ロジカルシンキング
ロジカルシンキングとは
文字通り、物事を論理的(ロジカル)に考える(シンキング)ということです。
論理的に考えるとは、「客観的事実に基づき、筋道を立てて考える」ということを意味します。
ロジカルシンキングは、もともと米国のコンサルティング会社であるマッキンゼー・アンド・カンパニーが提唱した問題解決のための思考手法の一つです。
ロジカルシンキングは、問題の原因を特定し、それを解決するための対応策を策定するという問題解決のスキルを指します。
ある製造業者に「利益が減少している」という問題があった場合、対応策を策定する際には、まずその原因が何であるかを特定しなければなりません。その場合、原因としては、「商品の値引き販売が恒常化している」「原料価格が高騰している」「競合他社が高機能な新商品を発売した」など、さまざまな原因が考えられるでしょう。
しかし、さまざまな原因を思いつくままに列挙していくことは効率的とはいえません。また、重要な原因を見落としてしまう可能性もあります。そこで登場するのがロジカルシンキングなのです。
問題解決において、ロジカルシンキングの手法を取り入れることにより、重要な原因の見落としを防ぎながら、効率的に対応策の策定を進めていくことができます。
ロジカルシンキングの手法を用いた問題解決は、大きく分けて「問題の構造化」と「対応策の策定」という2つの流れからなります。
しかし、ロジカルシンキングにおける問題の構造化では、まずは一つの原因を取り上げ、その原因の背景を探るという、原因の原因を探る作業を行います。この作業を繰り返し、最終的に問題の根本にある「本当の原因」まで原因を掘り下げるのです。
例えば、製造業者の例における問題の構造化は「利益が減少している」→「商品の値引き販売が恒常化している」→「海外製品との価格競争が発生している」→・・・と進めていきます。
拡大思考・分類思考・収束思考
論理思考は、「流れ」でとらえると分かりやすいと思います。
どういう流れかというと、「拡大」→「分類」→「収束」という流れです。
例えば、皆さんが山道を歩いているとしましょう。日が暮れて真っ暗になりました。すると向こうから何か赤い火のようなものが見えてきました。
「あれは何だ? 火の玉じゃないか。いや火の玉なんて非科学的だな。では動物の目か? 動物の目はあんなに光るのか? それとも何か別の自然現象か?」
こんなふうに色々と考えていきます。これを「拡大思考」といいます(「クリエイティブ・シンキング」ともいいます)。いろんな可能性をあれこれ考えるのです。決して「あれは火の玉に違いない」と決めつけてはいけません。
しかし、いつまでも拡大思考をしていてもラチがあきません。そこで、「ちょっと冷静になろう」とします。「科学的にはどうか」「季節外れかどうか」といった何らかの基準を使って、それまで出た意見を分けていきます。
これを「分類思考」といいます。別名「クリティカル・シンキング」です。
つまり、まずクリエイティブに考えて(拡大)、次にクリティカルに分析する(絞り込み)という流れをつくるわけです。
そして「クリティカルに分析した結果、これは動物に違いない」という形で結論を出していきます。結論が出たら、その理由を説明して全員が納得しなければなりません。
これを「収束思考」といいます。
ロジカル・シンキングを実践するには、まず拡大し、次に分類し、最後に収束するという意識の流れをつくるのです。
ロジカルシンキングが必要な理由
ビジネスにおけるコミュニケーションで最も大切なことは、言いたいことを正確に相手に伝え、相手の言いたいことを正確に理解することです。
仕事を円滑に進めるためには、取引先・上司・同僚・部下などの相手に対して、自分の言いたいことを可能な限り分かりやすく伝え、理解して納得してもらうことが重要です。
しかし、実際には「思っていることが相手にうまく伝わらない」「相手をうまく説得できない」「相手の言わんとすることが理解できない」という場面も少なくありません。これは、正確なコミュニケーションにとって必要な「論理的な思考」、すなわちロジカルシンキングがうまくできていないことが多いためです。
一般的に、日本人は討論ゲームの一種である「ディベート」などに接する機会が少なく、欧米人などに比べて論理的な思考が苦手であると言われます。
