クリティカル・シンキング

 クリティカル・シンキングとは、複雑に見える事象を構造化することで、単純化し、物事を説明した時に相手に対して「納得感」を持たせるための思考法です。

 構造化する際には、物事を抜け漏れなく考えることが必要があり、その上においてもクリティカル・シンキングは重要な思考法となっています。

 例えば、経営戦略を策定するためには、自社を取り巻く外部環境と自社の内部環境分析を正確に行う必要があります。

 しかし、実際に経営戦略を策定する現場では、自社だけが特別だと思い込むような慣習や企業文化などによって事実情報を正しくとらえることができず、社内外の経営環境を正しく分析できないまま意思決定されていることが多くあります。

 このような正しくない環境分析から経営戦略を立案することがないように、事実情報をもとにして、複雑に見える事象を解きほぐして正しく整理された情報を共有できるようにすること。

 そして、その上で経営戦略を策定していくことが重要になります。

 そのための技術として「クリティカル・シンキング」が挙げられるのです。

 

クリティカル・シンキングとロジカル・シンキングの違い

 クリティカル・シンキングと近い言葉としてロジカル・シンキングがあります。ロジカル・シンキング とは「論理的思考」という意味です。複雑な事柄を分解して整理し、筋道立てて組み立てる合理的な思考法を指します。

 ロジカル・シンキング が論理的に考えるスキルを意味するのに対して、クリティカル・シンキングは、それらのスキル加えて、自分の考えに対して常に批判的にチェックするというマインドを身につけることも包含しています。

 

クリティカル・シンキングの基本

 クリティカル・シンキングを実践する際には、常に心に意識したい3つの姿勢や、MECE、ピラミッド・ストラクチャーといった考え方があります。

3つの姿勢

 クリティカル・シンキングには、土台とも言える3つの姿勢があります。

目的(イシュー)は何かを意識する

 一つ目は、目的(イシュー)は何かを意識することです。クリティカル・シンキングでは、前提を疑い多面的に検討していくプロセスがあるため、ともすれば本来のゴールを見失いかねません。そこで、目的やイシュー(論点や考えるべきこと)が何かをしっかり定めておくことが重要なのです。

 課題のゴールを常に意識しておけば、様々な角度から思考する範囲が広くなっても、迷ったり立ち止まったりせずにすみます。「何のために?」「どこを解決すべきか?」といった視点を忘れずに、最短で正しい結論にたどり着くようにしましょう。

思考のクセに左右されずに考える

 二つ目は、思考のクセに左右されずに考えるということです。人は自分の経験などから、必ず思考のクセ・偏りを持っているものです。しかし、偏った価値観や思い込みが無意識にでも反映されてしまうと、適切な結論を導き出すことはできません。また、周りと認識がずれて議論が嚙み合わないこともあるでしょう。

 そこで、クリティカル・シンキングでは、人は誰しも思考のクセを持っていることを前提として認識します。思い込みや偏見などに左右されないよう、常に「この意見は自分の主観が入っているかもしれない」「判断に好き嫌いや偏見が反映されていないだろうか」と考えることが大切です。

結論に至っても考え続ける

 三つ目は、結論に至っても考え続けることです。クリティカル・シンキングにおいては、問題が解決したと思っても、そこで考えを止めずに問い続ける姿勢が欠かせません。その際には以下の3つの問いが役立ちます。

 So what? (だから何?)

 Why? (なぜ?)

 True? (本当に?)

 これらを繰り返し考え続けることで、物事の本質がより明確になり、適切な解決策にたどり着くことができます。日頃からこれらの疑問の言葉を意識しておくと、思考力や考える習慣が身に付くでしょう。

 

MECE

 ロジカル・シンキングの基本的な考え方「MECE(ミッシー/ミーシー)」はクリティカル・シンキングでも役立ちます。MECEとは「Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive」の略で、日本語に訳すと「モレなく、ダブりなく」という意味になります。

 ビジネスにおいて、課題を解決するためには全体像を正しく把握する必要があります。考える要素に漏れやダブりがあれば適切な判断もできません。だからこそ、既存のフレームワークを用いて MECEの状態であることが求められます。

 クリティカル・シンキングにおいては、様々な検討を重ねた後、網羅性と重複を確認するために MECE の考え方を活用しましょう。

 

