クレーム処理

不満や苦情はチャンスになり得る

 顧客の声は、企業を映し出す「鑑」です。顧客を話し手に回らせることによって、顧客の真のニーズを把握することができます。顧客の声のなかでも、特に不満や苦情(クレーム)は、中小企業にとってチャンスとなり得ます。不満や苦情が聞かれる時は、イノベーションの機会を示す兆候といってよいかもしれません。決して その場しのぎの対応をしてはなりません。
 多くの顧客は、不満があっても苦情をいいません。苦情をいわず、その企業から去っていくのです。逆に、苦情をいう顧客は、今後ともその企業を利用し続けようと考えている顧客であることが少なくありません。

 顧客の不満は、苦情というかたちで顕在化させることが有効です。そのためには、普段から、顧客満足保証の姿勢や交換、返金、修理などに対する方針を顧客に周知しておき、顧客が不満や苦情をできるだけ言いやすくしておくことが重要です。また、コメントカード、フリーダイヤル、アンケート、Webページなどを活用して、苦情を聞く仕組みを構築しておくことも有効でしょう。

 ところで、苦情(クレーム)はどんな時に発生するのでしょうか。それは、顧客が製品やサービスに不満を感じたり、「期待を裏切られた」と感じたりした時です。

 クレームとは、「顧客から直接、自社の商品やサービスの不備を教えてもらえる重要な機会」といえます。

 そう考えると、会社にとって最も恐ろしいのは「何も言わずに去っていく顧客」です。 
 不満を抱いている顧客が、その不満には一切触れず、曖昧な理由をつけて取引を中止してしまったら、会社はどこをどう改善したらいいのかわかりません。 

 クレームを言ってくれる顧客は「先生」であると考え、真摯に対応しましょう。

 

苦情への対処法

 単に苦情を聞くだけでは不十分です。苦情への対応が不適切であれば、顧客の不満を増幅させ、悪い口コミの発生が促進されてしまいます。

 一方、苦情へ適切に対処することができれば、それをきっかけとして、顧客との絆が今まで以上に太くなります。苦情は、優良顧客を創造するチャンスにも よい口コミを生み出すきっかけにもなり得るのです。

 一般的に、苦情への対応方法は以下のステップで行うとよいといわれています。

謝罪 : 失敗を即座に認める

速やかな原状回復 : 例えば、故障している備品を直す・交換する

共感 : 顧客の置かれている状況に共感する

償いの証 : 顧客が受けたよくない経験を改善させる

フォローアップ : 顧客の気持ちを鎮めることができたかを確認

 

1 クレームはすべてトップに報告すること

 クレームを最初に受けた人間が、上司に報告するか、しないか。これを自己判断で決めることは非常に危険です。

 ちょっとしたボタンのかけちがいが、後で大きなトラブルに発展することも十分に考えられます。

 どんな些細なクレームでも、リアルタイムでトップに伝わる仕組みをつくっておきましょう。 

2 クイックレスポンスが重要

 クレームを受けたら、すぐになんらかのアクションを起こすべきです。

 顧客はクレームを放っておかれたと感じると、二度とこちらの話を聞いてくれようとはしません。

 すぐに担当者とその上司が顧客を訪ね、じっくりと話を聞くことが大切です。 

3 言い訳、反論をしない

 「顧客はすべて正しい」という言葉をモットーに、高い顧客満足度を実現している会社もあります。

 顧客はこちらの言い訳や反論に耳を貸そうとはしません。

 たとえこちらが正しくとも、顧客は信頼を裏切られたと感じます。

まずは顧客の不満を解消することを第一に考えることです。 

4 人ではなく原因を追及すること 

 クレームがあった時に、「誰が悪いのか」を追及しても意味はありません。

 その人間は同じ失敗を繰り返さないでしょうが、他の誰かがするかもしれません。

 「誰が悪いのか」ではなく、そのクレームが「なぜ発生したのか」という原因を追求することが重要です。

 クレームは、本来あってはならないものです。ですが、クレームをゼロにすることは不可能です。

 だとしたら、クレームから逃げるのではなく、しっかりと対応し、自社の商品、サービス改善につなげましょう。同時に、クレームの原因を追及して再発防止するための仕組みをつくることが必要です。

