ワンツーワン・マーケテイング
ワンツーワン(One to one)・マーケティングとは、一人ひとりの顧客と強固な関係を作り上げ、長期にわたって多くの種類の商品・サービスを購入してもらうことを目指したマーケティング手法です。
企業が顧客と双方向のコミュニケーションをとり、個々の顧客のニーズを理解するということを基本として成り立っています。
ワンツーワンマーケティングのポイントは、企業は、個々の顧客ニーズにあった商品・サービスを提供することで、当該顧客と継続性のある取引を実現し、その顧客との生涯に渡る取引から得られる顧客生涯価値(LTV=ライフタイムバリュー)の最大化をめざすというものです。
ワンツーワンマーケティングにおいては、その顧客の人生における消費のどれだけの部分を自社が占めることができるかという顧客シェアの拡大が最重要課題となっているのです。
ワンツーワンマーケティングの導入
企業の間では、個々の既存顧客との関係性を重視する取り組みが始まりました。
多くの企業では、既存寮客は重要な経営資源であると認識しており、ワンツーワンマーケティングが実践されています。
その際に、もっとも重要なことは顧客を個々に捉えるということです。
たとえば、CS(顧客満足度)プログラムを実施するにしても、万人(マス)向けではなく、個々の顧客の満足度をいかに高めるかという考え方に基づいて設計する必要があるのです。
通販ならともかく、大多数の営業会社では顧客との接点を担うのは営業マンです。
その営業マンの顧客対応の品質レベルが低ければどうでしょう。
どの営業マンが対応しても、同レベルの品質を保つことが顧客満足度向上には欠かせません。
そのためにも、人材育成の基本となる基本動作の習得が欠かせないのです。
1 顧客構造による顧客選別
最初からあらゆる顧客に対してワン・ツー・ワン・マーケティングを行うことは困難です。
まずは自社にとってワン・ツー・ワン・マーケティングを導入すべき部分を明確にする必要があります。
その際には、自社に大きな利益をもたらしてくれる優良な顧客を選別することからはじめます。
顧客構造の分析はこの顧客選別のための手法のひとつです。
LTVの視点によって顧客を検討する場合、企業にとって顧客の価値はそれぞれ大きく異なります。
企業にとって価値の高い部分の顧客シェアを高めることが重要であるのはいうまでもありません。
つまり、ワンツーワンマーケティングの導入にあたっては、LTVの視点によってグループ分けした顧客構造を分析したうえで、本当に個別対応が必要な顧客を選別する必要があるのです。
2 優秀な顧客マネージャーの設置
ワンツーワンマーケティングを導入し、顧客シェアの拡大をめざすためには、顧客管理を担当する顧客マネージャーを設置することが必要となります。
顧客マネージャーを設置する方法としては、顧客構造を分析した際に重要と判断されたグループごとに設置するのがよいでしょう。
顧客マネージャーの役割は、担当するグループ内の顧客と円滑なコミュニケーションをとることで、そのニーズを把握し、さまざまな提案をすることです。
そのため、顧客マネージャーには、コミュニケーション力、洞察力、理解力、調整力、コンサルティングカなどが求められます。
このような優れた営業マンに必要な能力に加え、企画担当者としての企画・提案力も必要となります。
顧客マネージャーがこうした能力を発揮することで、ワンツーワンマーケティン グの目的である顧客シェアの拡大、ひいてはLTVの向上が実現できます。
3 サポート企業の活用
実際にワンツーワンマーケティングを導入するには、顧客情報を蓄積・分析するためのコンピュータシステムや高度なノウハウが必要とされることも多く、場合によってはコストに見合う利益を得られないある。
このため、第三者と協力して、ワンツーワンマーケティングを導入することも考えられる。
つまり、双方向コミュニケーションや顧客ニーズの収集・分析など、ワンツーワンマーケティングに必要となる機能をもった外部の企業と協力して効率的にワンツーワンマーケティングを導入します。
厳しい経済環境の中で、企業にとって新規顧客の開拓が重要なのは言うまでもありません。
しかし、それ以上に注力しなくてはならないのが、既存顧客の掘り起こしです。
売り上げの減少のなかでも深刻なのが、既存顧客数の減少や顧客一人当たりの売り上げの減少です。
