弱者の兵法、強者の兵法

弱者の兵法

「一般原則としては、弱者は強者と総力戦で戦っても勝てません。これが一般原則なのです。総力戦では、「小さなところが大きなところと戦って勝てる」ということは まずありえません。したがって、自分は弱者だと思ったならば、自分の強みのところで勝つべきなのです。例えば、小さな会社でも、技術だけは非常に優れているということがあります。あるいは、この技術に関しては優れている、大企業が手も出せないような限定的な技術において非常に優れている、ということがあります。こういう会社は、その部分で徹底的に戦うことです。

 これが いわゆるニッチ産業、隙間産業です。大きなところは手を出せないような隙間の部分があり、それをニッチといいます。そういう隙間の部分を徹底的に攻めると、そこに穴が開いていって、道ができてくるのです。

 ところが、そのニッチの部分のマーケットが一定以上の規模になると、資本の大きな大企業が参入してきて、市場を奪われてしまうこともあります。そのときには、次の態勢を考えなければいけません。自らも大きくなるか、あるいは別のニッチ、隙間のところを見つけていくか、そういう方法があります。

 弱者の兵法は、基本的に隙間を狙っていくニッチ型なのです。強者が油断している隙間、強者が手を出せない隙間のところに攻め込んでいく、意表を突く攻め方をしていくのが弱者の兵法です。」(『智慧の経営』P-300~302)

 

強者の兵法

「一方、強者の兵法は、相手が少なければ大軍でもって囲むという戦略です。

 これは、豊臣秀吉が得意とした戦法であり、特に彼が天下人になってからは大抵これでした。敵と味方の軍勢を見て、敵のほうが一兵でも多いときは絶対に戦わず、和睦をするなどの政治的手腕を使います。そして、自分の軍勢のほうが多いとなったら攻めかかるのです。だいたい相手の十倍ぐらいの軍勢で攻めていきます。小田原を攻めたときも、秀吉は十倍ぐらいの大軍で攻めました。そうすると、相手は戦意をなくしてしまうので、戦わずして勝ち、味方の被害が少なくて済むのです。

 相手と同じような戦力で戦うと、被害が非常に大きくなります。例えば、「一万人」対「一万二千人」という戦いであれば、かなりの死傷者が出ます。ところが、「一万人」対「十万人」になると、一万人のほうは戦意をなくしてしまいます。勝負をしても一瞬で負けてしまうことが分かるので、戦わずして高さんするのです。

 こういうことはあります。これが強者の兵法です。」(『智慧の経営』P-309~310)

 弱者の兵法、強者の兵法を使うにあたっては、単に業界内における売上規模だけを見て自社を弱者・強者に振り分けるのでは不十分です。会社全体の規模における弱者・強者がある一方で、あるサービスにおける弱者・強者があります。

 例えば、ビール市場で言えば、アサヒやキリンは強者で、サッポロやサントリーは弱者と言えます。しかし、飲料市場という市場でくくると、サントリーが強者となります。つまり、どの市場を想定するかによって、弱者と強者は入れ替わるわけです。逆にいえば、「どの市場を想定すればわが社は強者で有り得るか」を考えることが重要になります。わが社が強者であり得るポジションを発見できたら、その分野に経営資源を集中すると勝機が見えてきます。

 

 「弱者か、強者か」は、単純に会社の規模で決まるわけではない。扱っている商品・サービスの市場規模と自社のシェアによって、弱者と強者は決まります。したがって、同じ企業でも、ある商品については弱者で、別のある商品については強者ということがあり得ます。自社の強みと弱みを間違って認識すると、その後の戦略を間違えてしまうので要注意です。考え方一つで、強みは弱みになり、弱みは強みになります。この意味でも、「認識力」が決め手になります。

 

 

スズキ

 トヨタや日産、ホンダなどの有名な自動車メーカーが跳梁跋扈する日本において生き残っている有力な自動車メーカーです。
 日本の自動車メーカーは軒並み世界的にも高い評価を得ており、またそれぞれが違った特徴を持っています。
 トヨタがハイブリッドカーを主軸として人気を伸ばし、日産やホンダなどは高性能車を売りにしているのが特徴であるのに対して、スズキはどのようにして戦っているのか。

自動車メーカーが跋扈する日本で生き残るために

 スズキ自動車は、日本国内の自動車会社としては有名ながらもそこまで大きな会社というわけではありません。
 しかしながら、現在でも独立を保っており、新しい車を出し続けて収益を上げ続けています。
どのようにして強豪ばかりのライバルたちを相手取りながら生き残ることができているのでしょうか。