また、日本人同士のコミュニケーションでは「あうんの呼吸」「以心伝心」といった言葉に代表される伝統的な慣習によって、言葉にせずとも何となく意思の疎通ができているという認識もありました。
しかし、外資系企業の台頭やビジネスのグローバル化、より合理的な経営戦略の推進など、近年の日本のビジネスシーンには大きな変化が起こっています。
こうした中、あうんの呼吸や以心伝心などを重要視する旧来の日本型コミュニケーションではなく、グローバルな視点と明確な論理に立脚し、相手を納得させることのできるコミュニケーションの重要性がますます高まってきています。
思い違いや抜け・漏れのない意思の疎通を図るためには、あいまいな表現を避け、お互いが正確で論理的なコミュニケーションを心がける必要があります。
そのための手法がロジカルシンキングなのです。
ロジカルシンキングの基本的な考え方
1 相手に伝えるべきテーマを確認する
ロジカルシンキングにおいて、最初に意識すべき点は、「そのコミュニケーションにおいて、自分が相手に伝えるべきテーマは何か」を明確にすることです。
コミュニケーションの手段には、会話や会議、メールでの連絡などさまざまなものがありますが、どのような場合においても、伝えるべきテーマに「ずれ」があっては伝えたいことが相手に伝わりません。
仮に、セールスをするときに相手が知りたいと欲する以外のことを丁寧に説明したとしましょう。そこで説明した内容が非常に価値を持った情報であっても、相手にとっては知りたい情報ではないため、商品購入の検討には至らないでしょう。
例えば、ソフトウエアのセールスを行うときに、相手の最も知りたいことが「導入によるコストダウン効果」だと予想できたとします。それに対して、ソフトウエアの機能や操作性のよさをいくら強調してもピントの外れたやり取りになるだけです。
もちろん、機能や操作性のよさはソフトウエア導入に当たっての重要な要素となりますが、この場合、それはあくまでも「コストダウン効果」を前提とした上での副次的な要素でしかありません。
コミュニケーションを行うときには、伝えるべきことの価値やその方法以前に、そのテーマが果たして適切な選択であるのか、ということを優先して考えることがロジカルシンキングの考え方となります。
2 相手の反応を想定する
コミュニケーションにおけるもう一つの重要な前提条件となるのが、相手に期待する反応を確認することです。
ミーティングやプレゼンテーションで何かを説明したり、提案書などを作成するということは、相手に内容を理解してもらい、最終的には何らかの反応を引き出すことを目的とした行為です。この点を忘れてしまっては、コミュニケーションはただの一方的な独りよがりの行動となってしまいます。このため、コミュニケーションに際しては、相手からどんな反応を引き出せば成功なのかということを、あらかじめ想定しておくことが大切です。
例えば、営業活動を行うに当たって、伝えるべきテーマを「ソフトウエア導入によるコストダウン効果」と定め、さらに「コストダウン効果を相手に認識してもらい、その効果についての意見を引き出す」という相手の反応を想定するのが、ロジカルシンキングの方法論です。
これに対して、「ソフトウエア導入によるコストダウン効果」というテーマを伝えることだけを考え、「その効果についての意見を引き出す」ことを行わなければ、相手がそれを理解できているか、理解できたとしても、それに対してどのような意見を持っているのかを知ることはできません。
コミュニケーションが独善的にならないためにも、相手の反応を想定して事前にプランを立てる必要があります。
伝えることは、あくまでも相手に「理解してもらう」ための手段であり、目的は「反応や回答を得る」ことにあるのです。
ブレスト4つのルール
ロジカル・シンキングを実践するためには、いくつか必要となるツール(道具・技術)があります。
「拡大思考」をする時には、ブレーンストーミングやマインドマップという手法を使います。
「分類思考」ではSWOT分析やフレームワーク、「収束思考」にはロジックツリー、三角ロジックという手法があります。