既存顧客に対して何の手も打たないと、固定客はやがて休眠客となり、最終的には「死滅客」となってしまう。
顧客を捉えたら、その目や耳を自社に向けさせるための工夫を怠らず、継続して商品やサービスを売り続ける努力をすべきです。
新聞の折り込み広告など不特定多数に向けたマーケティング戦略をマス・マーケティングと言います。
過去にはこの手法は新規顧客の開拓に一定の役割を果たしてきました。
それに対して、近年、顧客一人ひとりの顔(属性)に応じたマーケティング手法が注目されている。「ワンツーワン・マーケティング」と呼ばれ、この分野の先進国である米国では広く定着している手法です。
個人名の明記されたダイレクトメールをご覧になったことがあると思います。
「○○様に3割引きで販売します」といった類の文面です。
これがワンツーワン・マーケティングの一例です。
ダイレクトメールを、ターゲットとなる消費者に絞り込んで送付するため、ヒット率は飛躍的に向上します。
しかも、消費者から見ると「自分だけに届いた」という印象を強く受けるので、その広告が目に止まる可能性自体も向上します。
半面、ワンツーワン・マーケティングでは、顧客の顔がある程度見えていないと有効な手は打てません。
例えば、百貨店では、外商部門などでなら見込み客の情報も入手できますが、店頭部門では難しいでしょう。
既存顧客の“活性化”にワンツーワン・マーケティングが使われることが多いのはこのためです。
ワンツーワンマーケティングの導入方法
顧客情報の収集・管理
まず、最初に販売の記録をデータベース化することから始めて下さい。「誰が」「いつ」「どこの売場で」「なにを」「いくつ」買ったかという情報がすべての基本です。
しかし、営業部門にだけ依存していては有効なデータベースは作れません。
自社と顧客の接点のあらゆる場面に目を向ける姿勢が大切です。
自社の営業部門だけでなく、保守や配送など さまざまな場面で日常的に顧客と接しています。
これらすべての部門で情報の入手とメンテナンスを行う仕組みづくりが重要なのです。
顧客の数は膨大ですし、その顧客データは日々刻々と変化しています。
手作業によるメンテナンスでは到底追いつきません。
ワンツーワン・マーケティングを実践する多くの企業で、営業情報の管理にコンピューターを使い、データベースを駆使しているのは、データの入力、加工をスピーディーにこなすためなのです。
マス・マーケティングからワンツーワン・マーケティングに移行して大成功を納めたのが、宅配ピザ・チェーンのドミノピザです。ドミノピザでピザを注文すると、最初に電話番号を聞かれます。この電話番号がキーとなっており、一度ピザを頼んだことがあれば、住所や氏名などの顧客データが即時に店側のパソコンに表示されます。それだけではありません。同社ではこのシステムをさらに発展させ、過去1年間に、その顧客がいつ、どの商品を注文したかという情報もデータベース化しており、注文時に確認できるのです。さらに、顧客が単身者か家庭持ちかというデータも入力されています。もちろん、注文を受けたときの電話口では そんなことは聞きません。配達を担当するドライバーが玄関口で目で確かめているのです。
収集した顧客情報の活用法
ドミノピザの応用例は、顧客の消費パターンに合わせた割引チケットの発行。顧客が「シーフードスペシャル」というピザを2週間に1回1枚ずつ注文しているとします。データベースにはその顧客が家族持ちであることも入力されている。顧客から電話が入り、注文内容をパソコンに入力すると、その顧客専用の割引チケットがプリンターから打ち出されるのです。
例えば、その内容は「シーフードスペシャルを2枚同時に注文すれば10%割引き。有効期間は10日間」。このチケットには、ピザの注文枚数を1枚から2枚に増やすこと(客単価アップ)と、次回の注文を2週間後から10日以内に短縮すること(注文頻度向上)の2つの狙いがあるわけです。同じチケットを大量に印刷し、近隣の家庭に配ったケースを考えてみます。ある家庭はシーフードのピザより肉のピザを好むかもしれませんし、別の家庭は一人暮らしで1度に2枚ものピザを食べられないかもしれません。そもそも、その家庭がピザを食べるのかどうかも分からないのです。
顧客の顔をデータベース化することで、営業の効率が飛躍的に向上することはおわかり頂けるでしょう。
