トップダウンとボトムアップ
企業の組織形態には様々な形態があり、採用される経営戦略も企業によって異なりますが、最終的に経営戦略を実行に移すのは、組織を構成する「人」そのものです。
経営戦略の実行結果を決めるのは「組織と人材のマネジメント」にかかっているといっても過言ではないのです。
組織の意思決定プロセスには、大きく分けて2種類のプロセスがあります。1つは、「トップダウン型」であり、もう1つは「ボトムアップ型」です。
トップダウンとは、トップ自らが方針を定め、会社を強力に引っ張っていくやり方です。
トップダウン型では、意思決定を行うのは組織のトップ・マネジメントに立つ人間であり、組織を構成するメンバーはその意思決定に従って行動します。
このような意思決定プロセスは、欧米の企業、特にアメリカの企業においてよく見られます。
トップダウン型の意思決定によって導き出される戦略の特徴は、分析的であり、定式化されているところにあります。
分析対象である外部環境が同質的なものであれば、その分析結果も似たような結果となり、戦略も同じような戦略になります。
このようなトップダウン型の意思決定を経た戦略を着実に部下に実行させていくためには、トップ・マネジメントの丁寧な説明が重要なポイントとなります。
トップ・マネジメントは、メンバーの間に経営戦略の意図が浸透するまで丁寧に説明することが求められます。
ボトムアップとは、社員自身からの提案も積極的に経営に反映させていこうというやり方です。
ボトムアップ型の意思決定では、現場で働くメンバーが立案し上司へ提案を行い、提案を受けた上司はその提案内容を吟味し、問題ないようであればさらに自分の上司へ提案を行います。
このようなプロセスを経て、最終的にトップ・マネジメントが提案内容を承認し、組織としての意思決定を行います。
このような意思決定プロセスは多くの日本企業で採用されています。
トップダウン型の意思決定では、市場の変化のスピードについていけずに取り残されてしまう可能性があります。
ボトムアップ型の意思決定の場合、組織構造の階層が深くなるほど、最終的な意思決定がされるまで時間がかかってしまうため、緊急性の高い状況下ではうまく機能しなくなります。
しかし、ボトムアップ型の意思決定プロセスでは、現場の社員が立案していることから、市場環境の変化が激しい時に、その変化への対応を素早く行えるという利点があります。
そのようなボトムアップ型の意思決定を行っていくために、重要なポイントはどこにあるのでしょうか。
ボトムアップ型の意思決定を行っていく上で重要なのは、立案や提案を行っていくメンバーを自ら変化を感じ取り、そこから何をすべきかを判断できる「自律した人材」に育てていくことです。
企業組織のメンバーにとって、自らの担当範囲内において適切な判断を行っていくことはもちろん重要ですが、全社的な視点から戦略を立案していくことも重要な役割です。
そのためには、情報の多面性や経営的な視点を持つために一人一人が自律的に行動することが不可欠です。
「自律」とは、どのように行動すべきか というルールを自ら作り出せることを表しています。
「律」とはルールのことです。
自らに対してルールを定め、そのルールに従って行動することができる人材が「自律した人材」なのです。
また、このボトムアップ型の意思決定を行っていく上では、ミドル・マネジメントの重要性が増してきています。
ミドル・マネジメントは、実務の経験がある程度あって会社の内情もある程度把握していることから、より幅広い視座からの判断を求められます。
現場から上がってくる提案内容を吟味し、より実効性のあるものに高めていくこと、そしてトップ・マネジメントが承認した決定内容を、実行に移すべく指揮を執るのがミドル・マネジメントの役割です。
日本型の企業組織では、ミドル・マネジメントを中心とした人材が戦略のプロトタイプを作成し、トップがそれをもとに公式の戦略に作り上げ、その戦略をミドル・マネジメントを中心として現場の人材が実行していくという構造を知ることができます。
このような形で意思決定を重ね、競争上の優位性を築いていくためには、人材マネジメントを活用して自律的な人材を育てていくことが必要となります。
しかし、自律的な人材を育成していくためには時間がかかります。
自律的な人材を持つことが競争優位の源泉となることを考えると、組織と人材のマネジメントの最終的な目的は、組織内の人材の成長を支援していくことにあると言えるでしょう。