ブレーンストーミングは、短い時間で多くのアイデアを出すための討議の技法ですが、四つのルールがあります。
(1)質より量
意見の良し悪しより、いくつ言えるかです。とにかくたくさん意見を出します。
(2)連想発展
普通は、前の発言者と同じようなことを言うと、「何で同じことを言うんだ」と言われてしまうのですが、ブレストではOKです。むしろ前の意見と似たような言葉をどんどん出していって、連想を広げていくのです。
例えば、「走りのいい車」「高速走行のできる車」「立ち上がりがいい車」という感じです。この時に「それじゃ言っていることが同じじゃないか」とか「いや安全走行だ」などと否定してはいけません。
(3)奇抜歓迎
三つ目のルールは、どんな奇抜なアイデア、突飛なアイデアも歓迎するということです。
「ロケットよりも早い車」「飛ぶ車」「タイヤが三角」といった意見もOKということです。要するに何でもアリで意見を出すのです。
(4)批判厳禁
批判厳禁というのは、バカバカしい突飛なアイデアが出た時に、「そんなものあり得るか」というツッコミを入れないというルールです。
以上の四つのルールを守ることで、短時間でアイデアがたくさん出るようになるわけです。
さらに、できれば「ほめ殺し戦略」も加えたいと思います。「何を言っても必ずほめる」というルールです。「うんうん」「いいねえ」「すごい」「さすが」「なるほどね」「そうきましたか」といった言葉を使うのです。すると、議論がどんどん活性化して、勢いがつき、よいアイデアが次々と出るようになります。是非、実際に試してみてください。
論理的思考のための技術
1 重複・漏れ・ずれをなくす「MECE」
MECE(ミッシー)とは、「Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive(「それぞれが重複することなく、全体集合として漏れがない」という意味)」の略で、マッキンゼーが命名したロジカルシンキングのキーとなる概念の一つです。
自分が伝えたいことを伝えるときに、同じ話を繰り返してしまう「重複」、肝心の点を説明していないといった「漏れ」、見当違いの点を強調してしまう「ずれ」があっては、相手の理解を得ることはできません。
重複・漏れ・ずれがあっても、受け手がそれを認識できるのは、それまでに蓄積してきた理解や経験によって、現在話題となっている主題の概要をつかんでいるためです。
例えば、映画の話をするときに、相手がその映画を見たことがあれば、ストーリーや映画の中の人間関係が分かっているため、多少の重複・漏れ・ずれがあっても自分の中で補完しながら話を理解することができます。
しかし、その映画を見たことがない人に対してストーリーに関する細かい話をしても、当然のことながら詳しい内容は理解できないでしょう。
打ち合わせや連絡など実際のビジネスの現場にあっても、たとえ一見お互いが理解したように思えていても、重複・漏れ・ずれがあったために自分の言うべきことが相手に間違って伝わっていたり、相手の望むことを勘違いして仕事を進めてしまうことがあります。MECEを「ある事柄を重なりなく、しかも漏れのない部分の集合体としてとらえること」と意味付けています。つまり、MECEとは、現在テーマとなっている事象について、それを全体集合としてとらえた上で、さらに重複や漏れのないように分類するという考え方なのです。
2 MECEの手法による分類方法
MECEの手法による分類方法は、大きく以下の2種類に分けられます。
(1)完全に要素分解できるもの
(2)これを押さえておけば、大きな重複・漏れはない約束事になっているもの
(1)の例としては、年齢・性別・都道府県などの地域が代表的なものとして挙げられます。
こうした切り口ならば、さまざまな事象を完全に重複なく、漏れなく分類できるでしょう。
このほかにも、企業ならば売上高や従業員数による分類など、完全に要素分解できる分類方式の切り口は枚挙にいとまがありません。
一方、(2)の「これを押さえておけば、大きな重複・漏れはない約束事」というのは、完全に重複や漏れがないとは保証できないものの、広く一般的に用いられている切り口で事象を分類するというものです。
その例として、3Cやマーケティングの4Pが挙げられます。
3 「横の法則」と「縦の法則」によって組み立てられる論理
