組織のモチベーションを向上させる

 モチベーションを高めるためには さまざまなアプローチをしていく必要があります。
 基本となるのは、組織内の人間関係を良好に保ち、仕事に対する意見を自由に言える空気をつくることです。そのためには、まず経営者や上司から積極的にコミュニケーションを取るように心掛けるようにしましょう。また、自由な意見が言えるよう、会議などでは部下に発言を促すような取り組みや、部下にチャレンジをする機会を与え、失敗に対してはともに解決案を検討する姿勢が重要です。
 組織が前向きな良い空気になったら、そのモチベーションを正しい方向に導くように、会社の方針等を明確化する必要があります。場合によっては、社員の役割や責任について、具体的な数値を定めるなど目標を「見える化」するようにします。
 仕事が社員の負担になり過ぎないよう調整し、職務遂行が見込める社員に対して権限を委譲すると、さらなるモチベーションの向上が期待できるでしょう。

 

組織のモチベーションの重要性

1 モチベーションの意味と組織の重要性
 モチベーションとは、直訳すると「動機付け」、すなわち、「やる気」という意味です。
 人間は機械ではなく、結果や成果は、何をするにもその精神状態に大きく左右されがちです。特に、仕事は努力や苦労などがともなう活動であるため、いかにやる気をもって前向きに取り組むかによって、その成果には大きな差が生まれます。そのため、社員のモチベーションを高めることは企業にとって重要な経営課題の一つとなります。
 さらに、近年は、終身雇用の崩壊による社員の企業への帰属意識の低下、社員の仕事に対する価値観の多様化などにより、社員のモチベーションを高い水準で維持することが困難になっております。
 しかし、苦労して社員個人のモチベーションを高めても、思うように成果が上がらない場合も少なくありません。例えば、上司が個々の部下と話していると非常に意欲があるように感じられるのに、部署内で仕事をするとその意欲が影を潜める、やる気満々だった新入社員がいつの間にかほかの社員のようにやる気がなくなっているといったことがあります。
 こうした問題が発生する原因の一つとして、組織の状況が考えられます。
 多くの企業にとって、仕事とは複数の社員が協力して行うものであり、企業の中には仕事の種類などによって区分された部署などの組織が存在します。こうした組織の環境や流れあるいは組織間の関係が悪い方向に向かっていると、個々の社員のモチベーションに気を配っても、なかなか成果が現れないのです。

2 組織のモチベーションを決める重要なポイント
 個々の社員のモチベーションは、当然個々の社員の気持ちのあり方により決まります。
 一方、組織全体のモチベーションはどうでしょうか。
 企業組織は社員の集合体です。従って、組織のモチベーションを考えるうえでも、個々の社員の気持ちは大変重要です。
 しかし、個々の社員の気持ちがそのまま組織のモチベーションに反映されるわけではありません。組織において個々の社員の気持ちは、「集団心理」の影響を受けるからです。
 集団心理とは、集団を構成する個人が知らず知らずのうちに周囲の状況に流されてしまうことを指します。
 例えば、当初は定刻に出勤することが当然と考えていた社員も、周囲に遅刻してくる社員が増えると、気持ちに緩みが出て遅刻するようになり、次第にそれが当たり前になったりします。周囲の熱い空気に流され、当初は辛いばかりだった仕事も前向きに取り組むようになることもあります。
 このように、人間は周囲の影響を排除できず、企業のように多くの個人がともに仕事をする組織では、なおさら個人の気持ちは集団心理の影響を強く受けます。組織のモチベーションを高めるには、集団心理を常に意識して注意する必要があります。
 さらに、組織の中には、集団心理の核となる社員、あるいはほかの社員のモチベーションに大きな影響力を持つ社員がいるはずです。
 組織のモチベーションを高めるには、こうしたほかの社員への影響力が強い社員を把握することも重要です。

 

組織のモチベーションを高める手法

 実際に導入する際は、集団心理の動きや影響力の強い社員の気持ちに注意しつつ、その効果を確認する必要があります。

1 組織内の環境の改善
 組織のモチベーションを高めるには、組織内の雰囲気をよくするとともに、社員の仕事に対する意識を高めて組織を活性化させることが必要です。
 そのためには、組織の長が、社員に対して以下のような施策をとることが重要と考えられます。

