80:20の法則

 「80:20の法則」という考え方があります。

 投入と算出、原因と結果などの間には不均衡があり、その比率は80対20であるという法則です。

 『80対20の法則』の著者リチャード・コッチの書籍からいくつかご紹介します。

・化粧品の20%の商品が80%の利益を生んでいます。
 小売店にとって重要なのは店のイメージを傷つけることなく残りの80%の商品をどこまで削れるかが重要です。

・80%の収益を占める20%の顧客を絶対に放してはいけません。
 毎週、日曜日の夜にはその20%に相当する顧客のファイルに目を通し、ご無沙汰している顧客があったら、手紙を書くか電話をかけます。

・売上の80%、利益の80%を生み出す20%の顧客に販売努力を集中すべきです。
 販売員には最良の20%の顧客に時間の80%を使うように指導します。
 そのために、重要でない顧客は無視してもかまわないと教えます。

・重要なのは一部の顧客であり大半の顧客ではありません。

 たとえば、

・売上の80%を占めているのは製品の20%である
在庫管理のABC分析はこの考え方の応用例です。

・売上の80%は20%の優良顧客からもたらされる
 だからこそ、その20%の優良顧客を知る情報を集め、そのお客様のロイヤルティーを高める必要があります。

・離婚件数の80%は20%の人で占める

・カーペットの擦り切れや汚れの80%は20%の部分で発生する
 その部分だけ変えればよいという発想がタイルカーペットの発見です。

・試験問題の80%はその科目に関する知識の20%の知識で答えられる
 効率よく試験に合格する秘密がここにあります。

といった具合です。

 たとえば、100人の人が1ヵ月に飲むビールの本数を多いに並べていったら、上位20%の人で全体の本数の80%を占めているということになったとします。

 ビール会社が効率的に販促活動を行なっていこうとすれば、上位20%の人に焦点を絞ればよいということになります。

 

8020の法則」を使い、異なる施策を実施する

 「「80対20の法則」は、パレートの法則ともいわれる分析手法の一つです。多品目を扱う場合、「売れ筋の上位20%の商品によって8割の売り上げがもたらされる」といった傾向があり、そのまま分析手法の名称になりました。

 品揃えが重要視される機械部品業界では、在庫スペースの確保や管理に要する人員を、いかにコントロールするかが重要です。

 80対20の法則を参考に現状調査を行い、大きな売上を占める上位品目を特定して各営業所に配置することで欠品を防ぎ、それ以外の商品は在庫の管理を1ヵ所に集約するといった取り組みを行うことができます。

 優先順位としては大きな部分から考えていくことを意識します。

 このときに、視覚的に便利なグラフがパレート図と呼ばれるものです。パレート図は、降順に配置された棒グラフと、累積構成比を表す折れ線グラフの複合グラフで表現されます。表をうまく整えることで、エクセルでもグラフを作成できます。

 商品を売上の高い順に並べ、累積売上構成のグラフが80%を示すラインまでに入る商品は、重点商品といえます。

 

 例として、顧客の売上高比率と利益比率の関係を見てみます。

顧客タイプ別の売上高と利益

 顧客A、B、Cで売上の累計は20%程度ですが、利益では半分以上を稼がせてくれています。

 顧客タイプ別に利益に責献している「優良顧客」を見つけることが大切です。

 このような表を貴社のお客様を対象に作成してみてください。

 「80対20」の法則をうまく利用すること、「80対20」の不均衡を利用してお客様を差別化していくことが、マーケティングで成功するコツです。

 「自社の製品やサービスを頻繁に利用しくれるロイヤルティーの高いお客様」「毎日利用してくれるお客様、気前のいい常連客」がマーケティングのターゲットとなります。

 たまにしか買ってくれないお客様を無視する「選択と集中」が必要です。

 重要なのは一部のお客様なのです。

 その一部の重要なお客様を差別化して見つけることがポイントになってきています。

 

顧客情報を使って差別化を図る方法

 「選択と集中」「特定の優良顧客を大切にすること」が重要です。

 では、どのようにしてお客様を差別化すればよいのでしょうか。

1 売上と伸び率によるマトリクス分析

 まず、お客様ごとの売上高と売上伸び率を利用してマトリクスを作成します。このマトリクスから自社にとっての「優良顧客」を選別していきます。

 営業担当を訪問させるのではなく、電話で対応するなどの差別化した対応が必要になります。すべてのお客様を同じように定期的に訪問する、あるいは訪問回数を増やせば売上増につながるという短絡的な考え方でなく、お客さまを差別化して、自社にとって重要なお客様は毎日訪問するなど万全のサービスを提供する一方、重要でないお客様にはコストをかけない対応を考えます。