ピラミッド・ストラクチャー

 ピラミッド・ストラクチャーとは、結論(主張)とその根拠をピラミッド状に図式化する、論理的に考えるためのツールです。一つの結論にはそれを正しいと証明するために複数の根拠が必要であり、それらを階層状に並べると自然とピラミッドのような形になるため、ピラミッド・ストラクチャーと呼ばれています。

 この方法を用いると、自分が考えたことを整理し、妥当性や完成度を視覚的に確認することができます。MECEとあわせて実践してください。

ピラミッド・ストラクチャーを使うメリット

 ピラミッド・ストラクチャーにはいくつかのメリットがあります。一つは、考えを分解して課題部分を特定してから原因や解決策を考えることで適切な対処ができることです。問いを繰り返して検証を尽くすクリティカル・シンキングでは、とても有効なツールと言えるでしょう。

 あるいは、ビジネス以外においても、以下のようなメリットが挙げられます。

 「今の仕事は何のためにしているんだろう?」と悩んだ時にも活用できる

 無意識の思考のクセを理解し、自分と上手に向き合えるようになる

 自分の強みや課題に気づき、前向きになれる

 

クリティカル・シンキングの3つのステップ

 クリティカル・シンキングは、論理展開、因果関係の把握、構造化分析の3つのステップを踏むことで事実情報を整理する手法となっています。

 

論理展開

 論理展開とは、事象同士の関係性に理屈をつけることであり、経営戦略を立案する際に情報を伝達するための基礎スキルとなります。

 論理展開には、演繹法と帰納法の2つの方法があります。

演繹法

 演繹法とは、事象をルールや常識(前提となる事項)に基づいて結論を導出する方法であり、三段論法とも言われる手法になります。

 演繹法を考えるときの手順として、結論を考える、結論の理由を考える、結論の理由を大きな枠組みに当てはめる、という3つの手順で進めると有効です。

演繹法の例
 はじめに結論を考えます。

 ここでは、「インターネットを利用することは仕事を進める上でとても効率的である」ということにします。

 この結論に理屈をつけて人に説明することを想定します。

 結論の理由を考えます。理由として、「インターネットは自宅で多くの情報を得ることができる」とします。

 大きな枠組み(理由)を考えます。

 ここでは、「多くの情報から取捨選択することで正しく意思決定ができる」とします。

 これにより、人に情報を伝達する際、「一般的に多くの情報から取捨選択することで正しい意思決定ができると言われています。

 インターネットを利用すると、図書館に行かずとも自宅から多くの情報を得ることができます。

 そのため、インターネットを利用することは業務遂行上、とても効率的であると言えます。」と説明することで論理的な説明となります。

 

帰納法

 帰納法とは、いくつかの事象の共通点に着目してルールや規則性を導出して結論付ける手法です。

帰納法の例
 まずはいくつかの事象から共通点を探します。

 事例では、3つの事象を上げます。

 業界1位の競合企業のA社は、海外売上比率が40%に達している。

 同業界2位のB社は海外売上比率が45%に達している。

 業界3位のC社は海外売上比率が40%に達している。

 この事象から、3社とも海外売上比率が40%以上となっていることが共通点として挙げられます。

 ここから結論は、業界4位で海外売上比率が15%のX社が業界トップ3に入り込むためには、海外売上比率を40%以上にする必要がある。

 帰納法は聞き手や読み手に納得してもらうことが重要です。

 帰納法の弱点は、例示する事象が適切でなかったり、少ない事象から無理矢理結論を導出しようとすると、重要な納得感が欠落してしまう恐れがあります。

 演繹法と帰納法は、どちらかが優れているわけではありません。

 双方を使い分けることや帰納法で導出した結論を演繹法の前提(大きな枠組み)として利用するなど、2つの展開方法を組み合わせていくことが重要となります。

 

因果関係の把握

 因果関係を把握するということは、事象の関係性について「原因」と「結果」を正しく把握して紐付けることを意味しています。

 経営戦略を立案する上で前提となる経営環境の分析を行う際に、因果関係を把握し、自社が抱えている根本的な課題である事象の原因を究明することは非常に重要です。

 収集した情報は表層的な事象を指すことが多いため、それらの事象が発生した原因を推察し、その推察を裏付ける情報を収集するということを繰り返します。

 この作業を継続する中で、因果関係を的確に把握できないと間違えた分析結果を導いてしまいます。つまり、自社の根本原因を誤って導出することになります。

 正しく因果関係を分析するということは、問いに対する結論(仮説)に対して、結論を裏付ける複数の根拠を導出することになります。または、問いに対する結論を複数の根拠情報から導出する作業となります。

