顧客満足度の向上につなげるクレーム対応の話法

 最近、特に小売業・サービス業において、「クレーム」は「顧客からの情報収集の宝庫」として注目が高まっています。

 また、クレームは、対応方法によっては「あの企業はこのような素晴らしい対応をしてくれる」といったように、顧客の満足度が高まったり、企業に対するイメージを向上させることもあります。

 しかし、実際のクレーム対応の現場では、「顧客からのクレーム」は「怖い物」「嫌な物」「面倒な物」などと認識されてしまい、どのように対処したらよいか分からないといった悩みを抱える人が多いようです。

 対処方法が分からず、不安なままに対応してしまうことで、顧客の怒りを増幅させてしまうケースもあります。

 顧客からのクレームは、誰しも「怖い」「辛い」と感じるものです。だからこそ、日ごろから自分なりのクレームへの対応話法などを整理し、身に付けることによって少しでも不安を取り除いた状態でクレームに対応することが必要となります。

 そこで、一般的に多いとされる電話によるクレームを例に、顧客の不満足を解消して、逆に顧客満足度の向上につながるようなクレーム対応の話法や心構えなどを考えてみます。

 

クレーム発生からゴールまでの流れ

1 クレーム発生からゴールまでの流れ

 クレーム発生時点では、顧客の不満足度はとても高まっています。

 こうした状況であってもクレームの締めくくり時点では、クレームを言ってきた顧客に「ありがとう」と思わせるようにするのが理想的です。

2 クレームが発生する顧客の3大欲求

 顧客の不満足を解消するためには、顧客の心に寄り添って心を込めて謝罪することが基本となります。

 「クレームは怖い、面倒」といった認識から、「とにかくお客様が何を言っても謝ればいい」と考えてしまいがちです。

 クレーム対応担当者の「謝ればよい」というおざなりな対応は必ず顧客に伝わるため、事態を悪化させてしまうことがあります。

 クレーム対応担当者は、「このお客様は、本当にこのような困った状況に置かれていて、それに対して本当に申し訳ない」と心を込めて謝罪しなければならないのです。

 ここで、顧客はどのような心理状態でクレームを言っているのかを考えてみましょう。

 クレームを訴える顧客の心理は、大別すると主に以下の3通りが考えられます。

(1)謝罪して欲しい(謝罪欲求)

 前提として、どんなクレームであっても顧客側にとっては何らかの不具合が生じており、顧客が自社の商品やサービスに対して「不満足」を感じていることは間違いありません。度合いの高い低いは別として、謝罪欲求は必ず発生しています。

(2)困った状況を聞いて欲しい(傾聴・共感・理解欲求)

 例えば「商品が届かない」というクレームで考えた場合、「商品が届かないためにあなたの会社は私に対して迷惑をかけている」という困った状況を訴え、それを聞いて欲しい、あるいは困った状況に置かれた心情を理解し共感して欲しいという、傾聴・共感・理解欲求が働いています。

(3)状況を改善して欲しい(改善欲求)

 「私が迷惑しているし、商品が届かないという困った状況をどうにかして欲しい」という改善欲求が発生しています。

 大概のクレームにおいては、上記の3通りのすべての心理が働いています。これらの欲求に応えることによって、不満足を解消し、満足へと変換させていくのが理想的なです。

 

謝罪欲求に応えるポイント

謝罪欲求に応える3つのポイント

 ・顧客の心情と状況を想像して心から謝罪する

 ・同じ謝罪の言葉を繰り返すのではなく、謝罪の言葉を変化させる

 ・言い訳めいた言い回しは避ける

心からの謝罪

 どんなクレームの場合でも「謝罪欲求」が働いています。そこで、クレーム対応の第一声は「謝罪の言葉」にするよう心がけます。

 本来であれば、「謝罪しなければならない」のではなく、「お客様はこんな困った状況にあり、本当に申し訳ない」と思えば、自然と「誠に申し訳ございませんでした」という言葉が心から出るはずです。そのためには、「顧客の心情と状況を想像する」ことが大切です。

 「このお客様は、数ある商品の中から心を躍らせるようにして自社の商品を選択し、家から一歩も出ずに到着するのを楽しみに待っていた」と想像すれば、「ああ本当に申し訳ないことをした」との気持ちから、「誠に申し訳ございませんでした」と心から謝罪できるでしょう。

3 謝罪の言葉の変化

 顧客が何を言っても、単純に「誠に申し訳ございませんでした」を繰り返せばよいというものではありません。繰り返してばかりいると「申し訳ございませんでした、ばかり言っているけど本当に悪いと思ってるの?」などということになりかねません。そこで、顧客の話、発した言葉などに反応する形で謝罪の言葉を変化させていくとよいでしょう。

 顧客の発した言葉に反応する形で謝罪することによって、「お客様の困った状況は十分理解できます。

 「そのような困った状況に陥る要因をつくってしまって本当に申し訳ありません」という気持ちが伝わります。

 これは、「困った状況を聞いて欲しい(傾聴・共感・理解欲求)」に応えることにもつながります。なお、このような謝罪は、クレーム対応をしている間繰り返し行うとより効果的です。

