社員の正しいほめ方、叱り方

「ほめ方」「叱り方」の原則

 上司は、日々の業務のなかで、部下の「手柄」をほめ、「ミス」を叱ります。

 しかしながら、「ほめ方」、「叱り方」について その効果性を十分に考えて実践している人は多くはありません。

1 「ほめる」、「叱る」は上司に不可欠な能力

 上司は、あらゆる場面を通じて部下を指導する立場にあります。

 社会人としてのマナーから仕事に対する心構え、日々の実務、さまざまな技術や知識など教えるべきことは山ほどあります。

 しかし、いつも機械的に淡々と説明するだけでは部下の「心」には響きません。

 ほめる、叱るとは、指導をより効果的にするために、部下の心に直接アプローチすることであり、上司に不可欠なコミュニケーション能力です。

 そして、その能力の度合いが部下の成長スピードに大きな影響を与えます。

 上司は、ほめ上手、叱り上手になる義務があるのです。

2 両者の目的は同じ

 そもそも、ほめる、叱るという行為は正反対のように理解されがちですが、どちらもその本来の目的は『部下のモチベーションを高め、正しい方向に導く』ことにあります。

 部下が努力を重ね正しい方向に向かっていれば、「それでいいよ」と確認して励ましてやり、怠けたり間違った方向に進んでいれば「そうじゃないよ」と指摘するだけのことなのです。

 上司は、ほめる、叱るの本来の目的を常に意識し、相手が増長してしまうような手放しなほめ方や、逆に萎縮して心を閉ざしてしまうような叱り方は慎まなくてはなりません。

3 対象は「人」ではなく「行為」

 ほめる、叱る の対象は『部下そのものではなく、仕事の結果や取り組みのプロセスなど「部下の行為」であるということを認識しておく必要があります。

 つまり、部下が頑張って目標を達成したら、部下のすべてがすごいのではなく、目標を達成したことがすごい、逆に目標を達成できなかったら、部下のすべてがダメではなく、目標未達成がダメということになります。

 特に叱る場合はこの点に十分に配慮する必要があります。

 人格そのものを否定するような叱り方は許されるはずもありません。

4 部下は上司の反応を待っている

 部下は上司から自分を認めてもらいたいと強く願っています。「オレは上からの評価など関係ない」とクールを装っている部下もいますが、ほとんどの場合、それは自分に対して反応してくれない上司へのせめてもの抵抗です。大きな成果を上げたらほめてほしいというのは自然な感情です。

 また、明らかにミスを犯した場合はきちんと叱られたほうがむしろ安心します。

 部下にとってもっともイヤなのは、上司が自分のことを空気のように扱い、何をやっても無視されることです。

 たとえ人事考課上では高い評価をもらっても、日々の業務にやりがいを感じることはできません。

 ほめること、叱ることは、部下をひとりの人間として見つめ、真剣に付き合っていこうという上司の姿勢を示すことでもあるのです。

 

その気にさせる「ほめ方」

 人は誰でもほめられると嬉しいものです。

 部下にとって上司からほめられることは、自分の仕事を認めてもらったことであり、何よりも励みになります。

 しかし、効果的にほめることは意外に難しいものです。

 通り一遍のほめ言葉だけでは、部下から「本当にわかってほめているのかな」という不信感をもたれることさえあります。

 部下のモチベーションを一層高め、成長をより促進するためには次のような点に留意する必要があります。

1 「ほめ上手になる」と腹を括る

 ほめることが苦手という人の多くは、「自分は普段から部下には厳しく接しているので、今さらそのスタンスは崩せない」といいます。また、「人をほめるのは自分の性に合わず、何となく照れくさい」という人もいます。

 しかし、ほめることは部下を甘やかすことでもなければ、機嫌をとることでもありません。

 ほめる目的は、部下のやる気を高め、正しい方向に導くことであり、それは上司の責務です。自分のこれまでのスタンスや苦手意識は横において、まずは「ほめ上手になる」と腹を括ることが必要です。

2 具体的にほめる

 「よくやった」「すこいな」といった抽象的な表現ではなく、「受注目標を120%達成した」「難航不落の営業先を落とした」など、より具体的なポイントをあげてほめるようにします。これによって。「上司は部下の仕事をきちんと理解していること」「その仕事の難易度も十分に認識していること」が部下に伝わります。

