組織の原則

組織と戦略の関係を考えることの重要性

多くの場合、新規事業の開始時や会社設立時には、戦略と組織について同時に議論されています。

しかし、既存事業では、多くの企業で戦略だけをとうとうと議論したり、逆に何をしたいのかが曖昧な状況のままで、組織をただいたずらに変えたりしている傾向が見受けられます。

過去の右肩上がりの経済成長時代では問題ありませんでした。しかし、今後はこのような時代は期待できません。そのうえ、企業を取り巻く競争環境はさらに激化し、顧客の価値観は多様化し、顧客ニーズや技術の変化のスピードは ますます速くなり、経営のかじ取りの難しさが増しています。

このような厳しい経営環境のもとでは、戦略に合う組織、組織に合った戦略で臨まないと企業としての存続・成長は困難です。

マネジメントの父「ピータードラッカー」も、組織が有効的に働くためには「目的」と「戦略」を第一に考える必要があることを論じています。

このため、今組織と戦略の関係が今見直されているのです。

 

組織は、経営目的のために形成され、目標達成に向け戦略が策定されます。組織と戦略は密接な関係にあり、相互の整合性が不可欠だと言えます。組織の目的と戦略に整合性がなければ、いくら多くの経営資源を投下したとしても、目標達成は困難であると言えます。

この組織と戦略の考え方には、相反する2つの有名な説が唱えられています。一つはアルフレッド・D・チャンドラーの「組織は戦略に従う」、もう一つはイゴール・アンゾフの「戦略は組織に従う」です。

「組織は戦略に従う」と「戦略は組織に従う」の違いは、組織が先か、戦略が先かという点にあります。

サッカーやラグビーなど、フィールド内で自由にフォーメーションを組み立てるスポーツに見立て考えてみます。

 

戦略と組織の関係「組織は戦略に従う」と「戦略は組織に従う」の意味

「組織は戦略に従う」と「戦略は組織に従う」は、簡単にいえば、戦略が組織に先行するのか、組織が戦略に先行するのかの違いです。

サッカーやラグビーなど戦略的・組織的に戦うスポーツでは、戦略と組織がバラバラでは個々の選手の能力が高くても勝利することは困難です。

サッカーでいえば、勝つために必要な攻撃重視、守備重視などの戦略が先にあって、それを実現させるために、ふさわしいフォーメーンション(組織)を考えるのが「組織は戦略に従う」です。

一方、攻撃能力に優れた選手が多い組織の場合は、守備をおろそかにしてでも、攻撃的に点をとる戦い方(戦略)を採用する方がよいケースがあります。これが「戦略は組織に従う」という考え方です。

 

 「組織は戦略に従う」の考え方は、目標達成に向け適材適所で人材を配置する属人的な戦略であるのに対し、「戦略は組織に従う」は、組織のあり方を重視し、そこに人材を配属する組織的な戦略であると言えます。どちらも、必ずしも誤りではなく、組織や事業、業界特性などにより臨機応変な対応が必要だと言えます。

 

チャンドラーの「組織は戦略に従う」

企業が成長していくためには、優れた戦略はもちろんのこと、戦略を実行するための組織が必要であることは、多くの方が肌で感じているはず。いくら「人・モノ・金」を投資したとしても、戦略と組織に整合性がなければ経営がうまくいくはずもありません。そんな戦略と組織の関係性を表すのに、アメリカの経営史学者アルフレッド・チャンドラーが残した「組織は戦略に従う」という有名な言葉があります。

「組織は戦略に従う」を提唱した背景

「組織は戦略に従う」は、チャンドラーが提言した言葉であると同時に、彼が発表した「Strategy and Structure」の邦題でもあります。当時のアメリカは、1953年に休戦した朝鮮戦争が終わり、空前の好景気を迎えていました。チャンドラーは、この時期に組織的イノベーションを起こしたと考えられる4社の経営史を本にまとめたのです。

その4社とは、化学企業のデュポン、自動車企業のGM、石油企業のスタンダード・オイル、小売業のシアーズ・ローバックと、アメリカを代表するトップ企業が並びます。

チャンドラーは、4社がどのように多角化、国際化を果たし大企業に至ったのか、その過程で組織がどのように変化したのか、実証的に研究しました。その研究結果として、事業拡大、多角化、国際化という経営戦略を効果的・効率的に成功させるには、事業部制という組織が必要で、事業部制を機能させるために必要な本社機能の役割を導き出しました。

しかし、事業部ごとに組織を編成しただけでは企業は成長しません。事業部制を機能させるためには、組織のトップが変化する環境に対応するための戦略を策定し、その戦略を実行するために必要な組織を作らなければならないのです。つまり、「組織は戦略に従う」とは、事業部制を適切に機能させるための言葉だともとれます。

 