ロジカルシンキングでは、そのときの課題に対して、MECEを「横の法則」、So What?/WhySo? を「縦の法則」として、立体的に論理を組み上げていきます。
例えば、ソフトウエア会社が新製品を開発する際に、会議でその方向性を発言する際の論理モデルで論理を組み上げるときに、チェックしておくべきポイントとなるのは以下の3点です。
・結論がテーマの回答になっている
・結論を頂点として各要素にSo What?/Why So? の関係が成立している
・横方向に並んだ複数の要素でMECEが成立している
このモデルでは、「新製品開発の方向性」というテーマに対して市場の3Cを分類方法として選んだMECEによる考え方を横軸にして、縦軸では「So What?/Why So?」を繰り返して結論を導き出しています。
MECEを使いこなすことで、論理を組み立てる判断材料となる情報を重複なく、漏れなく、ずれなく網羅した上で、So What?/Why So? によって「結局どういうことなのか?」「なぜそうなのか?」を検証しながら、飛びのない論理を構築するというのがロジカルシンキングにおける思考の手順となります。
4 2種類の論理構築パターン
ロジカルシンキングにおける論理構築のパターンには、「並列型」「解説型」の2種類があります。
並列型とは、結論を頂点にして、それをMECEを横軸にした複数の根拠が支えるというパターンで、ロジカルシンキングの基本といえます。
一方、解説型は、横の法則となるMECEの分類を以下の3種類に設定します。
・課題に対する結論を導き出すために相手と共有しておくべき「事実」
・「事実」から結論を導き出すための伝え手としての「判断基準」
・「事実」を「判断基準」で判断した結果、どのように評価されるのか
解説型の論理構築パターンでは、「事実」→「判断基準」→「判断内容」という演繹(えんえき)的な思考の流れを根拠としながら、最終的には「So What?/Why So?」を行いながら一つの結論へと導かれるという流れになります。
並列型、解説型の2種類の論理構築パターンを組み合わせることで、どのような課題に対しても論理的に思考を組み立てることが可能となるのです。
「なぜ」を繰り返す問題の構造化がポイント
1 繰り返し考える
ある問題について、「その原因は何か?(=なぜ?)」を繰り返し考えることで、問題を構造化し、その原因を発見します。
ロジカルシンキングにおいては「繰り返し考えること」が重要です。
繰り返し考えることにより、安易な結論に陥ることを防止することができるからです。
例えば、「利益が減少している」という問題について考えた場合、さまざまな原因が考えられますが、そのうちの一つとして「複数の販売ルートのうち、営業社員による受注(直販)が減っていた」ということがあったとします。しかし、ここで重要なのは、すぐに「営業社員による受注が減っていることがこの問題の原因である」と結論付けてしまうのではなく、「営業社員による受注が減っているのはなぜか」を掘り下げて考えることなのです。
「なぜ?」を繰り返し、この問題をもっと掘り下げて考えていくと、以下のような原因がみえてくるかもしれません。
「利益が減少している」という問題を繰り返し考えていくことにより、「営業社員への待遇が他社に劣っている」という原因に達しました(もちろん、どのような問題であれ、原因は一つだけでなく、さまざまな原因が存在していますが、ここでは、例として一つだけを取り上げています)。この場合には「営業社員への待遇が他社に劣っている」ことが原因となっているので、この問題を解決するためには「営業社員への待遇の強化」が課題となります。
もしも、「営業社員による受注が減っていることがこの問題の原因である」という結論で止まってしまっては、この「営業社員への待遇の強化」という課題を導き出すことはできません。
課題に気付かないままに「営業社員を増員する」などの対策を取ったとしても、一時的には効果が現れるかもしれませんが、待遇に不満を持つ営業社員はやはり離職していき、結局同様の結果になるでしょう。
原因を考える際には、「なぜ?」を何回繰り返すか(どこまで原因を掘り下げるか)ということも考えなければなりません。