 成果だけではなく、それに至るまでのプロセス(発想、業務設計、工夫、粘り強さなど)についても併せてほめることで 部下の努力そのものを評価していることを示します。

3 タイムリーにほめる

 部下がほめられてもっとも嬉しいのは、自分自身が「困難な仕事を成し遂げた」という達成感をもっているときです。

部下が大きな成果を上げたことを知ったら、できるだけ早いタイミシグでほめることが大切です。

 出張中などで直接話せない場合には、電話やメールなどで、ねぎらいの言葉を贈るようにしましょう。

 タイムリーにほめることで、上司はつねに部下の仕事ぶりを見ているという姿勢を示すこともできます。

4 さらなる成長を促す

 ほめるときは、必ず今後の成長に対する期待も加えます。部下は達成感のなかで自然とモチベーションが高まっています。上司が「今後とも君の活躍に期待している」という言葉をはっきりと伝えることで、部下の成長意欲は一層強まるでしょう。

 また、部下の今回の仕事のなかで、こうすればもっとよくなるという改善点についてもできるだけ具体的にアドバイスしましょう。

 なお、部下に対する素直な気持ちを表すことは大切ですが、根拠なくほめ言葉を重ねると、相手は逆に「ばかにされているのか」と感じます。また、ほかの部下と比較する形でほめると、ほめられた部下と比較された部下との間にあつれきが生じることもあります。さらに、部下を自分の「駒」のように扱ったほめ方も好ましくありません。

 

成長を促す「叱り方」

 叱るということは、部下が間違った方向に向かうのを修正することです。

 それは、次のステップからなります。

 1)自分の間違いに気づかせること

 2)部下自身に改善のための選択肢を考えさせること

 3)「頑張ろう」というやる気をもたせること

 4)実際に部下が行動を改善すること

 これらのステップを確実に踏むことで、部下は「叱られたから仕方なく改める」のではなく、「自分から進んで改める」ようになります。

 そのためには次のような叱り方が大切になります。

1 「怒る」のではなく「叱る」

 上手に叱るためには、まずは「怒る」と「叱る」の違いを確認する必要があります。怒るとは「自分のために」感情を爆発させることであり、叱るとは「相手のために」正しい仕事の仕方を指導することです。両者には大きな違いがあります。

 怒っているのか、叱っているのかは、それを受け止めている部下がどのように感じるかで決まります。

 上司はきちんと叱っているつもりでも、部下が「また怒られた」と感じている場合は、効果は期待できません。

 上司は叱るだけではなく、部下がどのような反応を示しているのかまで確認する必要があります。

2 ポイントを確認してから叱る

 叱る前には、自分が部下のどのような点を叱ろうとしているのかを確認します。

 たとえば、目標未達成の営業マンを叱るときには、「未達成という結果を叱る」「営業の進め方を叱る」「途中で相談に来なかったことを叱る」などさまざまなポイントがあります。

 これらを整理する前に部下を叱り始めると、思いつくままに次から次に指摘してしまうことになり、部下はそもそも何を叱られているのかわからなくなってしまいます。

 どのような点を指摘して、それをどのように改善してほしいのかをあらかじめ考えてから叱ることが大切です。

3 相手に考えさせる

 叱る目的は、部下を追い込んで「すいません」という言葉を引き出すことではありません。

 「これができていない」という事実を指摘するだけではなく、「なぜできないのか」「どうやったらできるようになるのか」という問題解決型の指導が必要です。

 上司から「次回からはこうしろ」と直接的な指示をするのではなく、部下自身に改善の方法を考えさせるほうが部下のやる気は高まります。

4 原則は「1対1」で叱る

 自分のミスを自覚していても、同僚や後輩の前で叱られるのはつらいものです。このような叱り方は部下のプライドを大きく傷つけます。また、1対1では素直に聞けることが、大勢の前であるがために意地になって反発してしまうこともあります。

 厳しい指導を行う場合や部下とじっくりと話したい場合は、個室を準備するなどの配慮も必要です。

 ただし、遅刻や服装の乱れなど誰の目にもわかる「ルール無視」を繰り返す場合などは、組織全体の規律維持のために、あえて全員の前で叱ったほうがよいこともあります。これは本人のプライドを傷つけることにはなりません。

