できます。

1 コスト集中戦略

 コスト集中戦略とは、一部の狭い市場にて低コストで商品を提供し、市場の優位性をはかる戦略です。競合他社と大きな商品の違いはないが、より低いコストで商品を提供することにより、多くの利益を得るための戦略です。

2 差別化集中戦略

 差別化集中戦略とは、一部の市場に絞り、その中で差別化を行う戦略です。狭い市場の中で差別化をはかり、優位性を獲得するための戦略です。

 大企業の場合、コスト・リーダーシップ戦略か差別化戦略をとることができますが、これらはいずれも経営資源の限られた中小企業のとるべき戦略ではありません。

 中小企業のとるべき戦略は、ターゲットを絞った集中化戦略です。競合他社と比べて、いかにターゲットを絞るかを戦略の基本に据えるべきです。

 

狭いターゲット市場に焦点を当てる

 集中戦略を維持するための1つ目のポイントは、狭いターゲット市場に焦点を当てるということです。それにより、ニッチ市場のリーダーとなることができます。狭いターゲット市場に焦点を当てることで、コストを抑えることもでき、製品の製造やサービスの提供にかかるコストを抑えることができます。

 多くの大手企業が、この狭いターゲット市場に焦点を当てることから始めました。世界最大のSNSサービスとなっているFacebookも、ハーバード大学の学生向けのサービスとして始まりました。狭いターゲット市場に焦点を当てることで、市場の優位性を維持できファンを増やすと、市場が拡大し、業界の次のリーダーになることができます。

 

ユーザーとのコミュニケーション

 競争上の優位性を維持するための2つ目のポイントは、ユーザーとの親密さを育むことです。

 ユーザーとの親密さを重視すると、ユーザーが何を望んでいるか、どのように望んでいるか、いつ望んでいるか、顧客のためにどのように解決できるかを予測できます。

 時間が経つにつれて、この戦略はより強い信頼と顧客ロイヤルティにつながります。コンピュータテクノロジー企業DELLは、販売業者を通じて販売されている組み立て済みモデルから選択するのではなく、ニーズに合わせてコンピュータをカスタマイズしたい消費者や企業に焦点を当てました。

 顧客に直接販売することで、DELLは顧客の好みやニーズについての洞察を得ることができたため、競合他社よりも迅速かつ優れた方法で優位性を維持することができました。

 

集中戦略の具体的方法

 特定の部門に特化するためにはどうすべきでしょうか。

「数十年の社歴がある会社であるならば、総合化の流れのなかで、景気がよかった時代にさまざまな部門を増やしているでしょうから、内部をよく見て事業構造を選別することが非常に大事です。

 「人・モノ・カネ・情報」の経営資源を、会社の面子のためだけにあるような利益の出ない部門から、今 利益の出ている部門、あるいは、これから利益の出る可能性のある部門へと大胆にシフトしていくことが必要なのです。

 現時点で赤字を出し、不採算部門になっており、将来性がないと思われるものについては、「その部門をいかに切り捨てて、上手に撤退するか」ということが大事です。

 社長がかつて自分で企画し、一時期は成功した部門であっても、現時点で駄目になっているならば、やはり切り捨てて撤退しなければなりません。「自分が企画して始めたものだから やめられない」ということでは駄目なのです。」(『経営入門』P-359~360)

 何を残して何を切り捨てるかを判断する際には、「パレートの法則」「95パーセントの原理」「ABC分析」を活用するのがポイントです。

 何を切り捨てるべきかについては比較的容易に判断できる。現実に難しいのは、実施のほうである。かつての花形部門であれば、社長自身の思い入れもあることが多いし、社員の反発も大きい。世間や社外に対する見栄や体裁もある。こうした諸々の執着を断ち切ることが出来るかどうか。社長の信念が問われるところとなる。

 また、単純に「今儲かっているかどうか」で判断すると、誤ることがあります。

「ただし、間違ってはいけないことは、現時点では十分な利益が出ていないけれども、これから伸びる可能性がある部門を、不採算部門だと考えて切り捨ててはいけないということです。将来の「金のなる木」になる部分を捨ててはいけないのです。

 また、社内で継子扱いをされている商品や事業のなかに、手がからないわりに利益を出しているものがあります。こういうものに目が届かずに見落とすことがあるので、気をつけなければなりません。

 誰も意識していないけれども、大して経費もかからないのに、大きな利益を生んでいるものがあるのです。これは「シンデレラ商品」といわれるものです。継子扱いをされ、いじめられていたシンデレラが、実は お姫様になるような素質のある女性だったように、商品のなかにも、誰もしていないけれども、筋のよいものがあるのです。」(『経営入門』P-363~364)

 