 そのためには、まず顧客からのクレームをしっかり受け止めるためのツールが必要です。
クレームは企業として気づかなかった改善点を指摘してくれる材料にもなります。

 クレームというとマイナスのイメージがついてまわります。

 どうしても無理難題を言ってきて、利用されるのではないかという感じを持つ人が多いと思います。

 しかし、クレームは宝の山でもあるのです。

 クレームを解決することによってクレームを言った人をリピーターに変えることができるのです。
 また、同じような不満をもっていてクレームも言わずに逃げていく顧客を繋ぎとめることにつながるのです。

 良い評判というものは広まりにくく、悪い評判というものはとても早く広まります。

 そのためにも素早い対応が重要なのです。

 過去の成功体験や経営者の考えが市場と大きく乖離してしまうことも多く、そういうことを修正するためにも、市場の声をしっかりと聞くことがすべてのことに役立ちます。 

 

クレーム情報を関連する従業員全てが共有し、顧客満足の向上に役立てる

 「クレームは、企業にとっての無料のコンサルティングである」といわれます。クレームには、経営の改善のヒントが含まれています。従って、クレーム情報は、関連する従業員すべてが共有し、顧客満足の向上に役立てていくことが大切です。
 そのためには、クレーム情報の収集システム(例えば、クレームメモの作成、顧客アンケートの実施など)や、クレーム情報の共有システム(例えば、会議でのクレーム情報共有など)を用意しておくことが不可欠です。

 

現場主義

 クレーム処理の問題は、トップの知らないところで発生している場合がほとんどです。そこで必要となるのが「現場主義」の考え方です。

 会社全体の運営というような大局的なことも大事である。しかし、「現場主義」で小さなことを見ていくことも大事である。両方をやることこそが経営の舵取りである。

 幸福の科学大川隆法総裁は、『智慧の経営』で以下のように説かれました。

「「現場主義」という言葉もよく使われます。トップが、たまに会社の工場や営業所などをふらっと訪れてみると、そこにいる従業員には分からないことが、トップの目には見えるのです。「自分の思ったとおりに運営されているだろう」と思っていたのに、実際に見てみると、けっこうとんでもないことがあったりします。
 スーパーの例で言うと、たとえば、売り場の様相が以前と全然違ったものになっていたりします。あるいは、レジ係の応対に非常に問題があったり、従業員が、お客様からのクレームを処理しようとしていなかったり、談笑していてお客様の言葉を聞こうともしていなかったりということもあります。
 なかには、売れ筋のものを奥に引っ込め、売れないものを前に出していることもあります。「どうしてこんなことをするのか」と訊くと、「在庫がたくさんたまるといけないので、売れない商品をできるだけ前に出して、売れ筋のものは後ろに隠しておくのです」などと言うわけです。
 これは、トップが見れば、「なんとまずいことをしているのか」と、すぐに分かります。欲しいものを見せないようにし、欲しくないものを売ろうとしているので、お客様から不満が出てくるのは当然です。このようなことがあります。
 会社全体の運営というような大局的なことも大事ですが、スーパーであれば、「売り場はどうなっているか。売り場面積はどのくらいか。何を売っているか。どんな売り方をしているか」など、従業員の態度からお客様の反応までを見ることも、やはり大事です。あるいは、お客様のクレームの一個一個を大事にすることが、明日につながることもあります。
 また、ホテルでもそうです。ホテルの経営の最高責任者は、じっと座ってハンコをついていればよいかといえば、そうではありません。やはり、ホテルの現場ヘ行って、「エレベーターはきちんと機能しているか。階段はきれいに掃除されているか。壁のデザインはよいか。ポーターなど、従業員の接客態度はどうなっているか。お客様を受け入れる態度はどうなっているか」などということを見てみる必要があるのです。
 こういう小さなことを見ていくうちに、その小さなことが、経営レベルに影響する場合があります。一カ所で発見した小さなことは、ほかのところでも使える場合があるのです。
 経営者というのは、経営マインドを磨く過程で、まず、大局的なことを常に考える必要があり、大きな戦略、時代の流れ、未来のこと、会社全体や業界全体のことを考えるために勉強しなければいけません。しかし、逆にまた、細部にもこだわらなければいけないところがあります。
 どちらか一方だけではだめです。大局観だけでもだめですが、小さなところばかりにこだわっていてもだめです。両方が必要です。
 「両方をやるには、どうすればよいのですか」という質問もあろうかと思いますが、結局、そこが経営の舵取りなのだということです。」
(162~165ページ)