一般に、本当の原因を見つけるためには、「なぜ?」を5回程度は繰り返す必要があるといわれます。
このように、問題の本質を正確にとらえるために、繰り返し考え続けることが重要です。ただし、こうして原因を考える際には、問題と原因との間に因果関係が成り立っている(論理の飛躍がない)ことが必要です。この因果関係については、「なぜ?」で導いた原因に対し、逆方向に「だから?」と考えることにより、その原因から問題が導けるかどうかでチェックすることができます。この場合、原因から結果を導くことができる(双方向の矢印が成り立っている)ので、この問題と原因との間には論理的に飛躍することなく、因果関係が成り立っているといえます。
なお、ロジカルシンキングでは、この「なぜ?」を「Why So?」、「だから?」を「So What?」といいます。
このように、「なぜ?」と繰り返し問いかけることで、原因を掘り下げて考え、本当の原因を見つけることが、問題解決の第一歩となります。
2 全体を要素に分割する
実際の問題解決の場面では、一つの問題に対し、複数の原因が存在しているケースが多くみられます。そのため、一つの問題に対して複数の原因を考えて、その出てきた原因の一つ一つについて、またその原因を考えて、と繰り返し考えていく必要があります。
複数の原因を考える際に注意しなければならないのは、原因に「漏れ」や「重複」が生じないようにすることです。
この「漏れや重複がない状態」のことをロジカルシンキングでは「MECE(Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive:ミッシー)」といいます。
ここで重要になるのが全体を要素に分割するという考え方です。
例えば、利益は「売り上げ-費用」という式で表すことができます。
つまり「利益」という全体は、「売り上げ」と「費用」という要素に分割することができるのです。
この2つの要素には、漏れも重複もなく、MECEになっています。
この「売り上げ」「費用」という要素が変化しない限りは、その要素の全体である「利益」も変化しません。逆に、「利益」が変化したということは、このどちらか、もしくは両方の要素が変化したことを示しています。「利益が減少している」という問題の原因は、「売り上げが減少している」あるいは「費用が増加している」のいずれか、もしくはその両方にあると考えることができます。
このように、原因を考える際には、問題の全体を要素に分解し、各要素がどのように変化しているのか考えることで、漏れや重複をなくすことができます。
「利益」は、一般的には「売り上げ」と「費用」に分割されます。
しかし、MECEな分割方法は必ずしも1種類とは限りません。
例えば、「売り上げ」を分割する際には、「客単価」と「客数」に分割することができますが、それ以外にも、販売先という観点から「既存顧客からの受注」と「新規顧客からの受注」に分割したり、販売方法という観点から「営業社員による受注」「カタログによる受注」「インターネットを通じた受注」「それ以外の方法による受注」などに分割することも可能です。
ここで示した「売り上げ」の分割方法は、いずれも漏れや重複はなく、MECEになっています。
どのような観点から分割することが問題解決に最も効果的なのかを考えて、分割の方法を選択する必要があります。
3 フレームワーク
全体を要素に分割する方法はさまざまであり、その中から問題解決に最も効果的なものを選択していくことになります。
最も効果的なものを選択するためには、選択肢は多いほうが有利です。そのためには、自分で分割方法を考えることも必要ですが、既に確立されている分割方法も併せて知っておくほうが効率的です。
既に確立されている分割方法は「フレームワーク」と呼ばれます。
代表的なフレームワークは、3C、マーケティングの4P、組織の7S、SWOT分析、PPMなどです。
3C/4C
3Cは、「Customer:顧客」「Competitor:競合」「Company:自社」の頭文字をとったもので、経営環境の分析や顧客満足の調査などに用いられます。これらを把握することで、市場全体をおおむね漏れなく、かつ重複なく網羅することができます。
これに「Channel:チャネル」を加えて4Cとする場合もあります。