集中の法則

  絞り込みの理論

「戦において、「いつも総力戦で戦い、全ての部門を最大限に働かせて勝つ」ということは、よほど力が強ければ可能ですが、たいていの場合は そうはいかないし、発展期の企業においては、何もかも揃っているということは ありえないのです。

 小さい企業から始めた場合には、人材などいるはずがありません。人材も資金もなく、工場や建物もそれほど十分ではないのが普通です。そのため、組み立て工場にガレージを使っていることもあります。アップル・コンピュータも、最初はガレージのなかでつくっていました。そういうものなのです。

 最初は規模が小さいため、全てにおいて経営資源が不足しています。あるものと言えば、たいていの場合、アイデアか創業者の非常に優秀なリーダーシップぐらいであり、人は一人か二人しかいないものです。

 それが大きくなるにつれて、だんだん いろいろな経営資源を揃えていかなくてはならなくなります。そういう戦い方が大事です。

 経営資源が有限のときには、既に大きくなっているところと同じような戦い方は出来ないので、できるだけ絞り込まなければいけません。数少ない人、数少ない物、数少ないお金などを一番効率的なところに集中投下しなければいけないのです。そうしないと道は開けません。

 儲からないところに いくらお金を注ぎ込んでも、お金が消えていくだけです。

 資金の豊富な大企業が、「一定の比率で新規のものを研究する。その部分は赤字でもよい」というような場合は良いのですが、「手元にある資金は一千万円だけであり、この一千万円をつぎ込んで失敗したら終わりだ」という場合には、その一千万円は最も効果を生むところに投入しなくてはいけません。そうでないと うまくいかないのです。

 これが「絞り込みの理論」です。

 絞り込みをせずに総花的にやると、「どの部門もコストがかかるわりに成果が少ない」ということがあります。」(『社長学入門』P-66~69)

 経営資源における集中の法則は、スタートアップの時点では守られていても、その企業の発展期、成長期においては見失われることが多い。実力ある経営者ほど成長意欲が高く、拡大志向を持っているからである。経営資源の不足する初めの頃、集中の法則を守っていた中小企業が「多角化」や「ラインの拡大」に入るということである。

 では、どのようにして絞り込みを行えばよいのでしょうか。絞り込みの方法論としては、いくつかの考え方があります。

 一つは「リストラクチャリング(事業の再構築)」です。

 有名な例は、1980年代にGE(ゼネラル・エレクトリック)でジャック・ウェルチが行った「ナンバーワン・ナンバーツー戦略」です。これは、業界のトップもしくは2位になれない事業を大胆に切り捨てるという戦略である。併せて、将来的に成長性の高い事業分野を確立する戦略も進行させた。その結果、1981年からの5年間で、200の事業を売却し、70の事業を買収したと言われる。その結果、350の事業は13部門に統廃合され、GEの収益体質は向上した。

 また、リストラクチャリングへの批判から生まれた手法に「コア・コンピタンス」がある。

 コア・コンピタンスとは、顧客に対して、他社には まねの出来ない自社ならではの価値を提供する企業の中核的な力のことを言う。事業ではなく、スキルに注目している点に特徴がある。

 大川隆法総裁は、以下のように説かれました。

「構造的な赤字部門は縮小していき、そこの予算や人員をシフトして、黒字の部門を強化していく必要があります。それから、不況期には投資の仕方が非常に難しく、一般的にいって、会社の売上額の20パーセント以上の投資は危険です。
 一見、撤退に見えることや、一見、消極的に見えることのなかにも、実は、発展の芽はあるのです。「資金や人員のむだな投下をやめ、無謀な計画を中止し、健全なところに絞り込んでいく」―これは植木の剪定のようですが非常に大事な考え方です。人間はどうしても目先のことに注意が行き、戦線が拡大していくので、気をつけなくてはならないのです。どれほど強大な軍隊であっても、兵線が伸びきると危険です。
 戦いに打ち勝つためには、優秀な指揮官のもとに戦力を集中させ、最も重要なところを突破していくことが大事なのです。」
(『繁栄の法』)

 

戦力の集中から始まる一連の戦略の流れ

 会社を成功させようと思うならば、まず絞り込んで、一転突破する。そして、有名になる、あるいは売れる、評判が立つようになる。そうすると、今度はいろいろなニーズに応えていくのです。

 例えば、味噌を販売するならば、味噌そのもので まずは評判を取ることです。そうすると、「味噌をスープにも入れてほしい」とか、「味噌せんべいがあったらいい」とか、「味噌をバターのようにパンに塗る」とか、いろいろなニーズが出てきます。それに対応していくと、売上が上がります。ところが、多様なニーズに応えていると、利益率が下がってきて、「売れているのに利益が出ない」ということになってくる。その時には、売れていないものから順番に切っていかなくてはなりません。これは言うのは簡単ですが、意外に出来ないものです。

