企業の社会的責任(CSR)
企業が目指すのは「利益」だけじゃない
CSRの基本は「三方よし」
「三方よし」とは、「売り手」、「買い手」、「世間」の三方を大切にすべしという、近江商人の精神です。
商売では売り手(自分)の利だけではなく、買い手の利、さらには世間全般の利にも気を配ることが必要であるというものです。近江商人は諸国にまたがって活躍しましたが、地縁も血縁もない遠方の人々と信頼関係を築き、末永く商売を続けるためには「三方よし」の精神が不可欠と考えました。自分たちはあくまで社会の一員であるとの認識をもち、社会全体で支え合いながら、共存共栄を図ろうとしたのです。特に商売を売り手と買い手だけの閉じた関係ではなく、それを通じて社会全体とのかかわりを大切にしたところに「三方よし」の神髄があります。彼らは大商人に成長してから、改めて社会貢献のために「三方よし」を唱え始めたのではありません。まだ商売が小さいうちから、「三方よし」を商売拡大の秘訣として位置づけています。
CSRの4つのレベル
CSRとは「自社の利益を追求するだけではなく、社会の一員としてのルールを守り、さらには広く社会に貢献していこう」というものであり、「三方よし」の精神をより現代的に実践するための考え方であるといってよいでしょう。
CSRで企業に求められている社会的責任は、「法的責任」、「経済的責任」、「倫理的責任」、「社会貢献的責任」の4つのレベルで考えることができます。
これらには優先頓位があり、たとえば、もっとも基本的な責任である「法的責任」の遂行なしには、その上位にある「経済的責任」、「倫理的責任」などの遂行意味をなしません。
1 法的責任
「法的責任」とは、企業が活動していくうえで守るべき法律を遵守するということです。
企業を取り巻く法律としては、「会社法」、「商法」、「法人税法」、「労働基準法」といったすべての会社に共通の法律のほか、業界ごとに定められている「特定商取引法」、「建築基準法」、「製造物責任法(PL法)」、「食品衛生法」などの法律があります。また、地域ごとに定められている条例もあります。
これらのルールを遵守することは「社会の公器」たる企業にとって最低限の責務です。
2 経済的責任
経済的責任とは、活動を通じて経済的利益を確保し分配するということです。
それによって株主に対しての「配当」、従業員に対しての「賃金」、国や地域に対する「税金」、取引先への「支払い」などが可能になります。
3 倫理的責任
倫理的責任とは、法的責任を果たしたうえで、さらに自主的な規制などを通じて、自社事業に対する社会の共感を得るということです。
たとえば、環境対策として自社商品のリサイクル運動を行ったり、顧客満足度向上のための相談センターを設けるなどの活動がこれに該当します。
4 社会貢献的責任
社会貢献的責任とは、企業本来の業務と直接関係のない分野(倫理的責任がおよばない分野)においても、公益増進のために貢献していくということです。
たとえば、地域の抱える諸問題解決への支援、文化芸術活動への支援、障害者の積極雇用などがこれに該当します。
今日まで日本各地で震災や風水災復興のために、全国のさまざまな業種の企業から寄付やボランティア派遣などが行われています。
CSRの対象
CSRは誰に対して責任を果たすのかという「対象」で分類することもできます。対象となるのは企業がかかわるすべてのステークホルダー(利害関係者)です。
企業とステークホルダーの関係は、一方通行ではなく、互いに影響を与え合う相互性をもっています。
そして、ステークホルダーから好意的な認識や行動を得るためには、まずは企業側からそれぞれのステークホルダーに対してアプローチして、自らの責任を果たしていく必要があります。たとえば、良質の商品を提供するのは「顧客」に対する責任、貸金を払うのは「従業員」に対する責任、配当は「株主」に対する責任ということになります。
さまざまな責任をより高いレベルで果たすことで、それぞれのステークホルダーの満足度向上につながります。
企業経営のあり方が変わってきた
利益の追求ばかりでなく、その活動が社会へ与える影響に責任を持とうとする企業が増えてきている。
企業の第一の目的は「利益の追求」だと言われてきた。企業は世の中の役に立つような製品・サービスを生み出して、その対価としてお金を受け取り、それを新たな事業展開のために使ったり、従業員の給料として支払ったり、株主に配当という形で分配したりしている。「利益を追求する」というのは、このような事業活動をたゆまなく続けていくために必要なことである。
しかし、実際には、目先の利益を追い求めることが、結果的に企業の長期的な成長をさまたげてしまうケースも少なくない。目先の利益だけに目を奪われていると、環境対策がおろそかになったり、従業員が安全に気持ちよく働けるようにする努力を怠ってしまうかもしれないのです。そういう企業はやがて消費者や従業員たちの信頼を失い、事業の活気もなくなってしまう。
一方、株主側も、株価ばかりに目を向けがちで、「企業の経営にしっかり目を向けよう」という人々は多くなかった。
そこで近年重視されているのが、「CSR(Corporate Social Responsibility 企業の社会的責任)」です。