4 言い訳無用

 「特別料金を払って時間を指定したのに、商品が時間通りに届かない」というクレームに対して、クレーム対応担当者は、つい「いつもは時間通りに到着しているのですが・・・」「出発は時間に間に合うように出たのですが、渋滞に巻き込まれまして・・・」などのように言い訳めいた言い回しを使用しがちです。これは無意識下にある「クレームに対する逃げの姿勢」から発生しているのです。

 そこで、「渋滞に遭ったという事実は企業側の言い分であり、顧客には関係のないことである」としっかりと認識することが大切です。これは、顧客の視点に立って考えてみれば分かるはずです。

 顧客は、現在「この時間に届いて欲しいから特別料金を払って時間を指定したのに届かない」という、約束されていた希望がかなえられていない困った状況にあるのです。「時間に間に合うように出たのですが・・・」などと言い訳をされても、顧客側からみれば困った状況は全く改善されません。

 それどころか、「言い訳するうえに、「だから仕方がないとでも言いたいの!」などと怒りを増幅させてしまいかねません。

 もし、仮に時間に間に合うように出たという事実を伝えたいのであれば、「特別料金をお支払い頂いているにもかかわらず、時間通りに到着していないことを深くお詫び申し上げます。そのうえ、貴重なお時間を頂戴してしまい大変恐縮ですが、状況のご報告をさせて頂ければ幸いです。商品が時間通りに発送されたことは確認しております。しかし、未だ○○様のお手元に商品が到着していないということは、途中で道路渋滞などに遭っている恐れがございます。至急、現在の配達状況を確認した上で折り返しご連絡させて頂きたいのですがよろしいでしょうか?」といった言い方を心がけるとよいでしょう。

 

傾聴・共感・理解欲求に応えるポイント

1 傾聴・共感・理解欲求に応える3つのポイント

 ・顧客の置かれている状況を想像しながら聞き、あいづち を打つ

 ・あいづち に表情を持たせる

 ・脱線しがちな話を本線に戻すよう努める

2 あいづち は重要

 クレームを訴えてくる顧客の心の中では、困った状況を聞いて欲しい、訴えたいという心理が働いています。

 しかし、クレーム対応担当者が、「できるだけ早く終わらせたい」といった気持ちから、顧客の話をよく聞かずに、あるいは顧客の話をさえぎって「誠に申し訳ございませんでした。料金はお返ししますので」などと対応してしまい、「なんだその態度は!」と顧客を逆上させてしまうケースがあります。

 これでは顧客の不満足を解消するどころか、顧客不満足度を倍増させてしまいます。

 クレーム対応の基本は謝罪と傾聴です。そこで、前述の謝罪要求への対応の際と同様に、顧客の置かれている困った状況を想像しながら顧客の話を聞くように心がけます。

 顧客の話を聞くうえでは、あいづちが非常に重要となります。

 無言になってしまうのはもってのほかで(テクニックの一つとして沈黙を使用するケースもありますが、逆に顧客の怒りを招いてしまう危険性があります)、的確なあいづちを打つことによって「お客様の困った状況を聞いています、理解しようと努めています、対処方法を考えます」などの気持ちを伝えることができます。

 あいづちを打つ方法としては、よく「相手の言葉を繰り返す(オウム返し)」などが活用されますが、場合によっては「だから、さっきから言ってるじゃないの!」といったような顧客の怒りを招くことがあります。

 そこで、「相手の言葉を繰り返しつつ謝罪する」という方法が効果的かもしれません。

3 あいづち に表情を持たせる

 あいづちを打って話を聞く際には、ただ一本調子で「はい」「ええ」「申し訳ありません」「おっしゃる通りです」などを繰り返すのではなく、あいづちに表情を付けることが重要です。

 特に電話によるクレームの場合は、顧客に対して担当者の顔が見えません。心からの謝罪と、顧客をおもんぱかる気持ちを、声の表情で伝えなければならないのです。 

 例えば、同じ肯定・うなずきのあいづちでも、声の調子、トーンによって使い分けることができます。

4 脱線の軌道修正

 困った状況について自分の置かれた状況をすべて訴えようと、話の内容が本題とは関係のない方向へ脱線してしまう顧客がいます。

 このような場合、枝葉にわたるすべての話を聞いていると余計に話がこじれる危険性もあるため、顧客に対して失礼のないよう細心の注意を払いつつ、話を本題に戻す軌道修正が必要です。

 また、電話に出た瞬間に「いったいお宅の会社はどうなってるんだ!」などのように顧客が激怒しており、クレームの内容の把握すら難しい場合もあります。

 謝罪すると同時に、一刻も早く話の本線を引き出してクレームの内容と顧客の状況を把握しなければなりません。

 こういった場合には、例えば、次のような質問方式を活用し、うまく顧客を誘導していく方法などがあります。

オープン質問とクローズ質問

 ・オープン質問:一言で返答する質問ではなく、顧客が自分の言葉で述べる質問

 ・クローズ質問:顧客が「はい」か「いいえ」の一言で返答できる質問

 一般的に、クレーム対応の前半部分では、顧客の話を聞く姿勢を示してクレームの内容を正確に聞き出すために「オープン質問」を活用し、後半部分や脱線しつつある状況では、「クローズ質問」を活用します。