 絞り込まない.人は、経営資源を使い果たし、最後は会社を傾けてしまいます。

 一点突破、全面展開、そして、多様化を見直して高収益に持っていく、この順番が大切です。

 

絞り込むためのポイント

1 「ここを叩けば勝てる」というポイントを調べる

 「どこを攻めれば自分たちが勝てるか」「ここに集中すれば勝てる」というポイントを見出すことです。

2 敵に備える間を与えないスピードで攻める

 小さな企業を成功させようと思ったら「スピードが勝負」です。

3 仲間との一体感をつくる

 ともに戦う仲間との一体感です。チームで理念を共有し、情報を共有して、補完関係を構築しなければ敵を倒すことはできません。

 これらが揃ったときに、局地戦、集中戦は成功していきます。

 しかし、「勝った後、どうしたいのか」というビジョンがなければ、すぐに包囲されてしまいます。一点突破を狙う場合は、成功した後どうするかというビジョンまで考えておく必要があります。

 また、「集中戦略は決死の作戦である」「生きるか死ぬかの必殺の作戦である」ということを考慮に入れ、「負けた時、どう撤退するか」を同時に考えておかなくてはなりません。勝つことばかりを考えるのではなく、撤退戦というものがあることを知らなければいけません。被害をどれだけ食い止められるかが大事です。撤退して被害を食い止めれば、もう一度戦力を立て直すことが出来るのです。「集中戦略」と「撤退戦略」というのはセットだと言えるのです。

 

劣後順位を決める判断力

 経営者にとっては、「護るべきものは護り、捨てるべきものは捨てる」という考え方が大事です。ただ、これとは逆の発想で、やらないものの順位(劣後順位)をいくつも考えておくことも必要です。

 例えば、「マーケット規模が5000憶円以上のところには絶対参入しない」とか、「世界ナンバーワンの商品が持てるようなところ以外は参入しない」といったように、「これは絶対にやらない」ということを決めておくことが重要です。やらないものの順位のことを「劣後順位」と言います。

 「集中戦略だ」と言いながら、いろいろな事業に目移りするのは矛盾します。経営資源を集中するには、「このような事業には参入しない」という劣後順位を決めることも重要なのです。

 経営理念や経営者としての大きなものの考え方に基づいて、企業のなかで、そのつど「取るべきもの」と「捨てるべきもの」を必ず決めなければいけなくなります。経営者であれば、痛みを伴う判断をしなくてはなりません。人から嫌われたり、恨まれたりすることに対して抵抗力を持たなくてはならないのです。その決断が出来なければ、基本的には経営者が責任を回避したことになります。

 切らなくてはならないものとしては、「無能になった人を切る」「利益の出ない商品やサービスを切る」、あるいは「投資でなく浪費になっている支出を切る」「時間の無駄遣いになっている習慣を切る」などといったことが考えられます。その時には痛みを伴いますが、勇気を持って判断してください。

 これが出来なくて倒産していく会社がたくさんあります。「今は無能になったけど昔お世話になった人」「今は利益が出ないけど、以前社業躍進の立役者だったという思い入れのある花形商品」など、心情において切るに忍びないものはたくさんあります。しかし、それを切らなくては会社全体が沈む場合には、決然として切らなくてはなりません。

 

集中戦略のメリット

少ない資源で最大の成果を出せる

 集中戦略を効果的に使えば、少ない資源で最大の成果を出すことが可能です。

 一部の市場に対して資源を集中投下すれば、経営資源を様々な市場に分散させている大手企業にも勝てる可能性があるということです。全体の経営資源で大手企業に負けていても、一部の分野だけでも大手を上回っていれば、大手企業からシェアを奪うことも可能となります。

競合他社との競争に巻き込まれにくい

 ニッチな一部の市場に集中戦略を行った場合は、競合他社との競争に巻き込まれにくいといったメリットがあります。自社独自の市場を発見できた場合は、競合と戦わずして利益を得ることが可能となります。

 

集中戦略のデメリット

大手企業の参入

 自社で特定の市場に対して集中戦略を行い、その市場で利益が取れることが広まれば、大手企業が参入してくる可能性があります。

 大手企業は、豊富な経営資源を用いて中小企業を潰すための戦略と取ってくるでしょう。自社がニッチな市場を独占している場合、大手が参入を阻止するための利益率の調整対策が必要となっています。

環境の変化に弱い

 集中戦略は、環境の変化に弱いと言ったデメリットがあります。

 ニッチ市場でも商品が多く売れて参入企業が多くなれば、ニッチ市場ではなくなります。自社がニッチ市場を独占しているのであれば、生産量をどんどん増やして市場を大きくするのではなく、市場全体の規模を常に把握し、ニッチ市場を大きくし過ぎないように対策をしていく必要があります。

 