 

構造化分析

 構造化分析とは、複雑な事象の関係性を紐解くために要素分解し、要素間の関係を明確にすることで事象全体を把握するための手法になります。

 構造化分析に用いる技術の中でも、「MECE」と「ロジックツリー」は主要スキルです。

 

MECE(Mutully Exclusive Collectively Exhaustive)

 MECEとは、「漏れなく・ダブりなく」情報を整理するための考え方になります。

 例えば、人間を分類する上で正しくMECEに分類すると男性と女性になります。しかし、人間を学生と社会人などと分類してしまうと、未就学児や社会人を引退した人たちが漏れてしまいますし、社会人学生などはダブりとなってしまいます。

 このように、漏れやダブりがある状態では適切に分析することができません。

 経営戦略を立案する上で、活用するフレームワークの多くは、MECEの考え方に基づいて考案されています。

 例えば、マーケティングの4Pといえば、「Product(製品)」「Price(価格)」「Place(流通)」「Promotion(プロモーション)」といったものが該当します。他にも、SWOT分析は、自社の「Strengths(強み)」と「Weaknesses(弱み)」で内部環境を分析し、「Opportunities(機会)」と「Threats(脅威)」で自社を取り巻く外部環境を分析します。

 

ロジックツリー

 ロジックツリーとは、ある事象を解の事象として論理的に分解していくことを意味しています。

 このロジックツリーは、複数の事象から根本的な問題点が何になるのかを絞り込む際に利用されることがあります。

 問題を絞り込むロジックツリーは、因果関係の把握とMECEを組み合わせて構築します。

 例えば、「売上が減少している」という企業にとっての問題の真因をロジックツリーを用いて探ることを考えてみます。

 はじめに考えるのは、「なぜ売上が減少しているのか?」という理由を推察します。

 売上を要素分解すると、「客数×客単価」となります。「客数の減少」と「客単価の減少」は「売上減少」の理由となり、それぞれはMECEの関係と言えます。

 続いて、「客数の減少」と「客単価の減少」の理由を深掘りします。

 まず「客数の減少」は、「新規客の減少」と「既存客の減少」に要素分解しました。

 一方、「客単価の減少」は、「商品単価の減少」と「購入点数の減少」に要素分解をします。

 それぞれも要素分解した結果は、因果関係となり、要素分解した要素同士はMECEの関係となります。

 このように、「売上減少」といった表層的な問題を起点に根本的な問題を究明し、そこへの打ち手を考えることが経営戦略を考える際には重要となります。

 

トレーニング方法

 クリティカル・シンキングを身に付けるには、具体的にどのようにトレーニングをすれば良いのでしょうか。例えば、以下のような方法が考えられます。

 普段から身の回りの事柄に疑問を持ち、深掘りする習慣をつける

 主張への反論を考え、自分なりの批判的意見を構築する

 フレームワークを用いて客観的に分析し、仮説を立てて検証する

 本を参考にして様々な考え方や概念を学ぶ

 日頃から問いの姿勢を持ち、当たり前の事柄に対しても、「だから?」「なぜ?」「本当に?」と深堀りすることは有効です。何かの課題に直面した時は、あらゆる角度から反論を検討し、自分なりの批判的意見を持つことも良いトレーニングになります。

 

 ビジネス上、クリティカルシンキングは以下の4つのステップを踏んで行われます。

STEP1:目的=ゴールの明確化

 まずは、目的=ゴールを明確にします。ゴールが明確になっていなければ、ゴールに辿り着くためにとるべき行動も具体的にならないからです。

 クリティカルシンキングは、前提となる諸条件や立論過程、既知の課題にも疑いの目を向けるため、場合によっては「目的=ゴール」が再設定されることもありえます。具体的なケースをもとに考えていきましょう。

 