 

クレームは氷山の一角

 クレームの問題が深刻なのは、ほとんどの顧客が、不満を感じても口に出さない、サイレント・クレーマーになっていることです。統計的には、クレームを言ったお客様1人に対して、26人のサイレント・クレーマーが存在すると言われています。クレームは氷山の一角であり、その処理の仕方は顧客の支持を得続ける上で最重要とも言える課題です。

 客というのは厳しいもので、そういうクレームを言ってくれないものであり、悪い情報はトップのところまで上がりにくいものですが、「クレームは宝の山」と考えて、耳に痛いことを受け止める度量を磨かなくてはなりません。

 なぜなら、それが次の経営資源になります。顧客のニーズを掘り起こすことにより、「どのようにして世の中に認めていただくか」という努力の方向になるからです。

 組織が大企業病に陥ると、クレーム情報が上がらなくなるので要注意です。場合によっては大きな不祥事につながり、トップの責任問題になります。

 光明思想との関連で言えば、「よきことのみ起きる」という思想を持っていると、悪い情報を忌避して裸の王様になりかねないので要注意です。

 

経営者の仕事は、クレームから次なる発展の芽を見つけること

 経営者であるなら、「クレーム処理は自分の仕事だ」と思っていただきたい。特に経営規模が小さいうちは、クレーム処理は経営者の大事な仕事です。

 大川隆法総裁が、『智慧の経営』で「お客様のクレームの一個一個を大事にすることが、明日につながることもあります」(P-164)と述べられているように、クレームには会社の次なる発展の芽が隠れているからです。クレームを通して「次なる発展の芽」を発見するのが経営者の仕事です。だからこそ、クレームは努力して聞かなければならないものなのです。

 お客様は商品やサービスの欠点をよく知っています。そして、お客様は本当はクレームを言っているのですが、経営者にだけ聞こえてこないのです。

 この「声なき声」が聞こえた経営者のみ生き残ることができるのです。そうした経営者こそが、お客様を固定客、リピーターにしていくことができるのです。

 逆に、経営者が「声なき声」を知らずにいると、会社は駄目になっていきます。実に恐ろしいものです。

 

売り上げが戻らない、そんな時に見直したい「クレーム対応」

 経営者がやらなければいけないことは山のようにあるが、社員一丸となって「顧客に喜ばれる仕事」を提供し続けることは欠かせない。その際に逃げられないのが「クレームに正しく対応する」ことである。

 顧客のクレームをいかに処理すべきか考えるうえで参考になるのが、大川隆法総裁が説く経営論である。長年の研究と実践で使い込まれたクレーム対応の「智慧」が満載であり、一連の教えを実践して成功した企業、危機を乗り切った企業が数多く輩出されている。

 

お客様のほうには「選ぶ自由」があることを認める

 総裁が経営論において繰り返し説くのが、「顧客の立場」で考えることの重要性である。その前提には、お客様のほうに「選ぶ自由」があるという、資本主義社会の基本原則がある。

 普段はサービスを提供する側の人であっても、自分が「お客様」の立場に立った場合はどうだろうか。どのサービスを受けるか受けないか、選ぶのは自由である。さまざまな商品・サービスを買うかどうかは、それぞれの価値観によって、あるいは好みや気分によって決める。付き合って心地よい店とは取引し、不快であれば取引を打ち切るだけのことである。

 こうした顧客の気持ちに寄り添ったサービスをするのが、「営業マインド」であると言える。

 総裁の書籍『女性が営業力・販売力をアップするには』では、営業マインドのない「無理やり押し付けられるサービス」の例として、「刑務所の看守が囚人に提供する三食」「医者が恐怖心で相手を説得して行う治療」「役所が前例通りに行うサービス」を提示された。厳しい時代に入ると、どのような業種でも「『営業マインド』『販売マインド』『サービスマインド』がなければ生き残るのは難しい」と指摘。

 現状は、ライバルがいないとしても、厳しい時代になると、顧客が「買わない」という選択を取ることがある。あるいは、顧客の不満を感じ取った他社が参入してくることもある。電電公社がNTTに、国鉄がJRになったように、国営企業が民営化され、自由競争が始まることもある。「人間には自由意志がある」「よりよいサービスを求める自由がある」ことを前提に考えれば、営業マインドを持つことは生き残りの前提条件になるでしょう。

 