集中戦略の成功事例

ファッションセンターしまむら

 ファッションセンターしまむら は、ターゲットを20~50歳の主婦に絞り、低価格の衣料品を提供することで成功を収めています。まず、顧客のニーズに応えるべく、品揃えも豊富にしています。多品種を少量ずつ生産する一方で、物流や店舗のオペレーションを本部に集中させてコストダウンを図っているのです。こうした手法は「ローコストオペレーション」とも呼ばれています。また、事業を効率よく運営していくための独自の仕組みづくりも行っています。例えば、従業員のマニュアルは、ベテラン社員のやり方をもとに作成したものに対して、パートや一般社員が手を加えて改善していきます。マニュアルを随時ブラッシュアップすることにより、業務の効率化を進めているのです。さらに、新しい流通チャネルとして、2020年10月からECサイトを開設し、好調に進んでいます。「サイト上で注文した商品を店舗で受け取る」という顧客も多く、店舗へ足を運ぶきっかけづくりにも貢献しています。こうした数々の取り組みは、実際の成果にもつながっています。

 

 

スズキ

 スズキは、生産・販売を軽自動車に集中することで、長年に渡り軽自動車の国内シェアの首位を守り続けています。国内の大手自動車メーカーが高級車やハイテク自動車を生産するなかで、スズキは軽自動車や小型車の開発に特化。これにより、「軽自動車と言えばスズキ」というブランディングに成功し、他社との差別化ができています。また、スズキが成功した大きな要因のひとつに、販売するエリアの選定が挙げられます。1983年よりインドで生産を開始するなど、スズキは他の企業よりも一足早くインドに進出。スズキの自動車はインドに広く浸透し、現地でのシェアは5割を超えています。スズキが集中戦略をとっている背景として、自動車業界全体の中では規模感が小さいことが挙げられます。売上高などの指標を見ても、トヨタ、日産、ホンダと比べると弱者の位置づけとなります。そのような企業にとって、集中戦略は有効な戦略となります。

 スズキが保有している競争優位性は、軽自動車分野でシェアNo.1という点になります。高級車や中型車には事業領域を伸ばさず、軽自動車の研究、開発、生産、販売に特化して経営資源を集中投下できていることが強みと言えます。その結果、軽自動車を購入する消費者にとって、ブランドイメージを浸透させることができており、他社との差別化に繋がっています。

 また、集中戦略は、事業領域のみならず、販売地域も選択と集中を行っています。スズキは、競合企業に先駆けて海外進出の一環でインドに進出しており、現在ではインド国内で高いシェアを獲得しています。

 

ケンタッキー・フライド・チキン

 ケンタッキー・フライド・チキンでは、2つの側面から集中戦略を採用して成功しています。1つ目は、自社のマーケットを「フライドチキン」に絞っていることです。マーケットを特定することで、ファーストフードの最大手企業であるマクドナルドに対しても少ない経営資源で勝負できています。2つ目は、ターゲットの設定です。ケンタッキーでは、渋谷公園通り店を開店する際に「若い女性をターゲットに」と銘打っています。店舗の内装を若い女性に好まれるようなデザインにするなど、ターゲットを意識した事業展開を進めているのです。さらに、コロナ禍では、持ち帰り需要に応えることでファンを増やしています。新型コロナウィルス感染拡大防止のための外出自粛や自宅での食事の増加に合わせて、様々なパッケージ商品を提案しました。

 『ファストフード=ハンバーガー』とイメージを持つ方も多いと思いますが、ケンタッキーは、競合のマクドナルドとの競争を避けるために、『フライドチキン』という特定の市場に集中して全世界で約5,300店舗を展開する企業となりました。

 

集中戦略の失敗事例

 シャープと言えば、家電業界のなかでも技術力や開発力が高いことで知られる企業です。しかし、2020年頃からの液晶テレビの開発により、経営不振に陥ってしまいました。この失敗要因は、大きく2点あります。1つ目は、経営資源を液晶パネルの開発に集中させ過ぎてしまったことです。これにより、開発に伴う人件費や材料費などがかさみ、製造コストが上昇しました。また、一時は高まった液晶テレビのシェアも、その後の顧客のニーズの変化により大きなダメージを受けました。結果として、大量の在庫を抱え込んでしまったのです。2つ目は、市場調査が完璧ではない状態で、集中戦略に踏み切ってしまったことです。特に、液晶テレビの場合は、韓国や中国などの安価な海外メーカーの登場により、シェアを奪われてしまいました。こうした事態を防ぐには、新規参入者や代替品が現れるリスクを事前に予測しておくことが求められます。シャープは、世界の亀山モデルと呼ばれる世界最高峰の液晶技術を持っていますが、ユーザーの液晶TVにおけるニーズは、品質ではなく価格であったということが分かります。

 集中戦略を行う際は、将来性やユーザーのニーズに対して市場調査を行うことが重要といえるでしょう。

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