CSR(企業の社会的責任)と株式投資
CSRは、ステークホルダーとよりよい関係を築き、事業活動を継続・発展していくために重要である。
企業は、利益を追求するだけでなく、環境問題や人権問題への対応をはじめさまざまな社会的な責任を果たすべきとする考え方やその取り組みを指す。
企業は、そこで働く人々(従業員)と株主だけでなく、ものを買ってくれる人々(消費者や取引先)、その企業の周辺に住んでいる人々(地域住民)など、世の中のさまざまな人々と深く関わり合いながら活動している。こういう人々を「利害関係者=ステークホルダー」という。
CSRは、こうしたステークホルダーと企業との信頼関係を築くためものだといえる。最近では、社会の一員として社会貢献活動や環境問題に取り組むなど、長期的な視野に立った経営に取り組んでいる企業も増えている。目先の利益を優先するのではなく、企業を取り巻く人々との良い関係を築いていくことで、長く将来にわたって着実に成長していくことができると考えられる。
このように、企業の経営のあり方にも変化が起こっている。そして、これを受けて投資家の間でも、「CSRに熱心に取り組んでいるか」を、重要な判断基準と考えて投資すると考えて投資する人々も増えている。
企業は、自社の利益を追求するだけでなく、すべてのステークホルダー(消費者、従業員、取引業者、株主、金融機関、地域社会、政府など、全ての利害関係者)を視野に入れ、法律、規則、契約、商習慣などに基づく義務を果たさなければなりません。また、経済・環境・社会など社会全体のニーズを捉え、それを商品・サービス化することにより、企業の競争力強化や永続的発展とともに、社会経済の活性化やより良い社会の発展に向け自発的に取り組む責任を担います。
社会的責任をさらに広義に捉えると、環境保護、消費者保護、コンプライアンス、人権問題など社会問題の解決や、文化支援活動、慈善事業などの社会貢献活動も企業の社会的責任(CSR)であると言えます。
CSR堆進による効果
1 「欠かせない企業」としての地位確立
企業がCSR活動に取り組む最終的な目的は、ステークホルダーから「敬愛すべきパートナー」として認めてもらうことにあります。
「財務状態がよい」、「技術力が高い」といった一面的な評価の枠を超えて、すべてのステークホルダーにとって「欠かせない企業」としての地位の確立をめざします。
このような状態が実現すれば、自社を中心とした、強固な信頼関係の輪が構築され、ステークホルダー全体が互いに好影響を与えながら発展することができるのです。
2 各ステークホルダーとの信頼関係構築による効果
それぞれのステークホルダーと信頼関係を構築することで、次のような効果が期待できます。
顧客
・愛着心をもって自社商品を購入し続けてくれる。競合他社へ離反しない
・自社商品改善についてのアイデアを提供してくれる
従業員
・自社および自社事業に対してプライドをもてる
・従業員満足度が上がり、やる気や生産性が高まる
株主
・会社の経営方針や運営手法への理解が深まる
・増資などの資金調達が行いやすくなる
仕入先
・長期的・安定的な仕入れが可能になる
・品質向上やコストダウン要請などに応じてくれやすくなる
地域社会
・地域共生企業として住民から愛される企業になる
・自社入社を希望する地元人材が増加する
社会全般
・CSRに熱心な企業としての知名度やブランド力が高まる
・潜在的な見込み客の増加が期待できる
進め方とポイント
CSR経営を本格的に進めていくためには、社長自身がその概要と重要性を認識し、自ら陣頭指揮を執る必要があります。
具体的には、役員などからCSR推進に関する実務責任者を選任し、次のような手順で進めていくとよいでしょう。
1 現状分析
まずは現時点での自社のCSR経営の状況を確認します。
CSRの土台となる「法的責任」については詳細な確認が必要です。
(1)会社全体と社員の意識
「会社全体としてCSRにどの程度取り組んでいるか」、「社員がCSRの考え方やその重要性についてどの程度理解しているか」、「日々の業務のなかでCSRを意識した行動を取っているか」、などについて確認します。
通常は会社全体のなかでも温度差がありますので、役職別や部署別などのグループごとに確認することも必要です。
(2)「法的責任」の遂行状況
「事業を行ううえで遵守すべき法律をすべて把握しているか」、「法律遵守に向けた取り組みは万全か」などを確認します。
特に環境に関する法律については頻繁に改正されており、また、適用範囲もすでに大企業から中小企業に広がっています。
(3)現状のCSRマトリクス作成
CSRマトリクスを自社の現状に合わせて作成します。
「現状でできていること」、「やりたいと思っているができていないこと」などを整理します。
顧客や地域社会からの満足度調査を行うなど、客観的な視点をもたせることも大切です。
2 CSRビジョンの策定と教育
現状分析、自社の事業内容、経営理念、経営環境などを総合的に分析し、自社にとってのCSRのあるべき姿(CSRビジョン)を明らかにします。同時に一般的なCSRの考え方や、自社のビジョンに関する教育を行います。
(1)CSRビジョン策定
自社が中長期的にどのようなCSR活動を行うかという「方針」と、結果としてどのような存在として認められたいかという「ゴール」を明らかにします。