クレームは言ってもらえない

 「クレームは言ってもらえない」というのも厳然としてある現実です。『不況に打ち勝つ仕事法』のなかでも、クレームを出すということは「最後通牒を突きつけることを意味する」とし、「客が実際にそれを書いたときは もう終わりであり、だいたい二度と来てはくれません」と指摘。「お客様は、なかなか本音を言ってはくれないので、それを察知する能力を磨くことが非常に大事」という。

 確かに、自分が顧客なら、不快な思いをした店には「もう二度と関わりたくない」。だからこそ、将来同じ理由で顧客を失わないためにも、クレームを言って来られたなら「まだ良いほう」と受け止めて、感謝し、正しく対応する必要がある。

 書籍『創造の法』では、ワンマン型の中小企業の会社を例に取り、「威張ってばかりいると、あまり良いアイデアが浮かんでこなくなります」と指摘。謙虚な人には、水が高いところから低いところへ流れてくるように、いろいろな人が意見を言ってくれたりするとした。

 この認識に立つならば、お客様のクレームは、貴重なものとして慎重に扱わないわけにはいかなくなる。

 

クレームはアイデアの宝庫

 クレームを受け止めたならば、お客様の立場で不満な点を解消していけばよい。クレームをきっかけに、社員が改善案を考える習慣がつき、アイデアがどんどん出てきてサービスが良くなっていくならば、顧客も意見を言いやすくなる。

 有名な例では、「目をつぶっていると、シャンプーとリンスの違いが分からない」という要望を受けて、メーカーは誤使用の実態を調査。視覚障害者へのヒアリングも行い、試作品をテストした上で、シャンプーの脇にギザギザの突起をつけた商品が誕生した。

 また、顧客の誤解などによるクレームが相次いでいるならば、クレームとして受けた通りにすればよいかと言えば、そうとも限らない。むしろ、誤解を与えている原因のところを改善するアイデアを思いつくことができる。

 『創造の法』では、幸福の科学が他宗から「幸福の科学が伝統仏教と違う」と批判された事例を紹介。この時に、大川隆法総裁は、幸福の科学が伝統仏教と違う点について「なぜ変えたのか」「なぜ違うものにしたのか」について、理論的な説明をし、教義の整理をする必要があると考えた。

 クレームから、顧客に、あるいはまだ顧客になっていない人に、「何が伝わっていないのか」「何を説明すべきなのか」が読み取れる。こうした点について考えると、既存の顧客をリピーターにするだけでなく、新規顧客をつかむアイデアも生まれてくる。

参考

クレームを「明日のお客様」に変える方法

 あなたには、何度も行きたくなる、お気に入りの店はありませんか。一方で、利用していた店に行かなくなった経験はないでしょうか。そのとき、その理由を店側に言わないことがほとんどではありませんか。

 顧客は黙って離れていくのが世の常です。だからこそ寄せられた「1件の1件のクレーム」への対処法が会社の命運を決することがあります。その背後には、他の何十人もの不満の声や会社の問題が隠れていることがあるからです。

 

落ち着いて状況を確認する

 クレーム対応では、自分を「無」にして、まずはお客様が言うことを信じて受け止めることが基本なのです。どんな場合でも落ち着いて詳しい状況を聴くところから始めるべきです。お客様より多く話してはいけません。

 また、慣れは危険で、簡単に解決できそうだと甘く見たら失敗します。同じようなクレームもその状況は毎回違うからです。

 そして、嘘や誤解があると思ったら、最後に事実を再確認すればいいのです。嘘の場合には必ず矛盾が出ます。クレーム対応では「言った・言わない」で揉めることが多いので、込み入ったケースの場合は、後日、事実を確認して冷静になった上で、返事をするべきです。

 

要望のほんの少し上をいく気遣いが満足感を生む

 事実を確認した上でこちらに非がある場合は誠実に対応すべきですが、さらに、 お客様の要望のほんの少し上をいく対応によって、ファンにすることもできます。 ほんの少しの心遣いで、お客様は、自分は正しかったし、この人は「1円分気持ちを乗せてくれた」と満足されます。やりすぎても逆効果になるのです。

 例えば、従業員の対応が悪く、「時間を返してください」と言うお客様がいたとします。そんな時、私ならこう伝えます。

 「時間はお返しできませんが、この商品をお持ち帰りください」「ご自宅におばあさまがいらっしゃるとのことですので、こちらの柔らかいお菓子もどうぞ」

 お客様の背景を想像しながら気持ちを乗せれば、「家族のことまで考えてくれている」という満足感を与えることができます。ですから、お客様の話は一言も聞き逃してはいけません。