ケース:労務部門で人手が足りず、残業が常態化している

 働き方改革を実践し、その実現による魅力的な職場づくりを通して優秀人材を確保したいなら、これは ゆゆしき問題です。労務担当者の残業が多いことは、他の社員からも何度か指摘されています。
 現場からは「人手が足りない、人を増やしてくれ」と悲鳴が上がっていますが、単に人を増やす、すなわち、人件費を増やすことは難しい場合が多いでしょう。売上に占める販管費の割合が高いと、売上に比例して人件費も増加することとなり、利益が圧迫されてしまいます。
 そこで、中長期的な利益アップ=売上増、もしくは経費削減、社内人材の能力アップをめざすという解決法を探ってみます。ここではコスト抑制と人材育成を主な目的とし、仮に「業務効率の改善」をゴールと考えました。さらに期限・内容や数値目標を明らかにするため、より詳細に以下のようにゴールを設定しました。

 

(とある例) 半年間で労務部門の残業時間を5割減

 進捗を見て、可能であれば1年後の残業時間をゼロに

 人件費等の経費は少なくとも現状を維持すべく、残業時間削減と並行して業務効率化にも着手四半期で業務内容やフローの見直し・改善、社員のスキルアップに向けた人材育成を実施する

 

STEP2:現状分析

 次にゴールを達成するための諸条件を明らかにすべく、現状分析を行います。ゴールを達成するために前提となる条件=現状を明確化・詳細化し、それら条件の下、どのように行動するか考えるための準備を行うステップです。
 主に現場へのヒアリングや過去の財務諸表などの見直しによって、ゴール達成を阻む、または、後押しする現今の要素・リソースを洗い出します。
 ここでも、先に挙げた労務の残業のケースを例に具体的に考えていきましょう。まずは労務担当者へのヒアリングを行います。担当者に日々の業務内容やフローなどについてヒアリングしたところ、主な業務だけでも以下があげられました。

 

総務と労務を兼任している

 PCや電子機器、通信環境や備品などの管理・補充等は恒常的に行う(総務)

 社員のPCやサーバ、ソフト、通信環境などのトラブルへの不定期な対応が必要(総務)

 社長の強い要望で週1回、会社からの通知や社員近況などを知らせる社内報メールを送付している(総務)

 締め日から給与支払日近くまでは給与計算を手計算で行う(労務)

 中途採用募集中で応募対応や面接設定などに不定期な対応が必要(労務)

 労務管理を手集計で行っている(労務)

 各種契約関係、入出金作業ほか定期・不定期の雑務も多い(総務・労務)

 業務内容に加えて、各業務に費やす時間、業務の目的、遂行に必要な知識と技能、その知識と技能を習得するのに費やした期間の長さ、各業務の責任の程度をヒアリングし、職務分析表が作成できました。たとえば、必要な知識・技能については習得期間などからレベルづけし、各業務の責任の程度から負担の重さについて一定の評価も行いました。
 また、業務を行う環境についても整理しました。たとえば、給与計算や労務管理を手計算・手集計によって行うときには表計算ソフトを用いている、PCやサーバ管理は外部の業者と連携して行っている、PC等のトラブル対応や採用応募者への対応は主にメールと電話で行っている、といったことです。
 現状分析で大事なことは、「これは(解決が)無理そう」「わたしがそう感じるから正しい」といった感情や主観を排すること、目的がどこにあるかを常に確認すること、彼我の思考法は一定の癖・バイアス(傾向)をもつことが多いため、そこにこそ批判の目を向けることです。
 なお、このケースでは、労務担当者という直接の業務遂行者からヒアリングできたため問題ありませんでしたが、より広い情報源から情報収集を行うときには、その情報が確かなものかを吟味しなくてはなりません。つまり、その情報が一次情報なのか、それとも二次情報なのかを判別することが必要になります。一次情報とは本人が実際に見た・聞いた・体験した情報と考察、二次情報とは第三者を通じて得た情報、一次情報を解釈・編集した情報のことです。より信頼に値するのが一次情報であり、二次情報にあたる際には「誰かの判断が介在している」ことを念頭に信頼性を検討しなければいけません。

 

STEP3:課題発見

 続いて、現状分析から、どのような解決がありうるかを考えます。ビジネスに限らない標準的なクリティカルシンキングでは、このステップは「推論」と位置づけられています。ビジネス上では、諸条件を吟味し、ゴールに近づくための仮説を立案する、立案した仮説の妥当性を批判的に検討する、というステップであるといえます。
 このステップでも、積極的に労務担当者と話し合った結果、以下が課題としてあげられました。

