参謀の役割
幹部は社長の分身
「名将の陰には名軍師あり」といわれるように、成功する社長の周囲には、必ずそれを支える優秀な経営幹部がいます。
「企業はヒトなり」とは言い尽くされた言葉ですが、これは社長にとってまさに実感できる言葉といえます。
企業環境の厳しい今日、健全な企業のあり方を模索するならば、まず社長と一枚岩になって活躍する経営幹部の発掘・育成にこそ、その答えがあるのではないでしょうか。
1 社長の能力を引き出す名補佐役
昔から、功成り、名を遂げた人の傍らには、名補佐役ともいうべき人物がいました。歴史上の人物でいえば、劉備玄徳にとっての諸葛孔明であり、豊臣秀吉にとっての竹中半兵衛です。現代の経営者でいえば、「ホンダ」の本田宗一郎氏にとっての藤沢武夫氏や「ソニー」の井深大氏にとっての盛田昭夫氏が有名です。
彼らは、車の両輪に例えられたり、「トップは孤独といわれるが、よき女房役に恵まれればその力を何倍も発揮でき、それは、1プラス1が2 にとどまらず、3にも4にもなる」などと語られます。
井深大氏が本田技研工業の創業コンビ、本田宗一郎氏と藤沢武夫氏を評した「藤沢さんは本田さんの才能を100%生かした賢明な経営者。本田さんは藤沢さんの才能を100%信じきった幸運な天才技術者だ」という言葉もよく知られています。
1人の力には限界がありますが、この限界を超えてトップの能力を限りなく高めてくれるのが名補佐役といわれる人物の存在です。
すべての社長は、幹部にこのような名補佐役となってもらいたいと願っているのではないでしょうか。
2 社長の分身
社長にとって幹部は、「自分の分身」ともいえます。
会社の存続・発展を考え、日常的に高度な経営判断と意思決定を行わなければならない社長にとって、日常業務に直接携わることは困難です。
そこで、幹部に求められるのは、社長の考えを的確に察知し、社長の分身として日常業務を指揮すること、つまり、自分が預かった組織の力を充分に引き出し、社長が直接指揮した場合と同等以上の成果をあげることであり、また、不測の事態においては社長が不在の時でも社長になり代わって考え、対処することです。そのためには、幹部は社長の「経営に対する考え方」や「性格」を十分理解したうえで、「社長の立場から物事を考える」ことができなければなりません。
幹部には社長の人生哲学を知ってほしい
幹部には社長と同じ価値観で物事の判断を下すことが望まれます。そのためには、常に次の2つを心掛ける必要があります。
1 社長に感情移入する
まず、社長に対して徹底的に感情移入することです。
感情移入とは、相手に自分自身を投影し、相手の心理を理解することです。
たとえば、社長が無理な指示を出した場合、なぜ社長がそのような指示を出さざるを得なかったのか、その背景を考えるのです。
必ずしも共感できることばかりではないかもしれません。しかし、幹部には社長の心情を理解し、その気持ちに応えるための努力が必要です。
2 社長の人生を知る
徹底的に感情移入するには、社長の平素のものの考え方や価値観を熟知する必要があります。
そのためには、社長がこれまでどのような人生を歩んできたかを知ることが重要です。
社長の人生を知ることによって、より深く経営者の気持ちを知ることができるようになります。
これら2つのなかでも、特に幹部に求められるのは、「社長の人生または人生哲学を知る」ことです。
人はそれぞれ自分の価値観をもっているものですが、それらはすべて
・その人を育てた人物の価値観
・その人がこれまで歩んできた人生
から形成されたものです。
社長と同じ価値観をもつためには、社長の人生を知ることが不可欠だと考えなくてはなりません。
幹部は経営のプロであれ
たとえば、経費の増加で赤字を出してしまった場合、この赤字解消のためにどのような施策を打てばよいのかということを、幹部なら即座に答えてほしいものです。しかも、それは論理的な根拠をもった施策でなければなりません。
「コストダウンしかない」といっても、なぜ売上拡大ではなくコストダウンなのかを、幹部会なり役員会なりの席上で論理的に説明できなくてはなりません。それができないようでは、社長の求める幹部とはいえないのです。
幹部として社長とともに会社経営に携わっていく者は、経営のプロとしての知識と見識をもつことが望まれます。
これは、
・財務管理
・販売管理
・労務管理
・マーケテイング
といった経営の基本知識をマスターしていると同時に、