 本来、クレーマーと呼ばれる人は、世の中には存在しません。従業員の対応の悪さがクレーマーを生みだしているのです。

 普通は店に落ち度があっても、何も言わずに来なくなるお客様が大半で、わざわざ教えてくれる人はありがたい存在です。常に店を気にして下さっているのですから。接客にはクレーマーをも虜にする”根性”で臨むべきです。

従業員の対応の悪さがクレーマーを生み出している

受け止め方を振り返る

 クレームを言ってくるお客様に対して、「この人は特別な人だ」「変わった人だ」と思ったことがないでしょうか。その人に何が起きたのか、じっくりと話を聴くことができたでしょうか。

 1つのクレームから浮かび上がる改善点をできるだけ多く挙げてみましょう。

    (例:商品自体の改善、店舗の構造の改善、説明の仕方の改善、接客態度の改善など)

 「クレーム」と言うと、何か聞きたくないものというネガティブなニュアンスがあります。 「クレーム」は、改善のポイントを教えていただいている大切な「お客様の声」と呼ぶ方がいと思います。

 このお客様の声は、ビジネスのPDCAAサイクルでいうC(チェック)に当たり、経営上必ず必要なものです。ですから、会社としてお客様の声をきちんと収集する仕組みをつくらなくてはいけません。

 積極的にお客様の声を取りに行かなければ、自然には上がって来ないものです。

 経営者が時間をつくって現場(お店)に行き、お客様の立場に立ってみることも大事です。現場に行かない経営者はありえないのです。

ミッションの浸透が高いホスピタリティを生む

 一般的に、クレームの原因には、会社の仕組みが悪いものと個人の対応が悪いものの2つに分けられます。

 前者は、提供する商品やサービスの改善が必要になるため、経営レベルでの判断を伴います。

 一方、後者は、現場レベルの日々の対応がカギです。

従業員に対する経営者の最大のメッセージは人事

 従業員にミッションを浸透させるには2つのことが大事だと考えています。 一つは、経営者が繰り返しミッションを発信すること。一度や二度では絶対に徹底できません。

 もう一つは人事。つまり、人事評価が従業員に対する経営者からの最大のメッセージです。

 目に見える数字だけで従業員を評価すれば、「お客様第一のサービスよりも数字を上げる人間が偉い」というメッセージになってしまいます。 「功ある者には禄を、徳ある者には地位を与えよ」 という西郷隆盛の言葉があります。会社のミッションを体現した人を評価することで、会社が大切にしていることを伝えることができます。

ミッションに基づく信頼があるから現場は動ける

 「本質において一致、行動において自由、すべてにおいて信頼」(カソリック協会のスローガン)という言葉があります。日々お店では、マニュアルにないようなことが起こります。それをいちいち本部に問い合わせて、指示を待つようなことはできません。ミッション(本質)に基づいて、パートナー一人ひとりにその場で判断してもらう必要があるのです。

 本質的なミッションについては、常に共有し、その具体的な行動はパートナーが自由に判断する。その前提は社員相互の信頼関係です。

 こうした信頼し合える強いチームは、長期にわたるコミュニケーションの積み重ねでできあがるものです。

 一般的に、小売業では、「お客様が神様」と言われます。一方、「従業員は使用人」という考え方もあり、強い違和感を覚えます。CS(顧客満足)よりES(従業員満足)。顧客満足の前に、まず従業員満足を大切にしたいものです。 一人ひとりがミッションに誇りを持って接客するからこそ、お客様に思いもよらない感動を与えられるのです。

経営に生かす

 自らお客様の声を集めるための取り組みをしているでしょうか。そのために努力できることはないでしょうか。(例:本社勤務であれば、店舗に行く時間を作っている。自社が提供するサービスを自ら受けている。お客様の自宅を定期的に訪問している)

 共に働く仲間と、一対一で話をする時間を取っているでしょうか。

 