・そもそも業務の総量が多い

・不定期な対応(PCトラブルや採用応募対応など)が、定期業務を圧迫している

・労務管理と給与計算の手集計・手計算は改善の余地がある

・特別の知識が不要な一定の備品管理は、労務担当者でなくても代替できる

・週1回のメール社内報発信は、社の一体感醸成のために続けたいが、その情報収集が担当者の負担となっている

 また、労務担当者が特に課題と考えていることは、以下の2点であることもわかりました。

・不定期対応のうち特に負担であるのが電話による対応で、自分の業務進捗いかんにかかわらず中断して対応に迫られて困っていること

・労務管理についてはあるウェブサービスの利用により効率化が可能であることを知っているが、目先の業務の多忙さによって費用対効果がしっかり計算できず、提案するに至っていないこと

 そこで、労務担当者と相談しながら、以下を残業時間削減のためのアクションプランとして考え出しました。

・ノー残業デーの設置

・可能な範囲での電話対応の取りやめ。緊急でない限り、PCトラブルや採用応募対応の電話を廃止し、メールまたは情報共有のウェブサービス上で行うよう社員に周知、人材募集の告知をメール応募のみに修正

・PCやサーバ、通信環境トラブル対応は、現状の契約範囲内で業者に一任

・週1回のメール社内報の情報収集を自動化。社員各人が個別に書類に記入している日報をクラウド上に統一、これを確認している各部署のリーダーが進捗・気づきなどを一定分量にまとめて労務担当者に週の期限までに知らせる仕組みに

・文房具などの備品は各社員が必要に応じて社の備品置き場からもっていってよいことに。この際、各自が補充した個数を備品置き場においた管理表に各自が書き込む、というしくみに

 

労務管理のウェブサービス導入

 労務管理のウェブサービス導入については有料サービスであるため、当初のゴール設定からずれが生じています。しかし、労務担当者へのヒアリングで、現状は各社員が共通書式に則って自己申告を行うことで、勤怠の実態把握を行っているが、労務管理ウェブサービスを用いると、全社員に共通のフォーマット、かつデジタル上での勤怠管理が可能になり、一定の自動化が実現されること、さらに、従来の共通書式では散見された解釈違いなどによる集計上の障害がなくなること、そのうえ、将来的には有料追加オプションによってさらなる労務管理の自動化が見込めることがわかりました。これを受け、税理士や各部署のリーダーとも相談し、今後全社的なリソースとして活用できることを費用対効果として期待し、労務管理のウェブサービスを導入することとなりました。ゴールに微調整を加えたのです。

 

STEP4:解決のためのアクション

 最後に、課題を解決するための行動に移していきます。このステップでも、目的を意識し、当初のアクションプランの妥当性を批判的に検討し直し、柔軟にアクションを調整していくことが求められます。

 ゴールを振り返ってみると、「四半期での業務改善」によって「半年での労務担当者の残業50%減」を目指していました。しかし、業務改善の進捗度合いなどを計測することで、労務担当者の業務がかえって増えるのでは本末転倒です。そのため、労務担当者とも話し合い、ゴールに正しく向かっているかどうかを計る指標は担当者の残業時間のみとしました。これなら、従来に比べて労務担当者の業務が増えるようなことはありません。
 また、労務担当者に、残業時間が減らないようなときには事前の稟議なしにアクションプランを随意に調整してよいとする権限委譲を行いました。従来から労務担当者は日報でその日の主業務やトピックを報告していたので、従来通りの事後報告で充分、と考えたのです。
 しかし、四半期での業務改善による残業時間削減を目指しているものの、労務担当者の残業時間は思ったように減りません。残業時間が減らない要因のひとつとして、兼任している総務業務の一環である、緊急時のPCトラブルなどへの対応が、件数は減ったもののまだ存在していることがあるとわかりました。そこで、「社員が自分でトラブルに対応できるようになればよい」と考え、PCにそれほど詳しくない社員でも対処可能なように、PCなどの緊急トラブルへの対応マニュアルをつくることにしました。