・経営に対する確固たるスタンス
・自業界における専門知識ならびに高度な見識
をもっているということでもあります。
右腕となる人材が企業の成長へのカギ
中小企業の経営は社長1人で活躍しているだけではかなり無理があります。特に内部管理を任せられる右腕となる人材がいるかどうかで、企業の成長スピードは大きく異なってきます。製造業の場合は優秀な工場長がいるかどうか、あるいは、研究開発、生産技術などをカバーできる技術者がいるかどうかがキーポイントです。
製品開発のプロジェクトを進めようとするなら、基本方針や基本ノウハウは社長が持っているのが普通ですが、それをより具体化するには開発を任せられる優秀な技術者の存在が決定的に重要となります。細々と指示しなくては動かない技術者ではなく、自律的に課題を解決していく頼れる技術者です。
また、生産に移す段階では、工場長の役割が一段と重要になります。具体的に目標とする原価で、高品質、短納期での生産体制を低コストで実現しなくてはならないのです。なお、試作段階ではトラブルがつきものですが、これを着実に解決してくれるような人材への期待は大きいでしょう。
基幹人材の育成が急務
その他のコア要員としては営業担当者がいます。自ら企画提案型の営業ができるかどうかに加え、顧客からのクレーム情報、改善提案情報をすくい上げて、自社に持ち帰り、経営者、技術者や工場長とともに検討を加える。そして、顧客側との中間に立って解決ニーズに対して、幅広く対応していくことができる営業担当者が育っているかどうかです。
日本商工会議所が実施した とあるアンケート調査では、日本の中小企業のうち約半数が人材不足の課題を抱えており、特に、「一定のキャリアを積んだミドル人材」の不足に悩む中小企業が多いことが明らかになりました。経営者の参謀・右腕として、また、製品開発や製造、営業の中心となる「基幹人材」の確保・育成が急務となっています。
研究開発担当者、工場長、営業責任者など、部門の責任者が育っているか
企業のイノベーション活動の中心的な担い手となるのは、研究開発担当者、工場長、営業責任者などであり、その担い手が自社にいることが競争力に直結してきます。このような部門の責任者を育成するのは並大抵の努力ではありません。小さな企業では、潜在能力のある人材を採用すること自体が知名度などの点で劣勢にあります。しかしながら、よい人を採用できると、その友人、知人の知り合いといった緩やかなつながりの人からの評判を聞いて、次々と応募してきたケースもあります。これぞと見込んだ人材がいたなら、思い切って採用し、権限委譲を進めながら積極的に育成していくことが本人のやる気を引き出すことになります。
そして、社内にとどめておくだけでなく、見本市や研修会などへの参加を促し、社外の空気に積極的に触れさせることが育成の要諦です。
社長の大きな方針のもと、幹部従業員には大幅に権限を委譲しているか
人は任されていると実感すれば頑張るものです。しかし、任せる場合には、なぜこのような仕事が必要なのか、どのようなことに注意しなくてはならないのか、どのようなことを目的に仕事を進めるべきかなど、具体的な指示を与えます。最初からすべてを任せるのではなく、段階を追って任せることを心がけなくてはなりません。任せるのはよいのですが、満足に指示を与えず任せた場合、能力的にそれがこなせなければプレッシャーによって、つぶれてしまいます。基本は権限委譲なのですが、機会を通じて、人材がある程度育ってきたことを見極めて、仕事を任せることが大事です。そして、任せたからにはよほどのことがない限りは手を出さない。そうしないと人は育ちません。
事業と言っても「判断の積み重ね」であるから、トップが判断を下すに当たって、意見を言う人、献策する人が大事である。
大事な判断のときに的確な事例を挙げて、前例とか考え方などを提示し、戦い方を教えたりあるいは兵法の智慧を提示することで、大将が判断を間違わないようにする。
参謀は、「人間ルールブック」みたいな人であるとともに、「天性のひらめき」を多少もっている人である。
幸福の科学大川隆法総裁は、『真の参謀の条件 天才軍師・張良の霊言』で以下のように説かれました。
「まあ、事業と言ってもねえ、基本的に、「判断の積み重ね」なんですよ。
毎年毎年、あるいは毎月、あるいは毎週、毎日、判断することがあるわけですね。その判断の積み重ねにおいて、正しい判断をしておれば、成功が続いていって、大きくなっていくんです。