お客様の声を生かすために実践すべきこと

STEP

お客様の本音を集める

 お客様の声を集めるシステムを構築する。

 潜在的なクレームも、お客様のところに足を運び、また社員の声にも耳を傾けることで引き出す。

本音は心が開いてから出てくる

 クレームを言ってきたお客様が言い漏らした裏も読み取らなければいけません。 不満の核心は、じっくり話して対話を深める中に出てくるものです。 奥歯にモノがはさまったような様子ならば、「他に何かありますか」と問いかけると、「実は」と話してくれるのです。

 

STEP

 経営レベルの判断が必要な問題と現場レベルの対応の問題とに分ける

 経営レベルの判断が必要な問題

 現場で対応できないものは、情報を経営担当者に共有する。

 経営担当者は、商品開発や店舗の改善などの経営判断に生かす。

現場レベルの対応の問題

 一人ひとりの意識を変えるために、ミッションが何かを繰り返し伝える。

誰かの失敗も教訓に

 お客様相談室に寄せられたクレームを全ての部署に共有する。

感動を生む土壌はチームの「絆」

 「クレーム自体の責任は追及しないが、クレームを報告しない責任と指示したクレーム対策を直ちに実行しない責任は追及せよ」

 これは5000社を超える企業の社長を指導し、企業を倒産から救った伝説の経営コンサルタント・一倉定氏の有名な言葉です。 お客様の声は、会社の不完全な部分を教えてくれる「天の声」であり、極めて重要な経営情報なのです。

リーダーは、どうしても悪い情報に耳をふさぎがちになります。また、部下も、報告すれば自分の立場が悪くなったり、難しい対応が発生するようなクレームには蓋をしがちです。

 ただ、「事業の成功を決めるのはお客様である」という大原則を無視することはできません。

 一人ひとりがそのことを理解し、事業を成功させようとチームで心を一つにするからこそ、お客様の本音を「宝」と見て扱えるようになるのです。

 自分たちが何のために事業を行っているのか、というミッションを共有できると、そこに絆が生まれ、事業の問題を根本的に解決する力が出てきます。 そして真摯なサービスがお客様の感動を呼び、その感動を求めてさらに人が集まってくるのです。

 全ては、「お客様の声」をどう受け止めるかにかかっています。勇気を出して、その声に耳を傾けてみるところから始めてみませんか。

 

お客様がクレームを言ってくる前に改善する3つの方法

 クレーム処理を考える上で まず大切なことは、逆説的ではありますが、「お客様からクレームを言ってくる前に改善すること」です。

 『智慧の経営』では、大川隆法総裁があるホテルでコーヒーを頼んだところ、30分も待たされて冷めたコーヒーを出されたエピソードが紹介されました。

「客というのは厳しいもので、そういうクレームを言ってはくれないのです。

 それ(クレームを書く用紙)を書くということは、最後通牒を突き付けることを意味するので、「もう二度と泊まらない」という意志を固めたとき以外は書くことはないです。」(P-168)

 よく飲食店などに「何か気になる点、ご不満な点をお書きください」という用紙が置いてありますが、「クレームを書かれてからでは遅い」のです。そうなる前に手を打たなければなりません。

 それには次の3つの方法があります。

1 日頃から お客様の声を聴いておく

 一つ目は、日頃から、お客様を追いかけてでも、自社の商品やサービスについて「何か悪いところはないでしょうか」と聴いておくことです。

 お客様に実際に聴いてみれば、欠点を知り、修正することができます。

 競争に打ち勝っていくためには、長所を伸ばすことが必要ですが、それに劣らず、欠点を修正していくことも大事です。そのためには、「うちのサービスはどうでしたか。何か粗相がありませんでしたか」と、実際にお客様に聴いてみることです。

2 自社のサービスを受けてみる

 二点目は、自分で自社のサービスを受けてみることです。

 経営者が自分でサービスを受けてみると、「おやっ」と思うことをよく発見することがあります。

 その例として、大川隆法総裁は、次のような話をされております。スーパーでは、従業員が売れない商品が売れるように、新しい商品を棚の奥のほうに隠し、代わりにお客様が買いたがらないような古い商品を前に出してくることがあります。こんなやり方は、経営者が見ればバカげた話なのですが、従業員にはそれが分かりません。

 そうしたことがあるので、経営者は、現場にフラッと行って、実際にサービスを受けてみることが必要なのです。

3 一流と言われる他社と比較してみる

 三点目は、一流と言われる同業他社やその商品と自分のところを比べておくことです。「ベンチマーク」とも言いますが、自分の業界で「ナンバーワン」と言われるものと比べてみることです。