5 「ほめる」と組み合わせる

 失敗して自信を失っている部下に対しては、叱るだけではなく、よい部分を見つけて同時にほめてあげることも有効です。たとえ結果は失敗だったとしても、そのプロセスには評価に値する部分もあるでしょう。

 「全体としての仕事は失敗だったが、この部分はよかった」という、ちょっとしたほめ言葉が部下の自信を回復させます。

 「本来の君の実力からして今回の結果は物足りないな」といった表現で、相手への期待水準の高さを示すこともモチベーション向上の効果があります。

 特に気を付けたいのは、部下の人格や存在を否定する言葉は決して使わないことです。このような言葉は、部下を精神的に追い込むだけであり、「パワハラ」といわれても仕方ありません。

 叱るべきは、あくまで部下がやった行為であり、部下そのものではありません。

 

社長に必要な「ほめ方」「叱り方」

 会社のトップである社長にとっては、会社全体、経営幹部、一般社員までが、ほめる、叱る

の対象になります。

1.会社全体に対して

 社長が朝礼の場などで、全社員に対してその努力をほめたり、逆に会社全体の業績不振を叱ることはよくあります。

 ほめるときは素直に気持ちを述べればよいのですが、問題は叱るときです。

 多くの場合、社員は「会社がピンチなんだな」というおおよその状況理解はできても、「自分にも大きな責任がある」という当事者意識を持つまでには至りません。これは社長に比べて会社全体の情報量が圧倒的に少なく、経営知識も乏しい社員にとってはある意味仕方のないことです。

 社員は自分の日常的な行動と会社経営を直接に結びつけて考えることはできないのです。

 社長がさらに声を荒らげれば、「社長自身は何をやっているのか」という反感が高まるでしょう。

 ここで大切なのは、「社員の責任を追及する」ことではなく、「会社がこうなったのはトップである自分自身の責任であり、自分も変わるから社員もそれについてきてほしい」という姿勢を打ち出すことです。

 このように、トップ自らがコミットメント(約束)することで社員の心は動きます。

 社長は、会社全体を叱る前に、叱る原因となっている問題と自分自身がどのように向き合って対処するかを考える必要があるのです。

2 経営幹部に対して

 たとえば、A部門が業績目標達成、B部門が業績目標未達成であれば、通常はA部門長はほめられ、B部門長は叱られます。しかし、A部門長はA部門の責任者であるとともに、会社業績全体に責任を負う経営幹部のひとりでもあるはずです。

 仮に、A部門長がB部門の窮地を知りながら それを放置していたのでは、経営幹部としては失格です。

 少数精鋭の中小企業では、経営幹部はさまざまな役割を担っているのが普通です。そして、幹部陣がそれらの重責をこなしているかを判断できるのは社長だけです。

 彼らを適切にほめて叱ることによって、幹部自身の成長を促し、会社全体の経営力アップに直結させることができます。

 また、社長が経営幹部をほめて叱ることは、経営幹部に正しいほめ方、叱り方を教えることでもあります。たとえば、社長が経営幹部の人格を否定するような叱り方をすれば、その幹部も同様に自分の部下を不適切に叱ってしまうかもしれません。社長が経営幹部に対して行うほめ方、叱り方が会社全体のスタンダードになる可能性が高いのです。

 このように、社長が経営幹部をどのようにほめて叱るかということは、会社全体に大きな影響を与えることを認識しなければなりません。

3 一般社員に対して

 一般社員にとって、普段はめったに会う機会のない社長から直接ほめられることは、大きな励みになります。社長から直接であれば、「最近、頑張ってるな」の一言でも嬉しいものです。

 社長は自分の目だけではなく、上司からも部下の情報を聞くなどして、積極的に一般社員をほめるようにしましょう。

 全社員の前で社長が一般社員を表彰する機会をもつことも有効です。

 一方、社長が直属の上司を通り越して、直接に一般社員を叱る場合は注意する必要があります。

 社長から叱られるということは、その社員にとって大変なショックです。また、直属の上司にとっては、自分のマネジメントを否定されたことになります。一般社員は上司に迷惑がかかることを恐れ、二重の心理的負担を強いられます。やむを得ず一般社員を叱った場合は、なぜ叱ったのかを上司にも告げて、マネジメントの仕方を指導すること、一般社員をきちんとフォローさせること、社員に改善がみられた場合は、社長が直接ほめることなどが必要です。

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