新規顧客の開拓などへの応用
顧客の購買行動のパターンは、「顧客の顔」を知るためにもっとも効率の良い情報ではありますが、それは顧客情報のすべてではありません。
営業マンにとって、たとえ営業が見込み段階であっても、先方の会社概要や商談の決済者、競合情報、予算枠、スケジュールなど有益な顧客情報は無数にあります。
これらはすべて蓄積すべき情報なのです。
見込み客からの問い合わせが担当者の不在時にあるかもしれません。
同僚が商談に役に立つ情報を持っているかもしれません。
取引が成立した後、顧客をスムースに担当セクションに引き継がなければいけません。
こうしたときに蓄積した顧客情報は必ず役に立つはずです。
「勘」と「経験」「根性」の3Kで営業マンが勝負できたのは、情報不足の時代の過去の話です。
それに比べて、今は情報過多、人材不足の時代です。
そういう時代であるからこそ、優秀な営業マンの情報を共有するシステムを作り、見込み客を含む個々の顧客に最適な提案をすることが重要なのです。
そうしてできた営業システムは、その商戦で勝ち抜く武器になるだけにとどまらない。
自社の営業力全体をレベルアップすることにもつながるのです。
一人の顧客が宝になる
今、ビジネスはマーケット・シェア(市場占有率)ではなく、一人の顧客シェアを争う時代です。どんな企業でも、成功させようと思ったら、以下の三つのを実施する必要があるのです。
(1)常に新たな顧客を獲得する(新規開拓)
(2)売上一件当たりの収入を上げる方法を開発する(クロスセル、アップセル)
(3)確実に顧客をリピーターにする方法を開発する(固定客の維持管理)
会社の営業にとって、この3つの戦略を同時に進めることなしに、会社の繁栄はありません。
新規顧客の獲得
手持ちの資源をすべて新規顧客獲得に振り向けるのは、事業を発展させる上では最もコストがかかり、かつ、利益の少ない戦略です。
新規顧客の獲得には、既存顧客を引きつけておくのと比べ、平均で6倍のコストがかかると言われています。これでは、影響が大きすぎてなかなか利益は増えない。しかし、お客様がいなければ会社は潰れてしまいます。どんな企業でも遅かれ早かれ顧客は失われるのです。
大切なのは、新規の顧客になってもらったあとの行動です。
新しい顧客はその直後に新しい取引をしてくれる可能性が高いのです。
そして、収益アップを図りたいなら、少しでも長く顧客を引き留めておく必要があります。
顧客を長く引き留めておければ、それだけ買う気になってくれるチャンスが大きくなるはずです。
これが「顧客ロイヤルティー」を高めるということです。
フロントエンド(集客)商品とパックエンド(本命)商品
フロントエンドとは、お客様を集めて、会社が信頼に値すると信じてもらう集客(見込み客開拓)のための商品・サービスをいいます。
大切なポイントはここにあります。
人は信用している人から、モノを買うのです。
何かを購入しようとする時、お客様の心には必ず疑問の念(リスクを考える)が起こります。
あなたのビジネスで、まずお客様に提供できるものはないでしょうか?
無料サンプルを提供できないでしょうか?
無料で情報提供をできないでしょうか?
1ヵ月間無料でサービスを提供できないでしょうか?
康食品や化粧品の通販などでは無料でサンプルを配っています。
7日間お試しプログラムや14日間お試しプログラム、こういったものが世の中には溢れかえっています。
マーケティングの世界で古くから使われている格言に、「ドリルを買いに来た人が欲しいのはドリルではなく穴である」というものがあります。
この例では、店員がお客様のために売場に並ぶ数多くのドリルの中から最適の1個を選ぼうと思えば、まず知るべき情報は、「どんなサイズの穴を開けたいのか」「穴を開ける材質は(木材?、コンクリート?、鉄板?)」といったことであり、さらに、「何をするための穴なのか」という目的までを聞かなければならないかもしれません。
これらの質問による回答から、もしかしたらドリル以外の解決方法があるかもしれません。
この事例をあなたの業界に当てはめて考えた場合、バックエンドは集客商品にあたります。
この事例からもわかるように、あなたの扱う商品・サービス(バックエンド)商品を売る前にフロントエンド商品を考えなくてはなりません。
あなたはいきなりバックエンド商品を売ろうとしていませんか?