 ことによると、そのお客様はよそのお客様になってもらったほうが、自社に利益をもたらすかもしれません。

 自社にとって重要でない顧客を見極めて、利益をもたらさないお客様と上手に別れていくことも、必要な経営判断になってきます。

2 RFM分析

 小売業など多数のお客様を相手にする業態では RFM分析が役に立ちます。「差別化するのは顧客」であるという考え方と「80対20」の法則を実践的に説明しているものと理解できます。

 日本でもコストコの出店(1999年)、そしてウォールマートの進出(2002年)と、外資小売の参入が盛んになり、「EDLP」(エブリデイ・ロウ・プライス)という売り文句が一般的に使われるようになりました。

 最近では、ネット販売においても、アマゾンのビジネスマーケットへの躍進が際立っておりスタート時は書籍販売に特化していたが、今ではアスクルの牙城を切り崩す勢いでいます。

 こうした企業では、一時的な「特売」ではなく「毎日、低価格で商品を提供する仕組み」、たとえば大量仕入れによるコストダウン、店舗建設費用を抑える工夫、人件費を抑える工夫などがなされています。

 しかし、「EDLP」は「優良顧客」にもそうでない顧客にも同じサービスを提供するわけですから、「優良顧客」の「自分は利用金額が高いのだから特別な扱いを受けてもいいはずだ」という欲求には対応できません。

 また、店舗としても、低コストの商品をあまり自店で利用しないお客様にも提供することは顧客の差別化ができていないことになり、優良顧客から得た利益をそうでない顧客につぎ込むことになってしまいます。

 そこで、「よく来店してくれるお客様」「高額のお金を使ってくれるお客様」「最近よく買い物をしてくれるお客様」を「優良顧客」として差別化して優遇する手法が「EDLP」の反省から生まれてきました。

 米国で理論化されたFSP(フリークエント・ショッパーズ・プログラム=高頻度来客優遇策)という手法があります。

 日本語の名前のとおり、高頻度=よく来店してくれるお客様を優遇していく作戦です。

 来店客別の売上高とその構成比を調査していくと、購買金額が多いお客様の上位3割で売上の7割から8割を占めるという事実が示されています。

 この3割程度のお客様を「優良顧客」としてもっとも大切にすることが戦略の要です。

 このお客様に対して、ほかのお客様と差別化した「優遇策」をとり、自社、自店舗へのロイヤルティーを高めてもらう戦略です。

 購買金額の下位から5割のお客様の合計購買金額が全体の売上に対してどの程度の比率になると思われますか? ある調査では、10%に満たないという結論がでたというデータがあります。

 この5割のお客様にかけるコストをいかに削減するかということも、FSPにおける もうひとつの重要な視点です。

 自社のお客様の分布が「80対20」の法則にあてはまることが理解できるとともに、「優良顧客」とそうでないお客様がみえてきます。理論だけでなく実践が重要です。

 仮に、500人のお客様をもっている場合、10%ごと=50人ごとに構成比を区分して分析していきます。

 FSPを支える「差別化するのは顧客だ」という考え方を、より具体的に分析する手法が分析です。

 RFMの3つの軸を見ていきます。

 RはRecency=直近の来店日、購買日を基準とした軸

 FはFrequency=購買頻度を基準とした軸

 MはMonetary=購買金額を基準とした軸

 

 この3つの軸を重視して分析するのは以下の理由からです。

 R(リーセンシー)は、最近来店してくれているお客様は今後の販促活動や店内企画に対して反応しやすく、逆に足が遠のいたお客様は当店から離れたお客様であると判断することができ、主として販促や企画に対する反応を分析する視点に利用できます。