マーケティングの4P
4Pとは、「Product:商品」「Price:価格」「Place:チャネル」「Promotion:訴求方法」の頭文字をとったもので、主にマーケティング戦略の構築場面で用いられます。
それぞれについて、「どのような○○で」と考えることでマーケティング戦略を構築していきます。
組織の7S
7Sとは、「Strategy:戦略」「Structure:組織・機構」「System:制度・運用」「Shared Value:共通価値」「Style:運営スタイル」「Staff:人材」「Skill:技術・能力」の頭文字をとったもので、会社・部門の経営状況の分析や問題点の把握などに用いられます。
戦略、組織・機構、制度・運用を特に「ハードの 3S」、それ以外を「ソフトの 4S」といいます。
マトリクス
縦軸・横軸の2次元で4つのゾーンに分けて、現在の位置付けや進むべき方向性を表すものです。
既存の情報を分類する際に用いられることが多いのですが、物事を分割する際のフレームワークとすることもできます。
さらに、代表的なマトリクスとして、SWOT分析やPPMなどがあります。
SWOT分析
SWOT分析とは、「Strength:強み」「Weakness:弱み」「Opportunity:機会」「Threat:脅威」の頭文字をとったもので、事業評価などに用いられます。
内部要因と外部要因、好条件と悪条件という2次元で表現されます。
PPM
PPMとは、プロダクト・ポートフォリオ・マネジメントの略で、競合企業と自社の事業分析に用いられます。
市場の成長性、相対シェアという2次元で表現されます。
三角ロジック
ブレーンストーミングで出た意見を、分類・整理して、結論が出たら、それを論理的に人に伝える作業が必要になります。その代表が「三角ロジック」です。「主張」「理由」「データ」と三つに分けて人を説得し、納得させる技法です。
何が言いたいのか主張が明確で、なぜそうなのかという理由がハッキリしており、本当にそうかというデータがそろっていれば、その論点が正しいと言えるという考え方です。要するに、理由とデータをそろえて主張を明確にするわけです。
例えば、「オリンピックを開催すべきだ」という主張があります。その理由を「経済効果が見込める」と説明します。さらに、「なぜ、そう言えるのか?」と問われて、「東京オリンピックの時にはこれだけの効果が実際にあった」というデータを出します。
この「主張」「理由」「データ」で三角をつくり、時計回りで展開するのです。この順番で話す場合を「演繹的な思考」と言います。
逆に、「データ」を出して、「理由」を述べ、最後に「主張」するというパターンもあります。これは「帰納的な思考」です。図を見ていただければ分かりやすいかと思います。
この三角ロジックはディベートにも使える技法ですので、試してみてください。
論理は心理である
論理思考の落とし穴に対する注意の呼びかけです。
心理というのは心の理ですから、他人に共感することが大切です。心から入っていって論理を構築しないと、本当の意味での論理的なコミュニケーションはとれません。
論理思考というのは、意見をぶつけあいながら、お互いに切磋琢磨することで、互いの理解や心境を高めていくための共同作業なのです。
つまり、ロジカル・シンキングの技法は、決して相手を打ち負かしたり、ディベートで相手を切り倒したりするために使うものではないということです。よい武将とは、強くても武士道をしっかり守れる人のことです。決して刀を振り回して乱暴狼藉を働く人のことではありません。論理思考は、いわばよく切れる刀なので使い方を間違えないように、よくよく注意してください。
ロジックツリーを作成
1 ロジックツリーとは
ロジカルシンキングにおける問題と原因の関係を表した図を「ロジックツリー」といいます。
ロジックツリーはロジカルシンキングを進めていく上で非常に重要なツールとなります。
ロジックツリーが重要なのは、原因をさらに細かい原因に分割し、図示することで、
・各階層がMECEになっているか(原因に重複や漏れはないか)
・階層間でWhy So? /So What?が成り立っているか(論理が飛躍していないか)