 スズキ自動車の経営戦略は大きく2つのポイントがあります。
 一つは「集中戦略」、もう一つは「弱者戦略」というものです。
 集中戦略というのは、多くいる消費者全員に対してアピールを行なうのではなく、其の中でも一部の対象を相手取ってマーケティングを行なうという方法です。

 全体に受け入れられるものを作るのは難しく、そういった点において日本はトヨタや日産などの強敵がいるためになかなか立ち向かうことが出来ません。
 そこで、スズキ自動車が行ったのが、「軽自動車を求める層に対する一本化」ということになります。
 スズキ自動車は実は日本国内の自動車メーカーのなかで、ナンバーワンの軽自動車売上を誇っている会社なのです。

 ハイブリッド自動車やハイテク自動車などについては大手と勝負することを避けて、大手が強くない軽自動車について全力を注ぐことによって競合相手を振り切るという戦術を取りました。これが成功し、大企業である日産自動車を相手にOEM供給を行なうなど、日本全体の軽自動車に関わるような企業へと成長したことになります。

 

弱者戦略の成功

 この弱者というのは、スズキ自動車が弱い会社というわけではなく、ランチェスター戦略と呼ばれる経営戦略論に於いて、ナンバーワン以外が弱者と称されていたことから来ているものです。
 実際日本国内のナンバーワンはトヨタですから、それ以外の自動車会社というのはこの定義に従えば弱者ということになります。

広範囲マーケティングではなく、集中したマーケティングを行なうというのは、弱者戦略としては中心となる一手なのです。
 実際スズキ自動車はそれに成功しました。
 さらに、国内だけではなく、インドにおいて高いシェアを誇っているというのも特徴です。

 今やインドにおいては全部の車の2台に1台以上がスズキ車という状況になっており、こちらでは間違いなく「強者」となっているのです。

 

失敗する会社が知らない「定石」

  「敵を知り、己を知れば、百戦して殆(あや)うからず」

 ナポレオンも座右の書にしていたと言われる兵法を書いた「孫氏」の言葉です。戦(いくさ)を行う上では、「敵の状況を知ること」と「客観的に自分たちのことを知ること」が極めて重要なことであるということです。
 原理原則的に正しいことなので、スポーツなどを筆頭に様々な活動で使われる「定石」でもあります。それはビジネスでも同じです。
 戦略を考える上で、最も有名な言葉の一つである孫氏の言葉には「続き」があります。
 「彼(敵)を知らずして、己を知れば、一たび勝ちて、一たび負く。彼を知らず、己を知らざれば戦うごとに必ず敗る」
 「敵の状態を知って、味方の状態も客観的に把握していれば、百回戦っても危険が無い。しかし、敵の状態を知らず、味方の状態を客観的に把握していれば、勝ったり負けたりし、敵の状態を知らず、味方の状態も客観的に把握できていなければ、戦うたびに必ず危険になる。」という意味です。
 ですから、戦略を立てる時の基本中の基本であり、最初にすべきことは「己を知る」ということです。
 「己を知り、敵を知れる」ことが理想ですが、ビジネスにおける敵(競合や市場、あなたを取り巻く環境)は把握することが簡単ではないので、まず自社を客観的に知ることが重要です。
冷静に自社を見つめたとき、良い点や強みも出てくると思いますが、集約して言えることが一つあります。それは「99.7%の会社は、弱者である」という事実です。
そういう弱者が勝っていくための戦略が「弱者戦略」です。
 ほんとうに様々な種類の経営戦略が世の中にはありますが、ほとんどの会社がとるべき戦略こそが「弱者戦略」です。
 「弱者である」と言われると、心地良くはないと思います。実際、多くの社長は、個人としては強者だと思います。有能な人が多いです。仕事もできるし、自分で経営を始めるまでは成功してきた人が多いです。
 しかし、私たちの「会社」は違うということです。
 数十億円に相当する大きな資本や唯一無二の独自の強みを持った会社でない限り、自分を弱者として位置付けておいて間違いはありません。
この「弱者である」という自己認識をベースに戦略を立てないと、間違った戦略を立てて、間違った努力を繰り返すことになってしまうのです。世の中に存在する多くの会社は「弱者戦略」を戦略の土台にしておかないといけません。
 「弱者戦略」は「生き残り戦略」と言うこともできます。資本や経営資源に乏しい中小企業が、厳しい市場の中で強く生き残っていくために何をすべきなのか? の指針となってくれます。
 動物の世界を見ても、弱者である小さな動物たちが、厳しい環境を生き残っていくために、実に素晴らしい戦略を持って生きています。植物の世界でも、雑草などの弱者植物は、それぞれの種で生き残る戦略を持っています。
 それらはすべて「弱者戦略」です。

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