リーダーシップ論の歴史

 古代から第二次世界大戦前までは、国家の首長や歴戦の英雄の資質が研究対象でした。その研究の前提には、「リーダーには、先天的な超人的資質を持つ者のみがなりうる」という考えがあったためです。この前提は、今では否定されているものの、リーダーの資質の研究は「パーソナリティ研究」として現在も成果を生み続けています。

 第二次世界大戦後には、先天的な資質を持たない者でも優れたリーダーになれることが理解されはじめ、本格的なリーダーシップ論の研究の糸口となりました。そこから、リーダーの行動に着目した研究が行われるようになり、1960年代に入ると、リーダーとフォロワーの相互関係がクローズアップされてくることとなります。 

 1980年代には、国力が減速した米国において、変革型リーダーが必要とされるようになり、研究が深まりました。近年では、先進国社会の成熟化により、金銭的報酬だけでは企業の従業員の満足を得られにくくなってきたことから、リーダーの倫理性を重要視するリーダーシップ論が台頭してきています。

 

第二次世界大戦前までのリーダー論

 古代以来、永らくリーダーとなるものの備えるべき資質の考察を中心とした「英雄論」が幅を効かせてきました。リーダーシップ論というよりは、リーダー論と表現した方が適切かもしれません。「類まれな資質があったからこそ英雄になれた」という論調は、人々を納得させやすい理屈でもありました。

 

「孫子の兵法」に見る将の資質

 紀元前500年頃に中国で書かれたとされるこの書物の中では、将の資質として、物事を把握する能力である「智」、部下への信頼を表す「信」、部下を思いやる心である「仁」、困難に立ち向かう「勇」、部下を律する「厳」の5項目を挙げています。

 

「金楼子」に見える諸葛亮の 光武帝 評(後漢:前6年〜57年)

 漢を復興し文武両道で中国史上最高の賢帝との呼び声が高いのが光武帝です。「金楼子」(魏晋南北朝時代:梁の元帝著)には、三国志で有名な政治家である諸葛亮(181年〜234年)が後漢初代皇帝光武帝(前6年〜57年)を評価する記述が見られます。それによると、「神の如き知謀を持ちみずから深謀遠慮を有していた」とされています。光武帝があまりにも有能で失敗も皆無であったため、家臣の活躍の場が限られていたとも諸葛亮は述べています。

 

「君主論」でマキャヴェッリが主張する 君主 の力量

 マキャヴェッリがフィレンツエで16世紀にまとめたとされる「君主論」には、国家の君主は力量が必要だとしています。その力量とは、武力や謀略で勝利する力、民衆から敬愛される施策、その一方で国家を安定させるための民衆からの畏怖などであるとしています。

 

「ローマ帝国衰亡史」の ユリアヌス帝

 「ローマ帝国衰亡史」は、イギリスの歴史家であったエドワード・ギボン(1737年〜1794年)による歴史文学です。この本の中で、ギボンはあまり歴代皇帝を評価していません。一般的には、ローマ時代一の賢帝だとされるトラヤヌスに対しても、評価は読み取れません。しかし、キリスト教以外の宗教も認めたことから、背教者と呼ばれるユリアヌス帝(331年〜363年)だけは、不屈の勇気、高い知能、たゆまざる努力を備えた崇高な人物として高く評価しています。

 

 「優れたリーダーは、謀略も含めた知力に優れ、民衆や部下からは敬愛される慈悲深さを備える一方で、厳しさも必要である」という共通部分が見出せるように思います。

 19世紀の英国の歴史家トーマス・カーライルの「英雄崇拝論」では、「世界の歴史は英雄によって作られる」とされ、この本は全世界に広く流布しました。そのため、「優れた資質を持つ人物こそが、リーダーたる資格がある」という主張が世界的に認識されることになったのです。日本においても、夏目漱石、内村鑑三、新渡戸稲造等に強い影響を与えたといいます。

 

本格的リーダーシップ論の幕開け

 1905年、フランスでアルフレッド・ビネーとその弟子テオドール・シモンによって知能測定手法が開発されて以来、知能をはじめ、身体的外見から性格や社会的地位まで、リーダー個人の資質を科学的に計測する試みが広がりました。

 しかしながら、このような研究が進むにつれて、リーダーシップを説明するためには、リーダー個人の資質だけでは説明がつかないということも明らかになったのです。

 リーダーの個人的資質に関する理論は、その後「パーソナリティ研究」として一つの分野を確立しています。

 米国の人間行動学者トム・ラスとバリー・コンチーが提唱する「ストレングス・ファインダ―は、個人の特性を4つの領域からなる34の資質に分類し、180の質問に回答すると上位5つの資質が特定されるという仕組みで、近年の成果として特筆されます。

 一方、リーダーの個人的資質だけではリーダーシップの説明がしきれないことに気づいた研究者たちが、1940年代以降に着目したのがリーダーの取る行動です。

 