組織は何のために存在するのでしょうか

組織は組織が属するトップの戦略目的を達成するための手段として存在します。

組織は存在することが目的ではないので、組織をどうするかは、まず戦略が先行しなければなりません。

そして、変化する環境に適応する戦略を策定し、その戦略を実行するために最適な組織にしていかねばならない、というのが「組織は戦略に従う」です。

事業部制は、一定の規模以上の企業に適した組織構造ですが、「組織は戦略に従う」の命題は、

全ての企業が戦略と組織を考えるときに考慮しなければならないことです。多くの企業が業績が悪化すると人を含む組織のせいにして、戦略抜きで組織を変えようとするからです。

一定のショック効果はあっても、本質的な組織改編ではないため効果を発揮できません。そこでは組織が手段であって、それぞれの企業の戦略に従って決めなければならないという形態が忘れさられています。

 

アンゾフの「戦略は組織に従う」

チャンドラーは1962年に「組織は戦略に従う」を提唱しました。それから少し遅れた1979年、アンゾフは、チャンドラーとは真逆の「戦略は組織に従う」という命題を提唱しました。

アンゾフも、チャンドラーと同様に当時の企業の多角化を研究し、新規の戦略が策定されても組織の抵抗によってほとんど実を結んでいないという実態を知ります。そこからその理由を研究。

アンゾフは、戦略が組織の変革を求めても、組織には自己防衛する本質があることや、各企業それぞれが持つ組織文化(企業文化)によって戦略がちゃんと遂行されないことから、立案する戦略の内容は組織に細心の注意を払って策定されなければならないとして、「戦略は組織に従う」を提唱しました。

組織は戦略の実行のための手段ではありますが、例えば、今までに既存顧客とのビジネスだけで安定した業績を上げていた企業には、保守的な組織文化が形成されています。

そこに状況の変化でリスクのある新規事業戦略を遂行しようと思っても、保守的な組織は、戦略に沿った行動をしないで、表面的には戦略に沿って頑張っているように見せかけて、実際には行動していないことが考えられます。

ここからわかるのは、理想の戦略を理想の組織で実行するのではなく、組織に合わせた戦略に修正することが大切だと言うことです。

 

優先すべきは「組織は戦略に従う」「戦略は組織に従う」どちらなのか?

「組織は戦略に従う」と「戦略は組織に従う」は、真逆ではありますが、対立する考え方ではなく、企業の置かれている経営環境、組織文化などによって重点の置きかたが変わる程度です。

一般的には、「組織は戦略に従う」を優先し、戦略の推進にあたっては「戦略は組織に従う」を考慮すべきです。

例えば、現在の経営環境が問題なければ、現時点では戦略と組織の関係は良好であると考えられます。組織を重視した「戦略は組織に従う」に重きを置いて大きな問題はないと考えられます。

一方、現状、あるいは近い将来に大きな経営問題が生じている、あるいは生じると予測されれば、それに対して「組織は戦略に従う」で戦略を最適に遂行できる組織を考える必要があります。

いずれにしても、経営環境に応じた戦略と組織の関係を変革し続けることが企業の成長・発展に必要です。

 

なぜ「組織は戦略に従う」を優先すべきなのか?

「組織は戦略に従う」をまず優先すべき理由は、何らかの戦略目的を達成するための手段が組織であるからです。戦略がないところに組織は不要です。

戦略優先の事例はたくさんありますが、例えば、アップル社の製品のデザインは洗練されており、そのデザインを好む人がたくさんいます。アップル社は、デザインを重視する戦略を立て、それを実現する組織を作り、強みにして成功しています。

 

なぜ「戦略は組織に従う」を考慮すべきなのか?

「戦略は組織に従う」を考慮すべき理由は、どんなに優れた戦略でも、戦略を実行する組織にその能力がなければ絵に描いたモチになるからです。

例えば、店舗販売中心の企業が、通販が伸びているからといってEC事業にいきなり多額の投資をしても、ノウハウ・スキルがなければ失敗は明らかなように、戦略は組織に合わせなければ失敗します。

 

経営に生かす組織マネジメントの考え方

戦略にあった組織、または組織にあった戦略で経営目的を達成する場合のいずれであっても、組織マネジメントができなければ、サッカーでいえば、ボールのみを全員が追いかけている状態で、戦略を有効に遂行できません。組織を経営に生かすにはどうすればよいのでしょうか。

戦略が駄目であれば、どんなに優れた組織が、どんなに優れた戦術を使っても戦いに負ける可能性があり、戦略の重要さが説かれています。

しかし、情報化が進展し、技術の差が小さくなった現代においては、企業の戦略に大きな差が見られなくなりつつあります。

このような時代には、優れた戦略に固執するよりも、戦術を最高レベルで遂行するほうが成功の可能性が高まります。

日産、ホンダ、ソニーなどは、同業他社に比べて商品力に優れています。しかし、それよりも、営業力に優れたトヨタやパナソニックが業界のリーディング・カンパニーです。

商品力も営業力も戦略に裏打ちされていますが、技術に注力した独創的な製品は、戦略からしか生まれません。しかし、強い営業力は戦略を遂行する徹底的なしつこさのある組織の戦術からも生まれます。

どんなに優れた戦略よりも、まずまずの戦略を完全にこなせる組織マネジメントが重要です。

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