普段のコミュニケーションを充実させる

 組織の長は、朝と終わりのあいさつはもちろん、できれば毎日1回あるいは2日に1回は、社員それぞれに何気なく声をかけるようにしましょう。
 話題は特別につくる必要はありませんが、場の雰囲気が明るくなる話や社員が答えやすい話のほうが望ましいでしょう。

 また、組織の長と社員の間のコミュニケーションだけではなく、社員同士のコミュニケーションを充実させることも重要です。
 社員同士が仕事に関係のない会話で盛り上がっていても、騒がしすぎたり、長すぎたりしなければ、特に注意する必要はないでしょう。
 ただ、特定の社員同士がいつも盛り上がっていて、ほかの社員があまりよく思っていないようだったら、話を少し抑える必要があるかもしれません。できれば、組織の長が、その盛り上がっている話に入っていって、よく思っていない社員にも話を広げていくと、コミュニケーションの範囲を広げることができます。
 こうして、コミュニケーションが充実してくると、何でも話しやすい空気が生まれ、組織の雰囲気が次第によくなっていくでしょう。

社員に考えるくせをつけさせる

 組織の長は、会議などはもちろん、ちょっとした打ち合せでも できるだけすべての社員に何らかの意見を出してもらうようにしましょう。ほとんど意見を言わない社員には、組織の長が直接問いかけます。
 その際は、
・いきなり具体的な案を求めるのではなく、先に出ている意見をどう思うかなど答えやすい質問から誘導する
・社員が出した意見は聞き流すことなく、まず肯定的に受け止める
などのようにして、意見を出しやすい雰囲気をつくり上げます。
 こうした雰囲気づくりを、焦らず繰り返し積み重ねることで、社員にとっては意見を求められることが当たり前になり、社員が自然と自分の意見を考えるようになります。考えるくせを社員に身に付けさせることが重要です。 そうすれば、ただ何気なく仕事をこなすのではなく、社員が自ら考えて主体的に仕事に取り組むことができるようになるでしょう。
 そして、社員同士の間でもそれぞれの立場や考えを伝えあい、議論しながら仕事を進めていく環境が整えば、組織が少しずつ活性化して、組織のモチベーションが高まります。

挑戦しやすい環境をつくる

 組織の長は、モチベーションが高い社員には希望する仕事にどんどん挑戦してもらうようにしましょう。
 ただし、組織の長は、その仕事を任せたからといって放ったらかしにするのではなく、必要に応じて方向性を示す、相談に乗るなどのサポートをします。
 そして、挑戦させた仕事が成功すれば、組織の長はその社員を評価するとともに、社員とともにその成功を喜びあいましょう。
 失敗しても決して怒鳴ったりせず、ともに失敗した原因や対策を考えましょう。
 組織の長がこのような方針をとることで、社員の間に仕事に対する挑戦意欲が生まれ、組織は活性化してモチベーションが高まります。

 

2 組織の目標と行動指針の明確化と落とし込み
 組織内の雰囲気がよくなり、組織が活性化しても、その組織はどこへどのように向かえばよいのでしょうか。それを示すのが組織の目標と目標を達成するために必要な行動指針です。
 この組織の目標と行動指針がはっきりしていないと、組織としての仕事の優先順位や進め方を判断する基準があいまいになります。これでは、せっかく活性化した組織も、何が正しいか分からなくなる、あるいは一度決定したことが何度も変更されるといった事態に陥り、組織の中に不満が生まれてしまいます。
 また、せっかく組織の社員が頑張って成果を上げたつもりでも、その組織に与えられた目標とずれていたり、目標を下回っていれば、その組織は評価されず、組織の中に不満が生まれてしまいます。
 組織の長は、経営者から与えられた目標をもとに、それを達成するための組織の行動指針を定めて、すべての社員に落とし込まなければなりません。
 さらに、目標や行動指針は、具体的かつ分かりやすくなければ社員に浸透しません。
 仮に行動指針や与えられた目標が分かりにくい場合は、組織の長が数値化を行うなどして分かりやすくして社員に浸透させなければなりません。そうすることで、組織を構成する社員が一つの方向を向き、乗り越えるべきハードルを明確に意識して仕事を進めるようになります。その結果、組織はますます活性化してモチベーションが高まるでしょう。