まずやるべきことは「質問」です。
お客様から的確な情報収集をすることが先決です。
お客様の問題を解決するための質問をしなくてはなりません。
あなたの商品・サービスを売るための質問ではないのです。
「どんな悩み・問題を抱えているのか」を知ることです。
そのためには質問しなくては知ることはできません。
この質問により、もしかするとあなたの商品・サービス以外の解決手段もあるかもしれません。
あなたの商品・サービスは、お客様の抱える問題解決の一手段であることを認識する必要があります。
フロントエンドとバックエンドの流れを作ることは、セールス・ファネル(営業の漏斗)といわれます。
白地マーケット(市場) → 見込み客 → 新規顧客 → リピート顧客
このように、「マーケット」から「リピート顧客」になるまでに、だんだんと対象人数が絞られ、ろ過されていくステップをいいます。
収益アップを図ろうとするなら、まず、顧客を引きつけて一度商品・サービスを購入してもらい、そこでそれ以外のものも提供することで、連続的に利益をあげることです。
一見すると一度きりの購入のように見える場合でも、簡単にリピーターにすることができるのです。
アップセリング(単価アップ)
もう一つ、利益を増やす方法は、顧客が最初に求めたものより価値の高いものを売ることです。
これは一般に「アップセリング」と呼ばれています。
顧客が最初に必要だと思った製品とは少し違うとしても、もっと勧めるべきものがある場合にします。ただし、その顧客のニーズをより正確に満たしていて、しかも、こちらとしても利益が大きい時に限る。顧客のニーズを確実に理解し、純粋に相手の望むものを勧めることです。アップセリングのチャンスがないか、必ず注意しておきましょう。チャンスは思ったより多いのです。
クロスセリング(追加販売)
顧客がものを買うのは、満たしたいニーズがあるからです。
しかし、人は一度に二つ以上のものを買ったり、何かを買ったついでに別の買い物をしたりすることが多いのです。
このようなことがたびたび起こるのは、一つのニーズが満たされることで、別のニーズが表面に浮かび上がってくるからです。
顧客は、通常、一つの流れの中で商品・サービスを購入します。
このことに気がつけば、そこから大きな利益をあげることができる。
「もうこれ以上は売れないだろう」といった自分の懐勘定で販売の判断をしないことです。
ワンツーワンマーケティングのメリット
ワントゥワンマーケティングは、一人ひとりの顧客と強固な関係を作り上げ、長期にわたって多くの種類の商品・サービスを購入してもらうことをめざした手法です。
ワンツーワンマーケティングを実行する企業は、他の企業に対してさまざまな優位性をもち、競合企業のマーケティング活動から顧客を守ることができます。
1 顧客維持率の向上
ワンツーワンマーケティングは、商品・サービスを差別化するのではなく、顧客との関係のありかたを差別化するマーケティングです。そのため、企業と顧客との関係は強固なものとなり、競合企業が現れても顧客を奪われる可能性が低くなります。自分のことを理解してくれる企業から他の企業に取引を移すときには、顧客にとって大きな不安が生じるからです。
そして、これらの企業の多くがマスコミを活用することに長けています。それは、自社の新製品・新サービスについての情報や記事をマスコミに航法活動し、記事として無料で掲載してもらうプレスリリースです。
多くの女性が美容院を利用する場合に、一定の技術をもったなじみの担当者ができると簡単には店を変えないことからも理解できるでしょう。
ワンツーワンマーケティングを実践できる企業は、自社にとって重要な顧客と緊密な関係を結ぶことで、顧客維持率の向上を実現しているのです。
2 追加販売(アップセル、クロスセル)による収益拡大
緊密なコミュニケーションによって、顧客のニーズをつねに把握しておけば、関連商品を販売したり、買い換え需要にも応えることが可能になります。
また、点検・修理といったアフターサービスまで、追加販売の一部であると考えれば、取引拡大のチャンスは大きく広がっていきます。
顧客のニーズや環境の変化を読みとり、追加販売を行うことによって、1人の顧客から長期にわたって大きな収益を拡大することも可能になります。
3 新規客の紹介引き出し
ワンツーワンマーケティングによって、顧客の満足度が高まると、新たな顧客を紹介してくれる可能性が高くなります。
しかも、企業にとってLTVの高い顧客が紹介してくれる顧客は、一般の新規客と比べLTVの高い場合が多くなっています。
ワンツーワンマーケティングによる満足度の向上は、継続的なリピートを生むだけでなく、顧客の紹介という形でさらなる価値を企業にもたらします。
実際、ワンツーワンマーケティングを行う企業のなかには新規顧客紹介を導くために、既存顧客に対するインセンティブ制度を導入している企業も少なくありません。