トップダウンとボトムアップ、それぞれに一長一短はありますが、景気低迷下においては、トップダウン型のマネジメントの強化が大きな課題になるでしょう。厳しい経営環境のなかで会社の進むべき方向性を明確に示し、困難な意思決定を次々に行っていけるのは社長だけだからです。
両者を比較した場合の最大のポイントは、意思決定のスピードの差にあります。
トップダウンマネジメントにおいては、重要事項について社長はすべて即断即決できます。ただし、限られた情報のなかでの判断であるため、「思いつき」になってしまう危険もあります。また、社員は社長の決断を後から聞かされて、慌ててその対応に追われることもあるでしょう。ボトムアップマネジメントを重複すると、社員の意見を吸い上げるための時間がかかり、意思決定のスピードは遅くなります。精度の高い情報は集まるかもしれませんが、「機を逸する」可能性も高くなるということです。社長としては、トップダウンマネジメントのもつメリットを最大最発揮すると同時に、デメリットをできるだけ防止すること、ボトムアップマネジメントのもつメリットをトップダウン型のなかでも、享受できるような工夫をすること などが求められます。
トップダウン経営とワンマン経営
トップダウンマネジメントを強化する際には、いわゆる「ワンマン経営」に陥る可能性もあるので注意が必要です。
ワンマン経営は、会社がうまくいっている時期には、社長にとっても社員にとっても非常に「楽」なやりかたです。
極端にいえば、「社長は好き勝手して、社員は何も考えずに適当に流す」というスタイルでも会社は回っていくからです。
このような会社では、「マネジメントスタイルを切り替える」ことをどれだけ早く社長に納得してもらえるかが、会社改善のスピードを大きく左右します。
しかし、会社のなかにも、残念ながら結局ワンマン経営から脱却できずに、事業継続ができなくなった会社も多数あります。
最初のうちは、そんな社長のやる気や手腕に対する社員の信頼も厚く、また社長もそれに応えるべく頑張ります。しかし、業績好調が逆にアダとなって、社長のワンマンぶりが目立つようになります。
社員は社長への信頼をもてなくなり、単に「社長というポジションにいる人」に対する「恐れや遠慮」によって指示に従うだけになります。
それでも、しばらくの間は大した支障もなく、会社は回っていきますが、やがて急速に売上が落ち始めることになります。
そして、すでに業績は悪化し、とてもそれまでのワンマン経営ではもたなくなってしまいます。
自分自身では正しいトップダウン経営をしているつもりでも、ワンマン経営に陥ってしまう可能性は誰にでもあるのです。
いったんワンマン経営が当たり前になってしまうと、基本的には社員は誰もそれを指摘できなくなります。気がつくと取り返しのつかない状況になっていることが多いのです。この点は特に注意する必要があるでしょう。
成功に必要な姿勢
基本は「社長自身や全社員がどうやったら元気を出せるか」ということです。
1 つねに前向きに明るく振る舞う
会社を引っ張っていこうという社長が いつも暗い顔をして下を向いていたのでは、社員の士気は高まりません。
経営環境が悪化していることは、社員の誰もが気づいています。そんなときだからこそ、社長は「多少無理をしてでも」明るく振る舞う必要があるのです。
社員には会社の細かい経営状態までは分かりません。彼らは毎日接している社長の「元気さ」からそれを感じ取ろうとします。
また、社長自身も「不況の今こそチャンス」と思えるぐらいの「大胆さ、楽天さ」がないと、精神的に参ってしまいますし、前向きな戦略も浮かんできません。
実際に不況時に業績を伸ばした中小企業はいくらでもあります。
社員のためにも、自分自身のためにも、まずは「前向き」な姿勢を保つことが不可欠です。
2 社長が腹を括るという姿勢を示す。
会社経営の全責任は社長にあります。社長としてはそんなことは分かりきっていますから、社員が失敗したとしても「最終的には自分が腹を括るしかない」という覚悟はいつでもできているはずです。しかし、社長のそのような覚悟は社員にはなかなか伝わりません。
プロ野球で監督がリリーフピッチャーを送り出すときには、「もし打たれても、それはお前を使った俺(監督)の責任だ、臆せずにやれ」という言葉がよく使われます。
選手は監督の言葉を「意気に感じる」ことで実力以上のプレーをすることもあります。
会社経営においても、「社長は普段は厳しいが、最終的には必ず社員を守ってくれる」という意識を社員にもってもらうことが重要です。そのためには、「社員は失敗を恐れずに頑張って欲しい」というメッセージを繰り返し伝えていく以外ありません。