 F(フリークエンシー)は、来店頻度ですので、店舗に対するロイヤルティーを示しています。
 顧客の満足度を示す指標でもあります。

 M(マネタリー)は、売上金額ですので売上に重点をおいた販促の企画に活かすことができます。

 RFM分析は、この3つの軸を利用して自社にとっての「優良顧客」を選別しようという方法です。

 さらに、R、F、Mごとに自店の戦略にあわせてウェートづけを行ないます。

 店舗ロイヤルティーを最優先し、次に売上金額、最後に直近来店期間とするのであれば、R:F:M=2:5:3といったようにウエートをつけて評価します。

 この基準によって「顧客」の差別化を行ない、「優良顧客」を見つけ、優遇的なサービスを提供していくのです。

 貴社でも顧客を差別化していく手段を身につける必要があります。

 2割の「優良顧客」が利益の8割を提供してくれているのです。

 

 リチャードコツチは、核になる優良顧客を離さない4つの秘訣として、

1.核になるお客様が誰かを突き詰めること

2.核になるお客様には特別なサービス、場合によっては「常軌を逸した」サービスを提供すること
3.製品・サービスの開発時には核となる20%のお客様を念頭に置き、その20%のニーズを満たすことだけを開発の目標とすること

4.核となるお客様からは絶対に目を離さないこと

を挙げています。

 

アメリカン航空の例

 お客様を「差別化」して捉える考え方の例を見てみましょう。有名な例は航空会社の事例です。

 1970年代初頭の話です。米国のアメリカン航空は今後のマーケティング戦略策定のためにお客様の調査を行ない、予想外の結果を手に入れました。自社の収益の約65%が3.2%のお客様からもたらされていたのです。年間搭乗顧客数2500万人のうちの3.2%、80万人のお客様、年間平均搭乗回数13回の「最良顧客」が利益の源泉だったことを知りました。この結果に基づいて、アメリカン航空は、お客様に接するスタイルを従来のものから変更していきました。テレビや雑誌の広告を通じて「アメリカン航空は最高のサービスを提供します。すばらしいシートの座り心地をお試しください」とすべてのお客様に訴える見込み客へのアピールを目的とした広告は、いったいどれくらいの利益をもたらしているでしょうか。必要なのは、「いつもご利用ありがとうございます。ご利用いただいているお礼の意味をこめてあなたさまだけに特別の待遇をさせていただきます」と、特定のお客様、年に平均13回利用してくださる優良顧客により一層のご愛顧を促す方法でした。こうした発想が「差別化するのは顧客」であるという考え方の基本にあります。企業の収益の7割弱をもたらしてくれるお客様を大切にし、ほかのお客様は、極端な言い方をすれば、切り捨ててもよいとする発想です。不特定多数の「見込み客」に向かって膨大な広告宣伝費をかけるよりも、利益の65%をもたらしてくれる3.2%の「リピーター」を特別待遇して、さらにアメリカン航空を利用してもらうアプローチが、この調査から導かれたマーケティング手法でした。顧客すべてを平等に扱うというのは聞こえがよい言葉ですが、お客様と企業の対話という点から見ると問題があります。企業は、全てのお客様を同一に扱うことで、お様様との対話を拒否していたのです。全てのお客様一人ひとりと対話することはできませんが、自社の製品・サービスを使用してくださるロイヤルティーの高い差別された「優良顧客」との会話は可能です。お客様のなかから自社にとって利益に大きく貢献してくれる「優良顧客」を見つけ、お客様を差別化し、手厚くサービスしていくことで、お客様を「パートナー」として扱うことができ、そのお客様と対話をすることができます。多くの一般客の嗜好はつかむことができませんが、自社の製品・サービスへのロイヤルティーが高い特定のお客様の嗜好はつかむことが可能なのです。できるだけ多くのお客様にたくさんの商品・サービスを買ってもらうことを目指すのでなく、自社の製品・サービスを利用してくれる特定のお客様に1回でも多く自社の製品・サービスを利用してもらうことが利益増大につながる道だったのです。それを知った企業はさまざまな仕組みを考えて顧客の差別化を行ないました。あるガソリンスタンドでは、来店する車のナンバーを登録して月ごとの来店回数ランキングを集計し、ランキングのトップ50位に入る顧客に対して特別なサービスを提供しています。

 日本でも、航空会社のマイレージサービスなど、自社のサービスを利用するお客様を優遇していく流れが明確になっています。銀行でも、残高の金額によってATMの利用料を無料にするなど、お客様へのサービスを差別化する時代です。

・利益をもたらす「優良顧客」を大切にする
・重要でないお客様は無視してもかまわない

 これがアメリカン航空の調査から得られたマーケティング手法であり、「高度成長時代」の無差別攻撃と異なる、現代のピンポイント攻撃によるマーケティングであるといえます。

 

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