 1950年代には、米国のオハイオ州立大学などの研究で、リーダーの行動は、人間関係を円滑化し信頼を形成する側面と、集団の成果をあげるための組織化や指導の側面との2種類に分けられることがわかってきました。日本において、1960年代に三隅ニ不二らにより確立された「PM理論」も同様に仕事面と人間関係面の2軸で説明されています。

 この行動理論は、人並み外れた特性を持たない普通の人間でも、適切な行動をとれば、リーダーシップを発揮できることを示しましたが、どのような条件下でも適切な行動が成果を生むとまで言い切れないという課題を残しました。

 同じく、1960年代に現われた「条件適合性理論」は、集団の成員(部下)の発達の程度や部下とリーダーとの信頼関係の成熟度、部下の職務の明確さ、リーダーの持つ部下に対する報酬決定や人事に関する権限の有無などの条件ごとに、最も成果のあがるリーダーの行動様式を策定しようという試みです。この理論の代表的な研究者は、米国のリーダーシップ研究家のフィードラーです。

 

リーダーとフォロワーとの関係に踏み込んだ交換・交流型理論

 1960年代に、「行動理論」で部下への配慮的行動という視点が示されてはいましたが、あくまでリーダー側の行動としての研究でしかありませんでした。1970年代に入ると、リーダーとフォロワーの相互関係の中にリーダーシップを見出そうという動きが活発化してきます。

 リーダーの指揮命令に対して、フォロワーの報酬への期待が服従の行動に結びつくという、いわばリーダーとフォロワーの交換関係に着目したのが、米国の社会学者ジョージ・ホーマンズが提唱した「社会交換理論」です。

 心理学者であるエドウィン・ホランダーは、フォロワーからの信頼が大きいほどリーダーシップの有効性を増すという「信頼性蓄積理論」を唱えました。

 

米国企業の危機意識から出てきた「変革のリーダーシップ論」

 1980年代には、日本などの新興国に押され国力が減速した米国において、力強いカリスマ性を備えた変革型リーダーが必要とされるようになり、研究が深まりました。

 しかし、組織を変革する際には、それを望まない部下や集団からの反発を招くのは必然です。ハーバード大学のリーダーシップ論の権威であるジョン・コッターは、それを踏まえて、改革には8つの「つまずきの石」があるとし、それらを乗り越え改革を成就するための「8段階のプロセス」が有効だと提唱しました。

 

倫理性・精神性を重視した理論

 近年では、先進国社会の成熟化により、金銭的報酬だけでは企業の従業員の満足を得られにくくなってきたことや、大企業の不祥事による経営破綻が相次いだことから、リーダーの倫理性を重要視するリーダーシップ論が台頭してきています。

 その代表格である「サーバント・リーダーシップ」は、1970年代にAT&Tマネジメント研究センターのロバート・グリーンリーフによって提唱され、2002年に書籍化されたことから、大きく注目されることとなりました。

 この理論では、フォロワーの「やりたい」という気持ちを整え、前向きに行動するよう、リーダーは「傾聴」「共感」「癒し」などの特性を磨きつつ、フォロワーに奉仕することが最初に重要視され、指導はその後とされています。

 

リーダーシップの学び方

 リーダシップは、組織のトップを担いカリスマ性を持つ一部の人々だけが持つ特別な資質ではなく、誰もが学んで自分のものとすることができる技術です。

 リーダーシップは、今後仕事で部下を持つことになったり、プロジェクトチームのリーダーを任されたりするビジネスパーソンはもちろんのこと、自治会や趣味のサークルの中で指導的立場となる人にとっても、学んでおいて損はありません。

 

リーダーシップを学ぶステップ

 リーダーシップには定まった概念がありません。これまで、世界中の学者や実業家が それぞれの立場でリーダーシップについて多くのことを語ってきていますが、定説とされるものはありません。そのため、リーダーシップを学ぼうとする際には、個人個人がそれぞれの置かれた立場や環境に合った形のリーダーシップを見出していく必要があります。

 リーダーシップを学ぶには、以下のステップを踏んでいきます。

ステップ1:

 自分の考えるリーダーシップに関連するキーワードや文章をピックアップする

 リーダーシップは漠然とした概念であり、人によって捉え方が異なることもあります。世の中の多くの人は、リーダーシップの重要性を感じてはいても、自分の頭の中に思い描いているリーダーシップの形を明文化しようという人は極めて少数でしょう。

 しかし、リーダーシップを学び、自らの能力を高めていく第一歩は、自分の心の中にあるリーダーシップを明文化して形にすることから始めなければなりません。当面語る相手がいなかったとしても、明文化することによって自覚につなげることが重要です。

 

ステップ2:

 ステップ1のキーワードや文章を整理分類し、リーダーシップの持論を明文化する

 ここまでで書き出された内容は、あなたの現状のリーダーシップに対する考えを表したものです。ここで書き出した内容を、次に分類整理していきましょう。

 書き出した文章やキーワードを見て、同じような内容のものをグループ化していってみてください。多少強引でもよいので、数個のグループにまとめていきましょう。

 次に、それぞれのグループに見出しを付けていきます。これも、多少強引でもかまいません。グループ間の関連性があれば、さらに大きい包括的なグループを作ってもよいでしょう。そして、これらの見出し語のうち、自分で重要だと思うものを2~5個選びます。