3 状況ではなく未来を語る
不況が続くなかで、自社もしばらくの間は苦しい業績が続くかもしれません。
そんななかで厳しい現状と真摯に向き合い、打開策を考えていくことはもちろん大切です。
しかし、同時に、その先にあるもの、つまり、厳しい状祝を乗り越えたときに、自社に訪れる未来についても できるだけ積極的に社員と話すようにしましょう。
その際には、単に「不況を乗り越える」という小さな未来ではなく、その先にあるもっと大きな成功をイメージします。
「業界で首位になる」「海外に進出する」「給料を3倍にする」など、自社が実現したいワクワクできる未来を描くことが大切です。
最初は社員も半信半疑かもしれませんが、社長が繰り返し語ることが大切です。
そして、社員が「ひとつやってみるか」という気になれば、会社の雰囲気はガラリと変わるはずです。
4 自分に足りない部分を自覚する
トップダウンマネジメントを強化していくということは、社長に集中させた権限を大胆かつスピーディーに行使してくことです。
このことは、有効に機能すれば会社牽引の大きな原動力となりますが、一歩間違えば独断専行の「暴走」にもつながりかねません。
この危険性を少しでも回避するためには、社長が自分に不足している資質や知識、陥りやすい判断ミスなどをあらかじめ自覚しておくことが大切です。
社長といえども、全ての面において社内でいちばんであるはずがありません。
不足している部分は、他の力を借りることで、最終的な正しい判断につなげればよいのです。
また、特に重要な判断を行うときには、他の経営幹部の意見を必ず聞くというルールを決めておくことなども有効でしょう。
成功に必要な論理
トップダウンマネジメントは「気合い」ではありません。確かにそういう部分が必要なときもありますが、基本的にはきちんとした論理が背景になければ、継続的な効果を出せるものではありません。
1 戦略、戦術、実践(戦闘)
マネジメントには幹となる戦略が必要です。
戦略とは、「自社のめざすべき将来の姿を描き、その姿を実現するためのシナリオ」のことです。
たとえば「業界ナンバー1になって競合他社に対して圧倒的な地位を確立する」というのが経営戦略です。
そして、戦略実現のためにどういったやり方で臨むのかが「戦術」になります。戦術にしたがって、日々の具体的な業務が「実践(戦闘)」になります。
時間軸で考えると、戦略は数年程度、戦術は3~6カ月程度、実践は1日~1月程度で計画・実行されることになります。
さらに、「戦略、戦術、実践(戦闘)」は、整合性をもってブレイクダウンされていることが必要です。
たとえば、「業界ナンバー1になって競合他社に対して圧倒的な地位を確立する」という戦略自体が間違っていたら、その実現のためにどんなに優れた戦術や実践がなされたとしても決してうまくはいきません。
また、仮に正しい戦略をとることができても、それが適切に戦術や実践(戦闘)にブレイクダウンされなければ、やはり成功しません。
正しい戦略が策定され、かつ、それが適切に戦術、実践に展開された場合のみに戦略は成功するということになります。
トップダウンマネジメントを行ううえでは、これらの整合性、進捗度合い、環境変化による修正の必要性などについて、素早く判断を下していくことが必要になります。
なお、戦略と戦術については混同しやすいので注意が必要です。
「一定水準の技術者を50人育成する」するということはあくまでも戦術であり、その上位概念である戦略を実現するための手段に過ぎません。
また、一般社員が対応している「実践レベル」の進捗状況を社長自身がすべて把握することは通常は不可能なので、重要情報が選別されて、社長に上がってくるための仕組み作りも必要になります。
2 問題と課題
「問題」と「課題」、どちらも聞き慣れた言葉ですが、マネジメントにおいては、この2つの言葉を正しく使い分けることが非常に重要です。
問題とは「現状と本来あるべき姿とのギャップ」のことであり、課題とは「そのギャップを解消するために何をすればよいか」ということです。
つまり、現状分析がきちんとなされ、なおかつ、どのような姿をめざすのかがきちんと検討されていなければ、問題も課題も特定することはできません。
また、ギャップのなかには、自分たちの努力だけではどうしても解決できない要素もあります。たとえば、「円高」「原油高」「人口減少」などは状況そのものを変えることはできません。このような要素を制約条件といいます。