 

改善欲求に応えるポイント

1 改善欲求に応えるポイント

 ・原因と改善点を明確にする

 ・安請け合いをしない

 ・謝罪と感謝の言葉で締めくくる

2 原因と改善点

 顧客がクレームを訴えてくる際、「なんでこんなことになったのか原因を教えて欲しい」「どのように改善してくれるのかをはっきりさせて欲しい」といったように、原因の追求や改善策の提示を望むことが多くみられます。

 顧客側の視点に立って考えれば、自分が困った状況に陥った原因を知り、どう改善してくれるのか知りたいと思うのは当然のことと理解できます。

 ただし、すぐに原因や最適な改善点が判明しないケースもあるでしょう。

 そのような場合でも「今すぐには分かりかねます」「申し訳ございませんが分かりません」などの対応をしていたら、火に油を注ぐ結果となってしまいます。

 同じ「今すぐには分からない状況にある」ことを伝えるにしても、以下のような言い方をすることで、顧客に不快感を抱かせないようにすることができます。

 「お客様に不愉快な思いをさせたうえ、お時間をいただいてしまって誠に申し訳ございません。原因を早急に究明し、本日○時までに改めてご連絡させて頂きたいのですが宜しいでしょうか?」

 原因を究明して改善策を講じ、後に折り返す場合は大至急が原則ですが、当日中にはどうしても無理な場合には、時間がかかってしまう理由として、「どのような原因究明の方法を実施するか」「どのような改善策を検討するか」などを明確にしておくとよいでしょう。 

 この場合、顧客の分かる言葉で説明することに注意しましょう。

 専門用語や業界用語などを多用して顧客を混乱させたり、「専門用語を使って煙に巻こうとしている」といった印象を与えてしまってはなりません。

3 安請け合いは二次的クレームを生む

 「お客様の言うことは絶対」とばかりに、お客様の改善欲求に対して「かしこまりました」「すぐそのように対応させて頂きます」などのような対応は、一見正しいように感じられますが、一歩間違えれば二次的なクレームを生んでしまいます。

 安易に顧客の改善要求を了承してしまい、「やっぱりできません」などということになれば、さらに問題が深刻化してしまうためです。

 「全額を今すぐ返金して欲しい」などの改善欲求のように、クレーム対応担当者の判断だけでは、即答できない場合には、そのことを顧客に理解してもらう必要があります。

 ただし、注意しなければならないのは、クレーム対応担当者が即答できないのは、「企業側の都合であること」です。

 そのため、顧客への説明の仕方には注意が必要です。

 「○○の件について多大なご迷惑をお掛けしてしまい、お客様のお怒りはごもっともでございます。誠に申し訳ございません。さらに、お時間を頂戴してしまい誠に恐縮ですが、もしよろしければ当方の責任者から改めてお詫びさせて頂きたいのですが、分後に再度ご連絡させて頂いてもよろしいでしょうか?」のような言い方で、「事態を重く受け止め、責任者が折り返す」という点を顧客に伝えます。

 また、返金などの状況の改善策について意思決定権のある者が直接連絡することで、その場で改善策を詰めることができます。

4 忘れてはならない謝罪と感謝

 

 「クレーム時に発生している不満足を解消して顧客満足度を高める」ために、忘れてはならないことは、謝罪と感謝の言葉で締めくくることです。

 多くの場合、顧客は好きでクレームを訴えてくるわけではありません。

クレームが発生している時点で、「不満足」「不愉快」な気分になっており、さらに「クレームを訴える」という自身の行為に対して、無意識のうちに自己嫌悪になっている場合が多いのです。

 そこで、顧客の不満足、不愉快さを少しでも解消し、むしろ「クレームを訴えた がさわやかな気持ちになった」と思ってもらえるような「締めの言葉」が大切です。

 「この度は○○の件で、お客様にご迷惑をお掛けしたばかりか不愉快な思いをさせてしまい、誠に申し訳ございませんでした。また、私どもの至らない点をご指摘頂いて誠にありがとうございました。今後の販売活動に お客様からのご意見を是非反映させて頂きたいと思います。ありがとうございました」

 この場合、基本的な心構えとして、「顧客は貴重な時間を使って自社の問題点を指摘してくれた」という認識を持つと、自然と感謝の気持ちが言葉となって表れるでしょう。

顧客の不満足を解消して、顧客満足度の向上へつなげるクレーム対応を継続的に実現させていくためには、クレーム対応担当者の対応話法を磨くことだけが重要なのではありません。

 個々のクレーム対応担当者が実践しているクレーム対応話法を全社的にナレッジとして蓄積し、周知徹底すること、そして、そのクレーム対応方法を定期的に見直し改善していくことを忘れてはならないのです。

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