最終的にめざすべき姿だけではなく、1年後、3年後、5年後など期限ごとのマイルストーンも設定します。
なお、CSR活動は必ずしも全方位的に進める必要はありません。たとえば、「自社はまず顧客に対する責任遂行に重点をおく」といったスタンスでも全く構いません。
(2)CSRマトリクス評価表作成
CSRビジョンをさらに具体化するために、CSRマトリクスの評価表を作成します。
現状とめざすべき姿を比較することでどの部分を強化したいかがわかりやすくなります。
(3)従業員への教育
従業員に対して山般的なCSRの考え方や、自社のCSRビジョンに関する教育を行います。
たんに知識として教え込むだけではなく、意識改革・行動改革につながるレベルにまで浸透させる必要があります。
特に管理職については、CSRを意識したマネジメントスタイルを徹底させることが大切です。
3 個別計画の策定
CSRビジョン実現のための個別計画を策定します。
少なくとも、CSRマトリクスで「×→△」、「△→○」のように、より上位をめざすと決めた部分については個別計画が必要になります。
たとえば、「顧客に対する経済的責任」をより高いレベルで果たすためには、「生産効率向上による価格引き下げ」などの施策が必要になるでしょう。
これらの施策について「いつまでに」、「誰が」、「どのように」行うのかなどについて具体的な計画を策定します。また、計画が達成されたかどうかを判断するための数値目標設定も必要です。
4 実施と進捗管理・評価・改善
個別計画に沿った施策を実施し、定期的に進捗状況を評価します。
評価を行う際には「何となく顧客の満足度が上がった」というあいまいなものではなく、「満足度アンケート向上目標10ポイントに対して実績12ポイント、よって120%達成」というように客観的かつ定量的に行うようにします。
また、未達成の場合はその要因を探り、次の施策につなげます。
このようにCSR推進については、「計画(plan)」→「実行(do)」→「評価(check)」→「改善(action)」のマネジメントサイクルを確実に回していくことが大切です。
CSR活動を行うメリット
CSR活動を行うことによって、社員が法的な知識や考え方などを理解して社会に対する企業が果たすべき責任などを理解することができるというメリットがあります。
具体的には、以下の3つのメリットがあります。
1 社員のコンプライアンス意識の向上
CSR活動を行うことによって社員のコンプライアンス意識の向上に期待することができます。
法的意識向上で社員が違法行為を自制することができるため、法律違反を企業が犯し、社会からバッシングされるリスクを減らすことが可能です。
特に気を付けるべきは、企業が経営活動の一環として行っていることが社会常識的には良いことではなかったり、法的に違法行為だったというようなリスクを避けることができます。
企業の責任は重く、違法行為が世間に知れ渡ると「知らなかった」では済まされないということも多々あります。
2 企業イメージが良くなる
CSR活動を行うことによって、企業イメージが良くなるなどのメリットがあります。
CSRを意識した活動を行うことによって企業が社会に対して行うべき行動がしっかりと固定され、発信しやすくなるためです。
東京商工会議所の調査によると、大企業の98.3%・中小企業の79.7%がCSR活動を行った結果、イメージアップしたと回答しています。特に、大企業においては、メディアでの紹介やPRに対して効果を期待して取り組んでいるのです。
3 従業員満足度が上がる
CSR活動を推進することによって、従業員満足度が上がる可能性があります。
CSR活動を行うことによって、自分の仕事は社会貢献になっていると従業員は思えるようになり、自信につながっていくためです。
特に若者に関しては、社会貢献性の高い仕事がしたいと考えている若手社員も多く、社会貢献性のある仕事をしていると、自信を持つことで定着率向上などにも期待できる可能性があります。
自社の若者の定着対策にもなり得るCSR活動は、企業にとって良い効果をもたらす可能性があります。
CSR活動を行うデメリット
CSR活動を行うデメリットとして、以下のデメリットがあります。
労務コストの増大
CSR活動を推進すると、労務コストが増大する可能性が高くなります。
本来は直接的な売り上げを作るための仕事時間をCSR活動に使う必要性があるためです。
CSR活動を推進することによって、将来的には「あの会社は良い企業だ」と社会から認めてもらえる可能性がある一方で、本来業務以外に時間を費やすことで目先の売上は下がってしまう可能性があります。
また、目の前の業務に取り組まないと売上が立っていかない中小企業においては、CSR活動に取り組むのは限界があるといえます。
社員教育実施など工数がかかる
CSR活動を推進するにあたっては、社員教育実施などの工数がかかる可能性があります。
いきなりCSR活動を始めるといっても、ノウハウなどが必要となりますし、入社して日の
浅い人材などに参加してもらうには研修なども必要となってくるためです。
社員教育は非常に工数がかかるため、なかなか時間が取れなくなる可能性があります。