たとえば、本来の計画では月商1億円となっているスーパーが、売上8000万円しかないとすると、この2000万円の差が問題、足りない2000万円をどのように積み上げていくか、という具体的な販促策などが課題ということになります。
また、制約条件のなかには、一見自らの力では改善できないようにみえるものの、やり方次第では、対応可能になるケースもあります。たとえば、このスーパーが単独で仕入れを行っている場合、卸売業者といくら交渉してもその仕入れ条件には一定の限界があります。この段階では、制約条件です。ただし、いくつかのスーパーと共同仕入れを検討することで、この制約条件を外すことができます。共同仕入れが可能になれば、単独仕入れよりも有利に仕入れ交渉を行えるようになるからです。これによって、「仕入れ交渉の限界」という制約条件は「近隣スーパーとの共同購入の実現」という課題に変えることができるのです。
このように、問題と課題を論理的に考えていくためには、
・現状を把握・分析する
・あるべき姿を明確にする
・ギャップである同類を明確にする
・問題を解決するための課題を設定する
・何とかして制約条件を外すことはできないかを検討する
といったステップを踏むことが大切です。
トップダウンとは上が責任を取る体制
一般的に、民主主義的な経営は無責任体制になりやすい。
幸福の科学大川隆法総裁は、『社長学入門』で以下のように説かれました。
「日本の社会では、意思決定の仕方として、ボトムアップ型といわれるものがよく使われます。トップダウン型は欧米的経営手法でよく採られているやり方ですが、日本はボトムアップ型です。
ボトムアップ型は差し障りのないことが多いのです。「下が起案し、上はそれを認めてやって、判子をつく」というかたちなので、失敗したら基本的に下の責任になり、上は責任を取らなくて済みます。
本当は、大事な経営判断は上でなければ出来るはずはないのですが、それを下にさせてしまい、そして、失敗すると、下の責任にするのです。これは、「もともと十分な経営情報が与えられておらず、それだけの報酬も もらっていない人が、経営者のような仕事をさせられて、責任を取らされる」というかたちでもあるのです。
したがって、「ボトムアップ型、必ずしも善ならず」という面はあるように思います。
日本の会社では、「上は判子をたくさん押すだけ」という仕事をよくやっていますが、「ちょっと甘いかな」という感じはします。
トップダウン型は、官僚組織的に考えられると問題はあるのですが、上が責任を取る体制ではあります。命令や指示を出す人が責任を持たなければいけないのがトップダウン型です。その代わり、上に立つ人は、常に多くの情報を持ち、研究開発を行わなくてはなりません。そういう面があると思います。」(P-142~144)
管理職の人間は、上ばかり見て仕事をするヒラメになるな
経営はトップダウンで行え
管理職が事業目標(戦略)を作れ
実行する際には、部下の意見を聴いたうえで、自らが先頭に立って行え
判断は現場に近いところで行う
ボトムアップ型も一概に悪いというわけではない。その長所と問題点は以下の通りである。
「ボトムアップ型は、単に稟議書に判子を押すだけのスタイルだと問題はあるのですが、そうではなく、下のほうからも いろいろな情報が上がってきたり、意欲的な考え方が出てきたりするのであれば、企業が全体として発展するスタイルではあると思います。
「トップが判断する」と言っても、一般の会社においては、トップに情報が入ってくるのは、長い階層のなかを通って、いちばん最後になることが多く、トップが判断するころには、既にておくれになっていることがよくあります。
その意味において、「判断は出来るだけ現場に近いところで行う」ということが本筋だと思います。いちばん情報を持ってるところで判断ができるスタイルに変えていかないと、企業全体として病気になりやすいのです。
ただ、社長であろうが、部長であろうが、あるいは工場長であろうが、上が責任逃れをするようなスタイルの経営手法は採るべきではありません。「判断は現場に近いところですべきだ」ということは その通りですが、日本にある、上の人が 御神輿 に乗っているだけのスタイルは、必ずしも現代的なものではないし、未来的なものでもありません。
やはり、上にいる者ほど、厳しい立場に立つべきです。「上になるほど楽になる」というのは あまり良いことではありません。」(『社長学入門』P-146~147)