それから、正しい判断と間違っている判断とが半々ぐらいになってくると、拮抗してきて、規模がそれ以上に行かなくなるんですね。
そして、間違った判断が多ければ、規模が縮小していって、倒産とか、失敗とかいうようなことになるわけですね。
だから、やはり、基本的には、トップが判断を下すに当たって、それについて意見を言う人、献策する人が大事です。
だけども、世界企業でも何でもいいですが、そういうものを一人でつくったりするような人には、独裁者タイプが基本的には多うございますから、だいたい人の意見は聞かないし、自分の能力を過信していて、自分の判断で全部ガーッとやっていこうとしていきます。
もちろん、ある程度までは、それでも行きますけれども、“軍”が大きくなるというか、“部隊”が大きくなってくると、やはり、目が行き届かなくなるので、そうした参謀役、アドバイザー、コンサルタントのような人がいなければ、間違いを犯し、間違った判断をすることはあります。あらゆるものについて、専門家になることはできないのでね。
だから、参謀も一人だけとは限らないわけで、当然、何人かいてもいいわけです。まあ、三人や四人ぐらいいたほうが、いいことはいいんですけどね。
そういう意味で、大事な判断のときに、的確な事例を挙げて、前例とか、過去のいろんな事例とか、考え方とかを提示し、「そういうときには、こういう考え方がある。こういう言葉がある」というように戦い方を教えたり、あるいは、「兵法としては、こういう戦い方がある」というようなことを教えたりする。
要するに、智慧を提示することで、大将が判断を間違わないようにするわけです。
すでに過去に起きた事件や同じような事案で前例があるような場合でしたら、兵法としては、ある程度、固まっているものはありますからね。そういうもので使えるものがあれば使うし、それを知っている人と知っていない人の差は大きいわねえ。
これは、将棋や碁でもそうだろうけれども、定跡(定石)というか、戦い方のルールがあるので、例えば、そのルールを百ぐらい覚えている人と、まったく知らない人とでは、戦っても、勝ち負けが、もうはっきりしているところがありますよ。
つまり、(参謀は)そういう「人間ルールブック」みたいな人だわね。
あとは、「天性のひらめき」が、多少、要るわね。」(46~49ページ)
優れたリーダーには「名参謀」あり 理想のナンバー2とは
トップの先にある大いなる理想を目指して
優れたナンバー2が目指すのは、トップの先にある大きな理想である。
信仰にも近い崇高なものが感じられる。幸福の科学大川隆法総裁は、信仰において大事なこととして「従順」を挙げ、「指導者に従う従順な姿というものを、どうかイメージしていただきたいのです。それは、仏や神に対する従順な態度と同じものです」(『君よ、涙の谷を渡れ。』)と記している。
自己顕示欲やうぬぼれの心などを排して、ひたすらに理想を信じてトップを支える。この無私なる思いが会社や組織、家庭を発展させていく。
理想のナンバー2のポイント
・主役をうかがうことなく、補佐役に徹する覚悟がある
・ナンバー1を心から尊敬し、常に立て、その姿勢で周囲を感化する
・主役を護り、傷つけないために矢面に立つ気概がある
・組織の永続的な発展を考え、客観的に自分の立ち位置や、やるべきことを判断する
「売上高が一億円、十億円、百億円と大きくなっていくためには、「考え方を抽出して、まとめていく訓練」、あるいは「マニュアル化の訓練」をしていかなければいけないのと同時に、「社員教育」をしなければいけません。そのためには、幹部を抜擢して、据えつけ、仕事をさせなければいけません。ただ、抜擢の成功率は、一般的には四割程度しかありません。ですから、六割の失敗に耐えなければ駄目です。
かつて、ローマでは、戦争に負けたコンスル(執政官)であっても、負けたということでマイナスに評価せず、「負けても、それも経験のうち」と見て、しばらくしたら、また執政官に取り立てたりしていました。「負けた経験のある人は、一度も負けたことがない人よりも知恵がある。『こういう戦い方をしても、負ける』ということを知っている」という考え方をして、その人をまた使うのです。
そのため、必要以上に幹部の数は多いかもしれませんが、これは、将来、もっと大きくなることを前提にして、訓練しているということなのです。」(『実戦起業法』より)