3 組織の役割と責任範囲の明確化
 組織の目標や行動指針も決まって積極的に動き出した組織にも、まだ障害はあります。
 それは必要以上に仕事がやってくることです。
 概して、前向きで積極的な組織には仕事が集まります。その集まった仕事が、目標や行動指針に合致している、あるいは組織にまだ余力があり、社員たちが仕事を希望しているのなら問題ありません。
 しかし、そのどちらでもないのなら、その状態が長く続くことで、社員の間に「なぜ私たちがここまでしなければならないんだ」といった気持ちが生まれかねません。
 従って、社長あるいは複数の組織を束ねる長は、組織ごとに担うべき仕事の範囲、すなわち組織の役割と責任範囲をあらかじめ明確にしておく必要があります。
 そして、組織の長は、その範囲を超える仕事がほかの組織から集まってきて、組織に負荷がかかりすぎるようなら、上司やほかの組織と相談して、仕事の量を調整しましょう。
 また、役割と責任範囲内の仕事の量が増えすぎた場合、組織の長は、社員の状況をみながら人員を補充するなどして、組織のモチベーションを下げないようにしましょう。

4 組織への必要な権限の付与
 組織の役割や責任範囲が決まり、目標達成に向けて組織が動き出したら、次には、一定の権限の委譲を行いましょう。
 上位組織との関係でいえば、アルバイトの雇用や資材の購入など、いちいち決裁を仰がなければならない事項が多く、かつ、そのスピードが遅いと、組織にとって大きなストレスとなります。
 また、特定のプロジェクトチームのような組織の場合、どこまでの仕事を各組織に割り振ることができるのかといった権限が明確に定められていないと、トラブルの原因となり、関係する組織に大きなストレスを招きます。
 この問題は、小規模な企業においても同様に発生します。

 仕事を割り振る側と割り振られる側で考えればよく分かるのですが、仕事を割り振られる側にしてみれば、それだけ仕事が増えてしまうことになり、それこそ、モチベーションが高い組織でないと割り振られる側は仕事をできるだけ減らしたいと思うでしょう。経営者あるいは複数の組織を束ねる長は、それぞれの組織に目標を達成するのに十分な権限を与えることが不可欠です。そうしなければ、組織にストレスが生まれ、モチベーションを下げてしまうのです。

 

5 組織間の良好な関係の構築

 経営者あるいは複数の組織を束ねる長が、それぞれの組織に必要な権限を与えただけでは、組織間で仕事がうまく進むとは限りません。
 権限とは、あくまで大枠を定めたものであり、また権限の範囲内の行動であっても、一方の組織がもう一方の組織に無理をさせ続けると、無理をさせられた組織には不満がたまっていきます。
 よく発生するのが、営業と現場(製造あるいはサービス提供部門)の対立です。営業が顧客からの急な依頼を受け、現場に短い納期で製造依頼をかけることがありますが、現場にとっては当然負担です。
 いくらモチベーションが高い現場でも、こうした製造依頼が度重なったり、営業が「顧客からの依頼なのだから仕方ない」といった態度を取ると、現場には大きな不満が生まれ、両組織の関係は悪化し、現場の仕事に対するモチベーションは下がってしまいます。
 急な依頼など一方の組織がもう一方の組織に負荷をかける場合は、無理をお願いするという姿勢を忘れずに、負荷をかけることになった経緯と理由をしっかりと説明して納得してもらわなければなりません。
 さらに、組織間で普段から互いに労をねぎらう、コミュニケーションをとるなどして良好な関係を保っておくことが必要です。

 小さな配慮を積み重ね、関連する組織同士が良好な関係を保っておくことで、それぞれの組織はモチベーションを下げることなく、仕事に取り組むことができます。
 また、組織の長は、関連する組織の長とよい関係を築いておくとともに、折に触れ関連する組織の社員の労をねぎらったり、組織間で社員同士が交流する場を設けるとよいでしょう。

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