 その時に、白紙の目で見ることが大切です。「私のところのほうが美味い」と言わずに、「売れている理由は何か」「味に秘密があるのではないか」と考え、見抜いていかなければなりません。そうすると、自社のところも売れていく可能性が出てきます。

 もう一つ お薦めしたいのが、「若手の人たちと話をしてみる」ということです。50代、60代となると、若者の感性からかけ離れていることがあるからです。

 経営者は、「おらが大将」で、自分のところが日本一などと言っていますが、そんなことはありません。自分でそう思っているだけで、客観的な事実ではないはずです。売上でも利益でも日本一の会社は他にあるはずです。謙虚にそれを認めて、勉強して努力することが大事です。

 

クレームにどう対処するか

 基本方針は、早急に手を打ち、ファンに変えてしまうことです。

 クレームをいただいたお客様をファンにする方法とは

1 まず謝罪する

 「うちは悪くありません」と言い訳してしまうのは最悪の対処です。

2 相手の言いたいことを 全て引き出す

 次に、「どのようなことがあったのでしょうか」と、実際に何が起きたのかを聴きだすことです。耳を傾けることが大事です。お客様の言葉に対して、「そうだったのですね。申し訳ありませんでした」と相槌を打ちながら、ひたすら聴くことです。

 そうして、「もう何も言うことがない」というところまで、お客様が言いたいことを一つ残らず引き出さねばなりません。ここが不十分だと、後で蒸し返すので、徹底的に吐き出してもらうことです。そして、メモを取って、「こういうことがあったのですね」と必ず確認することです。このメモがクレーム対応のマニュアルにもなりますし、相手に悪意があって裁判になったりした時の組織防衛にもつながります。

3 期待を上回るサービスを打ち出す

 そして、「相手の期待を上回るサービス」を打ち出すことです。そうしたサービスの仕方は事前に想定をしておくとよいと思います。

 

上手なクレーム処理は逆転の秘宝である

 このようなクレーム処理は「逆転の秘宝」であります。

「たいていは、ユーザーの側にも何か落ち度がある場合が多いので、会社側も言い訳はできますが、そういうときに弁解せず、全力を挙げて解決に取り組むという姿勢が、危機における組織の生き残り策としては非常に重要です。」(『智慧の経営』P-181~182)

 

悪についての研究も大事

「善をなそうとする人は、悪についても知ることが必要です。悪に対して戦う力を持っている人は、やはり善においても強いのです。

 「知らない」ということにおいて、悪ははびこることがあります。知っていて見破れば、悪というものは現実化しないのです。

 人を騙そうとしたり、罠にはめようとする人間も世の中にはいます。そういう意図はなくても、一定の状況に置かれたら、そのようになることも人間にはあります。それについてよく研究することです。そうすることによって、失敗から逃れて幸福に入ることも出来るのです。

 そういう悪いことをする人間もいますが、その人に悪を犯させないことも善なのです。善人が騙されて失敗するということはよくあるのですが、それで悪をはびこらせることになったら、善人が善人ではなくなります。悪を増長させていることによって、善人が悪人の共犯者と同じになるのです。

 したがって、幅広い関心を持って、人生における悪の問題、それから人を堕落させたり、失敗させたり、挫折させたりする原因などについて よく見る必要があります。

 これについては、自分の経験には限界がありますが、友人、親、兄弟、親戚、知りあい、こういうところをじっと見ていると、必ず勉強材料は転がっています。「人はなぜ失敗するのか。どういうことによって悪の道に入るのか。どういうことによって悪に染まるのか」というようなことを じっと観察すると、大いに勉強になることがあります。

 「それを知っている者はつまずかないけれども、それを知らない者は第一撃で失敗する」ということがあるので、「知は力である」ということは、こういう面についても当たります。このへんを研究してください。」(『智慧の経営』189~191)

 

コンプライアンスと宗教倫理

 クレーム処理は、悪い情報に対して誠実に向き合うことが求められますが、現実には詐欺的な手口で苦情を言うクレーマーが存在します。その場合、迂闊な謝罪をすると、言質をとられて思わぬ損害が生じることもあります。