をチェックすることができるからです。
例えば、「利益が減少している」という問題を考えると、「利益=売り上げ-費用」であるので、「利益が減少している」原因は「売り上げが減少している」か「費用が増加している」、もしくはその両方にあると考えられます。これは完全にMECEになっており、かつWhy So?/So What?も成り立っています。
従って、この論理展開には「重複」「漏れ」「飛躍」のいずれもないといえるでしょう。
こうして考えながら、「利益が減少している」という問題についてロジックツリーを作成します。
2 ロジックツリーの階層
ロジックツリーは、下位階層ほど詳細で具体的になります。人間の性格やし好など、完全に網羅することが不可能なものもあります。従って、下位階層では、主要な原因を漏らさないことに注意しておけば、完全にMECEであることにこだわる必要はないといえます。
逆に、上位階層においては、MECEであることが重要になります。
上位階層に「漏れ」があると、その漏れた原因の下位に位置する原因は、下位階層をどれだけ深く掘り下げていっても出てきません。そのため、せっかく時間をかけて考えてもロジックツリー自体が精度の低いものになってしまいます。
また、上位階層において「重複」があると、その「重複」は下位階層まで影響し、同じ原因について何度も考えることになり、結果として全体の効率が下がってしまいます。上位階層、下位階層と表現しましたが、実際にどこまでMECEにこだわるかは扱う問題によっても異なります。
より精度の高いロジックツリーを作成するための目安としては、少なくとも第2階層まではMECEであるようにしておかなければ、有効な解決策を導けなくなる可能性が高くなります。
3 現状と照らし合わせる
こうして問題を原因に分割したら、各原因について「その原因は現状と合っているか」を考えながら、現状と合った部分をさらに掘り下げていきます。
例えば、現状が「利益は減少しているが、費用は増加していない」というのであれば、「費用の増加」という原因についてはそれ以上掘り下げる必要はなく、それ以外の原因(ここでは「売り上げの減少」)について掘り下げて考えていきます。
このように、
(1)原因をさらに細かい原因に分割する
(2)現状と照らし合わせる
という作業を繰り返しながらロジックツリーを作成していくことで、重要な原因を見落とすことなく、効率よく原因を掘り下げていくことができます。
対応策を策定する際の考え方
1 課題を絞る
問題の原因を十分に掘り下げたら、今度はその原因を解決するための課題を設定し、具体的な対応策を考えます。
現状と照らし合わせながら原因を掘り下げていったとしても、おそらく最終的に複数の原因が残るでしょう。
そうした原因のそれぞれが別々の課題になることもあれば、複数の原因に対応できる課題もあります。
課題が多すぎるようだと「どこから手をつけていいのか分からない」という状況にもなりかねません。
課題の間に共通項があれば、それらの課題をまとめることができるかどうかを検討します。
もし課題が一つにまとまるようであれば、そのまま課題の具体化を進めていきます。課題が複数あるようであれば、課題の具体化を進める前に、課題に優先順位をつけておきます。
2 「どうやって?」を考える
対応策を考えるときも、原因を発見するときと基本的な流れは同じです。
課題を要素に分割し、それぞれの要素をさらに掘り下げていくことで課題を対応策に落とし込みます。
この際も、フレームワークを活用するなどして、MECEであることを意識して行います。
原因を掘り下げるときには、「なぜ?」を考えることで原因を掘り下げていきます。
対応策を考えるときには、「どうやって?(So How?)」を考えることによって進めていきます。
課題から対応策に落とし込むときには、その対応策が、誰がみても「何をするか」が分かるようにしておくことが理想的です。
策定した対応策は、確実に実施して、結果の検証まで行ってこそ意味を持つのです。
具体性を欠いた対応策は、結果の検証が行えないという点からも対応策として不十分なものです。
策定した対応策が、こうした不十分な対応策になっている場合には、具体的な対応策になるまで、「どうやって?」を繰り返し考えることが必要です。