 最後に、選んだそれぞれの見出し毎に説明の文章を書いていきます。その際、ステップ1でピックアップした内容を参考にするとよいでしょう。

 この段階でまとまったものは、あなたの考えるリーダーシップの形ということになります。いわば、リーダーシップに関する持論です。

 

ステップ3:

 リーダーシップを実践していくなかで、持論に磨きをかけていく

 これから後のステップでは、実践を通じてブラッシュアップしていく段階に入ります。

 自ら経験することによって実施してゆきます。実践すること以上に有効な学習方法はありません。また、明文化した内容は、自らのアクションに結びつかなければ意味のあるものとは言えません。

 自ら悪しき暗黙の原則を作ってしまっていて、そこから抜け出せないリーダーが数多くいます。そのため、リーダーの立場にある場合は、改善すべき点を気づきやすくするため、次のような意識を持つよう心がけてください。

・同僚、部下、家族との対話を通して自らの欠点や失敗のヒントを得る 他者からの批判を受け止める度量を持つ

・意見の相反があった場合には、自分の意見を強く主張するあまり、他の意見を封殺しないよう気を配る 特に部下や自分よりも弱い立場の者が相手の場合に気をつける

 これらのことは、人によっては、なかなか難しいことかもしれません。しかし、人は他者とのコミュニケーションの中で触発され成長するという側面をもっています。リーダーシップの”持論”をよりよいものとするためには、身近な他者の意見は貴重な糧となるはずです。

 組織や集団の中で、リーダーの立場ではないフォロワーの場合も、自らの将来のため、次の観点で学習してみてください。

・自分の付き従うリーダーのリーダーシップはどのようなものだったか

・フォロワーとして自分は、そのリーダーシップに接してどう感じたか

・仮に、リーダーの立場に自分が置かれたらどうするかを自問自答する

 

ステップ4:

 先人のリーダーシップ理論を参考にして、実践に落とし込む

 ステップ3で見てきたように、実践の中で学び改善していくことを前提に、先人のリーダーシップに関する知恵をヒントとすることで、リーダーシップの能力を高めることも可能です。

 知恵を借りるべき先人としては2通りあると思います。一つは実業家で、もう一つは学者です。歴史上の人物からも学べるのでは、と考えるかもしれませんが、たいてい情報が少ないため、実践と結びつけるのは難しいと思います。

 実業家の理論であっても、学者の理論であっても、あなたがリーダーシップを発揮していくうえでどのように活かしていくかが重要です。環境や条件によっては、どれほど立派な理論であっても役に立たない場合もありえます。

 自分のものとして消化できない理論では無意味で、個々人が先人のリーダシップ理論を選択して取り込み、自らのものとしていくことが重要なのです。

 

ステップ5:

 ステップ3と4をふまえて、ステップ2で明文化した自分のあるべきリーダーシップを見直し改善する

 ステップ2であなたが明文化した持論には、もしかしたら独りよがりな部分や思い込みの強すぎる部分があったということに気付いたかもしれません。また、思い至らなかった部分や新たに採り入れたいと感じた部分も出てきたことでしょう。それらの部分をプラス・マイナスして、ブラッシュアップしていきます。

 また、状況によってリーダーシップの取り方が変わる可能性を感じたかもしれません。その場合には、ケースAの場合、ケースBの場合という形で、持論をまとめ直してもよいと思います。

 リーダーシップの持論について見直す際に、以下の点をチェックしてみることをお薦めします。この2点はリーダーシップの肝となる部分だからです。

・組織・集団の目標達成にプラスになるか

・フォロワーに良い影響があるか

 

ステップ6:

 ステップ3~5を繰り返す

 リーダーシップの持論を理想形に近付けるためには、ステップ3~を繰り返すことが重要です。リーダーシップの理想形にゴールはありません。常に前提となる環境や条件は変わるものだからです。

 不幸なことは、周囲の変化に自らが気付かないこと、また失敗を顧みることができないことだと思います。そのためには、ステップ3で述べた同僚や部下、家族との対話が重要です。

 リーダーシップの持論が、他の人に語って教えられるレベルになれば、かなりの成功といえるでしょう。他者に対し語ることの意味は、自らの成長が確認できることと、フォロワーへリーダーシップの喚起を行うことの2つです。

 自ら知っているだけの段階と、それを他者へ教えることができる段階では、大きな差があります。そういった意味で自らの成長を確認できるのです。

 また、あなたに続く次の世代に伝えることによって、組織の好循環を生み出すことができます。特に、企業は「ゴーイングコンサーン(継続企業)」であることが社会的な責任の一つです。高度なリーダーシップが企業の無形の資産として受け継がれていくことが実現すれば、社会的にも意味のあることだと思います。

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