 また、小売業でいえば、一定の比率で万引きが発生します。「お客様は神様」といっても、警備体制が甘ければ、来店者の中に万引きの常習犯が紛れ込むことになります。

 社員の情報漏洩も大きな問題です。2014年には通信教育の最大大手企業で 約3000万件を超える顧客の個人情報が流出した事件が起きています。

 暴力団関係者や総会屋などと関係を持ち、利益供与をする事件もあとを断ちません。

 こうした問題については、知識がないと対応できないものです。危機管理上、一定の関心を持っておく必要があります。

光明思想に頼っていると、こうしたネガティブな情報を弾く傾向が出るため、隙が生じやすい点に注意しておく必要があります。

 危機管理の問題については、近年コンプライアンス意識が高まっています。コンプライアンスとは「法令遵守」のことですが、日本では、「法令の文言のみならず、その背景にある精神まで遵守・実践していく活動」と、もう少し広い意味で用いられております。

 コンプライアンスは、具体的には、法規制の強化と言うかたちで実施されますが、その背景には繰り返される企業の不祥事があります。

 大手企業の総会屋への利益供与事件、食品会社の食中毒事件や産地偽造、自動車メーカーのリコール隠しや燃費不正計画、建設会社の耐震偽造、菓子メーカーの賞味期限の改ざん、総合電器メーカーの粉飾決済などが典型例です。

 不使用時の発覚は、企業の業績に深刻なダメージを与えることもあり、コンプライアンスの強化は企業の経営の大きな課題となっています。

 しかし、法律による規制の強化だけで、こうした不祥事が根絶できるかと言うと、これまでの経過から考えても期待しにくい面があります。

 そこで、企業倫理の重要性が注目されています。儒教をベースとした商道徳を説いた渋沢栄一の再評価が進んでいるのも、その現れだと言えます。

 経営成功学では、さらに一歩進めて、宗教的な立場から企業倫理の強化を志向します。宗教では、行為の罪を問うだけでなく、「思っただけでも罪となる」とされることが多いからです。

 宗教的信条が企業不祥事を抑制する力になります。法律で縛るだけでは、「バレなければよい」と考える余地がありますが、「誰も見ていなくても、神様が見ている」と考えたら、思いのレベルで自己規制をかけていかねばなりません。当然、その行為は変わってくるはずです。

 したがって、法規制だけではカバーしきれない問題については、行為の罪を問う法規制と併せて、思いの部分の罪をも問う宗教的な倫理規範が必要とされるわけです。

 

社会的責任を果たす

 コンプライアンスの強化を一歩進めて、「企業の社会的責任」という考えも近年注目されています。

 単に「法律を破らない」というだけでなく、公的存在としての企業の社会的役割を積極的に果たしていこうとする考えです。法律遵守はもちろん、環境対策、採用・昇進の公正性、女性の登用、社会貢献活動への参加などが具体的な取り組みとなります。

 大川隆法総裁は、『経営とは、実に厳しいもの』で以下のように説かれました。

「会社が大きくなるにつれて、公人としての自覚を深めなくてはいけません。

 ただ、こうしたことは、教科書で教えてくれないのです。「公人として、どのように成長していくべきか」などということを教える教科書はないので、よく自覚して振る舞わなくてはいけないようになってきます。

 例えば、「会社が小さいときには自由にやれたのに、大きくなったらやっていけない」ということがたくさん出てくるのです。しかし、「具体的にどのくらいまでならよくて、どのくらいからいけなくなるか」などというのは教えてもらえるものではありません。「事件になってから分かる」というようなことも多いわけです。」(P-267~268)

 起業したばかりの頃は、社長の財布と会社の財布はほとんど区別できないことが多く、公私混同の状態にあるのが ある意味では当たり前です。しかし、会社が大きくなり、組織が整備され、株式が公開されるようになると、それでは許されなくなります。公私をきっちりと区別し、どこから誰に見られても構わないような、ガラス張りの経営を求められるようになります。

 こうした落とし穴にはまらないようにするためには、早い段階から「公人としての自覚」を持ち、「世のため 人のため」になる会社であろうとすることです。

「たとえ、どんなに小さな会社や事業であろうと、経営者は使命感を持たなくてはなりません。すなわち、「私の会社、私の事業を通じて、世のため人のため、天下国家のため、世界人類のため、宇宙のために、いったい何ができるか」ということを、常々考えなければいけないのです。」(『経営入門』P-293)

 こうした崇高な理想を求めて経営をしていれば、法律を遵守することは無論、おのずと会社は積極的に社会的責任を果たしていくことになります。その意味でも、経営者が宗教を身につけることは重要です。

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