 解決のためのアクションのステップが始まっても、なかなか労務担当者の残業時間が減らなかったのは、このマニュアル作成のためでした。マニュアル作成が完了して社員に行き渡るようになると、次第にトラブル対応の件数は減っていき、労務担当者の残業時間は目標の半年を待たずにゼロ近くまで減らすことができたということです。

 

クリティカルシンキングを阻む思考

 クリティカルシンキングは、論理的思考を前提としたうえ、さらに向かうべき目的を常に意識し、かつ現状認識や推論過程など「自らへも批判的な目を向ける」考え方です。そのため、難易度が高く見られがちであるとともに、どうしても苦手という人も実際に見受けられます。

・感情や主観に流される
 事実をあるがままに認識するにあたって、もっとも邪魔をするのが感情や主観です。感情や主観を排除できない限り、前提の論理的思考ができません。自らに批判的な目を向けるということも難しいでしょう。

・柔軟性に欠ける
 ときに自説にこだわるあまり、建設的な議論ではなく相手を言い負かすための議論をしてしまうことがあるかもしれません。自身および他者の意見の妥当性について検討ができていない、ということでもあるでしょう。これでは視野狭窄に陥り、論理的思考ができないばかりか、自説が前提する諸条件や仮説の立論過程の妥当性を検討し、柔軟に修正していくこともできません。

・適切な情報の判別ができない
 ビジネスシーンでは、さまざまな領域から多様で大量の情報を収集し、総合的に判断しなければならないこともあります。収集した情報が誤りやデマ、誇張であったなら、そこから組み立てる仮説立論・推論のすべてが定立基盤を失ってしまうでしょう。したがって、判断材料とする情報が一次情報なのか、二次情報なのか、信頼性を検討しながら情報に接していく必要があります。

 

クリティカルシンキングを身につける

 上にあげたようなクリティカルシンキングを阻む性向を理解し、日頃からものごとを考えるときに、これらを厳に避けるという態度を持ち続けることで、クリティカルシンキングの考え方に近づいていくことができるでしょう。
 また、クリティカルシンキングが求めるスキルは様々ですが、スキルや能力をもっているだけではクリティカルシンキングが充分にその効力を発揮できないとする研究もあります。
 たとえば、必要とされるスキル・能力には、帰納・演繹などの推論スキル、類推、仮説同定や議論の真偽判定などの論理スキル、読解スキル、情報の信頼性評価(一次情報・二次情報の判定スキルなど)、事実と意見を区別する能力、数学の能力などが報告されています。しかし、これらを開発し獲得するには、各自・個別の学習と反復訓練が必要となるでしょう。対して、必要な態度・姿勢であれば、日々ものごとを考えるときに意識することで習慣化し、クリティカルシンキングを習得していくことが期待できるのではないでしょうか。そうした態度として、以下の4つをあげている研究があります。

(1)論理的思考への自覚
 自分自身の論理的な思考力について自覚しているか

(2)探究心
 さまざまな情報や知識を求めようとしているか

(3)客観性
 主観にとらわれず客観的にものごとをみようとしているか

(4)証拠の重視
 証拠に基づいた判断を行おうとしているか

 上にあげたようなクリティカルシンキングを阻む要素を自覚的に取り除き、この4つの態度を意識して日常的に思考過程に取り込むことが、クリティカルシンキング習得の第一歩です。

 日本でも注目を浴びるようになったクリティカルシンキングは、いまやビジネス分野でも必須のスキルとして考えられるようになりました。常に目的を意識し、自らにも批判的に向き合う姿勢をもってものごとを考えることで、よりよいビジネス上の成果を手にしたいものです。

 

リティカルシンキングはロジカルかつ、目的指向で自らにも批判の目を向ける考え方

 クリティカルシンキングとは、目的に達するための、情報分析プロセスを伴った論理的思考のこと。ビジネス上では、(1)目的=ゴールの明確化、(2)現状分析、(3)課題発見、(4)解決のためのアクションの4ステップをもって行い、目的を常に意識しながら、もっている情報・データや仮説構築・立論過程、さらには目的にも批判的な目を向け、妥当性を検討します。これを支え、後押しする態度・姿勢としては論理的思考への自覚、探究心、客観性、証拠の重視の4つが提唱されており、これらの態度をもってものごとをクリティカルに考える習慣を得ていきましょう。

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